20代は仕事に邁進できました。30代になって将来はどうしようと考えるようになりました。そして40歳を超えた今、育児や仕事で迷いまくっています。不惑って嘘だな!
そんな時、自分らしく生きたい女性に向けたインナーウェアブランド「ayame」が主催するイベント「なでしこのマドイ」が奈良県にある室生寺で開催されるとの情報が! 育児と仕事に奮闘する女性経営者のお話などが聞けるとあって、迷子な私は勇んで参加してきました。
イベントの舞台は女性の信仰を集めた、女人高野・室生寺
会場は山深い奈良県宇陀市にある、日本遺産にも認定されている室生寺。
明治時代初期まで高野山真言宗の総本山である高野山金剛峰寺は女人禁制で、女性の参拝は認められていませんでした。室生寺は女性の参詣ができたため「女人高野」と呼ばれ、女性の信仰を集めた、まさに女性のための寺です。
訪れた日は秋の特別拝観の期間。国宝の金堂も参拝でき、これまた国宝の中尊 釈迦如来立像、重要文化財の薬師如来立像、文殊菩薩立像、十二神将立像を間近で見ることができました。
屋外に建つ塔としては日本で最も小さい五重塔。五重塔としては法隆寺に次ぐ古さです。それにしても室生寺の建物はどれも歴史を感じさせます。それもそのはず、建立が奈良時代とか平安時代ばっかりだから!
室生寺に限らず、県内にはそういった歴史的建築物がたくさん残っています。地元の方とお話すると「推古天皇の時代に〜」とか「大化の改新があった場所で〜」とか「1400年前はこのあたりは都につながる街道で〜」とか言われて、あまりに長い歴史とともに歩んでいる土地ということにくらくらきます。ちなみに奈良時代の前、聖徳太子が活躍した飛鳥時代の中心地であった明日香村までは室生寺から車で1時間弱。悠久の歴史ありまくりです。
奈良の老舗企業を継いだママ経営者によるトークセッション
イベント「なでしこのマドイ」は、地元企業が出店するマルシェと、地元で生まれ育った女性経営者によるトークセッションで構成されていました。
イベント名にもある「マドイ」は、車座になってコミュニケーションを深める「円居」と「惑い」のダブルミーニング。円居の意味どおり、アットホームな雰囲気でイベントは進んでいきました。
ぐっときたのが、奈良の老舗企業を受け継いだママ経営者同士のお話。
一人はこのイベントの主催でもあり、「ayame」を運営し、今年創業92年を迎える株式会社タカギ4代目社長の高木麻衣さん。
橿原市にあるタカギはインナーウェアを手掛けるメーカー。高木さんの祖母で2代目社長であるアヤメさんは、サニタリーショーツを日本で広めたパイオニア的存在です。
もう一方の吉田佳代さんは葛城市にある酒蔵、梅乃宿酒造株式会社の社長で5代目蔵元。
130年もの歴史を持ちながらも、他の酒蔵に先んじて25年ほど前から日本酒をベースにした梅酒をはじめとした果実のリキュールを手掛けるなどチャレンジ精神溢れる酒蔵です。
二人とも創業家に生まれていますが、会社を継ぐまでのアプローチは少し異なります。三姉妹の長女である高木さんは、跡を継ぐつもりはなく商社に入社。しかし幼い頃から、モノづくりの現場を間近で見ていたことから商社ではモノづくりができないことに疑問を感じてタカギに入り、今に至ります。
吉田さんは梅乃宿で働きたかったものの、跡継ぎは弟の予定。それでも好きの思いが強く梅乃宿に入社し、その熱意が認められ、先代である父から受け継いだガッツのある方です。
産後6カ月で社長を継承。できない言い訳ではなく、できることを選んで人生を充実させる
ここからはトークセッションで印象に残ったお二人のお話を対談形式でお届けします。
ーー吉田さんはずっと梅乃宿を継ぎたかったものの、蔵元を継承したのは、なんと産後6カ月の時。
吉田さん「育児で大変とか、できない言い訳はいくらでもできます。でも私は梅乃宿が好きでこんなチャンスはないし、言い訳して前進しないのも好きじゃない。いかにして育児と社長業を両立するか、いかに自分のしたいことをするか。社長業は決断の連続ですが、取捨選択しながら社長・母・主婦・趣味の全部を楽しんでいます」
ーー吉田さんは仕事と育児の両立だけでも大変なのに、毎朝4時に起きて10kmのランニングまでしているそう。
吉田さん「走っている最中はしんどいけど、走り切ると達成感があって『自分がんばってるな』って自己肯定感が上がる気がするんです」
高木さん「わかります! 私もパーソナルトレーニングで翌日筋肉痛になると、がんばったと思えますもん。ちょっとマゾなんですかね、私達(笑)」
女性経営者と舐められたほうが得な部分もある
高木さん「商社時代、男性だらけで女性というだけで馬鹿にされることもありました。今の時代ならNGですけど『女の子はお酒を注いでいたらいい』とか『彼氏がいても、いないって言え』とか」
ーージェンダーギャップ指数は146カ国中116位、女性社長の割合が2割にも満たない日本で、さらに奈良県は女性の就業率が全国最低の土地。そんな環境で女性が経営者をしていたら、よりジェンダーギャップを感じそう。でも二人はとことん前向きです。
吉田さん「女性経営者だと舐められることは確かにあります。でも舐められているからこそ、叩かれずに挑戦ができる部分はあります」
高木さん「挑戦できるのはそうですね。男性が見落としている部分に気づけるのも、女性だからかなとも思っています」
吉田さん「女性で損したなって思うのは、妊娠・授乳中にお酒が飲めないことくらいです(笑)」
ママの仕事を通じて子どもの選択肢が増えるといい
ーー高木さんは小学生、幼稚園児、1歳児の3姉妹、吉田さんは小学生の兄妹のお母さんでもあります。社長業だけでも大変なのに、育児と家事で目の回るような忙しさのはず。
高木さん「私と子どものスケジュール調整がうまくいかず、夫にお迎えに行ってもらうとかはしょっちゅうですが(笑)、仕事をしててよかったって思うことの方が多いですよ。先日ベトナムとシンガポールの出張に、子ども3人を連れて行ったんですね。準備や現地では大変でしたけど、子どもに出張の感想を尋ねたら、ベトナムにある自社工場が一番印象に残ったって。私の仕事を通じて子どもの選択肢が増やせればいいなぁ、と」
吉田さん「夫はわりと亭主関白なタイプ。風呂掃除とゴミ出しはしてくれてて、向こうとしては充分家事をしてるつもりだけど、私としてはもっとできるやろ、と(笑)。でも『もっとしてよ』って言っても多分響かない。私は『変えられるのは自分と未来』が座右の銘で『してくれてありがとう』を多めに言って夫婦の関係をよくしようと考えています。夫婦が仲良く、スキンシップもたくさんしていれば、子どもにもいい影響があるのでは、と思いますね」
高木さん「夫も妻をリスペクトしないといけないですよね。専業主婦だって育児や家事っていう仕事があって、妻が家のことをしてくれるから夫は働けるってことを忘れないでほしい」
吉田さん「今後ますます働く女性は増えていきますが、今は専業主婦も働く女性もいる時代。だから女性が働いているだけで褒められるのって、今の時代ならではで、ラッキーって思っています」
ーー今後は奈良の魅力を日本のみならず、世界に発信できる取り組みをしたいと声を揃える二人でした。
育児と仕事を並行していると、いかに効率的に動くか、ばかりを考えがちになりませんか? 効率ももちろん大事だけれど、そうなると自分の意思がわりと置いてけぼりになってしまったり。特に吉田さんのお話からは「考える前に飛べ」という言葉が浮かび、自分の素直な思いも大事にして、自分軸で考えた方が悩みも少なくなりそう、と感じました。
それにしても奈良って修学旅行くらいでしか行ったことがない人も多いでしょう。寺社仏閣や歴史的な町並みはもちろん、高木さんや吉田さんのように超がつくほどポジティブな女性もいる土地です。だからか、メガネを外したらイケメンみたいな、秘めたパワーをめちゃくちゃ感じました。また遊びに行きたいなぁ。
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津島千佳 Tica Tsushima
ライター
1981年香川県生まれ。主にファッションやライフスタイル、インタビュー分野で活動中。夫婦揃って8月1日生まれ。‘15年生まれの息子は空気を読まず8月2日に誕生。