映画でもっと世界を知ろう!各国の“らしさ満載”の佳作が年末年始に勢揃い!<年末篇>
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折田千鶴子
2018.12.07
映画で楽しむ世界各国の暮らしぶり
映画を観る楽しみって、もちろん“感情を動かしてくれる物語”が最大のポイントではありますが、その舞台や背景となる国や都市の風景や、そこで生きる人々の生活を味わえるのも、すごく大きな魅力ですよね。
行ったことのない場所を知る新鮮な歓び、また逆に訪れたことのある場所を映画で再見し、思い出や楽しさが懐かしく蘇ってきたり。日本に暮らす私たちからすると、“なぜ?”と思うような価値観に出会うこともあれば、思わず膝を打つような発見があることも。あるいは、たとえ国や文化や宗教が違っても、共通する感情に深い共感を覚えたり。
既に公開中ですが、LEE読者の皆さんが大好きな世界観、絶対にウキウキしてしまうフィンランド映画『アンネリとオンネリのふゆ』も、もちろん北欧の魅力がたっぷりです!
詳しくは、コチラの頁 →https://lee.hpplus.jp/column/1254386/で紹介されていますので、ご一読を! ほら、もう、このビジュアルが1点あるだけで、女子たるもの、気分がアガりますよね。
さて不思議なくらいにこの年末年始は、世界各国の秀作・佳作が目白押しです。LEE本誌1月号では、『アリー スター誕生』と『アイ・フィール・プリティ』と、2作ともアメリカ映画をご紹介しましたが、最後まで悩みに悩んだ作品がかなりありました!
まずはインド映画の『パッドマン 5億人の女性を救った男』、そしてイスラエル/ドイツ映画の『彼が愛したケーキ職人』です。2作とも、とにかくもう、すっばらしいので、年末の忙しい中でもどうにか時間を捻出して、ご覧いただきたい作品です。
妻を思う男の起こした奇跡に感動必至!??『パッドマン』
その国“らしさ”度 ★★★★★
カルチャーショック度 ★★★★★
笑い&感動 ★★★★★
<こんな映画>
舞台は現代(93年~の約20年)、北インドの小さな町。新婚ほやほやの主人公ラクシュミは、結婚して初めて衝撃の事実を知る。市販の生理用ナプキンは高価すぎて、庶民はみな不衛生な布を使っている、ということを。病にかかる人もいると聞いたラクシュミは、妻が心配でたまらない。遂にラクシュミは妻のために手製のナプキンを作り始めるが――。
<見どころ>
何と実話というから、色んな意味で驚きです! もちろん妻を思うひたむきさ、愛と思い付きから貧しくて学のない彼(でも生来の発明力や地頭の良さはハンパない)がナプキン開発を始め、遂に低コストで大量生産できる機械を発明するに至るのです。その経過も、大いに驚きとワクワク、さらに感動の連続です。
でもその前に、生理期間中は“穢れ”として女性は部屋に入れないとか、男性が“生理”と口にするだけで変態のレッテルを貼られる、なんてインドの状況に、お口アングリなほど驚いてしまうわけです! 激しいカルチャー・ショック!!
つまり、ナプキンを作ろうとする主人公の前には、障壁だらけ。家族さえも“恥ずかしい”と彼を追い出し、妻にも見限られ、それでもラクシュミは諦めず、研究し発明に突き進んでいくのです。後半、彼のほのかな恋が差し込まれるのですが、それがまた切なくて胸キュン必至です! 夫婦愛の物語としても、ほのかな恋物語としても、男の奮闘記としても、あるいは経済的な見地からしても目から鱗が落ちる、味わいどころ、見どころ満載の作品です!
同じ男を愛した、男女が紡ぐ物語 ????『彼が愛したケーキ職人』
その国“らしさ”度 ★★★★
カルチャーショック度 ★★★★★
繊細な心の機微 ★★★★★
<こんな映画>
イスラエル出身の監督、キャストもほぼ無名ながら、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞し、感動を世界にじわじわ広げている感動作です。ベルリンのカフェで働くケーキ職人のトーマスが、イスラエルに妻子があるビジネスマンのオーレンと恋に落ちます。オーレンのドイツ出張中は共に過ごし、愛し合うようになりますが、ある時、約束の日を過ぎてもオーレンが戻って来ません。待ち続け、待ち焦がれたトーマスは、彼が故郷のエルサレムで事故死していたことを知るのです。
<見どころ>
優しくささやかな幸福に満ちた冒頭から一転、いきなり訪れるオーレンの死――。でも物語の本筋は、ここから始まります。エルサレムで突然、幼い息子を女手一人で育てることになった妻アナトが、ショックを押しやってカフェを再開します。そこへ現れたのが、ドイツ人観光客のトーマス。彼は正体を隠し、アナトの店で働き始めます。そうして愛した亡き男の記憶を間に、妻と愛人が向き合うわけです。
妻はどこまで気付いているのか。これから何が起こるのか。そんなサスペンスフルな空気は次第に和らぎ、同じ喪失感や悲しみを持つ者同士だけが感知し得るからなのか、互いを労わるような、そっと支え合うような、心を通わせていく過程が非常に繊細に描き出されます。そこに立ちはだかるのが、敬虔なユダヤ教徒であるオーレンの兄や、戒律の厳しい宗教観です。“うわ、そんなコトがダメなの!?”という驚きや衝撃もたくさんあります! でも、美味なるケーキを通して変容していく2人の心の変遷や関係性が、非常に繊細に映し出され、最後まで心がギュウと掴まれます。深い深い余韻が残る逸品です!
自由過ぎる巨匠のユニークさに感嘆! ??『葡萄畑に帰ろう』
その国“らしさ”度 ★★★★
カルチャーショック度 ★★★
ユニークさ ★★★★★
<こんな映画&見どころ>
みなさんはジョージアという国をご存知ですか? 映画好きな方は、『素敵な歌と舟はゆく』『月曜日に乾杯!』などのオタール・イオセリアーニ監督を思い浮かべるかもしれません。私も大~好きな監督の一人ですが、彼同様“何ものにも囚われない自由な空気”を纏っているのが、大巨匠・最長老85歳のエルダル・シェンゲラヤ監督による本作です。
実際、政界に身を置いていたことのある監督が、官僚社会・権力社会を痛烈に皮肉っている風刺コメディです。官僚の椅子にふんぞり返っていた主人公が、本来大切にすべきものに立ち返っていく――という過程が……え、こんなにも自由でいいの?と驚くくらい、予想外というか、笑っちゃうというか。巨匠だからこそなし得る、何ものをも恐れない大胆な展開に、これぞ、映画!とウキウキしてくるはずです。
老人の深い思い、その真意にしみじみ感動! ????『家へ帰ろう』
その国“らしさ”度 ★★★★
カルチャーショック度 ★★★
しみじみ心に染みる度 ★★★★★
<こんな映画&見どころ>
ブエノスアイレスに暮らす88歳のお爺ちゃん、仕立て屋のアブラムが、自分を高齢者施設に入れようとする子供たちの目を盗み、長年の願いであった旅に出ます。向かう先はポーランド。
マドリッド、パリを経由してポーランドへ。果たして何を目的としているのか――それが、道々少しずつ分かって来るのですが、そこには驚くべき衝撃の過去があり、彼の深い深いが段々とジワジワ胸に迫って来ます。何十年も忘れることのなかった老人の思いに、最後はもう、涙、涙です! 道中で出会い、手を差し伸べてくれる人々――マドリッドのホテルの女主人や、飛行機で乗り合わせた青年、ポーランドの看護師などとのエピソードも、胸に染みます! 南米からヨーロッパへ。各々の国に漂う空気の変遷も非常に興味深いものがあります。今年最後の心ホクホク映画として、是非ともおススメしたい佳作です!
異色のラブストーリー ??『シシリアン・ゴースト・ストーリー』
その国“らしさ”度 ★★★
胸をムギュウやるせなさ度 ★★★★
映像の美しさ、神秘性 ★★★★
<こんな映画&見どころ>
元ネタは、93年にイタリア・シチリア島で起きた13歳の少年誘拐事件です。舞台は、美しい自然に囲まれたシチリアの小さな村。“父親の事情”で、村の人々からやんわり敵視されている家の少年ジョゼッペに、13歳の少女ルナは思いを寄せています。2人が心を通わせかけた矢先、ジョゼッペが行方不明に。周囲の大人は口を閉ざしますが、ルナは必死にジョゼッペの行方を捜し始めるのですが。
シチリアと聞くと、頭の奥の方で“シチリアン・マフィア”という文字がチラついたりする方も少なくないと思いますが、なるほど、こんなのどかな村でもマフィアの影はチラ付き、人々はそれを見て見ぬフリして生きているのだな、とどこか納得したり。ところが本作、誘拐事件を扱いながら、サスペンスやミステリーではなく、“少年少女の、この年代特有の無垢で真っ直ぐな想いの強さ”を神秘的に強烈に刻印したところが、本作のユニークさであり、素晴らしさなのだと思います。こういう展開になるのか……と驚き慄きつつ、妙に惹かれずにいられない、そんな作品です。
ちなみにジョゼッペ役のガエターノ・フェルナンデス君の水も滴る美貌にも、もちろん目が釘付けになるハズです!
タイに彷徨いこんだ英国人ボクサー ??『暁に祈れ』
その国(タイ)’“らしさ”度 ★★★★
ヒリヒリ度 ★★★★
放出されるエネルギー ★★★★
<こんな映画&見どころ>
なんと英国人ボクサー、ビリー・ムーアの自伝小説の映画化、つまり実話です。タイでドラッグ中毒になったビリーが、逮捕されて刑務所に送られます。そこは想像に難くなく、汚職、殺人、強姦が公然と行われている劣悪な刑務所でした。まさに“パリのアメリカ人ならぬ、タイのイギリス人”の彼は、ボクサーといえど命の危険を感じます。そこでムエイタイ・チームの門をたたき、ダメな自分と決別し、生きる希望を見出していこうとするのですが。
どの国の刑務所も地獄でしょうが、刑務所内のガヤガヤ混沌具合がまさに“タイ!”という感じです。白人とも黒人ともまた違う、独特の怖さが漂っています。女性はつい敬遠したくなる世界観かもしれませんが、地獄の中で一人の白人が生き残らんと、命がけで“生きる拠り所”を掴まんとする姿は、どこか清涼感を覚えるほどで、ガツンと目を醒ましてくれるエネルギーに溢れています。一年の締めくくりとして自分に渇を入れたい方、生半可な感動に飽き足りない方には、ぜひお勧めしたい意欲作です。
不思議な空気が映像美に溶け込んだ ??『宵闇真珠』
その国“らしさ”度 ★★★★
心くすぐられ度 ★★★★
寓話度 ★★★
<こんな映画&見どころ>
見どころはズバリ、『恋する惑星』『花様年華』『HERO』など、世界中に熱狂的なファンを持つカメラマン、撮影監督クリストファー・ドイルの監督作ということです。ドイルのファンはもうそれだけで、絶対の必見作になりますよね。既に監督としても何作か経験のあるドイルですが、本作では映像美に溺れすぎず、でもやっぱり詩的な空間、空気感、映像が魅力の映画でした。
舞台は、香港最後の漁村・小さな珠明村です。ある時、幽霊が出ると噂されるこの村の丘の上の廃屋に、謎の男が住み着きます。奇病で陽に当たることができない16歳の少女は、彼と知り合い、ほのかに惹かれ合うのですが……。
謎の男を演じるのは、以前よりドイルと付き合いのあったオダギリジョーさんです。水路が迷路のように入り組んだ村の様子、漁村の暮らし、水上家屋など、独特の生活風景も味わい深いです。ノスタルジーとポエジーが宿ったような映像は、観て損のない味わいです。
世界各国、本当にお国柄ってあるもんだなぁ、としみじみ。
<年始編>もお楽しみにしていただけたら嬉しいです!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。