前回記事から「ルポ 定形外家族〜私の家は『ふつう』じゃない〜」の著者であるノンフィクションライター・大塚玲子さんのインタビューをご紹介しています。
大塚さんは世間一般で言われる「ふつう」の家族(お父さん、お母さん、血の繋がった子どもたち)ではない家族=定形外家族の子どもたちを取材しています。そこで見えてきたことは、
「大人たちは子どもが考えていることをさっぱりわかっていない」ということ。
大人が事情をきちんと伝えてくれなかった、周囲が勝手に同情してくる、親にも自分の気持ちを勝手に決め付けられる、他方の親の悪口を聞かされて傷つく…など、子どもたちの声をたくさん聞いてきた大塚さんが浮き彫りにした課題とは。大人と子どもの意識のズレに警鐘を鳴らしつつ、定形も定形外もない、家族のあり方を認めあえる社会をめざして。
後半は、カタチではなく、それぞれの人が心地よいと思える家族の関係の目指し方について伺いました。
当事者たちも千差万別、みんながみんな、語れる状況ではない
__(WEB連載では)当事者ご自身からの応募も多いと伺いましたが、大塚さん自身も予想してなかった境遇の方いいらっしゃいましたか?
大塚:精神疾患がある親のもとに育つ子どもの状況は、取材するまであまり想像できていませんでした。以前、ある高校生を取材した際、「親がうつ病なんです」とサラッと聞いていましたが、数年後に再び取材したところ、思ったよりヘビーな状況であることがわかって。もっとサポートが必要だったであろうことに気付きました。子どもにとってはその生活が当たり前なので、ことさらアピールはしてこないんですね。最初の取材で気がつけなかったことが、ショックでした。
__本人が気づかなければ発信もできないですね…。周りが気付いてあげられるかが大事ですね。
大塚:そうですね。専門職の方は知っているかもしれませんが、我々、一般人には知られていないと思います。本人が発信してくれないケースもある、ということを、みんなが知っておいたほうがいいのかなと思いました。
__それにしてもWEB連載ではコメント欄も賑わっていますね。ほとんどが応援や共感の声ですが、中には心無い声も…。
大塚:ええ、数は多くありませんが、取材対象者が言われたら一番傷つくであろうことを、わざと書いてくる人が必ずいて。ですから最近は、取材させてもらった方には「よかったら後でちゃんとしたコメントだけ拾ってお伝えするので、ご自分ではなるべく見ないことをおすすめします」と伝えています。
__同じ境遇の人がバッシングしている場合もありました。
大塚:取材を受け自分のことを人に話せる方は、ある程度、自分の中で整理がついた、ある意味余力のある方です。そこまでいけない方も、世の中にはたくさんいる。だからどうしても、嫉妬交じりの攻撃が出てきます。「俺の状況の方がもっとひどかった、こんなのは大したことない」など、被害の度合いを張り合う方向にいってしまったり。そうやってコメントしてくる方たちももちろん、大変な思いをされていたことはわかるんですけれど…、不毛ですよね。
__声をあげる場がないと言うことでしょうか?
大塚:そうですね。ピアカウンセリングや当事者会など、同じような立場・境遇にある人同士が、つながって話せる場をもてている人たちは、比較的いいと思うのですけれど。そういう場をもてていない方のほうが多いと思います。
定形家族への憧れ、そして呪縛
__定形家族に憧れるが故に、出てくる弊害ってありますか?
大塚:いろいろありますが…、たとえば統合失調症の親をもつ人たちの集まりに行った時、みんなが子ども時代の「お弁当」について語っていたのが印象的でした。多くの人が、いわゆる「ふつうの」お弁当を作ってもらえなかった経験があるのです。ある方は、お父さんが作ってくれた巨大なおにぎりを忘れられずにいたり、別の方は、キュウリが一本丸々入っていたことを語ったり。今思えば笑える話かもしれませんが、子どもの頃は嫌だったり恥ずかしかったりしたんですね。子どもにそんなふうに感じさせてしまうのは、「ふつう」の弁当を張り合う母親たちの文化ですよね。「もう、そういうのやめようよ」と心底思いました。
__手作りお弁当=いいお母さん、ふつうの家族。
大塚:他方では、自分が親にお弁当を作ってもらえなかったから「自分は絶対に子どもに毎日完璧な弁当をもたせるんだ」と逆に縛られている人もいて。睡眠時間を削って、ときには一睡もせず、それでも弁当だけは必死に作っていた、という方もいます。こういう話を聞くと、【弁当の呪い】みたいなものが、本当に憎くて。子どもへの手のかけ方で、親の愛情をはかる、みたいな文化はなくなってほしいです。
__それぞれが、自分たちの心地いい家族を認められればいいですよね。
大塚:そうですね、本当は「定形も、定形外もないでしょ」と思っています。それぞれが心地よい家族の形を作っていれば、楽になる人はすごく多いはずです。形が定形でも、理想の形に縛られていれば苦しくなってしまいますし。社会的な体面にこだわるばかりに、親が離婚を我慢しているんだけれど、子どもの方は「離婚して欲しい」と思っていた、という話もよく聞くんですよね。「定形もつらいよ」っていう子どもも多いと思います。
定形家族も、定形外家族もない。各々が心地よいカタチを
__これを思うと、定形ってなに?ふつうってなに?って思いますね…
大塚:べつに定形の家族を否定するつもりもないのですけれど、そんなむやみに憧れなくても良いのでは? もしかしたら、本当は自分はそれを望んでいないのかも? それが正しいことになっているから、目指しているだけなんじゃない? と冷静に考えることができるといいですね。
__自分が定形に憧れている、しがみついている、とさえ考えたことないかもしれませんね。連載を続けてきて、反響が大きかったものは?
大塚: AID(提供精子を用いた人工授精)で生まれた方の記事も反響が大きかったです。家族であることに血縁は関係ないですが、「病歴など遺伝的な体質を知りたい」と言うのはまた別で、当然のこと。産院で取り違えられた方にもお話もうかがいましたが、血縁だと思っていた家族が、違ったと聞く人のショックは、はかりしれません。
__当事者にならないとわからないことはありますよね。まずは様々な状況があるということを知っておかないと。それに、子どものことを知るという意味では、定形も定形外も関係なく言えますからね。
大塚:そうですね。子どもに親の考えを押し付けないで、子ども自身の考えを聞くとか、まずはきちんと伝えるとか、どの家庭でも大事なことですよね。
__大塚さんはPTAと家族と、両方を軸にジャーナリストとして活躍されていますが、既存にあるものに疑う目線を大事にしていらっしゃるのですか?
大塚:日本では「〜はこうあるべき」「周囲と合わせないといけない」みたいな同調圧力が強いです。でも私は、自分に合う形でやらないとうまくいかないし、辛くなることが多くて。夫婦でも家族でもPTAでも、人と人の繋がり方は各々自由でいいはずだと思っています。
__貴重なお話をありがとうございました!
今回の前後編を通じて、何よりも画一的な「ふつう」の家族がベターとされている、この私たち一人一人の中に潜む価値観が、そこからはみ出してしまった家族への生き苦しさを生んでしまっている現状を知りました。無意識のうちに、深く刷り込まれている家族観。多様な生き方が尊重され、その選択が可能になった今だからこそ、固定的な考え方を私たちの世代で終わらせないといけないな、と思いました。どんな家族でも、どんな自分でも、どんな生き方でも、自由に表現でき、お互いを認めあえる社会を、子どもたちに引き継ぎたいですね。
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。