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LIFE

“中学受験”との距離の取り方

「中学受験は分が悪い負け戦。第一志望に合格するのは一握り」親の心構えとは?【おおたとしまささん×読者座談会 前編】

2022.12.19

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子どものためになる 親にも気づきが教育ジャーナリスト・おおたとしまささんLEE読者“中学受験”をするなら知っておきたい親の心構えとは?

中学受験座談会 おおたとしまささん

受験を考える読者3人のリアルなお悩みに、中学受験事情に詳しい教育ジャーナリストのおおたとしまささんが回答。〝子どものためになる〞中学受験のための親の心得を、レクチャーしてくれました。

PROFILE

教育ジャーナリスト
おおたとしまささん

教育ジャーナリスト おおたとしまささん

教育現場を丹念に取材し、斬新な切り口で考察。執筆活動を中心に講演、メディア出演など幅広く活躍。中学受験にまつわる著書も多い。近著に『勇者たちの中学受験』(大和書房)、『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など。

Instagram:ota_toshimasa
Twitter:toshimasaota
公式サイト:http://www.toshimasaota.jp

座談会に参加したのは?

ランさん

ランさん

小5と小3の男の子の母。2人とも小2の2月から塾に通い、中学受験を目指す。現在は小5の兄の志望校選びに奔走中。
かなみさん

かなみさん

小3の女の子、小1の男の子の母。小学校受験にトライしたものの縁がなく、中学受験を目指して塾に通い出したばかり。
りえさん

りえさん

中2の男の子、小6と小1の女の子の母。兄は私立の中学受験を経験。小6の妹は都立の中高一貫校の受験を予定している。

【お悩み①】
かなみさん「そもそも中学受験を選択する意味とは? 子どもにとってどんなメリットがあるのか、あらためて知りたいです」(かなみ)

かなみ わが家は、特に夫が教育に力を入れていて、小学3年生の娘が中学受験を目指して塾に入りました。ただ、中学受験が子どもにとっていいことなのか、あらためて考えてしまって…。

おおた なるほど。では、まず皆さんが中学受験をしようと思ったきっかけを聞いてもいいですか?

ラン 息子は今、小学5年生。私も夫も地方出身者で中学受験を経験したことがないのですが、職場などで中学受験のことを教えてもらいぜひトライしたいと。人間は環境で作られると思うし、切磋琢磨できる場所に身を置いてほしい。

あと、夫が中学生のときにやんちゃで高校受験で親の言うことを聞かなかったらしく(笑)、中学受験はまだ親が介入できるかなと思い、やろうと決めました。

りえ 私自身が中学受験を経験したことと、息子本人が地元の公立校を希望しなかったので受験。今は中学2年生です。私立はそれぞれに個性があるし環境もいいので、思春期の大事な6年間にその子に合った教育をしてもらえるのが魅力的だなと。

かなみ うちは、今後子どもをどう育てていこうかと夫婦で相談したときに、大学受験は詰め込み型、暗記型がまだまだ続きそうで本当に身になる経験なのか疑問だねと。中学受験の勉強で基礎的な知力を高めてあげたいという思いが。

あと、スポーツをやっているので、受験を突破して、多感な時期にスポーツなどのやりたいことに打ち込める土壌を作ってあげたいなと思っています。

おおた それぞれの家庭で、真剣にお子さんの将来について考えていますね。中学受験をする大きな意味は、大半は私立を目指すと思うのですが、その学校ならではの教育が受けられるということ。頭がよくなるとか、勝ち組になるようなスキルを身につけられるといったわかりやすいメリットではなく、私立にしかない文化、価値観、伝統など、言語化できないものを子どもの一部として身につけることができるんですね。皆さんが言うように、いい環境に身を置ける可能性が高いものの、なくても生きていけないわけではない。ある意味、贅沢品ではあるんです。

ラン お金もかかりますしね。

おおた 外車が買えるぐらいの費用を費やすわけですからね。あとは、受験して入る多くの学校は中高一貫校ということで、“中だるみ”できることに意味があると思っています。今の日本では、中学受験をしなければ、自動的に高校受験のベルトコンベアーに乗せられてしまい、中学時代は目先のテストで1点2点を加点することに縛られてしまいます。

それに対して、多感な時期に、おもしろい実験をしよう、裁判制度についてディスカッションしてみようなど、テストの点を気にしなくていい学びをたくさん経験できるのが中高一貫校の魅力。

また、精神的な意味では、受験を気にせず、反抗期や中だるみを思いきり謳歌できるし(笑)、思春期として健全なんじゃないかなと思います。ただ、そういう環境を手に入れるためには、過酷な中学受験を乗り越えないといけないのが現状なんです。

かなみ そうなんですよね。うちは国立校に絞って小学校受験にもトライしたのですが、ご縁がなく。小学校受験は8〜9割は親のやり方だと言われているので、今は『小学校受験に失敗してしまった』という気持ちが強いんです。

何とか挽回したい、中学受験では失敗したくないと焦ってしまっているところがあります。また本命に合格しなかったらどうしようと思い、まだ小3の娘をプッシュしてしまうことも…。

おおた 中学受験は分が悪い負け戦。狙ったとおりの結果を得られるのはごく一部で、9割近くの親子は傷ついたり、諦めたりしているんです。『失敗したくない』と思うと、しんどいかもしれませんね。

まずは親が、結果だけでなく、子どもが頑張った過程を尊重する意識を持つこと。理想論にはなりますが、受験を通していい経験ができて、その経験から何かを学ぶことができたら人生としては大成功、ぐらいに構えられるといいと思います。



「第1志望に合格するのはひと握り"人生の教訓を得られたら大成功"だと心得て」(おおたさん)

教育ジャーナリスト おおたとしまささん

【お悩み②】
りえさん「模試の結果に一喜一憂。受験中の気持ちのコントロールはどうすれば? 息子も夜中に起きたりと不安定になりました」(りえさん)

りえ 中2の息子が受験中は、模試の結果で一喜一憂。塾の先生には気にしないでいいと言われたのですが、次の模試で上がったと思ったらまた下がり…と親子ともどもストレスが大きかったです。

また、最初の頃、算数が得意だったので、親の判断で有名な上位校を志望校にしていたら、息子はプレッシャーに感じたみたいで。夜中に起きてベッドの横に立ちすくんでいたことがあり、夫と「これはまずいね」と。受験中は親も子も、気持ちのコントロールが難しいと痛感しました。

おおた 中学受験業界に長くいる塾の先生でも、自分の子どもの受験ではパニックになったそうです。わが子のことになると、見える景色がまったく違ったと言っています。知識があるとかないとかは関係なく、わが子のことになると苦しいし、何とかしてあげたいと思うんですよね。

ラン 漫画の『二月の勝者』に“父親の経済力。母親の狂気”というセリフがあるのですが、まさにそう。小5になってクラスがひとつ落ちそうになるだけで、キーッとなってしまいます(笑)。

おおた 自分でも信じられないような感情が湧いてくるのが中学受験。自分の心に怪物が住んでいることを思い知らされると思います。例えば、優秀な子をうらやましいと思ったり、成績が低い子を見下してしまったり。

醜い気持ちが湧いてきたら、まずはそんな気持ちを認めることが必要。そのうえで、自分のいびつな気持ちをラクにするために、子どもを変えようとするのではなく、なぜこんなにイライラするのか、ムカッとするのか、親自身が自分と向き合うことが大切なんです。

ラン 親の修行みたいなものなんですね…。

かなみ ちなみに、夜中に起きていたというりえさんの息子さんは、その後は落ち着いたの?

りえ 志望校のランクを下げたり、私は息子の勉強になるべく口出しをしないようにシフトチェンジ。本人の気持ちややる気を尊重するようにしました。

そもそも、共働きで3人きょうだいなので手が回らなくて。勉強のサポートや塾の送り迎えは同性の夫に任せて、私は下の子たちのことと、食事や睡眠など健康管理に専念しました。家族一丸となって乗り越えた印象が強いですね。

おおた 夫婦でしっかり相談して、協力ができたのはすごくよかったですよね。これまでの取材で、受験をきっかけに夫婦がケンカをして、家族がバラバラになるケースも見ていますので。そこまでして、中学受験に取り組む必要はないと思いますからね。

小学生以下の子どもがいる人に聞きました
中学受験をする予定は?

受験をするのは24%
まだ検討中も多数

 おそらく中学受験する…10%

 中学受験することを決めている…14%

まだ決めていない …25%

おそらく中学受験はしない …33%

中学受験はしないと決めている …18%

中学受験することを決めている人は24%とまだ少数派。「今後友達の影響などで子どもが受験したいと言ったら考える」(あきさん)との声も。受験しない派は「小学生まではなるべくストレスなく、ただただ楽しく過ごしてほしい」(レイさん)とのこと。

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【小川奈緒さん】マネージャーのように伴走した中学受験「まるで魔物に取り憑かれているようでした」

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次回は「教育ジャーナリスト・おおたとしまささん×LEE読者座談会 “中学受験”をするなら知っておきたい親の心構えとは?後編」をご紹介。

撮影/細谷悠美 イラストレーション/きりふみこ 取材・文/野々山 幸(TAPE)

こちらは2023年LEE1、2月合併号(12/7発売)「“中学受験”との距離の取り方」に掲載の記事です。

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