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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

オスカー2大女優演じる母娘が尊厳死を巡り対決!『ブラックバード』制作秘話を監督に迫る

豪奢な海辺の家での“家族だけの秘密”

『ノッティングヒルの恋人』『恋とニュースのつくり方』など、小粋なラブ・コメディが得意というイメージを何となく持っていたので、尊厳死・安楽死をテーマにした家族ドラマ『ブラックバード 家族が家族であるうちに』ロジャー・ミッシェル監督作と知り、少しだけ驚きました。

でも、そんなセンシティブなテーマに真っ向から挑み、「命」を扱いながらもクスッと笑える大人のジョークや皮肉を大いに盛り込み、その上で家族の葛藤や揺れをリアルに捉えている、物語にもその作りにも感動しました。とにかく演技派が揃った配役が豪華! 彼らの演技によって、清々しい後味の温かさが心に染みてくる、そんな素晴らしい一作に仕上がっています。

LEE世代はきっとみな他人事と思えない作品を監督したロジャー・ミッシェル監督に、zoomでインタビューをしました! 朗らかで器の大きそうな監督に、色々と興味深いお話を伺うことができましたよ!!

ロジャー・ミッシェル監督
1956年6月5日、南アフリカ・プレトリア生まれ。イギリス外交官の息子として生まれ、幼少期を各国で過ごす。学生時代に演劇の演出を始め、進学したケンブリッジ大学時代に演劇賞をいくつも受賞。その後、イギリス国内の様々な劇場やブロードウェイで演出を務める。主な映画監督作品に『ノッティングヒルの恋人』(99)、『チェンジング・レーン』(02)、『パッション』(03)、『恋とニュースのつくり方』(10)、『ウィークエンドはパリで』(13)など。

豪華なキャストとは……自らの意志で安楽死を選ぶ母リリーにスーザン・サランドン。その選択に納得できない長女にケイト・ウィンスレット。アカデミー賞受賞2大女優が、私たちの心を揺さぶりにきます! さらに、繊細すぎるゆえ問題児でもある次女を演じたのは、『アリス・イン・ワンダーランド』や『キッズ・オールライト』などのミア・ワシコウスカ。日本にもファンが多い、とっても魅力的な個性派女優さんです。夫(父親)に『ジュラシック・パーク』シリーズのサム・ニールの他、“あ、この人、知ってる!”な俳優さんたちがいい味を放っています。

『ブラックバード』ってこんな映画

ある週末、両親が暮らす海を一望できる豪奢な家に、長女ジェニファーと夫と15歳の息子ジョナサン、次女アンナと恋人クリス、そして母リリーの親友リズが集まります。

みなどこか少し緊張しているのは、安楽死を決意したリリーを看取るために集まったから。医師である夫ポールの見立てで、自分の体の自由が効くギリギリの日を選んだリリーは、既に固く決意をしています。けれど長女ジェニファーも次女アンナも、いまだ納得が出来ていない様子です。陽気にふるまいながら、非常に慎重に言葉を交わしていた彼らでしたが、あることがきっかけで緊張の糸がプツリと切れるや、本音や疑問を次々と口にし、それに応戦する形でいろんな秘密が明かされていくのですが――。

© 2019 BLACK BIRD PRODUCTIONS, INC ALL RIGHTS RESERVED
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』
6月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー!

──ビレ・アウグスト監督のデンマーク映画『サイレント・ハート』(14)のアメリカ版リメイク作品でもありますが、オリジナル版はご覧になられていましたか?

「いや、未だに観ていないけれど、すごく良い映画だと聞いていますよ。ただ僕が自分の映画を作る前に観てしまったら、ビレのビジョンが入り込んでしまうに違いない。それを避けるためにも、観ないことにしました。ただ多分、本作の方がジョークが多いんじゃないかな。ほぼオリジナルを英語に翻訳した、最初に受け取った脚本と比較するとね」

──その脚本を読まれて即答で監督を引き受けられたそうですね。何に惹かれたのでしょう。やはり“安楽死”や“尊厳死”というテーマを、いつか描いてみたいという気持ちがあったからでしょうか?

「いや、そのテーマに対しては、いまだ“慎重に興味を持ち、考慮している”というスタンスを僕は崩していません。本作における安楽死についての方向性は、僕が関わる以前に既に決着していましたし。僕はテーマではなく、ある家族が数日間一つの家に閉じ込められ、抜け出せない、という設定に惹かれたんです。本作では、リリーの提案により“この週末をクリスマスにしよう”と、クリスマスの晩餐を過ごすわけですが、欧米では家族が集まって過ごすクリスマスの晩は、必ずすったもんだが起こるものなんだよね(笑)。本作は、それが“スーパークリスマス”になった状態です」

K・ウィンスレットは恐れ知らずの名女優!

──ケイト・ウィンスレットが演じた長女ジェニファーが、あまりに四角四面な感じで嫌味を言うし、自己主張ばかり強いし……とってもイライラしました(笑)。相変わらずの名演技でしたが、どの程度イヤな感じにするかなど、話し合われましたか。

「本当にウィンスレットは、演技やそのアプローチに虚栄心が全くないんだよ。今回のジェニファーという役は、人好きのしない、決して魅力的とは言えないキャラクター。それを全く恐れず、虚栄心のかけらもなく、見事に演じきってくれました。僕も何度か彼女の背中を押しましたが、彼女には敬意を表したい。多分、ジェニファーには贖罪の意識もあったと思います。人生について改めて考え直している瞬間でもあっただろうし。でも、間違いなく皆が嫌う役だからこそ、僕はこのキャラクターがすごく好きなんです」

姉(ケイト・ウィンスレット)に抱きしめられる妹(ミア・ワシコウスカ)。2人とも母の安楽死計画を受け入れられず、葛藤中。

──ド~ンと“私が正しい”的に構えているジェニファーに対し、妹アンナは華奢で神経質そうで、非常に対照的な姉妹でした。

姉妹の全く違うキャラクターや関係性を通して、この家族の物語を語り得たと思っています。家族の物語は、すなわち姉妹の物語であり、2人が邂逅し、仲直りをしていく物語である、と僕は考えています。僕が気を付けたのは、母親リリーを絶対に“聖人”として描かないこと。センチメンタルに、何でもできる素晴らしい母親像にはしたくなかった。母として家族をコントロールしようとしていたとも思うし、逆に不在がちで娘に寂しい思いをさせたとも思います。そんな風に欠陥や短所がある母親であり、その母の欠陥が、全く性格の違う娘たちそれぞれに大きな影響を及ぼしている、と。欠陥が大いにあるような人間臭い存在であればあるほど、興味深い物語になると僕には思えたんです」

なるほど、それまでのリリーの生き方は実に自由で潔く、憧れずにはいられません。でも一方で、そんな母が娘たちに言い続けた「自由に強く生きて」という一言が、逆に娘を押し潰すこともあるんだ、ということにハッと目を醒まさせられました。

食事シーンのマジックとは⁉

姉妹の諍いが行われている裏で、15歳のジョナサンと祖父母(ポール&リリー)のエピソードが、非常にいいスパイスを付け加えています。当然ながら15歳の彼が初めて直面する「死」は、とても大きな問題。しかも、尊厳死を選んだ祖母を“看取る”ということは――語弊を恐れずに言えば、それが違法とされる国や地域においては、“加担する”とも言えてしまうわけです。

ジョナサンが祖父に「お祖父ちゃんは捕まっちゃうの!?」と尋ねるくだりや、祖母と正直に語り合うことで祖母の意志を尊重したい気持ちを固めていくくだりなど、観客目線を上手く入れ込みつつ、聞きにくい/語りにくい部分を、何色にも染まっていない彼に実は任せたようにも感じました。ジョナサンを演じたアンソン・ブーン君の、初々しく青く、真っ直ぐさが眩しいこと!! 今後の活躍に期待したい新星です。

右端の男の子が、ジョナサン役のアンソン・ブーン君。彼のラップシーンは思わず涙ポロポロになる必見シーンです! 父ポールがシャッターを切っているので、ここでは7人。

──中盤、クリスマスの晩餐で、ジョナサンのラップ披露にはじまる一連のシーンが、とても感動的でした。以後、非常にエモーショナルなシーンが連続します。長回し部分も含め、かなり長いシーンでしたよね!?

「確かに、台本12頁分でした! 実はスタッフにとっても演者にとっても、食べるシーンは悪夢なんです。熱い食事ならテイクごとにお皿を変えなければならず、前後で量を合わせたり。それには、大きなキッチンを常備しなければならない。だから僕は今回、“食べる”行為が含まれるシーンは、まとめて撮ってしまうことにしました。色んな準備が一度で済むように。あの食卓シーンをよ~く見ると、実際に“食べる”のは、ほんの一瞬なんですよ(笑)。いわゆるマジックを使ったんだ」

「とはいえ12頁に及ぶので一晩では撮り切れず、3日間に及びました。それが今回、最もチャレンジングでした。その場における自然発生的なエネルギーを、3日間もキープしなければならなかったから。2台のカメラで押さえていきましたが、窓が多い家なので暗くなると反射するし、撮らなければならない要素も多く、本当に苦労しましたよ」

──その他にも、8人が揃うシーンが色々あります。それぞれの感情が、一人一人違う方向に向かったりするので、それぞれの感情表現や動きを見極めるのは、相当、大変だったと思います。ベテラン実力派揃いとはいえ、一度では確認し切れませんよね!?

「その通り!! 今回、8人が1つのフレームに収まっている画が多かったのは、本作がアンサンブル映画だとハッキリ示したかったからなんです。その中で、それぞれのキャラクターが、それぞれの視点を持っていることを表現したかった。言ってみれば、アガサ・クリスティのミステリーのように。誰がどんな動機で、誰が死ぬのかを見せることに近いというか。そのために、全員の視点や感情が分かるようなカメラの動き、俳優の動きを使ってどうステージングするかなど、その効果を考えながらの画づくりを目指しました」

互いを理解し合い、尊重し合い、ブラックジョークを飛ばし合う、そんな夫婦の像に憧れてしまいます。気丈に振る舞う夫(父)が感情を一瞬、露にするシーンも涙、涙!

──これから実行されるであろう母の死を巡ってのドタバタにクスクス笑ったり、夫婦や姉妹や友人との絆にジーンとしたり。そしてゆっくり最後の章に突入していきます。

「実はもう一つ、自分に課した挑戦がありました。それは、最後の数シーンになるまで、あまりカメラを動かさず、できるだけ定点で撮るということでした。作品によって作り方も自分に課すルールも違いますが、今回はとてもエモーショナルな物語だからこそ、それを捉える僕らは、すごく落ち着いていなければ、と思って。カメラの前で物語がキャラクターと共に展開していくのを撮る、いわば主観的なカメラとは真逆です。そのルールを途中で壊したのが、例の長い夕食のシーン。あそこは手持ちカメラです。それ以外、ほぼ動かないカメラで撮り続け、最後の数シーンになってようやく、キャラクターと共にカメラもエモーショナルに動かしていきました

果たして母の尊厳死/安楽死に反対していた2人の娘は、どうなるのでしょう。「私だったら」「私の親だったら」と、親の立場としても、娘の立場としても、共感で胸が揺れずにいられません!!

これまでも『愛 アムール』や『母の身終い』、『君がくれたグッドライフ』など、尊厳死をテーマに描いた佳作は多々あり、個人的には一貫して尊厳死は認められるべきだ、と思い続けて来ました。でも、本作でそれに反対する娘2人の姿を見て、“自分も当事者になったら、やっぱり止めて!!”と言ってしまうかもしれない……と、非常に複雑な思いで胸を掻きむしることになりました。最後に、タイトルについて直撃!

──なぜ『ブラックバード』というタイトルになったのでしょう。込めた思いなどを教えてください。

「実は脚本を改稿していく中で、途中、ポール・マッカートニーの「ブラックバード」を使う予定でした。例のクリスマスディナーのシーンで、みなが歌う、と。でも撮っていくうちに、ちょっとセンチメンタル過ぎるかも、と使用する歌を変更したんです。それならタイトルも変えようと、スタッフ・キャストに公募したんです。採用者はシャンパン一箱だよ、とね(笑)。いくつか良い案も出ましたが、結局『ブラックバード』よりいいとは思えなくて……。というか、僕の中ですごくクリアにやっぱりコレだ、と思ったんだよ。ラストシーンでブラックバード(タロウタドリ)も実際に映るので、そのシーンに込めた思いを感じてもらえたら嬉しいです」

映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』

  • 監督:ロジャー・ミッシェル
  • 出演:スーザン・サランドン、ケイト・ウィンスレット、ミア・ワシコウスカ、サム・ニール、レイン・ウィルソン、ベックス・テイラー=クラウス、リンゼイ・ダンカン、アンソン・ブーン
  • 2019年製作/アメリカ、イギリス/97分
  • 配給:プレシディオ、彩プロ
  • 公式サイト:映画『ブラックバード 家族が家族であるうちに』

6月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー!

映画ライター/映画評論家

Writer Profile

Chizuko Orita

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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