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「RELIEFWEAR」鳥羽由梨子さんがこだわり抜いて作ったボトムスと靴下の“心地よさ”の秘密

  • LEE編集部

2022.06.23

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鳥羽由梨子さん

今回のゲストは、“身につける養生”をテーマにものづくりを行う「RELIEFWEAR」(リリーフウェア)の鳥羽由梨子さんです。洋服を選ぶとき、みなさんはどんな基準で選びますか。鳥羽さんが手がけるブランド「RELIEFWEAR」では、体をいたわるためのボトムスや靴下を展開しています。着る・履くという概念から、なぜ“いたわる”“養生する”というものづくりに至ったのでしょうか。前半では「RELIEFWEAR」誕生のきっかけから商品開発秘話、今後の展開について話を聞きます。(この記事は全2回の1回目です)

虫垂炎を機に「養生」のための衣服ブランド立ち上げ

鳥羽さんがブランドを始めたきっかけは、30代で経験した体の不調でした。2016年、36歳だった鳥羽さんは、今まで感じたことのないお腹の痛みを感じ病院を受診。待合室で意識を失い、倒れてしまいます。痛みの原因は虫垂炎でした。実は2年ほど前から不調があったことを振り返ります。

「元々お腹が痛くなりやすいタイプで、仕事で大きな展示会やイベントの前になると高熱が出ることもありました。実は、その日は結婚の2日前だったんですよね。入院して薬で散らす方法で治療しましたが、その後も疲れが溜まるたびに痛みが出てしまい薬が手放せない状態でした。2年後には改めて手術をし、虫垂を取ることにしました。そんな経験から、体の不調は根本から改善しないと良くならない、体のことをもっと詳しく知りたいと思うようになりました」

鳥羽由梨子さん

東京・豪徳寺nienteで開催の「RELIEFWEAR」のPOP UP STOREにお邪魔してお話しを伺いました。niente店主の見城ダビデさんと。

手術後の傷の痛みで着るものに困り、それを機に、独学で身体のことや衣服について調べ始めます。次第に「自分と同じように不調に悩んでいる人がいるのではないか」「私が学んでいることは他の人にも役立つんじゃないか」と思うように。2019年には、養生のための衣服のブランドを立ち上げようと思います。鳥羽さんは当時、デザイナーのセキユリヲさんが主宰する雑貨ブランド「サルビア」で働いていました。サルビアでは、商品企画、生産管理、イベントの運営や取材など幅広く仕事をし、充実した日々を過ごしていました。

「サルビアにはアルバイトから入社し、いろいろな経験をさせてもらいました。主宰のセキさんは、やりたいことはチャレンジしてみたらいいという精神の方で、自分のやってみたいことが実現できるありがたい環境にありました。サルビアでは、小冊子『季刊サルビア』を作っていて、一つの商品ができるまでを取材して、工場見学させてもらったり、職人さんや作り手の方に話を聞いたり。そこからものづくりの楽しさや伝える面白さを教わりました」

“救済”“解放”という意味の“RELIEF”をブランド名に

サルビア時代に出会った製造先や作り手が、「RELIEFWEAR」のものづくりにもつながってきます。2020年3月にはサルビアを退社、準備期間半年ほどを経て、2020年8月に「RELIEFWEAR」をスタートします。“身につける養生”をテーマに、自然な身体の在り方とこころに作用する美しさを大切に。一つの製品が、ストレスを一つ減らしていくものづくりをしています。活動を始めた2020年はちょうどコロナによる自粛が始まった時期でもあり、「それも意味のあるタイミングだったのかもしれない」と振り返ります。

「ブランド名を考えるにあたり、一番大事にしたのは、不調を感じている人の痛みを減らしたい、ストレスを解放したい、という思いでした。“自由”“解放”というキーワードを入れたいと考えていた時に、“RELIEF”という言葉に“救済”“解放”という意味があると知りました。私が考えるイメージに一番近い言葉だと感じ、ブランド名にしました。そうしている内に予想もしていなかった、コロナ禍がやってきました。家にいる時間が増えて、自分と向き合ったり、体調に気遣ったりと、暮らし方や生き方が大きく変化した時期でもありました。『RELIEFWEAR』という名や“身につける養生”というテーマが、沢山の方に共感してもらえるタイミングでした」

RELIEFWEAR

「RELIEFWEAR」では、ボトムスや靴下など下半身に身に着けるアイテムにこだわっています。その理由は、不調が下半身の血流の悪さから起こることが多いからだと鳥羽さんは言います。



ウエストで締めず「丹田」を意識できる構造のパンツ

「一般的なパンツはウエスト部分で履くものがほとんど。でも身体構造上は、ウエストの部分は弱い部分なんですよ。2020年から身体講座に通っている、日本身体文化研究所の矢田部英正先生に、ウエスト部分は締めず、骨盤の部分で絞めると身体が安定し、自然な状態でいられると教わりました。東洋では“上虚下実”と言って、上半身はリラックスし、下半身はどっしりと満ちているのが理想。でも現代の私たちは真逆になりがち。デスクワークやスマホ・パソコンを見る時間が多く、上半身ばかり使ってガチガチに固まっていたり、下半身は動かすことが少なく、むくみやすかったり。上下逆転してしまった体を自然な状態へ導き、足元から健やかにできるアイテムを作ろうと思いました」

RELIEFWEAR

リラックスウェアの場合、オフィススタイルに馴染まないものが多い中、「RELIEFWEAR」は働く女性のためのデザインやパターン、素材にもこだわりました。不調を感じながら働いている人も多く、仕事場や日々の生活で無理なく取り入れられるデザインであることも大事にしています。

ウエストではなく、体の中心と言われる丹田にベルトループやバックルを置くことで、自然と丹田を意識できる構造に。骨盤の位置で締めて履くことで、ウエストを締め付けないようにしています。丹田に着目したことから名称は「TANDEN PANTS」、紐で結ぶタイプと、ベルトで絞める“HIBI”の2種類です。椅子に座った時、裾から冷気が入るのを防ぐためにボトムの前部分を長くしたり、お腹部分にカイロを入れられるポケットを付けるなど工夫も凝らされています。サイズは1サイズ、腰部分のベルトやゴムで調節可能で、妊婦さんや男性も履けます。空気をまとうような軽やかな履き心地は、一度履くとやめられない心地よさです。

RELIEFWEAR

「日本古来の衣服はサイズレスで腰紐や帯を使って、調節するんですよね。人間が衣服に合わせるのではなく、衣服が人間に合わせてくれたり、力を引き出してくれる。日本の伝統的な考えに近いものづくりをしたいと思い、それに倣い『TANDEN PANTS』も1サイズ展開で作っています。当初は、女性向けに考えていましたが、男性で気に入ってくださる方もいて。お客さまもさまざまで、インスタグラムを見て試してくださる方、病気で治療中という方、デザインが気に入って購入される方。若い方からご年配の方まで、年齢層も幅広いです」

ゴム跡がつきにくく、色数が豊富な靴下

靴下は「KAIHO SOCKS(カイホウソックス)」という名称で3タイプを展開。締めつけのない定番の「KIHON」、通気性のいい「TSUKI」、伸縮性のある凸凹編みの「SHINSHUKU」。サルビア時代に出会った、新潟の「くつ下工房」の上林さんがご両親の介護のために作った靴下の編み方をベースにしました。足首にゴムが入っていないため締めつけず、ゴム跡がつきづらい。冷えに効くツボ「三陰交」がある部分を2重仕立てにし、足首を温かく包みます。

もともと足のむくみを感じていた鳥羽さんは、ずっと靴下のゴムの締めつけに悩まされていました。でも「くつ下工房」の作る靴下と出会って、その悩みから解放されたそう。オリジナルで作るにあたり、履き心地や機能はもちろん、それ以外にも大事にしていることがあります。

RELIEFWEAR

「色の持つ心への作用も大事にしていて、靴下は異なる色の表糸と裏糸を使ってニュアンスのある色を表現しています。理想の色に近づけるため、試作を何度も繰り返したもの。色が持つ力を大事に、気持ちに寄り添ってくれるカラーを作っています。自然の景色や風景からインスピレーションを受けたものが多く、色名にもそれを採用しました」

夜明けの空をイメージしたピンクは「AKE」、大地の安定感をイメージしたブラウンは「DAICHI」、雨上がりの青空を感じる水色は「HARE」、窓から降り積もる雪をイメージした「YUKI」。定番の7色に加えて、パープルやイエローなどの新色も加わり、着こなしがより楽しくなります。

「身に着けることで心も華やかになって欲しいと願って作っています。体をいたわるためのアイテムとなると、どうしてもベージュなど落ち着いたナチュラルカラーになりがちです。心と体は実はつながっていて、明るい色を身に着けると心も自然と明るくなります。気持ちを内側から湧き立たせてくれるようなものを作りたいという思いもあります」

廃棄反を活用したアップサイクル製品を秋に販売予定

現在試作中のプロダクトは、工場で余ってしまった廃棄反を活用したアップサイクル製品。コットンツイードサージという起毛ウールのような生地で「TANDEN PANTS -HIBI-」を制作中、秋に販売予定です。他にもさまざまなアイデア、やりたいことが待機中です。

写真のコットンツイードサージで「TANDEN PANTS -HIBI-」を制作中、秋に販売予定です(写真提供/鳥羽由梨子さん)

「座る、歩く、それぞれの動きにこだわったボトムスを作りたいと思っています。冬のお悩みを解消できる靴下も作りたいですね。履物も、いつか作りたいと思っています。人の足元を見ることが多いんですけど、自分の足に合っていない靴を履いている人って実は多くて。草鞋や草履のように、道具が体に合わせてくれる、一人一人の足の健やかさにつながる、そんな履物をいつか作りたいですね」

後半では、鳥羽さんがどんな幼少期を過ごし、洋服作りに携わるようになるまでを聞きます。健やかな鳥羽さんが、日々大切にしていること、そして手放したものとは。

鳥羽由梨子さんの年表

1980年 東京で生まれる。父親の仕事で名古屋、山口、鹿児島などを転々とする
14歳 中学2年の時に埼玉県川越市に引っ越す
19歳 短期大学の児童教育学科に入学
22歳 短期大学でさらに専攻科へ進み、幼稚園教諭と保育士の資格を取得。幼稚園教諭として働き始める
25歳 デザインに興味を持ち、桑沢デザイン研究所のプロダクトデザイン科の夜間部で学び始める
27歳 雑誌でデザイナーのセキユリヲさんの記事を見つけ、セキさんの事務所・サルビアに電話をする。メールでも問い合わせ、直接の対面を経て、アルバイトで働き始める
29歳 サルビアの正社員になる
36歳 虫垂炎で入院する。体の不調を根本から解決したいと思い、独学で身体や衣服について学ぶように
39歳 体を養生するためのブランドを立ち上げようと思う
40歳 3月にサルビアを退社。8月に「RELIEFWEAR」を立ち上げる
「RELIEFWEAR」公式サイト

鳥羽由梨子さん


撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
そんな存在でありたいと思っています。
ファッション、ビューティ、インテリア、料理、そして読者の本音や時代を切り取る読み物……。
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