秦基博さんは、13年前のデビュー当時と見た目とたたずまいが驚くほどまったく変わらない人だ。まっすぐに視線をこちらに向け、ひとつひとつの質問に、マジメに誠実に答える姿も昔と同じく、音楽好きの好青年そのもの。だがもちろん、今や秦さんはキャリアを重ねヒット曲もたくさん持つ。いったいなぜ、そんなにもピュアでい続けられるのだろう?
秦 基博さん「今、あらためてピュアに音楽に向き合っています」
「僕はとにかく曲を作ったり、演奏したりするのが好きで、趣味が仕事になりました。とはいえ、プロのミュージシャンとしてやらねばならないことがたくさんあるんですよね。デビューからの10年間は、自分のリズムとプロとしてのサイクルをうまくまわす方法をあれこれと探った時間でもありました。でも、10周年を迎えたとき、その試行錯誤に一区切りつけられた気持ちがあって、今、あらためてフラットに音楽に対して向き合えています。僕なりにキャリアを重ねたことで、ただただ音楽が好きというピュアな初心に戻っているのかもしれません」
例えば「締め切りを作らず、自然と曲が浮かんだら書く」という、アマチュア時代の「自分のサイクル」に戻した期間もあった。音楽は当然、聴くのも大好きなので「今」の音楽も大量に聴く。
「特にリズムは、例えば最近のヒップホップなどの影響を受けている部分もあります。ただ、流行っているからやってみよう、ではなく、かっこいいと思えるかどうかが大事。そのうえで、自分のフィルターを通して出すか、出さないかを決めたいですね」
歌詞を生み出す際も慎重だ。かつて「話せない英語で歌詞は書けない」と言っていた。それは今も変わらない?
「変わりません。意味を理解している英単語は使いますが、ニュアンスがわからない言葉は使いたくない。例えば、日本語の“ありがとう”だって、言い方や表情も含めていろんなニュアンスがありますよね? きちんと理解できていない言葉のニュアンスを表現することはできないと思うんです。僕は先にメロディを作ってから歌詞をのせますが、シンガーソングライターとして言葉とメロディのポテンシャルを最大限に出したいんです」
ところで、見た目もたたずまいも昔と変わらなすぎる(!)ため、にわかに信じがたいが、秦さんは来年、不惑を迎える。
「不惑(笑)。自分も40歳になるんだな、と感慨深いですが、楽しく年を重ねるために、今、できることをやりたい。苦しみだって、大きくとらえれば楽しみの中の要素だから、ひるむことなく音楽をずっとやり続けたいです」
’18年には「HOBBYLESS RECORDS」というアナログレコードを出すための自主レーベルを作った。「音楽以外は無趣味」という秦さんらしい命名だ。
「レコードは音の解像度がデジタルと比較すると低いので、聞き取りづらい部分もありますが、それも含めて味わいがあるのがいい」
新曲の『Raspberry Lover』は叶わぬ恋を前に苦悩する大人のラブソングだが、手に入らないのは恋だけじゃない。夢や希望の暗喩にもとれる。
「言葉は聴き手がいて完成するものですから、歌詞の受け取り方は聴く人におまかせして、曲が育っていくのが楽しみです」
Profile
はた・もとひろ●’80年、宮崎県生まれ、横浜育ち。’06年、シングル『シンクロ』でデビュー。"鋼と硝子でできた声"と称される稀有な歌声と抒情性あふれる楽曲で厚い支持を集める。デビュー10周年の’17年には初のオールタイム・ベストアルバム『All Time Best ハタモトヒロ』をリリースし、現在もロングセラーに。2020年3月の埼玉公演を皮切りに「コペルニクス」全国ツアーを予定している。
『コペルニクス』
約4年ぶりのオリジナルアルバム。大人の切ない悲恋を歌った新曲『Raspberry Lover』のほか、ソフトバンクのCM曲になった卒業ソング『仰げば青空』やパナソニックの企業CM曲『花』など、インストゥルメンタル2曲を含めた全13曲を収録。デビューから13年。豊かなキャリアに基づく経験値とピュアな感性で織りなした、新境地を開く新作。12月11日発売。(オーガスタ レコード)
撮影/名和真紀子 ヘア&メイク/原田武比古(ArtsyLife) スタイリスト/甲斐修平 取材・文/中沢明子
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