永遠のサヨナラと生きることを優しく描いたファンタジー小説
30代、40代ともなれば、大切な人との永遠の別れを、少なからぬ数の人が経験しているであろう。家族と故人とがあらためて向かい合う場である葬儀場をテーマにしたのが、今回紹介する短編連作小説だ。
主人公は大学生の美空。4年生ながらも就職先がなかなか決まらず、父親の友人が経営している葬儀場で、ホールスタッフのアルバイトをすることになる。実はこの葬儀場でバイトをするのは2度目だったが、本腰を入れて働くうちに、自分にはある能力が備わっていることに気づく。それはこの世を旅立つ人たちの姿を見、彼女らが生前残した思いを聞いて共感してあげられること――。そして美空は、自分と似た能力を持つ僧侶の里見と、死者の姿は見えないけれども美空や里見の力を理解してサポートする、葬儀スタッフの漆原とともに、死者と残された人々の思いをつないでいくことになるのだった。
自分が亡くなったことすら理解できない幼い子どもの存在や、子を失った妻に対する夫の行動など、幅広い視点から深く細かく、読み手の心に刺さる描写が続く。40代前半にして本作で小説デビューを飾った著者の、人生経験の深さが垣間見えるといえるだろう。とはいえ、決して悲惨なだけではないのが、この物語の不思議な魅力。美空たちが死者の死にざまとその思いを汲み取り、心のこもったお別れを執り行おうと右往左往する姿を読んでいると、大事な人を失った悲しみや痛みが少しずつ浄化され、最後には胸に小さな明かりが灯ったように、温かい気持ちになれるのだ。
さらに、就活に失敗し続けて自信をなくしかけていた美空の、心の成長を追っていけるのも、本作の読みどころのひとつ。葬儀場という特殊な世界の中で自身の持つ特別な能力に気づき、それを生かして少しずつ前向きになっていく若い彼女の姿からは「人が輝ける場所はそれぞれにある」「何度失敗しても人生はやり直せる」という、力強い人生賛歌のメッセージを受け取れるはず。
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取材・原文/石井絵里
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