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綿矢りささんインタビュー「映画を観終えて、思わず“鮮やか!”と心で叫びました」

2020.12.17

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高校生作家、最年少で芥川賞受賞という世間のお祭り騒ぎをよそに、着実に一作一作読み手をうならせる著作を書き続けてきた綿矢りささん。その年代ごとの研ぎ澄まされた感性で、その年代ならではの女性の屈折や心の声をユーモラスに描き出す手腕は、単なる共感以上に“刺さる”と読者を熱狂させてきた。大ヒット映画『勝手にふるえてろ』に続き、綿矢さんの同名小説が同じ大九明子監督によって映画化された『私をくいとめて』は、またも“これが観たかった!”と興奮必至の快作だ。

綿矢りささん
「映画を観終えて、思わず"鮮やか!"と心で叫びました」

「映画のみつ子は、小説にはない人物設計が細密にされていて、そこに大九監督の人生経験や観察眼が加えられ、うまく映画にしてもらえた感覚です。飛行機の恐怖を乗り越える場面も、ふわふわした映像と音楽で表現され、思わず“鮮やか!”と心で叫びました」

おひとり様ライフをエンジョイしながら、何かが足りないと感じるみつ子の、20代ではない30を超えたアラサー設定が絶妙だ。

「小説を書いていた当時の世間では、今ほどナチュラルに30歳を迎えられる風潮ではなく、“30過ぎたのにこういうことしていていいの?”と考えさせられる、ちょっとした焦りを書きたかった。おひとり様自体も今より珍しくて。あの頃は私もひとり暮らしで、仕事はもちろん趣味もひとりで、ちょっと寂しくて脳内でAみたいな人とよく会話していた、その話も書きたくて」

ちょっと待って! まさかAは実在の人物ならぬ実在の人格!?

「はい(笑)。私のは、声は男性ですがしゃべり方はお姉さま言葉なので、少しキャラが違いますが。今でも慌てすぎたり余裕がないときには、話して落ち着いたり、相談してアドバイスをもらっています。向こうのほうが私より気が強いので、つい言うことを聞いてしまい、失敗しちゃうともめたり……」

みつ子は、いらないことをゴチャゴチャ考え、好きなのになかなか恋に踏み出せない。そんな挙動不審ぶりが、実に可愛い!

「のんさん演じるみつ子は、笑顔のときも泣いているときも、ものすごいエナジーにあふれ、目が離せない魅力に満ちていました。みつ子が温泉で“ちょっと嫌だな”と思う場面に遭遇し、過去に負った傷を思い出して怒りが噴き出すシーンがありますが、小説にはないオリジナルセリフだったので、のんさんの真に迫った演技に圧倒されました」

一方、林遣都さん演じる多田くんの魅力もキュン度を増幅させる。

「おひとり様歴が長いみつ子でも好きになっちゃうな、と納得の、最高に優しそうな多田くんでした(笑)。小説とはイメージが違いますが、だからむしろ楽しめると知りました」

それまでの綿矢作品群と比べると、こじらせ具合は健在だが、毒要素は薄い。それはご自身の結婚とも関係があるのだろうか。

「みつ子はAのお陰で満ち足りているので毒がないのもありますが、確かに本作あたりから“勢いのある不満”をあまり書かなくなりました。ただ結婚して変わったというより、自分が変わったから結婚したんだろうな、と。小説を書く中で自分を見つめる時間や機会が増え、だんだんと怒る前にちょっと考えたほうがいいのでは?と思うようにもなって。年齢を重ねて疲れるようになったことが、むしろありがたいです。疲れていったん休憩したときに落ち着けるので、考えが暴走することも前よりは減りました(笑)」

わたや・りさ●1984年2月1日、京都府生まれ。高校在学中の2001年に『インストール』で文藝賞を受賞しデビュー。’04年に『蹴りたい背中』で芥川賞を受賞。’12年に『かわいそうだね?』で大江健三郎賞を受賞。近著に『手のひらの京』『意識のリボン』『生のみ生のままで』ほか。

『私をくいとめて』

ⓒ2020『私をくいとめて』製作委員会

気楽で快適なおひとり様ライフを満喫する31歳のみつ子(のん)は、困ったときは脳内にいる「A」に相談して解決する。ところが会社に営業で来る、近所に住む多田くん(林遣都)に、ひょんなことから定期的に手料理をお裾分けするようになって以来、その奇妙な関係が気になりだし……。共演に橋本愛、臼田あさ美ほか。12月18日より全国ロードショー。


撮影/フルフォード 海 ヘア&メイク/尾原小織 取材・文/折田千鶴子

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