いわゆる「出産離職組」で、子育てをしながら仕事をすることに対して様々な悩みを抱えていた私が、新たな一歩を踏み出し、自分なりの答えを見つけるきっかけとなったのが、今回ご紹介している「非営利型株式会社Polaris」(以下、ポラリス)の皆さんとの出会いでした。
地域で子育て中の女性たちが立ち上げた会社で、「セタガヤ庶務部」というワークシェアのチーム運営や、お子さん連れで仕事ができる場所作り、その地域で暮らす経験が価値となるような仕事の創造など、ママたちが身近な場所で安心してできる多様な働き方を提案しています。(詳しくは【前編】で!)
【後編】では、ポラリスを通し、自分の住む地域で自分らしい形で新たに仕事を始めた女性たちの姿や、私自身の「再就職」経験なども含め、それぞれにとっての“ここちよい”暮らし方や働き方を見つめる大切さについて、引き続き考えていきたいと思います。
「暮らすこと」と「はたらくこと」が分断されない形とは
愛着のある地域で“暮らすとはたらく”が分断されずに共存できる仕組みづくりを進めているポラリス。その新しい試みのひとつが、「Loco-cafe OOOI(おーい)」です。地域の女性たちによってコミュニティスペースが運営され、さまざまなイベント等も実施されており、オープン以来、まちに新しいつながりを生み出す場所として、日々にぎわいを見せています。
実はOOOIがあるのは、開発中の分譲マンションの販売センター内。
近年、新築マンションを建設する際、その場所にもともとある地域コミュニティとの関係が希薄なことから生まれるトラブルが社会問題にもなっていますが、その大半の原因が「お互いをよく知らないこと」だといいます。同じ地域に住む方同士のコミュニケーションのきっかけをつくることで、そのような課題を少しずつでも解決していきたい…そんな「社会課題解決を意図した、今までにないギャラリーをつくりたい」という東京建物の皆さんの想いを形にした場所でもあります。
「地域」の中に「はたらく」を入れたい!新たな世界に一歩踏み出したママたち
OOOIのカフェで仕事をしている多くは、地元で暮らすママたち。中には、「9年間専業主婦をしており、働くことに躊躇もあったけれど、スタッフを募集していることを知って勇気を出して応募しました!」と話す方もいれば、OOOIやポラリスの取り組みに共感し「もっと地元と関わることをしたい」という想いのもと、平日の仕事に加えて土日メインで働いている方もいらっしゃいました。
「日常生活に“仕事”が加わり忙しくなったけれど、家の近所で午後早い時間までの仕事ということもあり続けやすい。自分のニーズに合った働き方ができている。」
「日々の営業に加え、イベントの開催などを通して様々な方と話す機会を持つことができ、新たな世界が拡がった」
「同じ地元で暮らしていても、日常生活の中で出会う人は限られている。近くに住んでいても、これまでお会いできなかった方々との新しい繋がりができたことや、OOOIを利用する方同士でご縁が生まれている様子を、とても嬉しく感じている」
また、マンションギャラリーに併設されているということから地域の情報を求めてやって来るお客様も多いため、この地域で主婦としても暮らしている経験があるからこそ伝えられる「生きた情報」が、とても役に立っているといいます。
子育てや地域での暮らしなど、今までの自分の「主婦」や「ママ」としての経験が、新たな仕事で活かされ重宝されている…まさに「暮らすこと」と「はたらくこと」が共存している姿、そして生き生きとOOOIについてお話するスタッフの皆さんの様子は、とても印象に残りました。仕事と暮らしが必ずしも連動すべきとは思いませんが、子育て中の女性にとっては魅力となるモデルケースではないかと感じました。
「探求型」のはたらき方や暮らし方が、未来の選択肢を増やす
私自身は、下の娘が1歳を迎えた頃に派遣社員として「再就職」し、短時間の会社勤務をしながらライターを続けていました。仕事はだんだんと軌道に乗っていきましたが、今現在も含め、毎日9時~17時のようなスタイルではなく「ゆるやかな働き方」をしていることに対して胸を張ることができず、子育てしながらもフルタイムで活躍する周りのママと比べて悩むこともありました。
そんな中で今回の取材は、誰かとの比較ではなく「自分の暮らしや“ここちよさ”に合わせたはたらき方を選ぶこと」について改めて考えるきっかけにもなりました。
「ポラリスは、色々な制約を抱えているとしても、『何が問題なんだろう』『どうやったら解決できるんだろう』ということを皆で考え、新しいはたらきかたや仕事を創造する『協働の場』でありたいと思っています。」
ライフステージや家族の変化によって、暮らし方や働き方を変えて行かざるを得ない私たち。その変化を前向きにとらえ「自分は本当にどうしたいのか」を考え探求しながら次に進むことが、本当に望む生き方への一歩となる…そう話すのは、ポラリスを立ち上げた市川望美さんです。
市川さんご自身も育児をきっかけに離職した経験があり、“働くことで誰かの役に立ちたい、社会と繋がりたい”と思っていても、家族や子どもに負担をかけてしまうことへの不安や罪悪感から、子どもが大きくなるまで働くことを諦めてしまう状況もよく理解できるといいます。
その一方で、「自分らしく働く」ために、お母さん自身が試行錯誤する姿を見せることは、これからの時代を生きる子どもたちの「未来」にとってプラスに働くのではないか、という言葉は、私の心に強く印象を残しました。
今は変化を前提とした時代で、特に働き方や学びが大きく変わっていく時代。文科省の教育指導要領でも、これからの時代を生きるために必要な考えとして「探求」を挙げ、自ら課題を発見し、それを解決するためのプロセスを見出す、課題解決型の「探求学習」を重要視しているそうです。
「子どもに直接何かをしてあげることももちろん大切ですが、ライフステージが変化する中で、お母さん自身が悩みながらも懸命に前へ進もうとする姿を見せることは、子どもたちの『探求』する力を後押しし、家族と共に未来の選択肢を増やすことにつながるのではないでしょうか。
未来を創るために、まずは一歩踏み出すこと。いつかではなく、今スタートする後押しができたらと考えています」
ゆるやかだけど本気で”はたらく”
私自身が働くことを諦めなくて良かったと感じている理由のひとつに、夫に加え子どもたちが「ママの仕事」とその「やりがい」みたいなものを、なんとなく理解し応援してくれていることがあります。
日々は常に慌ただしく、うまくいかないことや失敗・反省も多いですが、仕事も育児も家事もそれぞれ限られた時間の中で、今できるベストを模索しながら自分なりに最大限頑張っている実感はあり、そうやって未来に向けて歩き続けていること自体を、子どもたちにも見てほしい…
市川さんの言葉に、そんな自分の想いを肯定し応援していただいたように感じました。
ライフイベントなどを通し、女性は暮らし方が変化しやすいと思います。
今現在仕事をしている方もしていない方も、ポラリスが発信する「『探求型』のはたらき方、生き方が未来の選択肢を増やすことにつながる」という考えは、大切なメッセージになるのではないでしょうか。そしてそれは同時に、「今、過ごしている毎日」を最大限楽しむヒントにもなるはずだと感じています。
これからまた始まる新しい1年、そして新しい「時代」。皆さんそれぞれにとっての「ここちよい暮らし」とは何か、今一度足を止めて考えてみてはいかがでしょうか?
興味のある方は、ポラリスの活動やワークショップについてなども是非のぞいてみてくださいね!
この連載コラムの新着記事
佐々木はる菜 Halna Sasaki
ライター
1983年東京都生まれ。小学生兄妹の母。夫の海外転勤に伴い、ブラジル生活8か月を経て現在は家族でアルゼンチン在住。暮らし・子育てや通信社での海外ルポなど幅広く執筆中。出産離職や海外転勤など自身の経験から「女性の生き方」にまつわる発信がライフワークで著書にKindle『今こそ!フリーランスママ入門』。