夏の冷え、取れない疲れ・・・その不調にストップをかけるカギは、私たちの体に無数に張り巡らされた毛細血管と、そこを流れる血液!
毛細血管の老化を防ぎ、血流をよくして不調を改善させるテクニックを、ハーバード大医学部客員教授、医師、医学博士の根来秀行さんに伺いました。
「日々老化する毛細血管を修復し、血流をよくするために最も重要なのは睡眠です」と根来さん。
「全身の老化予防に不可欠なホルモンは、私たちが寝ている間に分泌されます。全身の細胞を修復し免疫力を強化する成長ホルモンは、1日の分泌量の70%が睡眠中に分泌されます。
特に、寝入りばなから3時間の睡眠が最も深い時間帯がピークで、この間にぐっすり深く眠れていることが重要です。
また、成長ホルモンと同じ時間帯に分泌される睡眠ホルモン『メラトニン』には、とても強い抗酸化力があります。これらのアンチエイジングホルモンが、毛細血管をメンテナンスし、老化・劣化を防ぐのに重要な役割を果たしています。
不調知らずな人の理想的な睡眠サイクル
7 時間程度寝られて、質のいい睡眠がとれていれば、血管は元気になり不調とも縁遠く。体のリズムが整い、また質のいい睡眠が訪れる……というプラスのサイクルで、いつまでも若々しく!
毛細血管を修復し、血流をよくするためにもうひとつ重要なのが、「自律神経の働き」と根来さん。
「毛細血管は自律神経にコントロールされていて、交感神経優位の状態では血管が収縮して血流を抑え、副交感神経優位の状態では血管がゆるんで血流がよくなります。
睡眠中は副交感神経優位になり、全身の毛細血管にくまなく血液を行き渡らせる貴重な時間。
この時間がしっかり確保できることで、各細胞に必要な酸素や栄養素、分泌されたアンチエイジングホルモンが届けられるのです。
それにはある程度まとまった時間が必要で、ベストは7時間。7時間睡眠の人が、最も病気になりにくいという研究結果も。質と量のどちらも備えていることが、いい睡眠の条件なのです」
いい睡眠とは?
1 体内時計が整う
体内時計(サーカディアンリズム)に従って自然に眠くなるのが睡眠ホルモン分泌の証。入浴時間や明かりの調整など、体のリズムを妨げない生活を。
2 自律神経が整う
睡眠中は副交感神経がリラックスして、血管が開いている状態。日中ストレスや緊張で交感神経優位になりがちな人こそ、血管をゆるめる時間を大事に。
3 ホルモンがきちんと働く
成長ホルモン、睡眠ホルモンは毛細血管のメンテナンスに不可欠。深く眠り、7 時間程度の長さを確保することが、これらのホルモンの分泌に必須。
スムーズに入眠して自然な眠りにつき、その間に自律神経が整ってホルモンもしっかり働ける。この繰り返しが毛細血管を元気にし、その数や量を増やし、不調の改善につながります。
いい睡眠のためにできること
□ 0時就寝→7時起床が睡眠の最強タイム
「成長ホルモンは入眠から最初に訪れるノンレム睡眠(深い睡眠)時に最も分泌されます。そして夜明けが近づくにつれてレム睡眠(浅い睡眠)が増えるため、例えば夜中の3 時などに就寝するとノンレム睡眠とレム睡眠がせめぎ合い、眠りの質が低下し、成長ホルモンの分泌が不十分に。遅くとも0 時には就寝したいもの」(根来秀行さん)
□ 朝日を浴びると睡眠ホルモンが増える
「メラトニンは朝日を浴びてから15~16時間後に分泌が始まるように、体内時計でコントロールされています。スムーズに眠るには朝日を浴びる習慣が大事。また、最新の研究で、体内時計の1 日は24時間11分と判明。朝日を浴びるとその11分のズレがリセットされるので、体内時計が整い、ホルモンも正常に分泌されるんです」(根来秀行さん)
□ 歯みがきは寝る30分前までに
「メラトニンは一般的には30代後半から徐々に減っていくとされていますが、私たちの普段の行動にメラトニンを減らす作用があることも。例えば寝る直前に歯みがきをし歯茎を刺激することで、メラトニンの分泌量が減ってしまうことがわかっています。ベッドに入る30分前には終わらせておくことを心がけましょう」(根来秀行さん)
「いい睡眠」が分かっても、実践するとなると難しいもの。読者から寄せられた疑問、不安に、根来さんが回答します。
Q 子どもの寝かしつけ後、自分は起きなきゃいけない場合に気をつけることは?
A 睡眠ホルモンを無駄にしないため、間接照明の中で動いて
「寝る前に蛍光灯の強い光やスマホ画面から出るブルーライトを浴びると、メラトニンが減ってその後の睡眠の質が悪くなります。さらに、睡眠の途中で光を浴びると、寝る前に出ていたメラトニンの効果まで棒に振ってしまうんです。一度寝てしまった場合は、無理してすぐに起きるより、思いきって寝てしまって、翌朝早く起きて片付けることをおすすめします」(根来秀行さん)
Q 毎日7時間睡眠を確保するのがどうしても難しい!どうしたらいい?
A 「週末の早寝」か「平日の昼寝」で返済を
「睡眠時間の不足は、1 週間単位で考えてリカバリーしましょう。平日7 時間確保できなければ、週末に少し長く寝て補うという感覚です。その場合、昼近くまで寝坊すると体内時計のリズムが狂い、翌日からの生活が乱れがち。就寝時間をいつもより早くして睡眠時間を増やすほうが、影響が出にくいです。また、日中の昼寝で夜の睡眠不足をコツコツカバーするのも手」(根来秀行さん)
Q 効果的な昼寝の方法や時間帯は?
A 午前中なら90分以内、昼食後~夕方なら30分以内
「夜の睡眠に差し支えないベストな昼寝は"午前中、90分が限度"が目安。とはいえ、体内時計からすると14時頃がちょうど眠気がくる時間帯。そこに合わせるなら、夕方にさしかかる前に30分以内の昼寝を。リンパを動かせるよう横になるのがいいですよ。長く寝すぎると脳と体が就寝モードに陥って起きるのがつらくなるし、体内時計が乱れて夜の睡眠に差し支え、悪循環に陥ってしまうので上限を守って」(根来秀行さん)
毛細血管にまつわる疑問Q&A
毛細血管の老化は、健康や美容面でどんな影響があるのでしょうか? もっと詳しく知りたい「毛細血管」について、Q&A形式で根来さんに伺いました。
Q 毛細血管の衰え、体調面以外ではどうやってわかる?
A 肌のシミ、シワ…「見た目」に出ます!
「肌や髪など、若さをはかるバロメーターである体の表面にこそ、毛細血管の影響は表れます。
これらは体の中で最も末端の器官であり、細胞の入れ替わりが激しい場所。血流がしっかりと行き渡っていないと、正常なターンオーバー(生まれ変わり)が行われません。
その結果、肌のザラつきやくすみ、シワ、髪の毛のパサつきや白髪、やせ毛といった症状が出ます。毛細血管は体の内側の健康はもちろん、体の外側=見た目の美しさも大きく左右するのです」(根来秀行さん)
Q 毛細血管を衰えさせるのは、加齢だけ?
A 「乱れた生活習慣」が劣化を加速させます
「年齢は巻き戻せないので、加齢による毛細血管の自然な老化は気にしすぎても仕方がありません。大事なのは、そのスピードをできるだけ遅らせること。加齢と並んで毛細血管を衰えさせるもうひとつの要因は、生活習慣です。
質のいい睡眠をとる、適度な運動、バランスのいい食事など、血管を増やすための生活習慣を実践して、自然に衰えていく血管をできるだけ少なく食い止めて。弱っている血管を復活させる努力が大切です」(根来秀行さん)
Q 手先や足先が冷えます。末端の毛細血管も増やせる?
A 全体の結果であれば、末端にも増えます!
「この部分だけ毛細血管を増やしたい、というように部分的なことはできません。ですが、筋肉を増やしたり体のリズムを整えるなどして、体全体の毛細血管を増やせば、結果的に末端の血管も増えるといえるでしょう。
また、末端の冷えは自律神経のバランスも大きく影響しています。自律神経のバランスを整え、副交感神経優位の状態で血管をゆるめてあげれば、末端の血流が改善されて冷えが解消されていきますよ」(根来秀行さん)
Q 毛細血管が増えて血流アップした結果、血圧が高くならない?
A むしろ逆!血圧は下がります
「血流をアップさせると、狭い血管の中を大量の血が流れていくことで血圧が上がってしまうようなイメージをいだくかもしれませんが、これは誤り。血液の量は基本的に一定であり、毛細血管が増えて血液が流れる通路が広がれば、むしろ血管にかかる圧は低くなると考えられます。
毛細血管をしっかり増やして血流をよくすることで、体にデメリットをもたらすことは何もありません」(根来秀行さん)
Q いい睡眠や食事が理想だけれど、夜や朝は余裕がない。昼間にできることはある?
A 最も簡単なのは「呼吸」。腹式呼吸で体を変えよう!
「基本的に自律神経は自分でコントロールできないのですが、唯一、呼吸によってのみ副交感神経優位の状態にもっていくことができます。
おなかに空気を入れるように4 秒かけて鼻から息を吸い、4 秒止めて、8 秒かけて口から吐き出す。
仕事や家事の合間などに、この呼吸法をやってみてください。何回か繰り返すうちに、心も体もほぐれてくるのが実感できるはずです。さらに、ベッドに入る前に行えば、リラックスして入眠がスムーズになりますよ」(根来秀行さん)
Q 自宅で手軽にできる老化防止法は?
A 入浴は体を温めて血流をよくするのに最適
「体を温めると、毛細血管の隅々まで血流を行き渡らせることができます。入浴は手軽に体を温められるので、夏でもシャワーで済ませずにきちんと湯船に入るのがいいでしょう。
ただし、寝る直前に熱い湯に入ると体温を上げてしまい、交感神経優位になって眠気を遠ざけてしまう場合も。
寝る1 時間前に上がるように、ぬるめのお風呂につかるのがベスト。ベッドに入る頃には自然な眠気がやってきて、質のいい睡眠が得られます」(根来秀行さん)
次回は、血を作り、血流をアップさせる「食べ方」のコツをお届けします。
イラストレーション/多田景子 取材・原文/遊佐信子
※詳しくは2018年8/7発売LEE9月号をご覧下さい。
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