「夫」という男との距離感について、思いを馳せる長編小説
いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっている「夫」という存在。特に30~40代ともなると、その上に「子どもの父親」としての役割も重なる場合が多いが、男女の絶妙な距離感を描くのに定評がある作家・絲山秋子さんの最新刊は、妻と夫が「ひとりの人間同士」として付き合っていくことをあらためて考えさせてくれる一冊だ。
物語は、大手企業で働くヒロインの沙和子と夫の高之が、共通の友人を訪ねて旅する場面から始まる。大学時代に知り合った高之はマイペースで寛容な性格。結婚後は沙和子のリクエストどおりに婿養子に入り、埼玉・熊谷にある彼女の実家で義両親と同居することも厭わないような、おおらかな男性だった。結婚から1年後、会社の異動命令を受けた沙和子は、悩みながらも高之を残して札幌へ単身赴任を決意。新しい仕事や生活環境に慣れ、久しぶりに夫婦で再会すると、なんと夫にはうつの兆候が表れていた。だが自分が仕事をしなければ家計が立ち行かないし、就職氷河期時代にやっと得た仕事を、沙和子は手放すわけにはいかない。心配しながらも単身赴任を続け、看病に付き添えないうちに、二人の心は少しずつすれ違っていく……。
沙和子の実家の埼玉・熊谷をはじめ、旅先の岡山や滋賀など、日本各地の「場所」をベースに、二人の関係性の移り変わりが描かれるのも大きな読みどころのひとつ。一度は共に生きるのを諦めた二人が、新しく出会う土地や人々、そこで得た経験を通じて、沙和子が高之を、そして高之が沙和子のことをさまざまな角度からとらえ直し、お互いを優しく思い合う描写が美しい。近づかないけれども、離れることもない二人の不思議な関係は、わかりやすい「いい夫婦」「おしどり夫婦」ではないかもしれない。でも、長い時間をかけることで解決することも、時には距離をおいたからこそわかることもある。ラストの展開は「広い世の中、一組くらいはこんな夫婦がいてもいいのかもしれない」と、凝り固まった頭がほぐれ、自由な気持ちにさせてくれる!
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取材・原文/石井絵里
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