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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

映画でもっと世界を知ろう!  各国の“らしさ”満載  の佳作が勢揃い! <年始篇>

  • 折田千鶴子

2019.01.16

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厳選して絞った5作品はコレ!

今年も映画を通して、色んな形で皆さまの心を少しでもホクホクさせられるように努めていきたいと思いますので、どうぞ、よろしくお願いします!

さて、前回、“昨年の年末から今年の年始にかけて、なぜか世界各国の特色ある映画の秀作が勢揃い”と書かせていただきましたが、今回はその第二弾。年始篇のご紹介です。

色んな国の作品がズラリと揃っていて、前回は少々舞い上がって多数の作品を紹介しましたが、今回は厳選し、下記の5本に絞ってみました!

イタリア映画「愛と銃弾」より

高度成長期直前の中国を舞台 (撮影は湖西省)にしたサスペンス『迫り来る嵐』

ある青年の祖国ドイツからパリ、さらにマルセイユへの逃避行『未来を乗り換えた男』

インド映画(舞台はパレスチナ⇔インド)のスペクタクル人情劇『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

イタリア映画らしい(舞台はナポリ)パンチの効いた恋愛クライム活劇『愛と銃弾』

イラクのクルド人自治区の女性/母の闘いを描いた衝撃作『バハールの涙』

 

では、まずは……

既に公開中の傑作サスペンス 『迫りくる嵐』

もわ~っとした空気に呑みこまれていくような、胸を掻きむしりたくなる焦燥感をたっぷり味わえる逸品です。

『迫り来る嵐』
中国/2017年/中国語/119分
監督・脚本:ドン・ユエ(董越)
出演:ドアン・イーホン(段奕宏)、ジャン・イーイェン(江一燕)、トゥ・ユアン(杜源)
配給:アット エンタテインメント
© 2017 Century Fortune Pictures Corporation Limited
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開中。以後、全国順次公開

<こんな物語>

1997年、小さな町の国営製鋼工場で、保安部の警備員として働いているユィは、工場内の泥棒検挙で実績を上げ、意気揚々。そんな折、町で若い女の連続殺人事件が発生し、現場を訪れたユィは、知り合いの警部から情報を聞き出し、刑事気取りで事件に首を突っ込み始める。どんどん事件にのめり込むうし、被害者女性らがどこか自分の恋人イェンズに似ている、つまり“犯人好み”であると気づいたユィは――。

<ココが面白い!>

香港返還など中国激動の足音が近づきつつある90年代後半の地方都市。とはいえ巨大な古い工場がデンと据わったその町は、これから迎える祝祭的な雰囲気は微塵も感じさせないどころか、暗く冷たい陰鬱なムードが終始漂っています。なぜにユィがそんなにも犯人探しに奔走するのか。それが最大の謎だったりするのですが、必死で犯人を追い詰めようとしても、寸でのところでスルリと逃げられてしまう、彼が感じる圧迫感や焦燥に観る側も焦れてきます。湿ったような青緑がかった映像も、何とも味わい深いのです。

作品資料にも、韓国映画『殺人の追憶』や、中国映画『薄氷の殺人』が引き合いに出されていますが、なるほど“味わい”は非常に似ています。犯人が誰かという推理よりも、ユィの何かにとり憑かれたような様子、その心理模様、ドツボ感がたまらないのです。事件の結末自体にもアッと小さく驚きますが、ユィをめぐる結末に深い驚きと衝撃が隠されていて、何とも言えずに「う~む……」と身悶え。濃密な時間を過ごしていただける作品です。これが監督デビュー作とは、本当に驚きです!

 

“巴里のドイツ人”の逃避行 『未来を乗り換えた男』

想像を超えた設定、展開が目白押しでハラハラ必至。と同時に“手からすり抜けてしまうアンニュイな恋のムード”にも心掴まれます!

『未来を乗り換えた男』 ドイツ・フランス合作/2018年/102分
監督・脚本:クリスティアン・ベッツォルト
出演:フランツ・ロゴフスキ、パウラ・ベーア、ゴーデハート・ギーズ
配給:アルバトロス・フィルム
©Schramm Film
1月12日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか 全国順次ロードショー

<こんな物語>

現代のフランス。ドイツ人青年ゲオルグは、ファシズムが吹き荒れる祖国から逃れ、パリへ逃れて来る。だがパリも独軍の占拠間近。そんな折、友人から託された手紙を潜伏中の作家に届けに行ったゲオルグは、孤独に耐えかねて自ら死を選んだ作家を発見する。とっさに彼の荷物を持ちだしたゲオルグは、そのままマルセイユへと逃れる。荷物にメキシコからの招待状を見つけた彼は、メキシコ大使館で本人に間違われたのを機に、作家になりすまし、メキシコへ脱出しようと思いつく。そんな彼の前に、何度も黒いコートの女が現れる――。

<ココが面白い!>

何の知識も入れずに観ると、舞台は近未来か、はたまたパラレルワールドか?なんて思ったりしますが、ガッツリ“現代を舞台にしている”という作り手の大胆な思惑に感服させられます。というのも、誰もが知る悪夢のようなナチスドイツの所業をまんま彷彿とさせながら、今この瞬間も、命からがら祖国から逃れんとする多数の“難民”たちが現実に世界中に居て、本作の登場人物らと全く同じ境遇に置かれていることに思い当たるのです。行き場もなく、帰る祖国も失い……。そんな中で、恋人、家族、夫婦、友と引き裂かれたら――。

果たしてゲオルグの逃避行は上手くいくのかハラハラする一方で、彼が強く惹かれていく黒いコートの女の正体や彼女を巡るドラマも、非常にミステリアスかつ人間の業を感じさせ、心掴まれずにいられません。どこかファンタジーが流れ込んだような不思議な浮遊感も漂い、より惹かれてしまう、そんな一作。監督は『東ベルリンから来た女』『あの日のように抱きしめて』のクリスティアン・ベッツォルト。前2作と同様、主人公が巻き込まれる運命をスリリングに照射しつつ、メロドラマを絡めて観る者の心を絡め取るような、さすが名匠と誉れ高き人! 日本は無関係と思いがちですが、難民問題にも時々は思いを馳せ、忘れないようにしたいな、と構えずに思わせてくれる映画です。是非、劇場で。

 

インドの人情スペクタクル 『バジュランギおじさんと、小さな迷子』

迷子の少女のため、インドからパキスタンへと旅をすることになる、超イイ奴“バジュランギおじさん”の波乱の旅路! 少女がまた可愛い!

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』
2015年/インド/ヒンディー語/159分
監督:カビール・カーン
出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプール
配給:SPACEBOX
©Eros international all rights reserved ©SKF all rights reserved.
Bajrangi.jp  twitter:@Bajrangi_movie   fb:Bajrangi.jp
1 月18 日(金)より全国順次ロードショー

<こんな物語>

パキスタンの山岳地帯の小さな村に住む女の子シャヒーダーは、幼い頃からなぜか声が出ない。いつになっても喋らない娘を心配したお母さんと、願いが叶うと信じられているインドの寺に“願掛け”に行くことに。だがそこへ向かう道中、好奇心旺盛なシャヒーダーは迷子になり、一人、インドに取り残されてしまう。そんなシャヒーダーが出会ったのが、ヒンドゥー教の熱烈な信者の青年パワン(バジュランギ)だった。底抜けに明るく正直者のパワンは、なぜか自分から離れようとしない少女のために、親を探して家に帰してあげようと奔走し始める。

いかにもボリウッドらしい、絢爛に歌って踊るシーンも随所に飛び出します! この女性が、パワンが恋するお嬢様

<ココが面白い!>

“おじさん”と言っても、少女の目から見るとという話で、実際には主人公のパワンは、超が付くほどバカ正直でイイ奴なイケメンの青年。居候先のお嬢様と恋に落ち、彼女の父親に結婚を許してもらおうと、“一人前の男修行中”の身でもあるんです。いかにも “ボリウッド(インド)映画”らしく、途中で何度も歌い踊りながら、生い立ちや身の上話が語られながら物語が進行するので、楽しくノセられウキウキ必至です! 声が出ない少女を相手に、勝手に少女も当然インド人でヒンドゥー教徒だという思い込み、そんな周囲と彼女の言動が所々ズレが生じる様に何度も大笑い。

もちろん少女がパキスタン人、且つイスラム教徒と分かった瞬間、周囲の大人たちに走る衝撃は、私たち日本人からすると“へ!?”と驚くくらい強烈で、だからこそ興味津々でもあります。2人の行く手を阻もうとする政府の役人、官僚、警察らの“悪人”vs庶民の代表:パワンと少女、彼らの奮闘に最後まで手に汗握り、感涙必至です。大いに笑って、大いにノッて、感動ザブーン。少女の“声”はどうなるのか!? 暑苦しいくらいにグイグイ迫り来る、いかにもインド的な人情噺に舌鼓を打ちつつ、景気よく快哉したくなるハズです! ちなみに本作、「ダンガル」「バーフバリ」に次ぐ、インド映画世界興行成績第3位だそう。これはもう、決まりですねっ!

 

 



ナポリを舞台にしたぶっ飛び恋愛&義侠ミュージカル 『愛と銃弾』

このユニークさはかなり破格(笑)! しかも美男美女カップルで眼福です!!

『愛と銃弾』
2017年/イタリア/134分
監督・共同脚本:マネッティ・ブラザーズ
出演:ジャンパオロ・モレッリ、セレーナ・ロッシ、クラウディア・ジェリー二
配給:オンリー・ハーツ
© MODELEINE SRL ・ MANETTI bros. FILM SRL 2016
1月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿K’s cinema ほか全国順次公開

<こんな物語>

南イタリアの大都市ナポリ。イケメン青年チーロは、相棒と共に裏社会でも一目置かれる“二人組の敏腕殺し屋タイガー”の片割れ。ある日、チーロが仕える組織のボスが敵対組織から命を狙われる。相手組織を出し抜く大胆な計画が立てられるが、偶然、一人の看護師がその謀略を目撃してしまう。彼女を消すよう命じられたチーロが女を捕らえた瞬間、それがワケあって別れたが、今でも忘れられない最愛の恋人ファティマだと気づく。その瞬間、チーロはファティマの命を助け、組織を裏切ることを決意する――。

<ココが面白い!>

ある事情で分かれてしまった恋人たちが、十数年後に再会した瞬間、再び激しい恋に落ちる――。いかにも“情熱万歳!”ラテンな展開に、快哉必至です! 一読するとシリアスな状況でもありますが、何というかとにかくユニーク。だって冒頭、ナポリを訪れたアメリカ人旅行者の一行が、バッグのひったくりに逢った直後、“これがナポリ~、すばらしい経験~”みたいな感じで歌い踊り出すんです! 最初は「え?何事!?」と目キョトン(笑)。それが段々とクセになっていくんです。しかもチーロが相当カッコいいわ、初恋相手と手に手を取って組織を相手取って闘うなんて何と言ってもドラマチック! さらにチーロが契りを交わした相棒と“俺か女か、どちらを選ぶ?”的な愛憎もいいアクセントで、何かと胸ムギュウなわけです。アクションはキレッキレ、暴力描写もかなり本気モード、さらにボスのフェロモンたっぷり巨乳の女房も強烈キャラ。加えて、いかついマフィアの男どもが不愛想に歌ったり踊ったりする姿が、何ともユーモラスで、思わず吹き出してしまったり。正直、この映画、相当、大好きです! 映像もスタイリッシュかつキッチュで、とにかくぶっ飛んでいて、クレイジーなほど楽しくて魅力的な映画。これはぜひ、新体験としてもおススメしたいです!

 

女性闘士に共感必至の 『バハールの涙』

息子を救うために銃を取ったクルド人女性と、女性戦場ジャーナリストの真の物語

『バハールの涙』 2018年/フランス・ベルギー・ジョージア・スイス合作/111分
監督・脚本:エヴァ・ウッソン
出演:ゴルシフテ・ファラハニ、エマニュエル・ベルコ
配給:コムストック・グループ+ツイン
©2018 – Maneki Films – Wild Bunch – Arches Films – Gapbusters – 20 Steps Productions – RTBF (Télévision belge)
1月19日(土)より新宿ピカデリー&シネスイッチ銀座ほか、全国ロードショー

<こんな物語>

弁護士として愛する夫と幼い息子と幸せに暮らしていたバハールは、故郷のイラク・クルド人自治区に帰省した際、突如ISに襲撃される。逃げ遅れた男性は皆殺しにされ、少女を含む女性たちは性の奴隷として売買を繰り返され、少年たちはIS戦闘員の養成学校へと強制入学させられた。バハールも奴隷となるが、ある日、クルド人自治区の女性代議士の呼びかけをテレビで目撃し、監視をかいくぐって彼女にコンタクトを取ることに成功。代議士が送り込んだ助っ人と共に、決死の思いでISの陣地から脱出する。やがてバハールは、“被害者でいるより闘いたい”という言葉に心を動かされ、拉致された息子を助け出すために、女性戦闘員の武装部隊に参加、やがて隊長となる。

<ココが面白い!>

物語説明が長くなってしまいましたが、これはもう端折れない! つい昨日まで、私たち日本人女性と同じように普通に幸せに暮らしていた女性たちが、ある日、突然、理不尽な暴力によって性の奴隷になるなんて。“7000千人以上の女性と子供が連れ去られた”と資料にあるように、これは2014年に実際に起きた事件に着想を得た真実の物語であり、バハールもまた監督が実際に取材した女性戦闘員たちの体験から生まれた人物なのです!! 信じられますか!?

ISを相手に闘うだなんて、聞きかじっただけでは遠い国の話に思えるかもしれません。だからこそ、観ていただきたい! 政治的なお堅い映画では全くなく、彼女たちが脱出する際に色んなことが起きる展開は、リアルなだけに眼が血走って心臓が口から飛び出しそうになるほどで、エンターテイメントと言うと語弊がありますが、一気見必至で、見飽きる瞬間は一瞬たりともありません。ハンパない臨場感で、心底共感せずにいられず、手に汗握り、怒りで体中がブルブル震えるような感情が沸き上がって来るハズです。個人的には、彼女たちが声を揃えて決意を新たに歌うシーンで、思わず胸が熱くなって落涙してしまいました。果たしてバハールは、息子を救い出せるのでしょうか。是非是非、劇場に足を運んで、確かめてください!

 

ご紹介した5本は、決して期待を裏切らないと思いますので、週末何か映画でも行こうかな、という時に、是非、参考にしてみてください。

今年もいい映画にたくさん出会えますように!

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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