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瀬々監督が描く不条理への違和感。佐藤健さん主演『護られなかった者たちへ』監督インタビュー

佐藤健×阿部寛をはじめ、オールスターキャスト集結!

遂にインタビューしてしまいました、瀬々敬久監督。瀬々監督というと『64-ロクヨン- 前編/後編』(16)、『友罪』(18)、『楽園』(19)など、男臭く硬派な社会派監督というイメージが強かったので、若干緊張気味で……。しかも新作映画『護られなかった者たちへ』が、これまたグイグイ胸に迫りくる作品で、自然と緊張は増すわけです。でも瀬々監督、噂通りシャイはシャイでも、意外に率直、かつ朗らかに応えて下さいました!

瀬々敬久
1960年、大分県出身。京都大学在学中から自主映画を撮り始める。89年、『課外授業 暴行』で監督デビュー。『ヘヴンズ ストーリー』(10)が第61回ベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞、NETPAC賞をW受賞。代表作に『アントキノイノチ』(11)、『64-ロクヨン- 前編/後編』(16)、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17)、『友罪』『菊とギロチン』(18)、『明日の食卓』(21)など。『とんび』(22)が公開待機中。

映画『護られなかった者たちへ』については、既に公開直前トークイベントなどのニュースがテレビやネットで大きく紹介されたので、既にご存知の方も多いと思いますが、主役級の役者が勢ぞろいしているのも大きな見どころです。

容疑者役に佐藤健さん、彼を追う刑事役に阿部寛さん、その相棒に林遣都さん。事件の被害者となるのは永山瑛太さん、緒形直人さん、そして吉岡秀隆さん。さらに清原果耶さん、倍賞美津子さんなど、すべての場面が錚々たる役者勢で占められているのです。

……そんなことからも分かるように、映画は瀬々監督お得意の<群像劇>という広がりを得て、私たち観客は、ほぼすべての登場人物に心を寄せてしまう瞬間があり、本当に複雑で胸が終始ガクガク揺れるのです。

『護られなかった者たちへ』ってこんな映画

©2021 映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
『護られなかった者たちへ』
10日1日(金)より全国ロードショー

東日本大震災から10年目の仙台。手足を縛られたまま餓死に至らされる、前代未聞の連続殺人事件が起きます。強い怨恨がうかがえますが、被害者の2人は恨みを買うどころか、完全なる善人と人格者でした。捜査はなかなか進展しませんが、遂に担当刑事の笘篠(阿部寛)は、2人がかつて同じ福祉保健事務所で働いていた、という接点を見つけます。さらに、当時そこで騒ぎを起こした利根(佐藤健)という男が出所したばかりであることも突き止めますが……。一方、10年前、身寄りのない利根は被災地の避難所で、けいさん(倍賞美津子)とカンちゃんという小学生の女の子と知り合い、疑似家族のような絆を育むことに。次第に明るさを取り戻す利根が、なぜ刑務所に入るようなことをしたのか、少しずつ事情が明らかになっていくと――。

──中山七里さんの同名小説の映画化で、監督はまずそのタイトルに惹かれたそうですが、どんな点にピンと来たのですか?

「東日本大震災だけではなく、戦争や事件など、僕は昔からずっと“生き残ってしまった人たち”に興味がありました。死んでいった人たちがいる一方で、“自分だけが生き残ってしまった”という呵責の念を持ち続ける人たちがいる。彼らには(死んでしまった人たちを)“護れなかった”という想いがある気がしていたんです。今回の物語においても刑事の笘篠、あるいは利根も生き残ってしまった者たちですよね。ずっと気になっていたテーマと、このタイトルがドンピシャにハマった、という感覚が最初からありました」

──犯人に殺された、または狙われた被害者3人の物語が、原作にくらべてずっと厚くなっています。観客の彼らに向ける視点が何度か変わるだろう面白さがありました。

「彼らは“殺されてしかるべき悪人だった”ということではなく、この映画においては、社会制度そのものに矛盾があるということにしたかったんです。彼らそれぞれを、社会制度の矛盾を抱えながら業務を行っている役所側の人々、ということにしたかった。そんな彼らが復讐される物語にした方が、テーマが深く立ち上がって来るだろう、と。殺される側にも彼らなりの理がある方が、説得力を持たせられると思いました。本作では、どうしてこんなことが私たちに突然起きてしまうんだ、という“天災”という不条理と、行政という“システムの不条理”、2つの不条理を扱っているわけです」

震災から10年の月日を問い質す

──被災地の避難所で3人(利根、けいさん、カンちゃん)が出会う、という設定に変えたのも、震災後の東北を真正面から撮りたい、という意識がそうさせたのですか。

「東日本大震災というものを描くなら、それを背景として中途半端にやるのは良くないな、と思いました。それなら3人が避難所で出会うことにしよう、と。その後の原子力発電所も含め、東日本大震災というのは、僕たちの人生の中で“最も”と言えるほど時代的に大変なことが起きたわけですよね。当時、多くの映画スタッフが被災地に向かい、僕もドキュメンタリーを手伝ったりしました。10年経って今はコロナに見舞われていますが、この10年という年月はどういうことだったのか。少し忘れかけている人たちも増えて来た風潮の今、きちんと問い質した方がいい、という思いもありました」

──3人が深い絆で結ばれていく姿に胸を打たれます。また倍賞美津子さんの包容力というかチャーミングさがすごくステキで。だから余計、その後の展開に胸を掻きむしられました。

「倍賞さんは、お芝居の作り方がやっぱり観ていて面白いんですよ。その場所にあるものを色々使おうとする――その場所で自ら工夫をし、場の動きの中で芝居を組み立てていくというか。空間における反応力は、やはりピカ一だと思いました。僕は森崎東監督の映画が大好きで、倍賞さんが常にヒロインを務めていたんです。完全にそのイメージで、僕は倍賞さんのファンなので、今回、現場で演じていらっしゃるのを見て、つい嬉しくなってしまいました(笑)」

群像劇を上手く成立させるコツは⁉

──利根を追う刑事2人、利根とけいさんとカンちゃんの3人、そして事件の被害者たち。群像劇を得意とする監督の手により、映画は群像劇な味わいも強まっています。やっぱり群像劇に仕立てたくなってしまうのですか(笑)?

「僕が森崎東さんの映画が好きだから、というのもあるのかもしれないな。語弊があるかもしれませんが、僕は、主役がデンとしているような映画はあまり好きじゃないんですよ。明確な主役がいる映画より、主役が何人もいる方が好きで。色んな人が、色んな問題や物語を抱えて、有象無象がゴチャ~っと生きていているような映画、寄せ鍋のような映画が好きだからなんでしょうね」

──でも当然、複数の人間のキャラを立て、いくつもの物語を絡めていくのは、バランスやらなにやら難易度が上がりますよね。上手く成立させるコツって何ですか?

「もちろん脚本もあると思いますが、役者さんそれぞれの個性を大切にしていく、ということじゃないかな。無理矢理、役に当てはめていかない。例えば今回の利根にしても、みなさん佐藤健を観るわけです。数年したら“利根”という名前を覚えていないし、“佐藤健がどうしたこうした映画”となりますよね。被害者の三雲にしても、みんな“なにされた瑛太”と残るわけです。つまり、どうしてもそこには俳優の個性が出てくる。それを大切にしていった方が面白い、と僕は思っているんです。所詮、役になり切るなんて出来ないし、役になり切ることの嘘くささを、どこか感じている(笑)。俳優さんの個性が、どこか役に引きずられていくものだと思っていて、それが面白いと思っている。そこを大切にしようと思いながら作っています」

瀬々流・演出方法を直撃!

──映画には常に“緊張感”が漂っていますが、どのような演出によってそれが保たれるのか、非常に興味があります。現場ではあまり演出をされない、とお聞きしました。実は監督の前作『明日の食卓』で、主演女優3人にお話を聞いた(映画パンフレットに収録)のですが、現場で演出を付けてくれない、だから不安だった、と(笑)。

「はい、しないですね(笑)。ハハハ(笑)。でも勿論、役者の動き、動線は決めています。動線を決めるということは、あとは役者が動いている間に自然と役の感情になって出来る、ということです。こういう表情をしてくださいとか、そんな細かいことは一切、言いません。こうやって動いてください、と伝えるだけです。映画って、動きで感情を表すものだから、動いている“画”が感情になるんです」

──何となくは分かります。……それで、出来てしまうものなんですね。

「最も単純な例を本作の中で挙げるとしたら、けいさんの家へ向かって利根が坂道を走っていき、左に曲がると家の前にカンちゃんが座って待っている、というシーンがあります。僕は“坂道を走って行ってくれ”と頼みます。すると左に曲がったところでカンちゃんが座っているのを見る。その動きだけで大変なことが起こっている、ということが分かるわけです。その後、近づいていって抱きしめてくれ、という動きは伝えます。彼らは、動きで感情を表す。基本、それだけです。動きで感情が表され、動きで画が作られていく」

──どれくらい溜めてから動いてくれ、というような細かな指示は出さない?

「そんな細かいこと、言わないですよ。それも動きが俳優を導くからです。例えば、終盤のある場面で、利根がトントンと家の扉を叩くけれど誰も出てこない。だから裏口に回る。台本には書かれていませんが、その家がそういう形態である以上、裏口に回るしかない。そこで裏口に回って、初めてお互いの顔が見える、そうなる態勢に動きや場を作っているわけです。互いの顔を見て、見つめて初めて感情が吐露できる。徐々に助走を作って、感情が自然に上向いていくような動きを作っていくわけです。そういう動きが感情を生み出してくれると思っているので、泣いてくれとか、表情や気持ちの説明はしないんです。もちろん、何も言わないわけじゃないですけどね(笑)!」

──資料にありましたが、利根を刑事・笘篠たちが追い掛ける、長い歩道橋を走り続けるシーンでは、“まだ熱い画が撮れていない”とかなりテイクを重ねたそうですね。

「色んな(監督の)タイプがいると思いますが、僕はそんな丁寧にカット割を出さないんです。“とりあえず撮ろうや”と撮り始める(笑)。詳しく指示を出さず、とりあえずカメラを回し始める。そうすると、役者たちもスタッフたちも段々とノッて来るんです。僕の場合は、いちいち細かく決めてやるより、とりあえずやっちゃった方がいい(笑)。CGやVFXなど以外は、絵コンテも描いたことはないです」

胸のザワザワが消えないヒューマン・ミステリー

──『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の際も、プロット段階から佐藤健さんと作り上げたと聞きました。今回も、そこから佐藤さんと話し合いを続けていったそうですが、そういう作り方は他の作品、他の俳優ともしているのですか?

「はい。俳優さんの意見を聞くということは、よくやります。『64-ロクヨン』のときは(佐藤)浩市さんと、結構やりました。僕は、俳優の直感を信じているので、全部ではないけれど、意見をよく取り入れながら作ります。彼らの直感は、いつも素晴らしいと思います。今回も、脚本の段階では、利根が「ただいま」というセリフだったものを、健君に現場で言われて、「おかえり」に変えました。脚本では利根目線でみていたセリフでしたが、現場で演じる健君が、利根として迎える感覚に変わったんでしょうね。役者の肉体を通して感じた直感を信じて取り入れるのも、すごく大切なことだと思います」

──監督は社会派映画をよく撮られますが、次はこんなテーマを扱うぞ、など社会の理不尽さや不条理に怒ったり、それを溜めていたりしていますか?

「いやぁ(笑)……。でも確かに、感じてはいますよね。語弊のない言い方をすると、僕が映画を始めようと思ったのは高校生の時でしたが、当時、石井聰亙さんや大森一樹さんらが出た時代だったんです。学生で自主映画を撮っていた人たちが、いきなり東映、松竹などで映画が撮れる、急に映画監督になれる時代がやって来た、と。そんな新しい時代が来た印象がありました。今までの世界観が壊され、若い人たちが新しいものを作っていく、生まれるという気風を感じて。それまでは政治(運動)や文学が若者のすることでしたが、あぁ映画か、と。僕の初期衝動としては、若い奴が古いものをぶっ壊していく感じが、なんかカッコいいと思ってやり始めたところがありました。そういう衝動は今もあるし、権威みたいなものに対するある種の反抗、反感というものは、やっぱりあると思いますね。そういう不条理さへの違和感がすごくあって始まったので、やっぱりそういうものに引っかかるものを感じてしまうのだと思います」

──映画オリジナルのラストシーンは、感情を揺さぶられるシーンであると同時に、監督のある思い、願いみたいなものが感じられました。

「あのシーンは、脚本では避難所だった小学校で出会うことにしていたのですが、急遽、海に変えたんです。先ほど話した“生き残った者たち”の話に重なりますが、彼らは常に整理しきれない気持ちを抱え、その澱のような何かを抱えながら生きていく。整理できるようにするまではいかなくとも、包み込んであげられれば。再生とまではいかなくても、明日に向かって生きていかなければならないから、と。そういう想いをね…(込めました)」

果たして連続“餓死”殺人事件の真相は――。本当に利根が罪を犯したのか、なんのために!?

刑事・笘篠が利根を追い、少しずつ利根の過去が浮かび上がっていくと、“生活保護”という現代の日本が抱える問題や闇が少しずつ浮かび上がって来ます。事件の裏に隠された、どうしようもない思いにやるせなくなりながら、それでも最後は少し救われたような、人と繋がる、思い合える微かな希望のような温もりを感じることになるのです。

う~ん、なんという見応え! 途中、あまりに幼稚な質問に監督が少し呆れていそうな気はしましたが、恐る恐るエイっとばかりに聞いてしまったことに、バカにせずに応えてくださった監督に感謝です!

是非、映画館の暗闇の中、誰かと繋がり合える、分かり合える感動に胸を熱く、心を揺さぶられてください。

映画『護られなかった者たちへ』

 

写真/山崎ユミ

映画ライター/映画評論家

Writer Profile

Chizuko Orita

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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