尾上右近さん「言葉って、念力みたいなもの……かな」。舞台『この声をきみに~もう一つの物語~』に主演!【堀江純子のスタア☆劇場】
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堀江純子
2020.03.19 更新日:2020.03.21
“堀江純子のスタア☆劇場”
VOL.4:尾上右近さん
歌舞伎と江戸浄瑠璃、2つの伝統文化の血筋に生まれ、その芸を継承し、注目の若手として舞台に立つ尾上右近さん。2017年、『スーパー歌舞伎II ワンピース』の公演中に怪我をした市川猿之助さんの代わりに、ルフィという大役を残り全公演で務めあげ、最近ではバラエティ番組にも多数出演し、切れ味いいトークやユニークさも発揮して話題の人に。伝統文化の枠を超えて、“演じる”能力をストレートプレイ、ミュージカルの世界へと広げ、これからのエンタメ界における革命児となる期待は増すばかり。マツコ・デラックスさんにも愛された右近さんの魅力を、『スタア☆劇場』にも撒き散らしてください!
人とちょっと違うものを選びたい
――サイバーでエッジの効いたファッションでの登場に、目を奪われてしまいました。今日のコーディネイトはご自身のチョイスですか?
右近「そうです! 普段は黒ばっかり着ちゃって、今年は黒以外も着るぞ!って宣言していたら、黒以外の服をいただくことが増えて。今日は、最近いただいたばかりの白を選んできました」
――歌舞伎役者さんであることを考えると、攻めてるファッションですよね。
右近「いわゆる、普通の服ってあんまり着ないんですよね。基本的に持ってないです。人とはちょっと違う…っていうのが、服を選ぶポイントになってますね。けど、おもしろい服だね、ヘンな恰好してるね…で終わりたくないので、素材にはこだわりがあったりします。服自体は大好きですね」
――バラエティでカレーにハマってる日常を拝見してました。年に360食! そしてファッションも楽しんでらして。歌舞伎、演劇、日常をバランスよく過ごしてるんですね。
右近「そんなことないですよ。僕の日常、ぐっちゃぐちゃです(笑)。だから、黒を着ることで安定しているのかもしれないですね。この仕事をしていると日中、日に当たるような趣味をなかなか持てないし。僕は歌舞伎が休みの日でも、他のお仕事をやりたい!って思うほうなので、日常の楽しみは服とカレーぐらいになっちゃいますよね」
自分にとっての“完全なる居場所”とは
――今回の舞台『この声をきみに~もう一つの物語~』主演のように、歌舞伎以外での演じるお仕事をどのように捉えていますか?
右近「歌舞伎は自分にとって軸だけれども、他にもいろんなことに挑戦して…新しく出会う方々と新しい作品を密度濃く作り上げていくことは、自分にとって循環なんですね。『この声をきみに~もう一つの物語~』は朗読教室という、仕事場や自宅とは違うもうひとつの自分の居場所での物語ですが、……自分にとって“完全なる居場所”って何でしょうね。それが自分にとって歌舞伎であるのかどうかもわからないな。僕は父が歌舞伎役者でもないですしね」
――お父様は江戸浄瑠璃、清元宗家七代目清元延寿太夫。右近さんはそちらの道でも栄寿太夫を襲名されていて。伝統芸能の世界でもふたつの居場所がありますよね。
右近「そうなんですよ。歌舞伎役者であって、家業も継いで、なんだか自分は実家でも“ほっこりしちゃいけない”って感覚があるような……ホッとしたくない、攻めていきたいって気持ちがあるので、今の状況に不満があるわけではないです。終わりの見えないらせん階段をずっと昇っているような感じですね。また、僕はそういう感覚が好きなんでしょうね。居場所は特に持たず、その都度、自分が打ち込める場所を、自分の居場所と捉えている感じかな」
伝えたいことは“念力”で
――声に出して読む側も、その読む声を聴く側も、それぞれに癒し、気付きがある朗読。言葉の持つ意味を改めて考えさせられた『この声をきみに』。NHKドラマ10で2017年に放送されたドラマが原作ですが、舞台『この声をきみに~もう一つの物語~』の主演を通して、また、歌舞伎や他の演劇で日常的に“発する言葉”と付き合ってきて。言葉について思うことは多くあったのではないでしょうか。
右近「言葉って、念力みたいなもの…でしょうか。同じ台詞を聴いている人が何人もいるのに、受け取る人の状況、年代、性別によっても受け止め方が違うと思うんですよね。僕はある程度、委ねるべきだと思う。けど、伝えたいメッセージ、意思はある。そのために必要なのは、念力じゃないかと」
――念力の言葉……なるほど。歌舞伎を観ていると、その念力の強さ、重要性がわかるような気がします。
右近「歌舞伎は特に言葉が難しかったりしますから、洋楽を聴いているような感覚になったりもしますよね。演じる僕らでさえ、この台詞はどういう意味なんだろう?って悩む古典の台詞もあるわけで。それでも伝えたいテーマはある。そんな作品、台詞に出会ったとき、伝わってほしいと発する言葉は、本当に念力に近いですよ。言葉として伝えきれない何かを音波として送っている瞬間もあります。踊りもそう。踊りはより念力に近い世界かもしれません」
僕の好きなものをすべて満たしているもの
――カレーも念力ですか?
右近「カレーですか!!」
――カレーに対する情熱も知識も深くいらっしゃるから。
右近「知識は全然ないですよ(笑)。たまたま、カレーは体にいいって聞いたのをきっかけに、食べることが好きになっただけで」
――カレー好き男子、多いですよね。カレーには男のロマンが?
右近「ロマンもあるし、バッ!と食べることができて、おなかも満たされるところは魅力です。あとバリエーションの豊富さ! だから、飽きないんですよね~。もともとどんぶりものとかワンプレートが、特にごはんが好きで。そして辛いものも好き。僕の好きなものをすべて満たしているのがカレーです」
――ご自身でも作る?
右近「それはできないですね。食べ歩き専門です。僕、包丁が怖くて握れないんですよ(笑)。包丁を落として、足の腱を切ってしまう……そんな怖いイメージが幼い頃からずっとあるんです」
――もしかして、高所恐怖症でもある!?
右近「あ、はい…え、なんで? なんでそんなことわかったんですか!?」
想像……いやこれは想定だ!
――いろんな方に長年インタビューしていると、自分なりにデータがあるんです(笑)。高所恐怖症の方に、“なぜ高いところが怖いのか”聞いたら、もし足元が崩れて落ちたらどうなるか、想像したら怖くなる……と。右近さんも“包丁”からの想像力豊かだったので(笑)。包丁落として腱を切る想像までする方なら、高所もさぞかし想像してるだろうなと(笑)。
右近「なるほど、そういうことか。すごい!! 実はカウンセリングじゃないですか、このインタビュー(笑)」
――怖がりの方って、想像力が豊かなんだと思います。
右近「想像するっていうか、これは想定ですよ! 想定できることを考えないってヤバいですよっ」
――もうひとつ、確認していいですか?
右近「こんどはなんのカウンセリングですか!?」
――いや私のデータに(笑)。女性に作ってもらうカレー問題です。よく聞く話では、男性はルーの箱に書いてある通りの、ごく普通のカレーが好きだと。
右近「ああ~、わかります」
カレーと愛と魔法
――隠し味とか、余計なアレンジしてくれるなと。右近さんは、女性にカレー作ってもらうとしたら、どんなカレーを求めますか?
右近「なるほど。僕は、隠し味でもなんでも、料理を工夫してみようっていう気持ちは嬉しく思いますよ。それは僕に対する愛ですから。何より嬉しいことですね」
――それが、とんでもアレンジでマズくても!?
右近「ありがとう、って食べますよ。……ところがですよ!!」
――きたっ(笑)。そこからが聞きたいところ!
右近「とんでもアレンジに対して、いつか“食べられないよ”って言う日は来てしまうかもしれない。それは、恋愛の魔法が切れる日ですよね……」
――好きな男性や夫の好みを聞いて、自分本位なアレンジをやめる……っていうのも愛ですからね。
右近「そうですよね。魔法が切れると、僕が好きなタイプのカレーを作る努力……そっちに愛を感じることになると思いますね」
――ちなみに、どんなカレーをお作りしたらいいでしょうか。
右近「その点、僕はラクだと思いますよ。これでなきゃいやだ、はないですから。ドロッと系でもシャバシャバ系でも、普通に旨いカレーなら大丈夫」
――普通に旨いの基準が、なかなか難しかったりします。
右近「玉ねぎが効いてる、手間のかかったカレーは好きですね。作っていただけるなら、家庭の普通のカレーで充分です。むしろ、手料理らしいバーモントカレーがいい(笑)。自分で作るなら凝ったことしてみたいけど、女性にそれは求めないです」
――わかりました(笑)。カレー問題は、愛と魔法の期限がキー(笑)。
右近「データになりました?(笑)」
――特に、魔法が切れたあとの手料理問題として、ものすごく興味深く、そして納得しました!!
噂通り、いや噂以上に右近さんとのトークは楽しくて、このままいくらでも話していたい……そう思わされたステキな時間でした。右近さんはリアクションが豊かで、インタビュアーとして延々と言葉を投げかけてしまいたくなります。そして最も心に残ったのは、右近さんがおっしゃっていた、“伝えたいことは念力で”。文字、言葉を扱う者としてものすごく響きました。人知を超えた熱い何かがあってこそ、人から人へ想いは伝わるものだと。私も、インタビュー、執筆のときに念力が使えるよう精進していきたい所存です。
追記
新型コロナウイルス感染症の情勢をふまえ、残念ながら、舞台『この声をきみに~もう一つの物語~』公演開催は自粛、中止となってしまいました。がしかし! 楽しみにしていた方々に嬉しいお知らせが。本公演を収録したDVDの発売が決定したそうです。
DVDから、右近さんの”念力”を受け取ってください。
撮影/細谷悠美
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堀江純子 Junko Horie
ライター
東京生まれ、東京育ち。6歳で宝塚歌劇を、7歳でバレエ初観劇。エンタメを愛し味わう礎は『コーラスライン』のザックの言葉と大浦みずきさん。『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』『エリザベート』『モーツァルト!』観劇は日本初演からのライフワーク。執筆はエンターテイメント全般。音楽、ドラマ、映画、演劇、ミュージカル、歌舞伎などのスタアインタビューは年間100本を優に超える。