【花組・永久輝せあさん】“人に優しく、自分に厳しく”ではなく“人に優しく、自分にも優しく”【宝塚スター|ことばの力】
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TAKARAZUKA STAR INTERVIEW ことばの力
2023.05.18
気づきを与えた言葉、背中を押してくれた言葉、自分を鼓舞する言葉……。舞台人として、一人の人として。“清く正しく美しく”輝くタカラジェンヌが大切にしている言葉とは?
「“人に優しく、自分に厳しく”ではなく“人に優しく、自分にも優しく”」
Sea Towaki
2011年、宝塚歌劇団に入団。雪組に配属され、その後、花組へ組替え。入団4年目で新人公演初主演を務める等、早くから注目を集める。確かな実力はもちろんのこと、明るく華やかな存在感で多くの人を魅了する男役スター。
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周りとの和を尊重するあまり、悩んだ時期もありました
「子どもの頃に交通事故にあって3日間目が覚めなかったことがあるんです。今ここにある命も、家族全員が揃っていることも、決して当たり前じゃない、そんな思いを皆が経験しているからでしょうか。わが家はとても仲がよくて。愛情をたっぷり注がれて私は育ちました」
4歳から始めたクラシックバレエ。その教室のお迎えに来てくれるのは2歳年上のお兄さんでした。愛情深い家族が教えてくれたのは、周りの人を大切にすること、愛すること、思いやること。「気づいたら、周りとの“和”を何より大切にするようになっていた」と永久輝さんは語ります。
「幼い頃は、自分にスポットライトが当たると、パッとその外に出てしまうような女の子でした。実は今も、前に出たり目立つのはあまり得意ではないんです。その理由は、自分一人ではなく皆で喜びを共有するのが好きだから。そう思うようになったのも家族の存在が大きいです。わが家は家族にうれしいことがあったときは必ず全員でお祝いしました。自分一人が楽しければいい、ではなく、全員で楽しかったことを共有すると、その喜びはもっともっと大きくなる。それもまた、家族が教えてくれたことでした」
過去には上級生から「あなたは優しすぎる。もっと前に出て主張したほうがいい」と助言されたことも。入団後は和を尊重する自分の性格に悩んだこともありました。
「役を勝ち取りたいと思うような野心とは縁遠く、人前に出たい気持ちも希薄だったので。最初は舞台をうまく楽しむことができなかったんだと思います。お役をいただくたびに感じるのも“楽しみ”より“不安”のほうが強くて。“皆の足を引っ張ってはいけない、迷惑をかけてはいけない、しっかりお客様にお見せできるものに仕上げなければ”と、あの頃はいつも自分を追い詰めていたような気がします」
入団3年目、そんな永久輝さんに当時のトップスター・壮一帆さんがかけてくれたのが「自分が楽しまないと、お客様を楽しませることはできないよ」という言葉でした。
「でも、ガチガチに肩の力が入っていたあの頃の私には、その言葉の意味すらも理解できなくて。理解できたのは、学年が上がり、経験を積み重ね、余裕を持つことができるようになってから。本当に最近の話なんです(笑)」
できないことや足りないものを補っていくために、向上心はもちろん大事ですが「最近は、やりたいこと、好きだなと思うこと、自分自身の喜びにもフォーカスするようになってきました」と永久輝さんは微笑みます。
「そうなれるのは、そんな私を受け止めてくれる周りの人の存在があるからなんですよね。以前は和を重視する自分の性格に悩んだこともありましたが、今はこれでいいんだと思えるようになりました。そんな私が、大切にしているのが“人に優しく、自分にも優しく”という言葉です。昔は“自分に厳しく”だったけれど、今はちゃんと自分も思いやってあげたい。そして、“今日も楽しいです! ありがとう!”の気持ちで舞台に立てる男役でありたいと思うんです」
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【永久輝 せあさんに3つの質問!】
Q1:
永久輝せあさんの“長所”と“短所”を教えてください
長所と短所は表裏一体。よくも悪くも、
周りの人を大切にするところ
長所というか、自分の好きなところは、“人の気持ちに寄り添おうと心がけるところ”、そして、“周りの人との和を尊重するところ”です。誰かと何かを共有しながら前に進むことが好きなのはもちろん、私はやっぱり、人が好きなのだと思います。
宝塚歌劇団に入団してからは、上級生や同期にも恵まれてきましたし、それ以前も沢山の素敵な仲間に恵まれていて。バレエを習っていたときの仲間や、中学で共に青春を過ごしたダンス部の仲間とも、今でもとても仲良しです。人の縁に恵まれ、その縁を大切にできたことは、私の大きな財産だと思っています。
そんな私の欠点は“バランスをとり過ぎてしまうところ”。周りにいる人たちが大切だからこそ、その人の気持ちを考え過ぎてしまったりして、自分が後回しになってしまうことが今もあるので……。長所と短所は表裏一体だなと思うんです(笑)。
Q2:
永久輝せあさんの宝物はなんですか?
忘れたくない言葉と、
自分の経験を刻んだ、沢山のノート
下級生の頃は新人公演のときに上級生から頂いた言葉をすべてノートにメモしていました。あの頃ほど細かくはないけれど、今も忘れないようにノートに書き留めるクセがあります。私の家にはたくさんのノートがあるんですよ。ボンヤリと過ごしていると、自分の中にとどめておくべき大切な言葉が、どんどん流れ出ていってしまう、それが私は嫌で……。一言一句、取りこぼしたくないからこそ、忘れないように文字にします。
実は毎日、日記も書いているんですよ。それは「3年日記」で、同じ日付のページに1年目、2年目、3年目の項目があって。ページを開いてペンをとるとき、その時々の自分が何をしていたのか、自然と振り返ることができるんです。今はまさに3年目、去年と一昨年の自分を振り返りながら日記を書いているのですが、そこで改めて感じたのが“経験は宝物”ということです。
以前、『凱旋門』という作品に出演させていただいたときに読んだ本、『夜と霧』の中に「あなたが経験したことは、この世のどんな力も奪えない」という一節がありました。私はことあるごとにこの言葉を思い出すんです。つらいときも、苦しいときも、楽しいときも、「この経験は私だけのものなんだ」「この経験が私を作るんだ」と大切にすることができるので。
Q3:
男役13年目。今、どんな時期にいると感じていますか?
包容力を培うのは人間力。
今、磨きたいのは自分の内面
下級生の頃はいつも「男役だからこうしなきゃ」と頭で考えてしまう自分がいたのですが。13年目を迎えた今はそれがちゃんと体に染みついていると言いますか、“男役だから”と意識せずとも、“男役”でいられるようになった気がします。
だからこそ、今の課題はもっと内面的なもの。舞台には、内面の乱れやぐらつき、その人の“今”が正直に表れるので。学年も上がってきて、下級生に背中を見せる立場になったからこそ、内面をちゃんと整えていなくてはいけないなと。
「今のあなたの男役としての武器はなんですか?」と尋ねられたら、最初の質問への回答と重なってしまいますが、「周りの人を大切に思えるところ」と答えると思います。大切にする、寄り添う、思いやる、それはきっと男役としての包容力に繋がる。
「これでいいのかな」と迷ったときは、早霧(せいな)さん(※元雪組トップスター)からいただいた言葉を思い出すようにしています。それは「(男役としての)包容力を培うのは人間力だよ」という言葉です。芝居も舞台も技術だけで成り立つものではない。先輩が何かを教え、後輩が先輩の背中に学ぶ、受け継がれていく伝統の素晴らしさ。ずっと同じカンパニーでやっていく仲間との絆。宝塚ならではのあたたかさを大切にしながら、これからも、私らしく歩いていけたらいいなと思っています!
>>NEXT STAGE
オペレッタ・ジャパネスク
『鴛鴦歌合戦(おしどりうたがっせん)』
ネオ・ロマンチック・レビュー
『GRAND MIRAGE!』
1939年公開のオペレッタ映画『鴛鴦歌合戦』が原作。浪人の浅井礼三郎と町娘のお春の恋騒動を、花組オールキャストで鮮やかに舞台化します。
● 主演:柚香 光、星風まどか
● 7/7〜8/13 宝塚大劇場 9/2〜10/8 東京宝塚劇場
撮影/柴田フミコ 取材・原文/石井美輪
こちらは2023年LEE6月号(5/6発売)「ことばの力 vol.5 永久輝せあさん」に掲載の記事です。
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