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日本唯一の金融教育ディレクター・橋本長明さんが伝授する「お金との上手な付き合い方」と「働くことの意義」

  • LEE編集部

2022.02.24

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橋本長明さん

今回のゲストは、金融教育ディレクターの橋本長明さんです。“金融教育”という言葉に馴染みがない人もいるかもしれませんが、新しい学習指導要領では2020年には小学校、21年は中学校、22年に高校から金融教育が盛り込まれる予定です。

金融教育とは「お金や金融にまつわる様々な働きを理解し、お金を通じて自分の暮らしや社会について考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、生きる力を育む」こと。それを伝える講演や講座、執筆活動をしている橋本さんは、日本銀行出身ながら非常に多彩な人生を経て、現在に至ります。前半では、橋本さんが金融教育に尽力するようになったきっかけ、個人で始めた金融教育講座から始まった金融教育ディレクターという仕事、家庭で今すぐできる金融教育のポイントを聞きます。(この記事は全2回の1回目です)

「日本のためだと思って働ける」と日銀に入行

橋本さんが日本銀行に入行したのは1998年。就職氷河期、金融危機の中、就職先として他にも候補がある中で日銀に決めたのは、いくつかの理由がありました。

「音楽が好きなので音楽業界も考えましたが、苦いエピソードがあって(笑)趣味にとどめておこうと思いました。某大手電気メーカーのOB訪問をした時に『うちみたいな大きな会社だと一生好きなことができる可能性は極めて少ないよ』と言われ、ハッとしました。好きでもない仕事を一生やるのか、不器用な性格なので自分が良いと思っていない商品を嘘をついて売るのも無理だ。日銀なら中立公正だし、どんなことも日本のためだと思って働ける気がする。あと社会の仕組みがより深く知れる。将来的に独立も考えていたので、信用力がつきそうだったことも選んだ理由の一つです」

橋本長明さん

橋本さんが長年担当する文化服装学院の特別講義にお邪魔しました!

入行して研修や支店などを経験して、情報サービス局へ。情報サービス局は広報の役割を務める部署で、その中に金融教育を担っている部門があり、初めて金融教育と出会います。当時の日銀総裁の福井俊彦さんが金融教育の重要性を理解し、金融教育の準備が始まった頃でした。教育という仕事への興味、またこれから新規事業として進めていく中で伸びしろを感じ、FP(ファイナンシャルプランナー)の資格を取得し志願。金融教育をより親しみやすくするため、金融広報中央委員会の愛称を考えブランディングするという業務もあり、橋本さんは若手として登用されます。

クリエイター向け金融教育講座を開講した理由

入社して、やっと自分がやりたいことに出会いました。2005年を金融教育元年と位置付けることが決まり、橋本さんも金融教育の仕事にハマり「これが自分の仕事だ!」と実感します。しかし金融教育への取り組みは子ども対象のものが多く、「大人は無視していいの?」という疑問が生まれます。

「個人向け、大人向けの金融教育を自分でやろうと思いました。日銀に了承をもらい、初めて行ったのが、代官山にあった親友の雑貨屋でのワークショップでした。主としてクリエイターやアーティスト向けの金融教育講座です。会社員は、給料をもらえて福利厚生があり天引きで色々やってもらえますが、クリエイターやアーティストは夢や目標はあるけれどお金のことを考えるのが苦手な人が多い。月1で開催していましたが、この時に“金融教育ディレクター”という肩書きを思いつきました」

橋本長明さん

それから2年後始まったのが、文化服装学院での特別講義です。雑貨屋の講義に参加した人の中に、文化服装学院の先生がいたのがきっかけでした。3時間にわたる特別講義だったため、雑貨屋で作ったプログラムに、ブランディングなどを盛り込んだ内容に再開発。初回は先生方にも講義を実施し、2008年から始まった講座は、今年で15年目に突入します。



毛嫌いせずきちんと知っていれば、お金は人生の相棒に

どこでも習ってこなかったお金の話。講座やワークショップに来れない人、子どもはもちろん大人にも「お金のことを知ってほしい」「お金を知ることが夢や目標を叶えるのに役立つ」「お金を理解して素敵な人生を送ってほしい」という思いから、橋本さん初の著書『すてきな相棒!おかね入門』(リトルモア)が出来上がりました。これまで行ってきた講座の内容をベースに、対象は子どもから大人まで、10代のうちから知ってほしいお金にまつわる基本知識をわかりやすく紹介しています。キャッシュレス、クラウドファンディング、エシカル、ikigaiなど、2022年の今こそ知っておきたい、お金の知識や人生のヒントも詰まっています。

橋本長明さん著書『おかね入門』

「私自身もお金について考えるのは苦手でした。でも大人になるにつれて、私たちの社会は良くも悪くも、経済社会なんだと気付きました。生まれる前から亡くなった後まで、何をするのにもお金がかかるんですよね。そして、夢や目標ができるともっとお金が必要になる。お金って毛嫌いするものではなく、きちんと知っておけば人生の頼もしい相棒になるんですよ」

「お金さえあればいい」「お金があればなんでもできる」「お金があれば幸せだ」と思っている人もいるかもしれません。でもお金そのものには価値はなく、ただの紙です。お金が価値を持ち始めるのは、お金がある社会(経済社会)に生きていて、お金を使う場所があるからです。

橋本長明さん授業風景

「お金そのものに価値はなく、道具なんですよね。無人島に持っていってもお金は役に立たないんですよ。お金には、価値を交換する・価値を測れる・価値を保存するという3つの機能があります。お金があることで交換がスムーズにできるし、物の価値を測るものさしになる、そしてお金は腐らないから便利。そういった基本を、子どもはもちろん、金融教育を受けていない大人にも知ってほしいんです」

キャッシュレス時代だからこそ「お小遣い帳」を活用

キャッシュレスがどんどん増えてきた時代。お金が見えないまま決済できてしまう今、子どもはお金に触れる機会がないまま成長します。そんな時代でも子どもにお金の価値を知ってもらうには、お小遣いで買い物してもらうことや、家でお手伝いをしてお小遣いを貯める方法だと言います。

橋本長明さん授業風景

「お金が見えないから使っている感覚がない。私たちが小さい頃は、小銭を持って駄菓子屋に行きましたよね。ぜひ同じように、お小遣いを持たせて買い物をさせてみてください。家でお手伝いすることでお小遣いがもらえるシステムもいいですね。定期的に自分が働いた分の対価が現金で支給してもらえる。そうすることでお金の価値が分かり、使い方を理解してもらえると思います」

金融教育として、家庭でぜひやってもらいたいのがお小遣い帳をつけること。大人も一緒にやることで、自分自身の教育にもなります。

横浜銀行おこづかいちょう

橋本さんが長年ブランディングに関わっている横浜銀行のお小遣い帳。橋本さん自身も愛用しています

「長年ブランディングに関わっている横浜銀行のお小遣い帳を自身で開発し、私は今も使い続けています。毎月何にいくら使ったか、固定費はどれぐらいなのか、使い過ぎの支出はないのか。一目瞭然となります。お小遣い帳をつける時に気をつけたいのが、買ったものがニーズ(必要なもの)かウォンツ(欲しいもの)か、そして消費・投資・浪費のどれに当たるのか。客観的に見ることで、お金が何に使われているのかが分かります。家計管理では、よく見える化・可視化とよく言いますが、それと同じですね。学生や大人が今わりと気をつけたいのはサブスク費。さまざまなものが固定費になっているので、合計すると結構な金額になっているケースもありますよ」

大人が「楽しそうに働く姿」を見せ、若者に希望を

併せて知って欲しいのが、お金を何に使うかということです。橋本さんが取材時に着ていたジャケットは、イタリア製で10年前に購入したもの。これまで5回修理し、大切に着続けていています。物を大事に使う、そういった道徳教育も重要です。また、お金を得る方法で一番確実な働くことの意味も、基本として知っておくべきだと橋本さんは言います。

「働くことが、実は“生きがい”ということを気づかない大人って多いんですよ。講座をしたり、本の感想でもいただくことがあります。ちなみに私は、自分の好きなことや楽しいこと、良いと思ったことしかしません。日銀を辞めてからは、自分の好きなこと、信じることだけをしようと思って金融教育ディレクターのほか、ブランディングディレクター、選曲家といった活動をしています。好きなこととは、人や社会が『楽しくなったり、何か良い方向に考えるきっかけ創り』などです。

橋本長明さん

最近の若い子は夢が持てないとか、世の中に期待していない雰囲気がずっと漂っています。それは、大人が楽しそうじゃないからなんですよね。ため息ばかりついて、家では疲れ果てています。大人が楽しそうに働いているところを見本として見せる。それによって若者たちが明るい未来を描き、日本社会を豊かにしてくれるような気がします」

(後半では、金融やお金のイメージとは少し異なる、橋本さんが過ごした多彩な青春期、人生を変えた3つの目標についてお話を伺います。どうぞお楽しみに!)

橋本長明さんの年表

1974年 東京で生まれ、幼少期は大田区、兵庫県宝塚市、目黒区などで育つ
6歳 東京学芸大学附属世田谷小学校入学
8歳 父親が買ってきたマイケル・ジャクソン『スリラー』で音楽にハマる
12歳 小6で父親がくも膜下出血で倒れる。東京学芸大学附属世田谷中学校入学
15歳 小粋な私立男子校に入学
18歳 ゆったりな大学入学
20歳 父親が亡くなる
21歳 減量・勉強・性格のチェンジ、3つの目標を達成する
23歳 日本銀行に入行
30歳 「金融教育元年」事業に注力
31歳 調査統計局でエコノミストに。個人で、金融教育講座を代官山の雑貨屋でスタート
33歳 日銀を退職。金融教育ディレクター/ブランディングディレクター/選曲家としての活動を本格スタート、文化服装学院で『人生のデザイン講座』、横浜銀行のブランディング開始
40歳 新宿伊勢丹のサービスの企画と写真展(本城直季氏)を同時開催。企画・キュレーター・ディレクションなどいろいろ担当
42歳 憧れだった渡辺俊美さんと共演。4時間DJをして、俊美さんに「ナイスDJ」と4回言われて夢心地
47歳 『すてきな相棒!おかね入門』(リトルモア)を出版

橋本長明さん『すてきな相棒!おかね入門』発売記念イベント①
親子でおこづかいちょうワークショップ「おかねを見える化するのだ!」

日時:3月26日(土)11時〜/14時〜
場所:柏の葉T-SITE 蔦屋書店

親子でおこづかいちょうワークショップ「おかねを見える化するのだ!」詳細はこちら

橋本長明さん『すてきな相棒!おかね入門』発売記念イベント②
子どもにどう伝える?「増やし方」「儲け方」より前に必要なおかね教育。

日時:4月22日(金)19時〜
場所:代官山蔦屋書店(オンライン視聴あり)

子どもにどう伝える?「増やし方」「儲け方」より前に必要なおかね教育。詳細はこちら

橋本長明さん授業風景

橋本長明さん授業風景

文化服装学院

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

おしゃれも暮らしも自分らしく!

LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
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