受験を考える読者3人のリアルなお悩みに、中学受験事情に詳しい教育ジャーナリストのおおたとしまささんが回答。〝子どものためになる〞中学受験のための親の心得や、中学受験におすすめの本などをレクチャーしてくれました。
【お悩み①】
「せっかく中学受験をして偏差値が低い学校に行っても意味がないのでは…? 偏差値を物差しに、学校選びをしてしまいがちです」(ラン)
ラン 受験を考え始めた頃は、この偏差値以下の学校に行くなら受験する意味ある? ぐらいに思っていて。偏差値が頭から離れない時がありました。
おおた 偏差値が気になるのは、仕方ないとは思います。ただ、高偏差値の学校名ばかりを挙げて「ここもいいね」なんて言っていると、子どもはプレッシャーを感じて苦しくなってしまうことも。
実際は、偏差値にかかわらずいい学校も多いし、学校の名前を挙げるとしても、いろいろな偏差値帯から選ぶと、子どもの選択肢が広がるはずです。
ラン 確かに実際に文化祭などに見学に行くと、雰囲気のいい学校ってたくさんあるんだなと。考え方がガラッと変わりました。
おおた それに、第1志望に入れなかったときにこそ、親から伝えられることもたくさんあります。第2志望でもそれ以下でも、親が「いい学校に入れてよかったね」と声をかけることで、「期待に100%はこたえられなかったかもしれないけれど、こんなに喜んでくれている、自分を誇りに思ってくれている」という実感を持つことができるんです。
第1志望の学校に入ると、親が自分自身を誇ってくれているのか、受験の結果得られた学校のブランドを誇っているのか、判断がつかないことがある。この学校に通っていなくても自分は愛してもらえるのかと、子どもは不安に陥ってしまいます。それでは、第1志望に合格することが、むしろ“不幸”になってしまう。
かなみ 行きたい学校に合格したほうがつらいなんて。
おおた せっかくこの学校に入ったのだから、できれば東大・京大、私大なら早慶に進学しなくては、とさらに呪縛にとらわれてしまうことも。第1志望に受かったときこそ「あなたの素晴らしさは学校のブランドにあるわけじゃない」「どんな結果であれ、挑戦する勇気や努力を誇りに思うよ」と親がしっかり話すことが大切です。
りえ 身につまされますね…。
おおた 他にも、模試の結果と向き合ったり、誘惑と戦ったり。中学受験の最中にある出来事やさまざまな選択は、人生の教訓を得る絶好の機会になる。いかに伝えられるかが親の腕の見せどころなんじゃないかなと。
目先のテストでいい点を取ったり、第1志望に合格することだけでなく、より広い視野で、子どもの人生を支える指針になる価値観を伝えてあげてほしいですね。
【お悩み②】
「小6の娘が公立中高一貫校の受験を検討しています。適性検査での入試は、やはり難しそう…。受験も多様化していくの?」(りえさん)
りえ 小6の娘が都立の中高一貫校を受験する予定で、適性検査の入試を受けるんです。対策するにも限界があって、どうしたものかと悩んでいます…。
おおた 都立の中高一貫校の適性検査はよくできた問題で、大人が解いてもおもしろい。知識の詰め込みだけではない、こういう頭の使い方はいいなと思いますね。
ただ、中学受験の基礎的な勉強はしておかないといけないし、作文や複雑な表から何を読み取るかというようなスキルは身につけておきたい。対策をすればすぐに点が上がるようなテストではないので、合格するのは雲をつかむようなものなんです。
りえ そうなんですよね。私も同じように感じていました。
おおた あとは、都立はとにかく倍率が高い。都立受験で結果がすべてなんて言っていたら、それこそ分が悪すぎる戦いです。合格したら、よほどご縁があったんだなという受け止め方でいいと思います。勉強したことはムダではないし、今後につながるはず。
ラン これから入試はさらに多様になっていくんでしょうか?
おおた 今すでに、都立の適性検査型の入試が一定の評価を得たので、同じように4教科の枠組みを外した入試を行う私立校も増えています。思考力型の入試や、プログラミングを使ったもの、プレゼンテーション入試のような就職試験に似たものもあります。
こういった入試をしている学校が首都圏に150校あるので、チャレンジしてみてもいいかもしれません。親が情報をキャッチして、学校選びの参考にしてもいいですね。
【お悩み③】
「学校見学や文化祭に行って感想を聞くと『よかった』だけ。どこに行きたいかわからず、子どもの志望校選びにやる気が感じられません」(ランさん)
ラン 小5になって、志望校選びに力を入れています。通うのは息子なので、せっかくなら息子がいいと思う学校を選んでほしいのですが、文化祭に行ったり、体験授業を受けたりして「どうだった?」と聞いても「うん、よかった」の一言で終了。「わざわざ来て自分の目で見たのにそれだけ!? もっとあるでしょ?」と、いつも帰り道でケンカに(笑)。入ってミスマッチだったら本人がかわいそうなので、それを防ぎたいなと思っているのですが…。
おおた 息子さんは、どこに行っても大丈夫。初恋みたいなもので「絶対にここ!」と思ってしまうのも危険で、入ったら理想と違うなんてこともたくさんあります。
皆さん、学校選びに熱心になりすぎている気が。学校のいいところ探しはできるけれど、合うかどうかは入るまでわからない。
りえ 確かに、わが子に合う学校にこだわりすぎてしまうところはあるかも。
かなみ とはいえ、何か学校選びのヒントがあるとうれしいのですが…。
おおた 自由な校風がいいのか、規律が厳しいほうが生きるタイプなのか。親から見てどういう方向性の学校がいいのかで、ある程度は絞れると思います。
あとは、見学に行くと多くの人は学校や通っている生徒たちを見ると思うのですが、案外忘れがちなのが、子どもの目や表情を見ること。自分に合う空気、空間に行くと、自然と目が輝くはず。この学校にいるこの子は素敵だな、と思えるような学校があれば子どもの体が反応するはずなので、リアクションをよく観察してみてください。
中学受験 親の心得5つ
1. 失敗したくないと思わない。親は頑張った過程を尊重
2. 醜い感情が湧いたら子どもではなく、自分と向き合う
3. 偏差値にこだわらなくてもいい学校はたくさんある!
4. 適性検査など入試も多様化。広い視野で志望校選びを
5. 学校見学では、子どもの目やリアクションをよく観察
おおたさん推薦!
中学受験BOOKリスト
1. 親子3組の心情を徹底取材!
『勇者たちの中学受験』おおたとしまさ
実際の親子3組を取材して、入試本番期間中の親子の心情を克明に描いたノンフィクション物語。
「親の関わり方次第で、名門校に合格しても失敗体験になってしまうケースも。〝中学受験とは何なのか〞をあらためて問いかけます」(おおたとしまささん)
2. 受験に過熱する親の心情を描く
『翼の翼』朝比奈あすか
中学受験にのめり込み、過熱する親の心情を余すところなく描いた家族小説。「〝受験に失敗したらホームレスになるかもしれない〞と思うほど、息子を追い詰めてしまう親の価値観。読んでいてしんどいけれど、身につまされます」(おおたとしまささん)
3. 子どもに伝えたいメッセージ
『中学受験生に伝えたい勉強よりも大切な100の言葉「二月の勝者」×おおたとしまさ』おおたとしまさ
中学受験をテーマにした大ヒット漫画『二月の勝者』とおおたさんがコラボレーション。「〝人生で大切なことのほとんどは中学受験で学べる〞をテーマに、親が子どもに伝えられるメッセージをわかりやすくまとめた1冊」(おおたとしまささん)
4. “子どもを見る目”が養われる
『きみの鐘が鳴る』尾崎英子
中学受験をする事情や環境、性格、目指す学校もそれぞれに違う4人の小学6年生の物語。「子ども目線で進行する小説ですが、親が読むと子どもの気持ちが少しわかり、受験中の〝子どもを見る目〞が養われると思います」(おおたとしまささん)
PROFILE
教育ジャーナリスト
おおたとしまささん
教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察。執筆活動を中心に講演、メディア出演など幅広く活躍。中学受験にまつわる著書も多い。近著に『勇者たちの中学受験』(大和書房)、『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など。
●Instagram:ota_toshimasa
●Twitter:toshimasaota
●公式サイト:http://www.toshimasaota.jp
座談会に参加したのは?
ランさん
小5と小3の男の子の母。2人とも小2の2月から塾に通い、中学受験を目指す。現在は小5の兄の志望校選びに奔走中。
かなみさん
小3の女の子、小1の男の子の母。小学校受験にトライしたものの縁がなく、中学受験を目指して塾に通い出したばかり。
りえさん
中2の男の子、小6と小1の女の子の母。兄は私立の中学受験を経験。小6の妹は都立の中高一貫校の受験を予定している。
他にも「“中学受験”との距離の取り方」を公開中!
撮影/細谷悠美 イラストレーション/きりふみこ 取材・文/野々山 幸(TAPE)
こちらは2023年LEE1、2月合併号(12/7発売)「“中学受験”との距離の取り方」に掲載の記事です。
この記事へのコメント( 0 )
※ コメントにはメンバー登録が必要です。