『エゴイスト』
愛する人のため――。この愛と献身はエゴなのか?
誰かを好きになる、恋をする。込み上げるその喜び――の前に、どうしようもなく心がはやり、相手の一挙手一投足にジタバタ振り回される。そんな恋の初期段階、きっと誰もが身に覚えのあることだろう。平静を装いながら悶絶する鈴木亮平、熱い思いを注がれる宮沢氷魚の幸せと憂鬱。2人の組み合わせが新鮮で、思わず意表を突かれ、早く観たいと心が急かされる。
ゲイであることを押し殺して過ごした田舎町を18歳で飛び出した浩輔(鈴木)は、東京の出版社でファッション誌編集の仕事をし、気の合う仲間たちと自由な生活を満喫している。浩輔は友人に紹介され、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢)と知り合う。彼のまっすぐさに好感を抱き、丁寧な指導を受けるうち、どんどん惹かれていく。そして病気の母親と2人で暮らす龍太の力になりたいと願うように。いつしか2人は愛し合い、身も心も通じ合う関係になるが、突然、龍太が別れを切り出し――。
出会った瞬間からかすかに目を奪われ、コトリと恋に落ちたように浩輔の視線に流れ出す“熱”、その微妙な感じがくすぐったい。対する龍太のふわっとつかみ切れない謎めき具合が、恋の行方から目を離せなくさせる。果たして龍太が別れを切り出した理由とは何か、その秘密を知った浩輔はどうするのかが、スリリングに展開していく。
これまで男気系の役が多かった鈴木が、半裸に派手なコートをはおって昭和歌謡を熱唱したり、友人らと推し映画を愛と毒たっぷりに語る姿には驚くばかり。一方で、はにかみながら大胆に浩輔を愛しつつ、秘密を抱えて影が差す横顔、その陰影を繊細に演じた宮沢も素晴らしい。14歳で母を亡くした浩輔が、シングルマザーの龍太の母親に示す愛情が、本作のもう一つの大きなテーマ。果たして愛とは何だろう、相手に与えたいと思う気持ちはエゴイスティックなのか。われわれは愛に何を求め、何をもって満足するのか。そんな普遍的な問いが、観る者それぞれの胸にこだまするはずだ。
・2月10日よりテアトル新宿ほかで公開
・公式サイト
『小さき麦の花』
中国で社会現象となる大ヒットを飛ばした奇跡の映画
中国の寒村。家族から厄介者扱いされる貧しい農民と足が悪く内気な女性が、半ば強制的に見合い結婚させられる。しかし2人は互いを気遣い、作物を育て、寄り添うように暮らし始める。そこへ自然の猛威や時代の変化が押し寄せ――。先祖や自然に感謝し、必要最低限のモノを大事にする生活、言葉少ない会話に宿る優しさ。2人の生活に魅せられ、ずっと見ていたくなる。それだけに結末の衝撃は深い。
・2月10日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかで公開
・公式サイト
『ちひろさん』
ぶっきら棒だけどお節介なちひろ=有村架純にほっこり!
海辺の小さな町の弁当屋で働くちひろは、元風俗嬢。ちょっと口は悪いが困った人を放っておけない。夜遅くまで母の帰りを待つ小学生、本音を言えない女子高生、無口なホームレスも、ちひろのお節介に救われる。そんな“ヘンな大人”のちひろにも、思うことがいろいろあり……。孤独を抱えつつ、群れずに自分らしく生きようと奮闘する彼らの緩やかなつながりに、いつしか元気と勇気をもらえる。今泉力哉監督作。
・2月23日よりNetflix全世界配信、全国劇場で公開
・公式サイト
※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。
取材・原文/折田千鶴子
こちらは2023年LEE3月号(2/7発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です
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