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折田千鶴子

女優・安藤サクラの「女性が元気になれるビタミン作品」4選/映画「島々清しゃ」公開記念!

  • 折田千鶴子

2017.01.17

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出演作品を“サクラ色”に染める、唯一無二の魅力を持つ若手実力派

多くの映画ファンにとっては“ズバ抜けた存在感と演技力の女優”として、かなり以前より注目を集めていた安藤サクラさん。昨年は連ドラ初ヒロインを務めた「ゆとりですがなにか」などで、一気に彼女の不思議な魅力の虜になった人も多いのでは!?

そんなサクラさんが出演している新作映画『島々清しゃ』の公開(1月21日よりテアトル新宿ほかにて)に合わせ、現在発売中のLEE2月号「カルチャーナビ」では、安藤サクラさんにインタビューを敢行いたしました!

1月 21日よりテアトル新宿ほかにて公開 @shimajimakaisha

 

現在30歳、自身もLEE世代となったサクラさんの第一印象は、シャイな内面を感じさせつつ、とっても自然体かつフレンドリー。誰にでもフラットに話しかけ、話に応えるサクラさんは、写真撮影の最中もカメラマンや編集スタッフに「そのポーズ素敵!」と言われ、照れて顔を隠したりする仕草がとってもキュート!ちゃんと周囲への細かい心配りをする大人でありながら、同時に“次にどんな動きをするのか、ずっと見ていたくなる小動物のような可愛さ”で、やはり不思議な魅力に包まれた女性でした。サクラさんの生き方の指針と言うと大袈裟ですが、そんなことが感じられるインタビューを是非、読んでみてください。

さて、大人可愛いサクラさんがスクリーンでは一転、図太さが妙にユーモラスだったり、イタさがリアルな痛痒さを醸す、ワケありの色んな女たちに変身するのですから、いい女優とは本当に恐るべし、です。

作品選びが上手いのか、いい女優はいい役に恵まれるのか、いや、サクラさんが演じたからこそいい作品になったのか、とにかく出演作はほぼ外れナシ。10年前、映画デビューにして初主演を飾ったお父さまの奥田瑛二監督作『風の外側』(07)にはじまり、どれもこれも観て損なしの作品ばかり。たとえ小さな役でも独特の間合いで目を引き、どんな役も他の人では演じられなかったと思わせる“サクラ色”に染めた結果、作品独自の味わいを醸成することに大きく貢献してきました。

デビュー2年目の『愛のむきだし』(08)以降、数々の映画賞を受賞してどれも代表作になり得るだけに、おススメ作品を選ぶのも一苦労!『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)や『愛と誠』(12)など捨てがたい作品ばかりですが、今回はサクラさんの“役者とは”という心意気を感じさせる肝の据わった演技を味わえつつ、LEE世代の女性が観て元気になれるような、ビタミン作品を4つチョイスしました。

 

共演者の新井浩文をして“日本一の女優”と言わしめた怪演!

「百円の恋」(’14)

監督:武正晴(『イン・ザ・ヒーロー』)

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百円の恋 ●DVD発売中 ●価格:3,800円(税抜)4,104円(税込) ●発売元:東映ビデオ 販売元:東映 http://shop.toei-video.co.jp/products /detail.php?product_id=15653

このタイトルに、思わず「ギョッ!?」とした人も少なくない!? だって女性たるもの、価値ある恋をしたいですもの。たった百円ポッキリって一体!? ……と、見始めたら最後、サクラさん扮するダメダメ一子から、もう目が離せません!

32歳の引きこもり一子が、家業の弁当屋を手伝うでもなく、ただ寝転がってお菓子を食い散らかしている姿に、「アチャー」と思いつつ、でもそれが妙におかしい。つまるところ一子自身が、時価100円の女というワケなのでした。

そんなある日、子連れで出戻ってきた妹と激しい大喧嘩の末に家を飛び出し、一人暮らしをする羽目になった一子は、百円ショップでバイトを始め、近くのボクシングジムに通う中年ボクサー、狩野(新井)と出会います。それから何となく同棲が始まりますが、さっさと捨てられてしまう……。もう踏んだり蹴ったり!

ところが一子は今度ばかりは、自分という名の巨大な敵と戦うべくボクシングを始め、のめり込んでいきます。ここからはもう、打って変わってストイックな生活が始まります。

何をするでもなくダラダラしていた一子が、ボクシングを始め、身も心も引き締まっていく過程、その変化は、もう、目が覚めるよう!

黙々と孤高の闘いをする一子が、ものすごくカッコいい。ブヨブヨな身体が少しずつ筋肉に変わり、表情も肉体も美しく引き締まっていく刻々とした変化は、「スゴイ、スゴイ!!」と目を見張らせ、私たちをドキドキさせると同時に、「一丁やってやるか!」的な熱い気持ちを強く芽生えさせてくれるのです。

それにしても、激太りした後に一週間で10キロ絞ったというのも女優魂のスゴさ以外の何者でもありませんが、ブヨブヨした肉体やだらしない二重顎のボケっとした表情を、それこそ完璧に作り上げてスクリーンで晒すという肝っ玉に、“これぞ役者”と感服せずにいられません。

サクラさん以外、こんなリアルに一子を演じられる女優さんは、そう簡単に思い浮かびません。だからこその強い感動、快哉を叫びたくなる痛快さ、ドンとお腹に響くような勇気を生んでくれるに違いありません。

まずは『百円の恋』。落ち込んだときなどの気力回復に、ぜひおススメしたいエナジーチャージ映画です。

 

 

 

ラジオで太田光も「ビックリした、こんな女優がいるのか。天才!」と絶賛したヒロイン像

「0.5ミリ」(‘13)

(監督・脚本:安藤桃子(『カケラ』)

0.5ミリ ●DVD発売中 ●価格:3,800円(税抜)4,104円(税込) ●発売元:「0・5ミリ」製作委員会 販売元:東映・東映ビデオ http://shop.toei-video.co.jp/products /detail.php?product_id=15619

爆笑問題の太田さんがサクラさんを「天才!」と誉めるのも当然ながら、本作を監督したサクラさんの実姉・安藤桃子さんも天才!と呼ばずにいられない気分にさせる快作です。

しかも安藤監督の書き下ろし小説の映画化で、現代を映す物語も、映画ならではの“ずっと見ていたくさせる空気感”もハンパありません。安藤監督が「姉妹で映画を作るのは最強」と語っていた通り、姉妹だからこその才能を掛けあわせたパワーが大爆発した映画なのです。

サクラさん演じるヒロインは、派遣先の家でトラブルに巻き込まれてクビになり、寮も追い出されて崖っぷちに立たされた介護ヘルパーの山岸サワ。もう後がないサワは、ワケあり老人を見かけては、強引に押しかけて住み込みで介護をしながら食いつないでいく、なんと“押しかけ介護ヘルパー”に。その発想自体が、笑っちゃうくらいスゴイですよね。

サワの図々しさに噴き出して見ていると、サワと暮らすことによって輝きを取り戻していく老人たちの姿に、何度もハッとさせられます。一方で、サワがとても料理上手で、アジのミリン干しを縁側で作っちゃったりする食や生活の知恵場面も、本作の大きな魅力だったりもします。押しかけヘルパーと老人たちとの、予想を超えたパワフルな人情ドラマに、まさに舌鼓。中盤以降は、もはやサワが異色のヒーローにしか見えないほどです。

入口は正攻法じゃないけれど、こんな風に人の人生と関われる人ってスゴイな、素晴らしいな、そしてどんな老人たちにも、語り尽くせないような人生の思い出があるんだなぁ……という当たり前のことをしみじみ思い起こさせ、ホッコリさせてもらえます。老人介護の話なのに、妙にワクワクしたり噴き出したり、スゴイと膝を打ちたくなったり。

ちなみにお父様の奥田瑛二さんがエグゼクティブプロデューサーを務め、お母さまの安藤和津さんがフードコーディネーターを務め、さらにサクラさんの義父母(夫は俳優の江本佑さん)である柄本明さん、角替和枝さんも出演されている、“サクラさん一族総出”の本作。

観終えたときには「人生ドンと来い!」という気分にさせてもらえると同時に、丁寧な暮らしぶりを慈しみたくなる、そんな異色の快作で、心のリフレッシュをどうぞ!

 



ひたすら兄を想う妹役で、またも賞を総なめ!

「かぞくのくに」(’11)

監督:ヤン・ヨンヒ(『ディア・ピョンヤン』)

『かぞくのくに』 価格 ¥3,800+税 発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

 

いまだ近くで遠い国、北朝鮮。私たちが生まれる前に大々的に行われた“帰国事業”なんて、聞いたこともない人がほとんどかもしれません。‘59年から84年まで、在日朝鮮人やその家族が日本から北朝鮮へ移住して行ったそうです。映画を観ると、多くの人たちが本気で“地上の楽園”だと固く信じ、渡っていったことがよく分かります。あるいは本人の意思とは関係なく、家族、特に父親が祖国への忠誠を示すため、あるいは子の幸せを信じたゆえに、子供たちだけを移住させた人々が少なくなかったことに驚かされます。ただ、楽園や幸せを固く信じたベースにあるのは、当時の日本における差別や、差別によって生まれた貧困であったことは間違いありません。

本作は、ほんの30数年前まで続けられていたなんて信じられないような、だからこそ興味を掻き立てられずにはいられない、帰国事業の結果とも言える現代の「家族の物語」。

‘70年代に16歳で北朝鮮に渡り、いや渡らされた兄ソンホ(井浦新)が、病気治療のため3ヶ月という期限付きで、25年ぶりに日本を訪れることが許されます。サクラさんが演じるのは、両親と共に日本で自由に生きて来て、兄との再会を心待ちにする妹リエ。果たして帰って来た兄には、常に見知らぬ見張り役が貼りつき、そのためか常に表情は硬く、喜んだり打ち解けるどころか、家族との会話もぎこちない。後悔や謝罪の気持ちもあってか、腫れ物に触るかのように接する両親に対し、妹のリエだけが、その肩すかしに対して素直に不満を表明します。

幼いころに別れた兄の変化に納得できない怒りを、素直にぶつけるリエは、私たち観客の思いや違和感そのもの。彼女の仏頂面が、心の内に渦巻く怒りや疑念や不満を見事に体現し、私たちもブルブル震えるような怒りを沸々と感じずにはいられません。それに対してソンホの静かな諦念は、見ていて苦しいほど。何かを感じ、考える自由すらない状況があるのだと、打ちのめされるような気分にもなります。

そんな状況でも家族が精いっぱい互いを思い合う、愛を伝えようと懸命になる姿に、胸を突かれます。家族ドラマで胸を揺さぶりながら、社会や世界や歴史に目を見開させる、まぎれもない傑作です! ちなみに監督自身の実体験を基にしているのですから、驚きもひとしおです。想像を超えた異色の“家族のドラマ”に衝撃を受けながら、家族のありがたさ、そのかけがえのない温もりを、ひしひしと感じてみてはいかがでしょうか。

 

三十路目前の女子たちの“夢追う姿”に快哉!

「SR サイタマノラッパー2~女子ラッパー☆傷だらけのライム~」(‘10

監督:入江悠(『SR サイタマノラッパー』シリーズ))

■発売元:アミューズソフト   ■販売元:アミューズソフト   ■税込価格:3,990円   ■コピーライト(C)2010「SR2」CREW

地元の田舎町でラッパーになることを夢にみて、鼻息を荒くするもパッとしない不発の日々を過ごす若者2人の、甘酸っぱい青春を描いて大絶賛されたインディ映画の傑作『SR サイタマノラッパー』をご存じでしょうか。

『SR』はもちろん文句なしの面白さですが、このパート2も最高にイタ痒いところを突きまくる、妙におかしくて元気づけられる、女性必見の青春・ヒップホップ女子映画です。この、「ヘイヘイヘイ、ヨォ!」と聞こえてきそうなインパクトのあるジャケット写真からも、既に何事かが起こりそうな、怖いもの見たさを刺激されませんか!?

主人公は、実家の“こんにゃく屋”で働く20代後半の、おかっぱ頭のアユム(山田真歩/『島々清しゃ』にも出演)。ひょんなことからアユムが再び“ラップ魂”刺激され、高校時代に組んでいたラップグループの仲間に、再結成を呼び掛けます。ところがアユムの他のメンバーもみな、何も考えず将来に夢を見た10代と違い、みな人生にどん詰まっています。

サクラさん扮する実家の旅館が借金まみれのミッツーの他、ソープ嬢になっていたマミー、走り屋のクドー、父の市長選で忙しくしているビヨンセと、ワケアリな面々ばかりです。でもワケありだからこそ、共感必至。だってアラサーともなれば、どんな順調な人生を送っている人でも、先の人生をフと考えて、悩みの一つ二つは抱えているものですよね!?

仕事、お金、家族、結婚etc.……。

そんな彼女たちが、色んな思惑や事情を抱えつつ、アユムの呼びかけに応え、かつての自分たちの夢を叶えるため、復活ライブを目指して奮闘します。その姿が、イタくも他人事と思えず、噴き出しつつ、つい感情移入してしまうのです。もちろんサクラさん扮するミッツーが叩きつけるライム、ラップシーンはとっても迫力。何度も巻き戻して見たくなる、味ある上手さで妙に心の深くに届きます!

ところが、ところが……という展開に、思わず若かりし日頃に想ったり感じていたコトや自分と今のギャップを突き付けられて、イタタタタと胸がキリキリし、思わず涙がこみ上げるハズ。でも最後は絶対に、この映画に出会えて良かった~と快哉したくなる。

ラップで闘う女子たちの姿がカッコ良くて、いつしか自分も口ずさんでいて楽しい気分もチャージ。自分の人生をもっと愛したくなる、背中を押してくれる元気映画で、ぜひサクラさんの魅力を存分に味わってください。

 

 

 

 

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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