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島本理生さん「女性は『母親』という顔だけでは生きていけないことを書きたかった」

2019.02.08

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10代でデビューして以来、熱量の高い恋愛感情と、女性の心の機微を描くことに定評がある島本さん。なんと今作のテーマは「結婚にまつわる正しくない話」。夫や婚約者など、パートナーのいる女性が別の男性と関係を持ち、心揺れる様を描いた短編集だ。

女性は「母親」という顔だけでは生きていけないことを書きたかった

「完成までの8年間は私自身も妊娠、出産、子育てを経験し、結婚前の人の気持ちや、子どもを持つことについて考え続けた時期でした。そんな時々の思いを、最初はどこに発表するあてもなく書きためていて。1話目の『足跡』は、実は産休中に書いたものなんです」

『足跡』は結婚3年の妻が、夫以外の男性との性的な関係に足を踏み入れる話。出産を控えた島本さんが、このような物語を綴った理由は何だったのだろう。

「私、妊娠中や産後は、かなり節制した暮らしをしていたんです。早寝早起きにヨガ教室、食べ物は野菜や穀物が中心で肉や油分も控えて……。でもそんな健康的な生活を続けるほど、自分の中に華やかさや非日常を求める気持ちが強くなって、女性誌のブランド特集とか食い入るように読んだりして(笑)。小説も、純愛ものではない作品のほうが読みたくなったり。つまり人は、24時間、聖なる“母親”という顔だけで生きていけるわけではないのだなと思ったんです。だからこそ、時には日常から心だけでも逸脱できる、“正しくない恋愛物語”を、私も書いてみたいなって」

作品の完成と同時に、島本さん自身の生活環境も少しずつ変化してきたそう。

「『足跡』執筆中におなかの中にいた子どもも、もう7歳です。乳児の頃は母子二人で外に出る大変さを実感しました。例えば出先で自分の具合が悪くなったときには、子連れで休める場所の少なさに途方に暮れたことも。今は今で、帰りが遅いと心配だし、宿題を見ていたらあっという間に夜だしと、毎日バタバタです(笑)」

そんな中、昨年は長編小説『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。

「2年ほど前に仕事場を設けてから、オン&オフの切り替えができるようになりました。朝、子どもを送り出した後に1時間ほど家事をして、そこから夕方までは仕事場で集中して書いています」

時間のやりくりは日々の課題。ちなみに家事については、アウトソーシングを取り入れるように。

「換気扇の大掃除は、一度自分で挑戦したら、全然キレイにならず絶望して(笑)。今では業者さんにお願いしています。プロに頼むと切り替えたらラクになりました。あとは、忙しく働くママ友から家事代行サービスを教えてもらって利用スタート。出産以来、ずっと夫婦二人で家事と育児を回していたけれども、頑なに自分たちだけで頑張らなくてもこんなに効率よくやれるんだ、とわが家に革命が! 育児や家事のコツは、人に相談するのが大切ですね」

時間を確保できるようになった今、創作意欲にも広がりが。

「昼間、一人で静かな仕事場に来ると、結婚前に働いていた頃の感覚を思い出すんです。ぽかーんと時間が空いているときの、自由のような寂しいような、独特の気持ち。ここ数年は家族の中にいる女の人を中心に作品を発表してきましたが、今、そこに加えて一人の時間を大切にしている女性の内面も、描きたくなってきています」

Profile
しまもと・りお●1983年生まれ、東京都出身。’01年『シルエット』で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。’05年に発表した『ナラタージュ』は、その後映像化もされ、話題になった。’18年『ファーストラヴ』で第159回直木三十五賞を受賞。夫は同じく作家の佐藤友哉さん。

『あなたの愛人の名前は』

安定した結婚を目前にしながら、飲み屋で偶然出会った男性に身も心も惹かれていく『あなたは知らない』、男性側の目線から彼女との恋愛関係を描いた『俺だけが知らない』を中心に、すれ違う大人の機微を描いた6つの短編小説集。

読後は表題作のタイトルが胸に響く。直木賞受賞後、初の作品となる。 ¥1500/集英社

あなたの愛人の名前は/島本 理生 | 集英社の本 公式


撮影/フルフォード 海 ヘア&メイク/木下 優(ロッセット) 取材・文/石井絵里

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