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LIFE

政治、子育て、オリンピック、銀座の寿司屋……武田砂鉄さんが”健やかに”怒る「男性優位社会」とは?【マチズモを削り取れ】

  • LEE編集部

2021.07.24

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武田砂鉄さん

今回のゲストはフリーランスライターの武田砂鉄さんです。雑誌やWEBなど毎月15媒体以上の連載を抱え、ラジオパーソナリティーとしても活躍。今月発売されたばかりの新刊『マチズモを削り取れ』(集英社)では、マチズモ=現在の日本社会で男性が優位でいられる構図の不均衡について取材や考察を重ねます。武田さんは一体なぜ、男性優位社会に違和感を覚えるようになったのでしょうか?

「私のウェルネスを探して」は、心身ともに健やかに過ごしQOL、自分自身の人生の質を上げることの大切さにいち早く気づき、様々な形で発信を始めた方々のインタビュー連載です。(この記事は全2回の1回目です)

あらゆる社会問題が結局マチズモの問題に行き着く

マチズモを削り取れ

「男にめっちゃ有利な社会」。武田さんは『マチズモを削り取れ』の冒頭で、現代日本社会をそう評します。男性優位社会を直視し、真正面から取り上げたのは今回が初めて。しかし、政治の場や公共空間などで立ち上がってくるありとあらゆる社会問題が、結局はジェンダーやマチズモの問題に行き着くことが多かった、とかねてから感じていたそう。

『マチズモを削り取れ』で武田さんの良き相棒として登場するのが、編集担当のKさんです。Kさんは20代の女性編集者で、世の中にはびこるマチズモに対して不満を抱えています。毎回、Kさんが「女性だけを狙ってぶつかる男」「新幹線のトイレの便座がいつも上がっている」「女子マネージャーはなぜ『甲子園に連れて行って』もらうなのか」等々、男性優位社会への怒りをしたためた檄文を武田さんに送付。それらの問題点を武田さんが考察したうえで、関係者に話を聞きに行ったり取材に出かけたりして更に深掘りする、という構成になっています。

武田砂鉄さん

武田さん行きつけの今野書店(http://www.konnoshoten.com/)で撮影させていただきました! こだわりの選書が魅力の、出版関係者にファンの多い書店さんです。ネット書店にはない「思わぬ1冊との運命の出会い」を果たせるかも?

「僕の好きなTVドラマ『あぶない刑事』みたいな感じですかね。1話完結で、常にトラブルが起きて、舘ひろし演じるタカと柴田恭兵演じるユージの刑事コンビがそれを解決するスタイル。Kさんは、タカやユージの良き理解者で上司の木の実ナナ演じる松村優子のイメージ。

お題が毎回与えられ、でも、『あぶない刑事』と違うのは、万事解決にはならず、引きずりつつ次の回に。Kさんの怒りを毎回受け止めながらやっていくスタイルにしたら、興味深く読んでもらえるんじゃないかと思って。最初に檄文を読んだとき、あまりにストレートな怒りで、このKさんの怒りを真っ正面から受け止めて考える作品にしようと心に決めました」(武田さん)

通勤電車の実情を知るべく激混み埼京線に乗車

武田砂鉄さんPOP

武田さんが今年5月に刊行した『偉い人ほどすぐ逃げる』(文藝春秋)のプロモーション用POP。ご本人の手描きイラストにほっこりさせられます。

「この方なら大丈夫と思って、自分の中で安心感が生まれてしまった瞬間、武田さんに思いの丈をバーッとぶつけてしまいました(笑)。文芸誌『すばる』(集英社)2018年5月号の特集『ぼくとフェミニズム』に掲載された武田さんの原稿を読み『もっと続きを読んでみたいな』と思い『マチズモを削り取れ』の執筆をお願いしました。

その特集原稿のタイトルは『いつもの構造を脱却する』。例えば、武田さんが聞き手を務めた新聞のインタビュー連載(全10回)で、武田さんとインタビュー相手の2ショット写真が、男性がお相手だと立ち位置も横並びで二人ともカメラ目線と対等な構図なのに、女性がお相手だと笑顔で向きあわされたり、武田さんは立ったまま女性だけが座る構図になっていた……という発見など、男女間の何気ない不均衡が具体的に指摘され、武田さんの観察眼が光るフェミニズム論考でした」(Kさん)

武田砂鉄さん

西荻窪のカフェ、松庵文庫(https://shouanbunko.com/)でお話しを聞かせていただきました! 古民家を改装した落ち着いた佇まいの店内で、おいしい食事やドリンクを味わえます。雑貨や書籍の販売も。

困っている女性が男性に頼る、若い人が年上の男性に教えを請う。そんな「いつもの構造」の真逆の試みとして、Kさんの提言のもと武田さんが調査するという構図が実践されたのが、『マチズモを削り取れ』。例えば「夜道を歩くことの怖さ」ついて、女性同士で話すことはあっても、女性(Kさん)と男性(武田さん)の間で議論されることは、今回のような場が設定されない限り、ほとんどありません。身体を張った取材記はときに笑いを誘いつつも、男性優位社会の持つ問題点を鋭く指摘します。

なぜ痴漢犯罪がなくならないのか、考えるために、平日朝の激混みの埼京線に3日連続で乗車してみたり(最終日に駅のホームでヘヴィメタル好きの外国人観光客に着ていたバンドTシャツを「Cooooool!!」と褒められる、というオチ付き)、Kさんとカップルのふりをして銀座の2人で3万5千円する高級寿司店に行き、店内で男性性を誇示し権威を行使するおじさん常連客を生態を観察したり(最後に女性のKさんが支払いをして店内の空気が凍り付く、というオチ付き)。とある大手商社の社員食堂に潜入し、昼食時の社食のコミュニケーションを観察したことも。

政治家に対して苛立つのも「健やか」

武田砂鉄さん

「社食で上司と昼飯食ってる人達が、上司の方をチラチラ見ながら、上司が食い終わるタイミングを伺ってるんです。あれから解放されたら結構楽になるんじゃないかな……なんて思いながら観察してました。今回の取材でお世話になった商社の方も言ってましたけど、こういう上司は大体ゴルフの話か家族の話しかしないんだと。上司の話よりも、何回も観たドラマの再放送を観てる方が絶対面白いですよ」(武田さん)

上司に付き合わされている人達も、もしかしたら毎日それの繰り返しで特に何の不満も抱いてないかもしれないけど、それはもしかしたら考えることを放棄しているのかも……。商社に限らず世の中のありとあらゆる場所で、疑念が沸いているけど「まあいいか」とスルーされていることに対して、「もしかして構造を変えたら、もっと楽になれるんじゃないか?」と気づくこと。それが精神的な「健やかさ」に繋がるのではないか、と武田さんは考察します。そもそも武田さんの思う「健やかさ」とは?

武田砂鉄さん

「『健やか』に過ごすためには、自分の中のわだかまりや不快感を取り除くことも大事だけど、相手が不快な思いやしんどい思いをしているかもしれない、と想像し気づきを持ってないといけないですよね。ちなみに僕が38年間生きてきて『健やか』だったことは一度もない気がします。でも何かに対して苛立つのも『健やか』の一種かも。政治家に対しておかしいと感じ『あいつ、辞めなきゃ』と思えることも、すごく『健やか』なこと。

逆に、仕事に忙殺されたりするなかで、そういった疑問をスルーしてしまう状況の方が不健康。僕は『色んなことに怒ってますよね』とよく言われるんですけど、目の前の事象に対して怒れる方がむしろ健全なんじゃないか、と思います。それに悪い人は、そのスルー力に期待していますしね」(武田さん)



躊躇する前に、まず声を上げてみて

武田砂鉄さん

『マチズモを削り取れ』で男性優位社会への疑問を呈した武田さんですが、とはいえ自身もかつては男性優位社会の恩恵にあずかっていたそう。出版社のお偉いさんに小料理屋に連れて行かれ「大しておいしくない」ごはんをおごってもらい、そのおじさん達を持ち上げて可愛がられて、それで仕事を得たことも。「男にめっちゃ有利な社会」に甘んじていた、その流れの中で上手いことやっていたことに対し、『マチズモを削り取れ』を書いたことにより、さらに自覚的になったといいます。

「こういう本を出すと『そういうお前はどうなんだよ?』『じゃあアンタは女性差別したことないの?』『これからも絶対しないの?』という目線もあると思う。当然ですが、自分の中でもまだ削り取れていない部分もあります。森喜朗的な成分が残ってないか常に自分を監視していかなければいけない。何が正しい正しくないと白黒はっきりつけることだけではなく、その都度、これでいいのかと考えながら、人の意見を聞く、これを心がけるようにはしています」(武田さん)

武田砂鉄さん

人格査定のパトロールを受けてしまうと「本当に何も言えなくなっちゃう」。自分の意見を言えなくなる人が増えてしまうと、意見を発する言葉のボリュームが少なくなっていきます。そうなって得をするのは結局、今の整った社会で気持ちよく呼吸する人々。声は多ければ多いほど良いし、「自分は声を上げていいんだろうか?」と躊躇する前にまず声を上げてみて、考えてみて、もし何か指摘を受けたらそれを受け止めつつ、また声を上げて……と繰り返していくしかありません。

インタビュー後編では、武田さんがいつ頃から、そして一体なぜ、男性優位社会に違和感を覚えるようになったのか、じっくり話を聞かせていただきます。お楽しみに!)

武田砂鉄さんの年表

0歳 東京都東大和市で生まれる
13歳 都内の中高一貫共学校に進学
18歳 大学進学。この頃から音楽ライターとして執筆活動を開始
22歳 出版社入社、最初の2年は書店営業を経験
24歳 文芸誌の編集部に異動
27歳 書籍の編集部に異動。小説、ノンフィクション、ジャーナリズム、サブカルチャーなど、様々なジャンルの書籍を編集する
31歳
(2014)
フリーライターとして独立
32歳
(2015)
初の著書『紋切型社会』上梓
36歳
(2019)
TBSラジオ『ACTION』金曜パーソナリティーに
38歳
(2020)
TBSラジオ『アシタノカレッジ』金曜パーソナリティーに
38歳
(2021)
『マチズモを削り取れ』出版

 

武田砂鉄さん

撮影/高村瑞穂 取材・文/露木桃子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
そんな存在でありたいと思っています。
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