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「せたがや子育てネット」松田妙子さんがコロナ禍のフードパントリー活動で感じた胸のザワザワと“お互い様”の互助精神

  • LEE編集部

2022.09.29

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松田妙子さん

今回のゲストは、『せたがや子育てネット』の松田妙子さんです。

松田さんは、東京都世田谷区を中心に、子育てネットワークや子育て事業を数多く設立してきました。世田谷といえば、23区内で最大の人口を持ち、子育て世帯・共働き世帯も多い地域ですが、流入者も多く子育てで孤立しやすい一面もあります。

松田さん自身は東京の渋谷区生まれ。大学卒業後、渋谷区にあった子ども複合施設『こどもの城』に勤務したのち、夫の転勤先・三重に引っ越し。そこで第一子を出産しますが、頼れる親は近くにおらず孤立した子育てを経験。「誰かと話したい」「共有したい」という思いから、赤ちゃんサロンを始めます。それがきっかけで、東京に戻った後も地域での子育て支援活動やコミュニティづくりに尽力するようになりました。

前半では、コロナ禍で始めたフードパントリーの活動から気付かされた現状、地域が子育てでできること、松田さんが理想とする“ワーク・ライフ・コミュティバランス”について話を聞きます。(この記事は全2回の1回目です)

コロナ禍の休校で家庭にのし掛かった負担を軽減

2020年2月末、新型コロナウイルスが流行り始めて間もない頃、学校が休校になりました。学校が担っていた教育、給食支給などの活動すべてが家庭にのし掛かり、仕事も在宅勤務に。飲食店は休業を余儀なくされ、休職を言い渡される人もいました。そんな時、松田さんたちは『せたがやこどもフードパントリー』をスタートしました。

「高校生世代以下の子どものいるひとり親、多子世帯を中心にした活動です。ちょうどその時期、世田谷区ではお弁当を配るイベントがあったんです。春休みに入る時だったので、そのお知らせを配ったところ、300人ほどの申し込みがありました。給食費が免除になっている家庭は、自粛中の負担がすべて家庭にのしかかる。子育てひろばに来ていた子でも、『お昼食べた?』と聞くと食べていないのに『食べてきた』という子がいました。それでお弁当を配ってみたら、胸がザワザワするようなことがたくさんあって。中には、弟妹の世話をするヤングケアラーの子もいました」

おでかけひろば まーぶる

『せたがや子育てネット』の拠点の一つである「おでかけひろば まーぶる」にてお話しを伺いました。「まーぶる」内の倉庫スペースに備蓄された『せたがやこどもフードパントリー』用の食料品の一部。

休校が明けると、学校に行けない子も増えました。子どものことや仕事のこと、親たちも悩んでいる様子が、お弁当を渡すときに垣間見えたと振り返ります。

「子どもが大変だけど自分は稼がないといけない、会社で失敗して困っている、こんな嬉しいことがあった。家に帰っても子どもに話せないような話やちょっとした出来事を、受け渡しの時に話してくれる。中には、ボロボロと泣いてしまうお母さんもいました。話をしてくれるだけではなくて、子どもの服が小さくなったから使いますか?  ベビーカーどうですか? と譲ってくださったりもして。子育てする仲間として、みんなが“お互い様”と思っている、助け合いの精神を感じました」

まーぶる

「おでかけひろば まーぶる」内の「あげます/ください」掲示板。

地域で子どもを見守り、たくさんの人で子育てを

地域で育てる、地域で育つ。松田さんが子育て事業やコミュニティを作り続ける理由に、地域に見守る目を増やして、たくさんの人で子育てしようという思いがあります。

「子どもは集団で育っていくもの。自分の子だけを特別にしよう・良くしようという考えは間違っていると思います。それはお金がある人はできるけど、そうじゃない人はこぼれ落ちてしまう。“お互い様だよね”“みんなで助け合おう”という精神が大切です。よその子も自分の子と同じように気に掛ける人を増やす、それを目的に活動を続けてきました」

おでかけひろば まーぶる

地域の人から寄付された大学受験参考書の一部。受験勉強をし、国立大学に見事合格した学生さんもいたそう!

最近よく報道される虐待の問題も、地域でのコミュニティ、育てる・見守る目が必要なのではないかと松田さんは問いかけます。

「その親子は町に住んでいて、子どもは私たちと同じ道を歩いています。何かが起こった時、行政や専門部分に助けてもらいながら過ごす時期と、地域で見守る時期を行ったり来たりできるのが理想だと思います。地域から引き離さずに見守りたいんです。“虐待がある”“障害が分かった”、そんな時に見えなくなるように切り取ってしまうのが一番悲しいと思います。範囲の見極めは必要ですが、地域として、その子が育った“ふるさと”だからできることがあるんじゃないかと思って」

松田妙子さん

「まーぶる」のご近所にある住宅メーカー「伊佐ホームズ」瀬田本社にて撮影させていただきました。 https://www.isahomes.co.jp/

行政や国からの仕事も多く受けている松田さん。とはいえ大切にすべきなのは、自分が住んでいる町や自治体。地域のことをやろうとするなら、まずは自治体とつながることが必要だと考えます。

「子どものための制度や仕組みは国が考えますが、基本は自治体単位で政策が作られていきます。町のことをやろうと思ったら、まずはその町と分かり合えないとできません。地域の人と組むことで実現できることがあれば、どんどん一緒にやれたらいいと思っています。ただし、虐待など専門的な人が必要な場合もあります。それ以外の見守り、関係を作るという部分は、地域の人が得意だと思うんです。双方がバランスよく活用されるのが理想だと思います」



中学生に「赤ちゃんを抱っこ」する体験をプレゼント

松田さんが世田谷区で始めた活動の一つに、『赤ちゃんを連れて学校に行こう』があります。松田さんが娘さんを連れて学校に行った経験を踏まえたもので、赤ちゃんと接する機会が少ない中学生に、赤ちゃんを抱っこしてもらうという活動です。

まーぶる

「まーぶる」ではお食い初めのお膳セットの貸し出しもしています!

「世田谷区の小中学生の子の約4割は、赤ちゃんを抱っこした経験がないんですよね。中学生が赤ちゃんを知ることは大事ですし、自分より後に生まれてきた子への責任、どんな態度を取ればいいのかを学べる貴重な時間だと思います。子育て中って、親たちもどこか肩身が狭い感じがして、何もできない感じがありますよね。だから、子どもが赤ちゃんの時にしかできないボランティア活動をしませんか?  中学生に赤ちゃんを抱っこする体験をプレゼントしませんか?とお誘いしてやっています。中学生の子が、その町で育つ小さな子を応援してくれる人になって欲しいという思いもありますね。『そうやってあなたも育ってきたんだよ』『覚えていてね』『みんなでやっていこうね』と思いを伝える時間でもあります」

一方、松田さんが懸念していることに赤ちゃんの抱っこの仕方があります。最近は親目線の子育てが中心で、赤ちゃんのことや赤ちゃんの発育を配慮した接し方になっていないのではと不安を募らせています。

松田妙子さん

「昔は首が座る前の赤ちゃんは横に寝かせていました。移動がしやすい、両手が使えるなどの理由から、縦抱っこができる商品などが出てきてそれが普通になりました。出かけやすい・動きやすいのはいいですが、赤ちゃんに負担がかかっているのではないかと心配しています。時代が変わったことで、赤ちゃんの環境も大きく変わってきています。現代はスピード感あふれる日常で、録音した会議やサブスクの映画も倍速で見るような時代。でも赤ちゃんが大きく発達する時期には、もっと大人が合わせないといけないと思います。赤ちゃんの時期はいつもよりゆっくり、0.75くらいの速さで過ごし、赤ちゃんのことは赤ちゃんから学ぶ。そうしないと見つけられないものがあるんじゃないでしょうか」

理想は“ワーク・ライフ・コミュニティバランス”

子どもを持つことで、自然と地域との関わりも増えていきます。「何か自分でもできるんじゃないか」「自分でもやってみたい」と思う人もいるかもしれません。松田さんが考える理想は、“ワーク・ライフ・コミュティバランス”です。

「場所なんて借りなくてもいいから、誰かの家で集まろうでいい。私が提案しているのは、“ワーク・ライフ・コミュティバランス”です。コミュニティって、昔はワークやライフの中にもあったし、一体的にあったと思うんですけど、今はバラバラなんですよね。あえてワークとライフに、コミュニティを加えると安定しますよと教えてあげたいんです。子どもが生まれると、産前産後から地域のコミュニティとつながりやすいんです。自分なりのコミュニティとの関わり方、コミュニティづくりをしてもらいたいと思います」

まーぶる

そのためには、まず思ったことや困ったことを口に出してみる。疑問に思ったことや分からないことは、親しい誰かに投げかけてみる。すると解決策につながる場合もあるのが、コミュニティの力だと言います。

「今は、自分の考えていることを伝えるのが怖い時代じゃないですか。何も言えないというのも分かります。『考え方が違うから』と距離を置かれたらどうしようとか、『意識高い系だね』と言われたり。そこを怖がらずに、まずは口に出してみる。もし意見が違ったとしても、『そうじゃないんじゃない?』という人と一緒に、共有して何かできたらいいと思う。袂を分かつ、違う考えだからさよならでもない。『あなたはそう思っているんだね』と理解して、包摂していかないといけない。それが成熟した人間関係だと思います」

世代やコミュニテイを横断して関わる人を増やしたい

社会は大きな変化の過渡期にあると松田さん。「日本は地域共生社会にシフトしています。少子化でもあり、子育てがマイノリティになりつつあります」。願うのは、世代やコミュニティを横断をして、関わる人を増やしていくこと。そんな人が1人でも増えていくことを望みます。

「おばあちゃんが足が悪くて買い物が大変、母親が入院して困っている、下の子が熱を出してお迎えに行けない。じゃあ、誰かと誰かが集まって、買い物を手伝おう、ボランティアに行こう、お迎えを替わりに行こう。小さなことからできればいいと思います。仕組みづくりも大事だけれど、まずは目の前に起こったことをどうしたらいいか、考えて行動する。それが積み重なって、仕組みができていくと思います。

松田妙子さん

それが介護の必要な人なら介護経験者、双子の赤ちゃんが生まれた家庭の手伝いなら双子の赤ちゃんのママが行った方がいい。それが適材適所、総合商社なんですよ。経験は強みにもなるんです。ネットワークや人同士の関係性を考えると、町の中は宝箱だと思っています」

後編では、松田さんがなぜ地域を軸にした支援活動やコミュニティづくりに尽力するようになったのか。子育て以前のターニングポイントを振り返ります。また、さまざまな活動の過程で気付かされた、母親が持つ“才能”“キャリア”について話を聞きます。

松田妙子さんの年表

1969年 東京都渋谷区に生まれる
13歳 中高一貫の女子校に入学
17歳 東京都青少年洋上セミナーに参加
19歳 大学の福祉学科に入学
22歳 大学卒業、青山にある『こどもの城』に勤務
27歳 退職、結婚。夫の都合で三重に転勤。「赤ちゃんサロン」をスタート
29歳 第一子出産
30歳 名古屋に転勤
31歳 住んでいたエリアが東海豪雨に見舞われる。第二子出産、東京に戻る
32歳 世田谷区で産前産後支援活動グループ『アミーゴ』を設立
34歳 『世田谷子育てメッセ』をスタート。第三子出産
35歳 『せたがや子育てネット』を設立
41歳 おでかけひろば『ぶりっじ@roka』(芦花公園)をオープン
49歳 おでかけひろば『まーぶる』(瀬田)をオープン
50歳 おでかけひろば『すぷーん』(深沢)をオープン
51歳 おでかけひろば『おりーぶ』(奥沢) をオープン。『せたがやこどもフードパントリー』をスタート

まーぶる


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
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