体重1500g未満で産まれた命をつなぐ“寄付された母乳”
突然ですが、皆さんは「母乳バンク」「ドナーミルク」という言葉やその意味をご存知でしょうか?
恥ずかしながら、私は全く知らずにおりました。
「母乳バンク」とは、早産・極低出生体重児(体重1500g未満の赤ちゃん)が自分の母親から母乳を得られない場合に、寄付された母乳を低温殺菌処理した安全な「ドナーミルク」を提供する施設。
ドナーミルクは、早産・極低出生体重児を命にかかわる病気や感染症から守り、長期的予後の改善を図る“薬”のようなものです。
現在日本にある母乳バンクは、2020年9月、ピジョン株式会社の全面サポートにより開設された「日本橋 母乳バンク」のみ。
先日、その開設1周年記念オンラインイベントに参加する機会をいただきました。
私も3歳になる子どもをもつ身として、貴重な知識を得られたことに感謝しつつ、利用した赤ちゃんが元気に成長した姿には思わず涙しつつの参加でした。
このレポートで「母乳バンク」「ドナーミルク」の大切さが、少しでも多くの方に伝わればうれしく思います。
母乳バンクの役割と、ドナーミルクの必要性
早産の赤ちゃんにとって最も恐ろしいことの一つが、重篤な感染症にかかること。なかでも腸への血液の流れの障害、細菌感染、栄養の負担などにより腸が壊死してしまう「壊死性腸炎」は、25週未満で産まれた子の死亡率が30〜40%にものぼる病気です。
しかし母乳を与えられれば、人工乳に比べ罹患率を1/3に下げることができるそう。小さく産まれた赤ちゃんにとって、母乳はまさに“薬”といえます。
しかし、早産で乳腺の発達が止まった、母親自身に病気があるなどで、母乳が得られないケースも。ここで必要となるのが、母乳バンクから提供されるドナーミルクなのです。
さらに、成長してから視覚や聴覚、認知機能への障害が出ないためにも、点滴だけでない経腸栄養をより早く与えることが大切。他の経腸栄養を受け付けない、ドナーミルクだけが頼みという赤ちゃんもいるそうで、まさに命綱としての役割を果たしているんですね。
2021年度は、約500人の赤ちゃんにドナーミルクを提供見込み
「日本橋 母乳バンク」では、2020年度は200人を超える赤ちゃんにドナーミルクを提供。2021年度は8月末時点で180人、今年度末の予測は500人と、飛躍的に増える見込みです。
ドナーミルク提携病院も、2019年は全国で11施設だったのが、2021年には36施設まで増加。母乳を寄付したいという人のドナー登録も、2019年の24人から、2021年は161人と7倍に。母乳バンク、ドナーミルクの必要性が広まりつつあることが伺えます。
528gで産まれた赤ちゃん。大きな病気なく1歳5ヶ月に
イベントでは、実際にドナーミルクを使用した症例が紹介され、そのご家族も登場してくださいました。
妊娠19週で末期がんと診断され、23週で状態が悪化したお母さん。24週で帝王切開となり、528gの女の子の赤ちゃん・めいちゃんが誕生しました。
めいちゃんはNICUに入院し、お母さんは6日後に亡くなられたそうです。
主治医の水本先生は、母乳の提供が難しくなった生後5日に、ドナーミルクの使用を検討。父親の同意をもらい、母乳バンクの迅速な対応もあり、生後9日からドナーミルクを与えることができました。
そこから順調にドナーミルクの量を増やし、生後16日には点滴栄養を卒業。そのまま壊死性腸炎や重度感染症を引き起こすことなく、生後180日で退院。その後の発達も順調で、現在1歳5ヶ月の元気な女の子に成長しています。
めいちゃんのパパは当時、「母乳バンク」も「ドナーミルク」も、言葉を聞いたことすらなかったそう。最初は抵抗感があったものの、資料を読み悩んだ結果、“奥さんも子どもを大切にすることを一番とするだろう”と思い、使用を決断したそうです。
「僕自身、娘にドナーミルクを与えて本当に良かったと思っています。生まれた直後に恐ろしい病気にかからず、今こんなに元気なのもドナーミルクのおかげ。提案してくれた先生にも感謝していますし、善意で母乳を提供してくれた方にも、どなたか分かるならお会いしてお礼を伝えたいくらい。
なぜ当時抵抗感があったのか考えると、母乳バンク、ドナーミルクの存在を全く知らなかったことが大きいと思います。人間、未知のものに出合ったら身構えてしまいますよね。これからはぜひ、多くの方に母乳バンクやドナーミルクの大切さを知ってもらい、ベストな選択をしてほしいです」と語ってくれました。
母乳バンクへの認知は広がりつつも、根強い抵抗感やドナー確保が課題
ピジョン株式会社が2020年、2021年に実施したアンケートでは、プレママ・ママにおける母乳バンクへの認知度は年々上昇し65%を超えるものの、「仕組みをよく理解している」と答えた人はまだ10%ほど。
ドナーミルクの使用に抵抗がある人も減少傾向にはありますが、依然60%近くが「自分の母乳を与えたいから、医療上必要でも割り切れない」「知らない人の母乳はなんとなく嫌」「安全性が不安」などの理由でためらいを感じているそうです。
母乳の寄付をしてみたいと回答した人は、前年より増え約65%という結果に。一方、ドナー検診ができる病院は現在9都道県・17施設にとどまっており、検診施設の充実が課題となっています。
特に昨今のコロナ禍で、県をまたいでの移動や病院の受診がしづらく、ドナー確保に大きな影響が出ているのだそう。
なお、ドナーミルクは、使用はもちろんドナー登録もすべて無料。寄付する母乳の郵送費なども母乳バンクの負担です。
もしドナー登録に興味のある方は、日本母乳バンク協会のHPにある「ドナー登録」のページをご覧になってみてくださいね。
小さな命を救うために。母乳バンクへのさらなる理解を
イベントに参加しながら、頭の片隅にずっとあったのは「小さく産まれたのが、もし自分の子どもだったら…」ということ。
幸い、わが子は出産予定日近くに3000g超えの健康体で産まれましたが、日本では体重1500g未満で産まれる赤ちゃんは年間およそ7000人。このうちドナーミルクが必要な赤ちゃんが約3000〜5000人いるとされていると思うと、他人事ではありません。
もし自分が使用を検討する立場になったら。母乳バンクやドナーミルクについて何も知らないままその時が来たら、身体的にも精神的にもつらい産後、まして超早産をした直後に、ちゃんと検討できるのかと思うと…。またはパパ1人で考えなければいけないかもしれないし…。
先ほどめいちゃんパパもお話されていたように、本当に「母乳バンク、ドナーミルクを正しく知っていること」が大切なんだと思います。
「少子化の今、産まれてくる赤ちゃんの命を大切にするのは社会の使命」とは、日本母乳バンク協会の水野先生の言葉。
小さな命をひとつでも多く救うために、男女問わず「母乳バンク」「ドナーミルク」への理解がますます広まることを願ってやみません。
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福島綾香 Ayaka Fukushima
ライター
宮城県仙台市出身。夫、息子(2018年9月生まれ)と3人暮らし。これまでフリーペーパー、旅行情報誌などの編集を経験。趣味は食べること、旅行、読書、Jリーグ観戦。