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【看護師兼漫画家・明さん】看取った患者さんは忘れられない。気持ちを整理するため漫画を描きました

  • LEE編集部

2023.03.25

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明さん

引き続き、漫画家で看護師の明さんのインタビューをお届けします。

看護師として病気と共に生きる人たち、最期を迎える人を身近で見てきた明さん。漫画を描き始めた当初から、「看護で感じたことを漫画で伝えていきたい」と考えていました。しかし、明さんが小さい頃憧れていたのは“宇宙に住むこと”だったそう。後半では、明さんがどんな幼少期を過ごし、宇宙を目指すことになったのか。そこから看護師へと路線変更し、漫画を描くようになったきっかけを聞きます。

今回の撮影は、東京タワー近辺で行いました。明さんが初めて勤務した病院の窓からよく見えたのが東京タワーだったそうで、当時を思い出しながら明さんが語ってくれました。(この記事は全2回の2回目です。前編を読む

誘われて入った生徒会が漫画好きの巣窟だった

明さんは沖縄県出身、5人きょうだいの長女として生まれました。運動が大好きで好奇心旺盛、何事も積極的な性格で、小学生の頃はバスケットボール部に所属していました。

「常に体を動かしていないとストレスが溜まるタイプでした。チームプレイが好きでバスケ部に人が足りないと聞くと“はい、やります!”みたいな感じで。性格は結構やんちゃなタイプで、長女だった私が次女に逆に叱られたりすることもありました(笑)」

明さん

明さんがリラックスのために持ち歩いているガムや

中学では、先生から誘われて生徒会に参加。実は生徒会がアニメや漫画好きのオタク好きが集まる場所で、明さんも漫画にハマるようになります。生徒会には同人誌を出す先輩もいて、締め切り前は明さんもアシスタントのように手伝いをしたそうです。

「私自身が描いたりはしませんでしたが、みんなが作るもの手伝ったり読んだり。当時、ミニ四駆の漫画『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』が流行っていて大好きでした。その中に出てくるキャラクターで宇宙飛行士のチームがいたことをきっかけに“宇宙があるんだ”と知って興味を持つようになり“宇宙に住みたい”と考えるようになりました。宇宙に住むとしたら看護師か医師ならが必ず需要があるだろうと考え、将来は医療系に進もうと思いました」

明さん

絵も描き続けつつ、東京で看護師になる

絵を描くのも好きだったので、芸術系の学校への進学も考えました。しかし勉強が得意だったため、親からは「勉強ができるんだからきちんと学べる学校にしたら」と勧められ、他の高校へ。高校でできた友人が科学好きだったこともあり、科学部に顔を出し、スライムを作ったり、ペットボトルロケットを校庭に発射させたりと、理系生活を満喫。並行して、絵を描く活動もひっそりと続けていました。

「理科室のテーブルの黒い天板に鉛筆で落書きをしていました。そこに『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』のキャラクターを書いていたら、“いいですね”と返信をくれる人がいて。ある時、ミハエル(『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』のドイツチームのキャラクター)を描いていて、カリスマ的に人気のあるキャラだったので“カリスマって何?”と質問したら返事が来ていて(笑)。後にその子とは友達になりました」

高校卒業後は、地元の大学の医学部に進学。保健学科を選択し、職業研修をするうちに看護師に興味を持ち、看護師になることを決めます。大学卒業後は、東京の病院へ。東京に祖父母がいたことや循環器の専門病院に行きたかったこと、このタイミングを逃すと一生県外に出ることはないと思い、東京行きを決めました。



いい意味でも悪い意味でも、看取った患者さんは忘れられない

明さんが勤務した循環器系の病棟では、治らない病気を患っている方が多く、長期にわたる治療や闘病をし、病気と共に生活をしている人が多かったと言います。そこで経験したことが、昨年出版した『いのちの教室~あなたの最期が私に教えてくれたこと』(集英社)で綴られています。看取りをテーマに漫画を描こうと思ったきっかけは、そこでの経験や大好きだった祖母を亡くしたことが大きかったと振り返ります。

「病院で看護をしていると、いろいろな患者さんがいて、それぞれの思いがある。いい意味でも悪い意味でも、看取った患者さんは忘れられないんです。祖母はもちろん、患者さん一人ひとり一人の顔が思い浮かびます。私には誰かを看取った後、整理する時間が必要でした。漫画を描き始めたのもそんな時でした。ふと描いてみた時に、気持ちがすっきりしたんです。気持ちの整理にいろいろな方法がありますが、私にとっては漫画でした」

いのちの教室

看護師と病院で最期を迎える患者さん。そこには目に見えない絆や家族のような愛情があることにも気づかされます。

「病院で最初に看取った方は、私が働き始める30年以上前に心臓の手術をして以来ずっと病院に通っている人でした。勤めている看護師、医師とも長い付き合いで、家族にも似たような感情があって。彼女がもう少しで亡くなりそうな時、夜勤明けの看護師さんがみんな残っているんですよね。最期を一緒に残って看取っているんです」

病気を共にしながら、どう幸せな時間を生きるか

一方で、誰にも看取られず死んでいく方、家族全員に見守られて亡くなる方。一人ひとり異なる最期に、「自分はどうなるのか」「家族はどうなるのか」と自然と考えるようになります。願うのは「自分の大切な人には、幸せな亡くなり方をしてほしい」。漫画を読んだ読者からはさまざまな感想が届きました。とりわけ反響があったのは、末期癌の父親とその家族のエピソードでした。

「父親は自宅で最期を迎えたいけれど、娘はそれに反対。娘さんに賛同する派と攻める派と、意見が大きく2分しました。その違いが、自分の人生で何を大事にしているかの違いだと思って。だからこそ家族で何を大事にするのかをきちんと話し合わないといけないと思っています」

いのちの教室

明さんがショックだったのは、患者さんから“自分は手術したくなかった”と言われたことでした。病院に来る人は「病気を治したいから来る」「治すために看護する」と思い込んでいましたが、現実はそうではなかったからです。

「何のために病気を治すのか。目的がないと、治すこと自体がその人とって幸せじゃない場合もある。手術して寝たきりになってしまうより、先は短くても充実した時間を過ごしたほうが幸せという考えもあります。病院も医療も看護も、治療が目的ではなく、その人が幸せに生きることが目的です。医療の技術が進み、昔は不治の病とされていたものも、病気とうまく付き合っていくことで長生きできるようにもなりました。病気を共にしながら、どう幸せな時間を生きるか。患者さんから、そんな現実を目の当たりにしました」

看取りの漫画を描くことで「自分の人生を悔いなく生きよう!」と思うように

看取りの漫画は「自分ごととして考えてほしい」という願いを込めて描いていました。結果的に、多くの読者人が自分ごととして考えるきっかけになり、明さん自身も「自分の人生を悔い無く生きよう!」と思い、一生のうちにやりたいことをリストアップし、自信を持って挑戦する気持ちが沸いてくるようになりました。

コロナ禍以降、学校行事はほとんどが中止になり、ツアーナースの仕事はほぼありません。以前は気候の良い6月7月、10月11月が繁忙期でした。明さんは現在、看護の教科書を作る会社で編集の仕事をしながら、並行して漫画を描いています。今年1年間は準備期間、何をしたいか考えながら働き方を検討中です。

「また病院に戻ってもいいし、違うテーマで描いてみるのもいい。元々ファンタジーや少年漫画も好きだったのですが、『いのちの教室~あなたの最期が私に教えてくれたこと』を描いたことで、人間臭い日常的な悩みもいいなと思いました。私ではない誰かの視点でも描いてみるのもいいし、コミックエッセイでは描けない自分の悩みや伝えたいこともあります。それが表現できるのが漫画の強みでもあると思うので、今後はゆっくり考えたいと思います」

明さん

長年ファンだというSEKAI NO OWARIのツアーグッズのエコバッグも、いつも持ち歩いているアイテム。

そんな明さんですが、『よみタイ』では待望の連載『推し博物館 ひとり旅』が3月28日よりスタート。明さんが以前から好きで、プライベートでも出かけていた博物館巡りがルポ漫画になって登場します。「皆さんのおすすめの博物館も教えてください」と明さん。こちらもチェックしてみてください。

明さんに聞きました

身体のウェルネスのためにしていること

合気道と暗闇トランポリン

「体を動かすのが好きなので、週3回合気道に、週4回暗闇トランポリンに通っています。毎日体を動かしたいので、毎日どちらかに行っています。朝起きるのが苦手なこともあって、朝に予定を入れておくとスムーズに起きられるというのもありますね。今日も、朝6時半から暗闇トランポリンをやってきました(笑)看護も漫画も、どちらも体が資本。体力と筋力は必須です」

心のウェルネスのためにしていること

本を読むこと

「本を読むことです。家に帰ると、ついYouTubeを見てしまうので、わざわざ電車に乗って本を読みます。終点まで乗り続けて、着いた駅のカフェで本を読み、また電車で戻ります。漫画も読みますが、本が圧倒的に多いですね。最近読んだ本は、伊岡瞬さんの『白い闇の獣』(文春文庫)。好きな作家は恩田陸さん、綾辻 行人さんの「館」シリーズも好きです」

インタビュー前編はこちら!

【看護師兼漫画家・明さん】小中学校の宿泊学習等に同行する「ツアーナース」として子どもを見守る中、感じたこと


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

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