11月になりました。ジビエ料理が美味しい時期ですが、いま、お家で気軽に楽しめるのをご存知ですか?しかも、ジビエを多くの人が上手に食生活に取り入れていくと、社会の課題解決にもつながるんですって。
「でもジビエってクセがあるし、お店で楽しむもの」というイメージがありました。しかし、そんなイメージを変える鹿肉に出会ったのでご紹介します。岩手県の大槌ジビエ「MOMIJI」です。
鹿肉は低カロリーで栄養価も非常に高く、アスリートや健康思考の方、ダイエット食としても注目されています。さらにMOMIJIIの鹿肉はジビエとして美味しく食すためにハンティングされているので、数多のシェフたちからも大絶賛だとか! 柔らかくてなめらか、そして独特のクセも控えめなので、ジビエビギナー向け。子どもたちが大好きな洋食メニューにも使いやすいのです。
こうしてジビエが注目されてきている背景として、日本の農林業への害獣問題があります。地方での害獣被害は年々高まっていて森林被害は年間5,000ヘクタール、農作物被害は年間200億円もあるのだとか。野生鳥獣の中でも、イノシシと鹿の捕獲頭数がダントツ多いのですが、流通はほとんどされていないのが実情。ただ、害獣として狩猟して廃棄するのではなく「命を大切にいただく」ことを伝えるために起業された、MOMIJI株式会社の代表、兼澤幸男さんにオンラインでお話をうかがいました。
ハンターをしていくうちに「害獣」として駆除することに違和感を覚えた
__兼澤さんがハンターになられたきっかけを教えてください。
MOMIJI株式会社代表 兼澤幸男さん(以下、敬称略):父親の実家が農家を営んでいました。生まれてこのかた、お米を買ったことがなかったんですが、7年前に鹿による被害で米が大不作になって、農家でもスーパーでお米を買わざるを得なくなりました。その頃から田畑を荒らす鹿に恨みが出てきて、30歳の時に狩猟免許を取りました。
__いつ頃から、鹿が人里に出てくるようになったのですか?
兼澤:ここ6〜7年ぐらい前からです。子どものころは鹿なんて見たことがなかったですよ。震災前ぐらいから、年1回で見かけるようになり、5年前には誰が見ても「ヤバさ」がわかるぐらいの増え方で。鹿のメスは1歳から出産し、毎年1頭ずつ産みます。平均して10年は生きるので…、とにかくコンスタントに減らさないと、とにかく増え続けるのです。
__それが日本各地でひき起っている問題なのですね。最初は害獣駆除の目的でハンターをされていたというお話でしたが、ジビエを精肉販売として起業するに至ったきっかけは?
兼澤:大槌では古くからマタギ文化が残る場所で、「奪った命をありがたくいただく」という精神を大切にしています。最初はそのいただいた命を有り難くいただいていました。ご近所や知り合いにもお裾分けしていたのですが、食べきれず余るようになり、次第に解体しないで焼却炉へ持っていくようになりました。鹿のことがよくわかってくると「命を奪っておきながら、人間の都合で捨てる」という行為に罪悪感を覚えてしまい、狩猟ができなくなってしまって…1年間休みました。
__そうでしたか…。害獣といっても人間の都合ですからね。
兼澤:そうなのです。でも農作物の被害は増える一方なので、誰かがやらなきゃいけない。ただ殺して焼くだけなら、自分はやりたくないので「多くの人が美味しく、安全に食べられるジビエ」として活用することを考えました。そこからジビエ事業が持続可能なのかどうか、2年半かけて行政や専門家たちを交えて勉強会を重ね、いろいろなジビエ事業者を視察してまわりました。しかし、原発事故の影響で岩手県全域に「放射性物質による出荷制限」がかけられていたので、限定的に解除された2020年4月に起業しました。
柔らかくて臭みがない、家庭でもビギナーでも食べやすい鹿肉を目指して
__やっと事業としてスタート!と思った矢先に、今度はコロナ禍ですよね…。
兼澤:僕の事業計画にコロナは入ってなかったので(苦笑)、最初はレストランやホテルに卸す予定だったのですが、急遽、生産者と消費者をつなぐECサイトで個人向け販売にしました。
__急遽だったのですね! 個人のお客さまからの反響はいかがでした?
兼澤:すごく喜んでもらえてます。ジビエに慣れていない方でも「柔らかくて美味しい!」「こんなに食べやすいんですね!」と言ってもらえて。僕も最初は「一般家庭でどこまで気軽に使えるのかな…」と内心思っていたんですが、いまはネット上にメニューも豊富だし、レシピ動画を見てなんでもできてしまうので、ご家庭でもみなさんとっても上手に調理されています。
__ジビエのイメージってどうしても臭みがあったり、硬さがあったり…、少し苦手だったのですが、どうしてこんなにクセがなく柔らかいのですか?
兼澤:鹿も年齢を重ねると筋肉の塊が大きくなって舌触りが荒くなり、肉質も硬くなるので、メスは4歳、オスは3歳までの若い鹿だけを使用しています。あと、とにかくストレスなく狩猟するよう、急所を一撃で仕留めています。ガイドラインでは2時間以内に処理場に搬入することになっていますが、MOMIJIではすぐに血抜きをして、1時間以内に工場へ搬入し、鮮度の高いうちに加工しています。
__子どもたちも初めてでしたが、大喜びで食べていました。 ちなみにどの季節が一番美味しいですか?
兼澤:6月の青葉が芽吹く頃から食べているので夏と秋が肉質がいいですが、一番美味しいのはまさに今、10〜11月です。秋の繁殖のためにミズナラやコナラなど広葉樹のどんぐりをたっぷり食べて蓄えているので、脂が乗って美味しいですよ。
___お肉にも旬があって、地域ごとに味わいが変わるのもジビエの特徴ですね!
ハンター育成からツーリズム、レザーに雑貨に。ジビエを通じて町を元気に
__それにしても、ハンター自らジビエの精肉販売を行っている事業者さんって珍しいのでは?
兼澤:ハンターでレストランを開いている人はいますが、精肉販売している所はないですね。美味しさをを担保したくて、通常の規定より厳しくしているんですが、僕一人では体が持たなくて(苦笑)。同じ価値観を持った若手ハンターを育てないといけない、と思い「ジビエハンター育成プロジェクト」も行っています。
__精肉販売だけでなく、ハンター育成まで!
兼澤:大槌町だけでなく盛岡などの近隣地域からと、地域おこし協力隊制度を使って全国から移住してきた20代〜30代の若者たちが、これまで27人が受講し、今年は新たに10名の若手ハンターが狩猟者登録します。マタギ文化の精神的なところを継承しつつ、自分たちが食べるだけでなく「お客様にとって美味しいジビエを提供する」という考えのもと捕獲する仲間を増やしていきたいので。
__猟師の高齢化が進んでいるので、若い世代に興味を持ってもらう活動も必要なのですね。
兼澤:そうなのです。いきなりハンターになるのは想像できないと思うので、少しでも興味のある人はまずは見学したり、体験してもらえる「大槌ジビエツーリズム」を企画しています。ハンターの狩猟同行や解体見学、加工工場見学やバーベキューまでを体験できますよ。
__ジビエツーリズム、すごい!究極の食育とも言うべき、貴重な機会ですね。子どもと参加してみたいです。
兼澤:あと頂いた命を大切に、余すことなく活かしたいという思いで、捕獲した時の角や革もクラフト素材として使用しています。地元の作家さんに作品作りをお願いしたり、ワークショップも開催したり。大槌ジビエを通じて、さまざまな形で地域が活性化されるといいな、と思っています。
モモ、ロース、ヒレ、スペアリブ…それぞれの美味しい食べ方
__初めて家庭でジビエ料理を作るときは、何からトライすれば良いでしょう?
兼澤:柔らかくてほぼクセがないので、基本的には和洋中どれでも使ってもらえますが、まずはロースかモモを塩胡椒して、ローストか焼肉にするのがおいしいと思います。食べ慣れていない人でも、最初「なんのお肉?」と思うぐらいの感じで、最後に鼻から抜ける香りで鹿を感じてもらえれば。
__ローストに初挑戦しましたがおいしかったです!焼肉ってどうすれば?
兼澤:1センチの厚みにスライスして塩胡椒し、フライバンにオリーブオイルをひいて焼いていきます。肉の表面に肉汁が浮いてきたらひっくり返えしてOK。シンプルに焼肉で鹿の味を楽しんでもらえればと思います。あとはカツが美味しいですよ、ヒレかロースかモモ、どれも美味しいです。火を入れすぎると固くなるので、ミディアムレアがベストです。
__スペアリブは骨つきですがどうすれば?
兼澤:スペアリブは焼くと肉が硬くなるので、煮込みがいいですね。グツグツ煮込んでいくと、トロトロになるので骨もスルッと抜けますよ。トマト煮込みなどの洋風もいいですが、猟師の直伝の味は生姜と醤油と砂糖で煮込むのがおすすめ。あと、カタやスジなどは赤ワインでトロトロに煮込んで、デミグラスソースで仕上げると、お子さんたちは大喜びしますよ!
__これからの季節、煮込みは最高ですね!ぜひやってみたいです。最後に、兼澤さんがジビエを通じて伝えたいこととは?
兼澤:日常生活を送っていると、どうしても便利さを求めてしまいますよね。スーパーの中は便利が当たり前なんで、安くてなんでも手に入る今だからこそ、ジビエを通じて「自分は命をいただいて生かされていている」ことに気づいてもらえれば、と思います。
都会にいると自然が遠いのでそういった発想からかけ離れてしまうけれど、命のことを認識したら、余計な買い物をしないだろうし、賞味期限だからといって捨てないんじゃないかなって。親子で、ご家族でフードロスを考え直すきっかけにしてもらいたいです。こうした話を知った上でMOMIJIの鹿肉を食べて「大槌に行ってみたいな」と思ってもらえたら、もう最高です!
__私も子どもたちと大槌町に行ってみたくなりました。貴重なお話をありがとうございました!
「食べ物を無駄にしない」とは日頃から口では言っていますが、スーパーに行くとパックのお肉や切り身のお魚が商品として売っていて、正直、そこまで命を意識して食していませんでした。しかし今回、兼澤さんのお話を伺って、ジビエだけでなく、いつもいただいている食べ物すべてが、大事な一つの命であるということを痛感し、自分たちは自然に生かされていることを改めて考え直すきっかけになりました。フードロスや獣害などの問題も、こうした一人ひとりの解像度が高くなることで、少しずつ日本の課題も変わっていくと思います。今、脂の乗った一番美味しい季節なので、お好きな方はもちろん、鹿肉が初めての方も苦手意識のある方もぜひ、トライしてみてはいかがでしょうか?
大槌ジビエMOMIJIのHPはこちらこの連載コラムの新着記事
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。