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岡田 育さん「『おばさん』は国や属性を超えて私たちを結びつけてくれます」

2021.06.29

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カルチャーナビ : 今月の人・今月の情報

「おばさん」は国や属性を超えて私たちを結びつけてくれます
────岡田 育さん

岡田 育さん

古今東西の小説や映像作品に登場する中年女性を解説しながら、「私たちが目指したいおばさん像」をあぶり出すエッセイを書いた、文筆家の岡田さん。おばさんをテーマに執筆を進めたのには、こんな理由があったとか。

「もともと私は、若い頃からダンディなおじさまに憧れていて。例えば映画『007』のジェームズ・ボンドや、『男はつらいよ』の寅さんなど。ユーモアや気さくさ、愛らしさと、何よりも自由を持った大人たちですよね。でも年齢を重ねるうちに、女性の私が彼らのように生きるのがとても難しいことに気づいた。国民的美少女と呼ばれたアイドルさえ、30過ぎたら『劣化した』と笑われる。仕事に打ち込んでいると『お局様』と怖がられる。モテモテの恋多き女は『いい年してみっともない』と叱られる。自由が欲しいだけなのに、義務を完璧にこなさないと誰にも認めてもらえない。かっこいいおじさんになる道はなだらかそうなのに、かっこいいおばさんになるにはピンヒールで崖を駆け上らねばならぬほどの険しさがあるなと。そこで今の等身大の私にとって無理のない、イケてるおばさん像を探そうと思いました」

書いていくうちに、おばさんへの新たな思いも深まったそう。

「『我々は若者ではなく、おばさんである』という感覚は、国籍や属性を超え、中年女性を結びつけるものだと思いました。私は20代の頃、女友達の結婚式へ出席するたびに『あ~、彼女と私はもう違う国の住人になってしまった』と、寂しくなっていたんです。未婚女性と既婚女性、子どもを産んだ女性と産まない女性は、それぞれが交わらない人生を送るのだと思い込んでいました。ところが“おばさん”と言われる年齢に差し掛かったときに、みんな同じ時代の中で、いろんな出来事にぶつかりながら一生懸命生きる者同士だと気づいて。制約の多い今の世の中で、越えていきたい壁があれば、時には一緒に声を上げて乗り越える。属性による分断や孤立ではなくて共感や連帯が、これからのおばさんたちの生き方なのかなと。実際に私も、一度は袂を分かったはずの(笑)、既婚子持ちの友人と、いまだに好きな漫画やバンドの話で盛り上がり続けていますから」

岡田さん自身は、子どもを持たない既婚者。会社勤めののちに文筆家となり、その後NYの大学へ。グラフィックデザインを学び、デザイナーとしての顔も持つ。

「留学前、30代前半だった私には、英語をゼロから学ぶ時間も、仕事を得るための人間関係を作る自信もなく、とにかく何かスキルが欲しいとデザインを学ぶことにしたんです。それでも出発前は『若者の中におばちゃんが混じって……自ら決めたとはいえ、なぜこんな獣道を選んでいるのだろう』と憂うつでした。渡航と留学費で貯金もゼロになりましたし(笑)。ところが入学前の面接で『あなたみたいな社会人学生、珍しくないわよ』と言われて拍子抜け。さらに入学式では、60歳近い学部長がミニスカートをなびかせながら『ヘイ、ガールズ♪』と登場して。日本での私の悩みってなんだったんだと思いましたね(笑)。やりたいことに踏み出せない状況にいる人でも、跳び込めばそこには必ず、獣道を踏み固めたおばさんがいて、力強い助けとなってくれます。そして私自身も経験から得た知恵を、まるでアメを配るように、次世代に惜しみなく渡せるおばさんでありたいと思いますね」

Profile

おかだ・いく●1980年生まれ、東京都出身。文筆家。出版社勤務を経て、エッセイやコラムの執筆活動を始める。2015年からNY在住。著書に『ハジの多い人生』(新書館)、『40歳までにコレをやめる』(サンマーク出版)など。最新情報はTwitter@okadaic

『我は、おばさん』

日本の古典文学から『82年生まれ、キム・ジヨン』のような話題の小説、さらに映画やコミックまで、ありとあらゆるエンタメ作品に登場する「おばさん」像を読み解き、岡田さんなりに再構築したエッセイ。女性の生き方本として読むのもいいし、カルチャーガイド本として触れても満足度の高い一冊。(¥1760 集英社)


撮影/Hal Kuzuya 取材・文/石井絵里

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