いろんなお楽しみが盛りだくさんの群像劇
今から6年前に日本でも公開された、世界的な大ヒット作『最強のふたり』(11)を覚えている方も多いのではないでしょうか。確か、私もその年のベスト3の中に、『最強のふたり』を入れた覚えがあります。ブラックでギリギリの笑い(しかも思わず噴き出し系)と、シリアスな感動の物語のバランスに、心底、感心させられ、惚れさせられた覚えがあります。
その大・大・大感動作を監督した2人、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督が新作『セラヴィ』を携えて来日しました。昨年公開されたフランスでは、またも大ヒット。LEE本誌でもご紹介しましたが、日本でも先週から(7月6日)公開が始まっていますので、劇場に急いで駆け付けて欲しい素敵な作品です!!
本作のテーマは、“フランスの結婚式の裏側”。主人公は、引退を考え始めたベテランのウェディングプランナーのマックスです。演じるのは、日本でも大人気の作品『ムッシュ・カステラの恋』(99)や、『みんな誰かの愛しい人』(04)の記憶がいまだ薄れていない、あのオジサマ、ジャン=ピエール・バクリさん。ね、それだけで何かもう、観たくてウズウズしませんか? カッコ良くはないのに、妙な味と愛嬌があるオジサマですよね。
30年間、様々な結婚式をプロデュースしてきたマックスのもとに、17世紀の“古城での豪華絢爛な結婚式”の依頼が舞い込みます。ところが新郎は、かなり鼻持ちならない奴! いつも通り、マックスは完璧なプランを立てますが、かき集められたスタッフの中には、ポンコツな臨時スタッフもかなり紛れ込んでいて……(笑)。 さて、結婚式はどうなる!?
俳優ありきで脚本を執筆する方法
――シナリオを書き始める前に、ジャン=ピエール・バクリさんに主演をお願いしに行ったそうですね。物語の構想も出来る前に、打診したのですか?
エリック「その通り! ジャン=ピエール・バクリと言えば、みんな一緒に仕事をすることを夢見る俳優だからね。僕らもずっとそう思って来た。バクリさんが僕らの『最強のふたり』を観て、“とても大衆的な言葉に気高さを与えてくれた”と言ってくれたと聞いたんだ。彼はかなりインテリだから、また大衆映画を喜んでくれるだろう、と。シナリオを書く前に会いに行き、是非、とお願いしたんだ。すごく喜んでくれたよ。非常に要求の高い役者で、なかなかイエスと言ってくれない人でもあるんだけどね」
――でも、シナリオが出来上がってから、正式に断られることもあるわけですよね? 俳優ありきで当て書きするというのは、結構、危険だったりしませんか?
オリヴィエ「確かにリスキーだよ! 実際に断られたこともあるしね」
エリック「そうそう、あれはイヤな奴だったけど(笑)、でも、その人のお陰でシナリオを書けたから、ま、感謝したけどね」
オリヴィエ「そう。当て書きだと、シナリオを書くのが容易になる。実際の姿を思い浮かべると、キャラクターとして存在させるのが容易になるんだ」
オモシロ人間続々登場の群像劇!
――本作のように、色んな人の物語が交錯する群像劇というのは、どのように脚本を書き進めるのですか?
エリック「まず、登場する人物たちの特徴を書きだしていく。キャラクターに色付けするんだ。例えば、この人はちょっとボケで、髭も剃っていない、とか。次に、そんな人物はどんな行動を取るか、と細かい物語を作っていく。それを別のキャラクターと組み合わせ、全体に色付けして行く感じ。そうすると、この人はあまりカラーが出ていないな、ということが分かってくるので、別の人物のエピソードにも登場させよう、という風に整理していくんだ」
――つまり、最初に“引退を考えているウェディングプランナーが、いけすかない新郎の結婚式を手掛けることにする”という程度のプロットだけを作っておいて、あとは各キャラクターの物語をそれに絡めて行く感じ?
オリヴィエ「その通り。彫刻と一緒だよ。それくらいの大まかな枠組みにしておいて、毎日、少しずつ削っていく感じ。マックスから見たスタッフチームの働きを大きな柱に、スタッフから見た結婚式、招待客を描いた。働く人々の側から結婚式を見るなんて、あまりないことだからね」
エリック「それから障害を色々と出そう、という流れ。食中毒とか、オーケストラの人たちとシステムの人の仲が悪いとか(笑)。考えられる障害をどんどん挙げ、物語を組み立てていったんだ」
だって舞台は、恋多きフランスだよ(笑)!
――かつて結婚式のスタッフとして働いていた、お2人の異色の経験から仕込んだ実話は、どの程度ありますか?
オリヴィエ「ほぼ全部(笑)!」
エリック「僕らの記憶もあるし、映画のために調査したりしたけれど、ほぼ実話だよね。もっともコメディだから、それぞれ少しずつ誇張しているけれど」
――え!? 例えば、臨時スタッフが新婦をナンパするとか?
オリヴィエ「もちろん実話だよ。オーケストラのリーダーと新婦が2人で消えてしまった、なんてこともあったくらいだから(笑)。だって、フランスだよ(笑)!」
――新郎も、悪役かってほどイヤミな奴でしたね(笑)!
エリック「うん、結婚式っていうと、大体、新郎がイライラしているんだ。ちょっと誇張しているけど、働いていたときの報復みたいな気持ちを彼に込めてやった(笑)!」
オリヴィエ「そう、報復してやったね。遂に*******(驚きつつ爆笑してしまうポイントなので、お楽しみのため伏せます!)までしてやったゼ、って(笑)!」
エリック「あの場面の観客の反応が楽しみで、ほとんどの国で録音しているんだ。これがフランス、これがスペイン、これはトロントで上映した時だよ」
スマホで次々と音声を聞かせてくれるお2人。そこには、どの国でもこんな感じの反響が入っていました。
<シーン → ドッと爆笑 → 誰か(大抵男性)のヤジや快哉の声 → 一斉に拍手喝さい>
日本人はあまり感情表現しないからなぁ、、、と言ったところ、「いやぁ、日本人もきっとこうなると楽しみにしているんだ」と、かなり自信をのぞかせていましたヨ!
笑いでメッセージを語るって、とってもエレガント
――お2人がずっと作り続けている“コメディ”というものに対して、何かポリシーのようなものはありますか?
オリヴィエ「僕らの場合、ただの“笑い”ではなく、ちゃんと僕らが語りたい物語があること、語るべき何かアリきでコメディを作る、ということかな。笑いによって人の心をまず開うと、より感動を強く感じてもらえる、と自負しているんだ。何より、自分の伝えたいことを笑いを通して語るって、とってもエレガントなことじゃない?」
――お2人が少し参考にしたと語る『人生スイッチ!』は、本作よりも少し濃い味付けというか、ブラックな笑いですよね。
エリック「すごく面白い映画だったよ。あの作品も、今、アルゼンチンがギリギリの状態にある、という批判を込めている。そういう意味で、通じるものがあるな、と」
オリヴィエ「僕らは、ブラックな味付けをすることにも全く躊躇はないよ。『最強のふたり』なんて、身体障碍者を主人公に据えたコメディだったし、ギリギリの笑いを作り出したという自負もあるからね。もう一つ、コメディは常に現実に即していなければいけない、というのもこだわりかな」
こんな時代だからこそ、コメディが必要なんだ
――コメディでは“間”が非常に重要ですよね。シナリオ、演技、編集と、どの段階が“間”を作る上で最も重要ですか?
オリヴィエ「もちろん全てだけど。シナリオも一応、ある程度の感覚を持って細かく書き込むし、演出もある程度はコントロールする。でも、やっぱり、編集の段階で“間”を作り込む、いや完成させるって感じかな」
エリック「基本的に現場では、自由な演技を求めるんだ。部分部分でキチっと指示は出すけど、俳優には自由を与え、予測していないことが俳優から出てくるのを期待するね」
――昔に比べ、現代の日本の若者は、海外に目を向けるより、国内に目を向けがちです。フランスの若者はどうですか?
エリック「映画に関して言えば、今も昔もフランスほど世界中の作品を観ようとする国はないと思う。今年もカンヌ国際映画祭でパルムドールを是枝監督(祝!『万引き家族』)が受賞したように、各国の映画を素直に高く評価、愛しているよ、みんなね」
オリヴィエ「ただ、テロの後、国の内外を問わず極右や極左など極端な人たちが出て来て、国民を対立させようとしている。オマール・シー(『最強のふたり』の主演俳優で黒人)をフランスで最も愛される俳優として選んでおきながら、移民排斥と言い出す国だから。フランスのパラドックスだね」
エリック「だからこそ僕らは、“常に楽観的で、朗らかでいなければいけない”ってことを映画で語っているんだ」
観て損のない、フランスのエスプリが随所に効いた本作。既に公開が始まったので、ぜひぜひ、劇場で“セラヴィ=これが人生さ!”と浸ってください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。