【星組・瀬央ゆりあさん】稽古場は恥をかいていい場所。緊張なんか捨てて、思いきりやりなさい【宝塚スター|ことばの力】
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TAKARAZUKA STAR INTERVIEW ことばの力
2023.03.16
気づきを与えた言葉、背中を押してくれた言葉、自分を鼓舞する言葉……。舞台人として、一人の人として。“清く正しく美しく”輝くタカラジェンヌが大切にしている言葉とは?
「稽古場は恥をかいていい場所。緊張なんか捨てて、思いきりやりなさい」
Yuria Seo
2009年、宝塚歌劇団に入団。星組に配属される。真摯に舞台と向き合い、実力を確実に蓄え、3度のバウホール公演主演も経験。圧倒的な存在感を放つ舞台上の姿はもちろん、その人柄でも多くの人に愛される男役スター。
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たくさんの人の支えと言葉があるから今、私はこの場所に立てている
「幼い頃、家族でキャンプに行ったら、年上のお兄さんやお姉さんたちが崖の上から川に飛び込んで遊んでいたんです。両親から“あなたはまだ小さいからダメ”と止められたものの、私は好奇心を抑えきれなくて。皆が食事に夢中になっているタイミングを見計らい、抜け出し、崖から思いきりダイブ。溺れそうになった過去があるんですよ(笑)」
子どもの頃はとにかく好奇心旺盛で「周りが驚くようなことばかりしていました」と瀬央さんは笑います。
「もちろん周りに迷惑や心配をかけたときは叱られましたが、両親はそんな私の性格も個性として受け止めてくれて。“こんな人間になりなさい”という教えを押しつけることもなく自由に育ててくれました。また、今も感謝しているのがほかの誰かと私を比べなかったことです。兄と私、性格の異なる私たちを比べたことは一度もなかったですし、女の子だから、男の子だから、お兄ちゃんだから、そんな言葉で縛りつけたりもしなかった。いつだって“あなたらしく歩みなさい”と個性を尊重してくれたんです」
瀬央さんの明るくフランクで愛される人柄も、幼少期に培われたものだそう。「両親は子ども部屋を作らなかったので、家族はいつもリビングに集合。そんな境界線のない家庭で育ったので、大人になった今も周りと線を引かずに接することができるのかもしれないです」と続けます。
「そんな両親のもとで私の基礎は作られたのだと思います。でも、私を人として育ててくれたのはやっぱり“宝塚”です。なかでも、同期は私にたくさんのことを教えてくれました。そのひとつが“寛容さ”です。宝塚のことを何も知らずに入った私に手を差し伸べてたくさんのことを教えてくれた、そんな優しさや温かさもですが、この世界にはさまざまな考え、価値観が存在することも同期は教えてくれました。大切なのは自分の物差しを振りかざすのではなく、周りの声に耳と心を傾け、異なる意見も受け入れることなんだと学び、私は成長できた気がしています」
誰かと自分を比べて卑屈になったりせず、素直に周りに教えを求め、それをグングン吸収。瀬央さんはご両親が教えてくれた“自分らしい歩き方”で一歩一歩前に進んできました。そして、男役15年目を迎える今年、彼女は舞台の上でまぶしいほどの輝きを放っています。
「あまりに歩みがゆっくりだったからか、下級生の頃は“野心がない”と怒られたことも。たしかに野心は必要なのかもしれませんが……それだけになってしまうと私が私でなくなる気がするんです。私の中にはたくさんの大切な言葉があります。そのひとつが稽古場で緊張のかたまりになった私に、十碧(とあ)れいやさん※1がかけてくださった“稽古場は恥をかいていい場所。思いきりやりなさい”という言葉。今も肩に力が入りそうなときはこの言葉を思い出します。振り返って思うのは“自分一人の力で立っているのではない”ということ。多くの人に支えられて私はここにいる。だからこそ、何より感謝の気持ちを忘れずにいたいと思うんです」
※1=元星組の男役スター。2018年に退団。
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【瀬央ゆりあさんに3つの質問!】
Q1:
男役1年目の過去の自分、男役15年目を迎える今の自分、声をかけることができるならどんな言葉を選びますか?
男役1年目の自分に声をかけるなら「もっと周りを見なさい」ですね。多分、当時も未熟な自分なりに必死に見ているつもりだったと思うのですが、見えていないものが沢山あったと思うんです。それこそ、役作りに関しても「もうちょっとできたよ、もっと考えることができたはずだぞ」と言ってあげたいといいますか……。やっぱり、過去の自分を振り返るともどかしい気持ちになってしまいますよね(笑)。男役15年目の自分に声をかけるなら「今から開く扉もあるかもしれないよ」。15年という長い時間をかけて向き合ってきたけれど、まだまだ開いてない扉や引き出しがあるかもしれないぞと。そんな期待と希望を込めて(笑)。褒め言葉を届けるならどんな言葉を送るか? 男役1年目の自分にも、男役15年目の自分にも、「楽しそうだね」という褒め言葉を送りたいですね。今も昔もずっと“楽しむこと”は変わっていない、そこは褒めてあげたいですね(笑)。
Q2:
そのハッピーオーラで周りにいる人たちを明るく照らす瀬央さん。日々を楽しく過ごす秘訣を教えてください!
私はよいことも悪いことも表裏一体だと思っていて。どんなに「最悪」と思うネガティブな瞬間でも、そこには何かしら小さなポジティブが隠れていて、それを見つけて拾い上げることで日々の色合いは変わってくるような気がするんです。その小さなポジティブを見つけるために必要なのは、今目の前にあるネガティブに集中してしまわないこと、狭くなっている視野を広げて大きく眺めること。
例えば、何かイヤな出来事に巻き込まれてしまったとします。そこで、そのイヤなことばかり見ているとどんどん辛くなる一方だと思うんです。そうではなく、「これ、一年後には笑っているな」と考えたり、「一年後に笑うにはどうしたらいいのか」と考えてみる。それだけで見える景色が変わって、ネガティブなこともほんの少し面白く思えてくる気がするんです。
Q3:
今、瀬央さんが下級生に届けたい言葉とは?
過去の自分のように、不器用で周りから置いていかれているような気持ちになっている、そんな下級生が目の前にいたとしたら、「焦らないでいいよ」と伝えてあげたいですね。実際、新人公演を見て下級生にアドバイスすることもあるのですが、中には、やっぱり昔の自分を見ているような気持ちになる子もいて。
そういうときは、「焦っていいことはないし、緊張していいことはない。お客様を信じて、仲間を信じて、自分のやってきたことを信じて、自分のペースで進めば、誰かがいつかあなたを見つけ出してくれる」と伝えています。
足が速い人に追いつこうと必死になったところで転ぶだけ。どんなに自分を偽って大きく見せても、自分が培ったものでしか勝負できないし、自分の中にあるものしか出せない、自分は自分でしかない。だからこそ、自分のスピードで、自分の経験を積み重ねて、自分を作り上げていけばいいと伝えたいです。
>>NEXT STAGE
ミュージカル・ロマン
『バレンシアの熱い花』
ロマンチック・レビュー
『パッション・ダムール・アゲイン!』
19世紀初頭のスペインを舞台に、領主であった父を殺害された青年の復讐劇をドラマティックに描き出す、ロマンあふれる大人の恋物語。
● 主演:凪七瑠海(専科) 舞空 瞳(星組)
● 3/26〜4/11 全国5会場で公演 ライブ配信の予定あり
撮影/柴田フミコ 取材・原文/石井美輪
こちらは2023年LEE4月号(3/7発売)「ことばの力 vol.3 瀬央ゆりあさん」に掲載の記事です。
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