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CULTURE NAVI「CINEMA」

子育て、父親の介護、新たな出会い…等身大の女性を映す人間賛歌映画

2023.05.18

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Cinema Culture Navi

『それでも私は生きていく』

『それでも私は生きていく』

母で娘で恋人でもある等身大の女性を映す人間賛歌

みずみずしい感性で新風を吹き込み、『未来よ こんにちは』でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞など、今やフランス映画界を代表するミア・ハンセン=ラブ。『ベルイマン島にて』に続き、カンヌ国際映画祭コンペ部門に出品された本作は、ヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞。自身の体験を盛り込んだ物語で彼女の分身を演じるのは、『007』シリーズなど世界的に活躍する人気女優、レア・セドゥ。父の変わりゆく姿に涙をこらえ、新たな恋にときめく女性を等身大に生き生きと演じる。

夫を亡くして5年。通訳として働きながら、8歳の娘を育てるサンドラは大忙し。さらに病で視力と記憶を失いつつある父親の介護が加わり、気ぜわしい。そんなとき、旧友で宇宙化学者のクレマンと再会し、久しぶりに楽しく心許せる時間を過ごすように。ついに父が病院介護施設に入ることになり、哲学教師だった父の家──膨大な蔵書をはじめ思い出の品々を、元妻である母や妹と片付けることに。そんな拭えない悲しみの中、サンドラはクレマンが既婚者と知りながらも、互いに惹かれ合っていく──。

クレマンを演じるのは、『ぼくを葬(おく)る』『私はロランス』などのメルヴィル・プポー。煮え切らない態度に時にイラっともするが、知的でおもしろくておしゃれなクレマンに、惹かれずにいられる人なんている!? しかもサンドラの精神状態は、疲れと悲しみでいっぱいいっぱい。監督は、悲しみと再生という正反対の2つの感情が、どう影響し合うかを表現したかったと語る。なるほど、笑いやときめきで心が潤うことも、愛でより苦悩が深まることも。みんな迷い、惑い、悩みながら、それでも一歩を踏み出す。

サンドラのみならず、家族としてきちんとかかわる母も、父の現在の恋人も互いを認め合い自分らしく人生を謳歌する姿に、大人の文化だなと羨望を覚えずにいられない。恋人が来ると急に顔が輝く父の姿もおかしくて可愛い。これからもいろんなことに悩むだろう、私たちの背中を押す爽やかな人生讃歌だ。

・新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
公式サイト

『帰れない山』

『帰れない山』

© 2022 WILDSIDE S.R.L.–RUFUS BV–MENUETTO BV–PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS–VISION DISTRIBUTION S.P.A.

対照的な青年2人のかけがえのない友情と人生の交差

北イタリア、モンテ・ローザ山麓。都会から休暇を過ごしに来た少年ピエトロは、村で牛飼いをするブルーノと友達になる。以降、親交を深めるが、思春期のピエトロは父に反抗し、山や家族から距離を置くように。やがて父が他界、大人になったピエトロは久々に訪れたその地でブルーノと再会する。父の愛した山、親友から聞く知られざる父の姿や思い、変わらぬ自然の厳しさと美しさ、そして友情。想像を超えた感慨に貫かれる。

・新宿ピカデリーほかで公開中
公式サイト

『波紋』

『波紋』

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

絶望エンタテインメントとは言い得て妙。ラストも必見!

父親の介護を妻・依子(筒井真理子)に押しつけ、夫(光石研)が失踪。十数年後、新興宗教にのめり込むことで穏やかな日々を送る妻の元に、癌にかかった夫が戻ってくる。どうにも飲み込めない思いを抱くのは、われわれ観客も一緒! さらに遠方で働く息子(磯村勇斗)が、障害のある女性を結婚相手として連れてくる。動揺し、信仰の水を自分に振りかける依子から目が離せない。観る者の心に“波紋”を広げる、不穏にして惹かれる異色作。

・5月26日より全国公開
公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。


取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE6月号(5/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です


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