2020年、東京都内に二つの公園が誕生しました。都立砧公園のみんなのひろば(世田谷区)、としまキッズパーク(豊島区)。この二つの公園には共通点があります。それは、障がいのある子もない子も、大人も子どもも、みんなが肩を並べて遊べる「インクルーシブ」な公園であること。都への働きかけを行い、実現に導いた都議の龍円(りゅうえん)愛梨さんに、インクルーシブ公園とは一体どのようなものなのか、お話を伺いました。
公園で遊べない子どもたちが一割もいるんです
一見、どんな人たちもウェルカムであるように感じる、街の公園。しかし、子ども全体の一割以上が、思うように遊べていないのだといいます。障がいなどがあることで公園を利用できず、友達や家族と一緒に遊べない。そんな子どもたちを一人でも多く減らしていきたい。そんな強い想いから生まれたのが、インクルーシブ公園です。
「私はカリフォルニア州でダウン症がある息子を出産しました。サン・クレメンテ市というところに住んでいたのですが、家の近所にはインクルーシブ・プレイグラウンドと呼ばれる公園がありました。そこには大型遊具にスロープが付いていて、車椅子や歩行器でも登れるようになっていました。地面がゴムチップになっていて、わたしの息子のように歩けない子でもお尻でずりずり移動できましたし、万が一転倒しても、怪我をしにくいようになっているんです」(東京都議・龍円愛梨さん)
どんな子でも遊べる、工夫と配慮たっぷりの公園
「また、すべての遊具が車椅子でもアクセスしやすい工夫がされていました。例えば砂場や水遊びは腰の高さでもできるようになっていたり、壁に音のなる遊具があって、それも高いところ、低いところと高低差がついていて、車椅子でない子や、大人子どもが一緒に遊べるんです。公園の説明表記は、知的発達に遅れがある子でもわかりやすいシンプルな絵で表現されていました。力のないお子さんが指一本で音が出せるような遊具もありました。太陽の光が苦手なお子さんのために、日陰も用意されていました。スペシャルニーズがない子たちが挑戦して身体を動かせるような場所も用意されていました。本当にいろんな子達が一緒に遊ぶ工夫と配慮がいっぱいなんですよ」
ためらってしまう公園を、ウェルカムな公園へ。
「私と息子が通っていた公園は、決して特別なものではなくて、一つの街に一つはそんなインクルーシブな公園があったように思います。日本に帰国後、いざ息子を遊ばせようと思ったら、そこで初めて、日本にはそういった公園がないんだな、と気付いたんです。都議になり、インクルーシブ公園を日本のスタンダードにしたい。そう考えるようになりました。」
スペシャルニーズのある子とない子、大人も子どもも、みんなが一緒に交じり合いながら楽しく遊べる場をと、龍円さんによって、2018年に都議会本会議で提案された「インクルーシブ公園の建設」。東京都は実現に向けて、一年という時間をかけ調査と設計を行いました。
「提案が通ったのちに気が付いたのは、日本は縦割り行政であるため、公園を担当する東京都建設局と、障がいのある子の福祉について担当する福祉保健局が、連携して設計に関わることが難しいということでした。インクルーシブな公園づくりに向けてのチームが組まれ、担当者は、自閉症、発達障害、肢体不自由、知的障害、ダウン症など、様々なスペシャルニーズのある保護者からのヒアリング、海外施設の視察、障害のある子のリハビリを専門とする先生やインクルーシブな公園づくりの有識者からの情報収集を行ってくれました。その結果、東京都建設局には膨大なデータとノウハウが蓄積されたのでよかったです!」
公園づくりは、声を集めることから始まった
NPO法人「SUPLIFE」の代表理事である美保さんも、開園に携わった一人です。豊島区にもインクルーシブ公園が欲しいと署名を集め、区長に提出。行政とのヒアリングにも参加したと言います。
「わたしの家族は、夫、長女7歳、次女5歳(次女にはダウン症があります)の4人家族です。上の子はお外で遊びたい。けど下の子はまだズリバイしかできないけど体を動かしたい。ダウン症の子は成長が2倍かかります。なのでこの期間が長いのです。小児喘息もあり身体のことも心配でしたが、仕方がないので、砂埃舞う地面で下の子をズリバイさせて遊ばせていました。うちの近所の公園にもゴムチップや芝生のところが少しでもあればなぁと思っていました。
SUPLIFEは、小さな頃から共に育ち合う中で自然と違いを知っていき、大人になってからの心の壁をなくせたら…という想いで立ち上げた団体です。活動拠点の豊島区にもインクルーシブ公園をと、周りに声を掛けて署名を集めました。障がいのある子を育てるご家族だけではなく、健常の子を育てるご家族からも「一緒に遊びたいと思っていたよ」「障がいのあるお友達のことも知りたいと思っていた!」といった声をいただき、署名活動を締め切ったあともしばらく反響が続くほどでした」
完成後の公園を見て、とても感動したという美保さん。行政とのヒアリングで伝えた、公園での困りごと、求めることが取り入れられていたと言います。
・滑り台は親も一緒に滑ることがある
→手すりに頭がぶつからないように。幅広くして、大人も滑ることができるように。
・日光が苦手
→日除けのある遊具をつくる。
・騒々しいときに静かな場所がほしい
→小さな図書館をつくる。
・体幹が弱いので、支えがあるブランコがあると嬉しい
→親と乗れるベンチ型のブランコをつくる。
ブランコにはすべて下に紐をつけて大きく揺れないようにする。
・飛び出して行ってしまう子のために圧迫感のない柵をつける。
「他にもまだまだありますが、汽車にも小さな扉をつけてくれて、なるべく乗り降りしやすくなるよう工夫して下さいました。少しの工夫によって、1人でも多くのお友達が遊べることや、子ども達も親たちも安心して遊べることへ繋がるのだと思いました」
きめ細やかな工夫とやさしさに溢れた、としまキッズパーク
インクルーシブ公園の大きな特徴は<肩を並べて>というところ。障がい児専用の遊具や公園をつくって分離させてしまったら意味がないのです。違いを乗り越えて遊ぶということは、子どもにとって大きな成長の場となりますし、付き添っている保護者にとっても、理解が深まるきっかけになりそうです。
アメリカから東京へ、そして全国に広めていくということ
インクルーシブ公園の元年となった2020年。今後の展望について龍円さんにお聞きしました。
「としまキッズパークと、砧公園みんなのひろば。まずは二つの事例ができました。年度内には都立府中の森公園内、そして渋谷区恵比寿にもインクルーシブ公園が完成予定です。インクルーシブ公園は、その地域の住むスペシャルニーズのある子とない子が一緒に混じり合って遊ぶことで、その公園を起点としてインクルーシブな地域コミュニティーを作っていくことが目的なので、区市町村ごとに1カ所はこういう公園ができるといいなと思っています。だって遠くのインクルーシブ公園に1時間もかけて遊びに行って、その地域の子達と混じり合って遊んでも、自分の住む場所に戻ってきたら孤独のままでしょ?
だからインクルーシブ公園は日本全国、各地に必要なんですよね。東京都はノウハウやスキルを他の自治体に提供開始しています。また、東京都では、インクルーシブ公園を今後のスタンンダードにしたいと考え、ガイドラインと補助金を創設予定です。補助金があれば、遊具メーカーさんも遊具の値段を下げることが期待できるので、東京以外の地域でも開園のハードルを下げることにもつながります。実際に東京都以外の議員さんらが砧公園に視察に来られていると聞いていますし、九州や関西の自治体からも問い合わせがあるということです。もしかすると10年後には日本全国で、スペシャルニーズのある子もない子も一緒に肩を並べて遊ぶのが普通の景色になっているかもしれないと、今から楽しみにしています」
LEE読者のみなさんへ
「私の息子のニコは現在7歳ですが、見た目も中身も4歳児のようです。ダウン症のある子はゆっくりゆっくり、普通の倍の時間をかけて育っていきます。世間ではそれを「かわいそう」と哀れんでくださったりするのですが、確かに健康面での心配などはあるのですが、実際の子育ての喜びはおそらく他のお子さん達と同じで、ただそれが倍の時間楽しめちゃうので、なんだかラッキーなことだと私は感じています。ニコのおかげで出会えた新しい価値観や世界はキラキラしていて、私の人生も豊かにより輝き始めました。
インクルーシブな社会が実現したら、きっとそ私が今持っているような豊かな感覚をたくさんの方と共有できるのではないかと思っています。その第一歩が「インクルーシブ公園」から始まるのではないでしょうか。もしよければ、インクルーシブ公園に遊びに行ってみていただけると嬉しいです。またもしご自身の地域のそんな公園が欲しいと思った方は、役所の担当者に声を届けてみてください。行政職員の皆さんは地域の方の声を大切にしてくださると思います」
龍円あいり/りゅうえんあいり
東京都議会議員。77年スウェーデン・ウプサラ市で生まれる。1999年テレビ朝日にアナウンサーとして入社し13年勤務。退職後、移住した米国カリフォルニア州で、ダウン症のある長男を出産。米国のインクルーシブな社会に感銘を受け、2017年より東京都議会議員に。シングルマザーとして、当事者目線での政策提案を続け、2019年はマニフェスト大賞の総合グランプリを獲得。
NPOサプライフ
「いろんな子がいていいんだよ」ということをエンターテイメントで繋いでいく団体です。共生社会を願い日々活動しています。
としまキッズパーク
東京都豊島区東池袋4-42
午前10時から午後4時まで ※利用時間1時間の完全入替制
現在はホームページ上からの完全予約制となっています。
砧公園みんなのひろば
東京都世田谷区砧公園1-1
毎年4月1日から8月31日まで 午前9時00分から午後5時00分まで
毎年9月1日から3月31日まで 午前9時00分から午後4時00分まで
砧公園サービスセンター 電話:03-3700-0414
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峰典子 Noriko Mine
ライター/コピーライター
1984年、神奈川県生まれ。映画や音楽レビュー、企業のブランディングなどを手がける。子どもとの休日は、書店か映画館のインドアコースが定番。フードユニットrakkoとしての活動も。夫、5歳の息子との3人家族。