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映画ライター折田千鶴子のカルチャーナビアネックス

超絶イケメン俳優が語る映画『最初で最後のキス』    “この役を生きて、僕は自由になれた”

  • 折田千鶴子

2018.06.05

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思わずウットリ!! 美しきリマウ君が来日!

既に先週末(6月2日)に公開が始まった作品ですが、どうしても応援したい映画『最初で最後のキス』。ギリギリのタイミングで主演のリマウ・グリッロ・リッツベルガー君が来日したので、心逸らせて駆け付けました!

リマウ・グリッロ・リッツベルガー
1997年4月15日、オーストリア、ウィーン生まれ。3歳のときにイタリアのトリエステに移住する。
インドネシア人の父、オーストリア人の母を持つ。演劇のワークショップに通っていた経験があり、映画初出演となる本作で主演に抜擢された。現在、ローマ大学哲学科に在学中。   写真:齊藤 晴香

すると、まぁ、撮影時から日本公開まで3年という月日が経った今、さらに麗しの美青年となったリマウ君を目の前に、思わずウットリ見入ってしまいました。いけない、いけない。映画のことを聞かなければ。

そう、『最初で最後のキス』はきっと皆さんの心にも刺さる、忘れがたい一作になること間違いなしの映画なのです。

 

3人の少年少女のリアルな思春期映画

舞台は現代のイタリア、北部の地方都市のウーディネという町です。

「最初で最後のキス」
監督・原案・脚本・原作:イヴァン・コトロネーオ
出演:リマウ・グリッロ・リッツベルガー、ヴァレンティーナ・ロマーニ、レオナルド・パッザッリ
イタリア映画/配給:ミモザフィルムズ/提供・配給:日本イタリア映画社
新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷ほかにて公開中
公式サイト:http://onekiss-movie.jp/
©️2016 Indigo Film – Titanus

リマウ君が演じる16歳のロレンツォは、愛情深い里親に引き取られ、この町にやって来ます。そして高校に通い始めるのですが、個性の強いロレンツォは初日から浮きまくり

う~ん、確かに。日本の高校でも絶対にもちろん、浮きまくるハズ! だってロレンツォ君ったら、ファッショナブル過ぎるんですもの。ショッキングイエローの眼鏡をかけたド派手ファッションで、堂々とステップを踏みながら初登校するのです。一目で“ゲイ”と分かる。でも、それを隠しもせず堂々と「これが自分だ!」と主張できるロレンツォは、観ていて気持ちがいいし、ある種、憧れてしまいます。

――このロレンツォの生き生きとした魅力が、映画の原動力となっていますよね。リマウ君自身は、彼を演じながら、ロレンツォの魅力をどのように感じましたか?

「とても若い彼らは、普通、弱さを持ち合わせた年代です。でもロレンツォは、思春期特有の弱さがなく、とても強い人間です。複雑な家庭環境で育ってきたにもかかわらず。ある意味、非現実的な人物像と言えるかもしれません。そんな彼――何も悪くもない16歳のロレンツォが、田舎の町に来て、不条理な状況に巻き込まれてしまうことからストーリーが生まれてくるわけです」

「彼と他の人間たちの間に距離が生まれるわけですが、その距離こそ、理想と現実の距離と言える気がします。ロレンツォがウーディネという小さな田舎町に現れたことで、彼が自動ドアとなり、この物語を開いた、そんな印象を持っています」

 

ロレンツォ、ブルー、アントニオ。3人の恋と友情

不愛想な女の子、ブルー。みんなと口をきかない少年アントニオ。クラスから浮いているらしい2人と、ロレンツォは急速に仲良くなっていきます。密かにアントニオはブルーに想いを寄せていますが、ブルーには大学生の恋人がいるようです。そしてロレンツォは、アントニオに段々と惹かれていくのです。

――リマウ君自身は、非常に物静かな人物のように見受けられます。ロレンツォはまるで真逆の、はっちゃけたキャラですが、そんな人物になり切るのは難しくなかったですか?

「彼を演じるのは、すごく楽しかったです。でも実際、僕にもロレンツォみたいなところがありますよ(笑)。ロレンツォは、何も怖がらない。自分をさらけ出すことを恐れない。そんな彼を演じることは、すごく嬉しくて、誇らしかったです。それに、僕は普段、羽の付いた靴を履いたり、踊ったりしないので(笑)、すごく楽しかった」

「撮影中は、いつもの自分のテンションより、常にだいぶ高い状態をキープしました。ブルー、アントニオ役の俳優と3人でずっと一緒に居て、深く知り合い、互いに関係を作り出していきました。現場で3人の力学を学んでいったような感じです。そうした上で演じているうちに、爆発的なエネルギーが生まれて来るのを感じました」

 

 

――3人の楽しい友情は、とても短い期間でした。あのかけがえのない時間を、どのように感じますか。いつの時代も、思春期というのは、自分探し、居場所探しで不安なものですよね。

「撮影当時は18歳。21歳となった今でも僕は、自分は何者なのか、何をやろうとしているのか、世界はどんなものなのかということが全く分かっていません。まして16歳の彼らには、分かるわけはないと思います。でもロレンツォを演じることで、色んなことから自由になれて、とても多くの可能性があるということに気づかされました。とても貴重な機会でした」

 

家族や家庭は思春期の子供とどう接すればいい

 

ロレンツォのお部屋。イタリアの各家庭の、カラフルな内装なども見どころです。とっても遊び心があって、楽しい!

――思春期の子供とどう接すればいいのか、というのは大人も常に悩んでいます。

「ええ、この作品の中でも色んな問題が描かれていますが、家庭に問題があるから子供がダメになってしまうとか、何か酷いことが起こるとか、そういうステレオタイプに描かれていない。そこが本作の素晴らしいところだと思います。ロレンツォ、アントニオ、ブルーという登場する家族や家庭は、とてもいい状況、いい環境です

「でも子供というのは、いつか自分自身を見つけるために、そこから遠ざかっていかなければならない。家族や家庭は、勇気をもってそんな子供を手助けしなければいけないと思います。では、何をすればいいのか。常に子供たちのそばに居ること、それしかないと思います。子供が離れても、そこに戻って休み、また外の世界に出ていくことができるような状態でいること」

「本作で描かれるような悲劇を避ける明確な方法は、残念ながらないのです。でも大人たちは、常に子供の近くに居る、寄り添う、ということが一番大切だと思います」

――常に関心を持ちつつ、でも口は出さない、と(笑)!?

「ですね(笑)。近くに居ることは大事だけれど、子供がしていることに対して口を出したり、自分たちの価値観で物を言ったりするのは避けるべきですよね。だって、子供たちの環境を、実際には親は知らないのですから。自分たちが生きて来た環境とは、子供たちはまた違うところで生きている。口を出すことは、子供たちの経験に限界を与えてしまうと思います」

「子供は非常に感受性が強い。だから、非常に気をつけなければならないと思います。親という仕事って、本当に大変だと思います。非倫理的なことは避けさせなければならないし、自分たちの足で歩いて行けるように支えていかなければならない。子育てって、いわば錬金術師のような仕事ですよね。世界で一番、難しい仕事だと思います」

 



考えずにはいられない“もし、あの時――”

――監督と一緒に、イタリアの高校で本作を上映し、ティーチインしているそうですね。

「はい、彼ら高校生は、この映画はすごく強い作品だ、と受け止めてくれているようです。思春期における、非常に表現しにくいことを表現してくれている、と言われます。“全か無か”みたいな状態にある彼らの、そのバランスを非常にうまく掬い取り、描き得た作品だと言ってくれていますが、僕もその通りだと思っています」

 

かけがえのない、キラキラ輝く青春の日々…。

――とても衝撃的なラストではありますが、印象的なシーンを挙げてください。そして、そのシーンの持つ意味、リマウ君自身にどんな思いを抱かせるシーンかも教えてください。

「こうなるはずだった、という3人が川で遊んでいるラストシーン。そして3人が打ち解け、親密で楽しい夜を過ごすシーンに加え、アントニオが学校に遅刻して来て、門のところで一旦は用務員さんに「もう、入れない」と言われるシーンの3つですね」

“もし、あの時――”と考えずにはいられないですよね。事件を起こしてしまうアントニオは、決して悪者ではありません。ある意味、犠牲者でもある。彼自身の弱さや恐れがあるために、事件を起こしてしまうわけですが、彼自身、社会から銃口を向けられているような状況にあったのだと思います。その3つのシーンが、本作の核になっていると思います」

――さて、現在、ローマ大学で哲学を学んでいらっしゃいますね。今後も俳優は続けていきますか?

「はい。俳優仕事は少しセーブしながらという感じなのですが、この作品の後、短編映画に2本、出演しました。テレビドラマで小さな役をいくつかやっています。大学に残って研究者の道も考えなくはないのですが……まだ21ですから、先のことは分からない……でも、俳優は続けるつもりですよ!」

映画『最初で最後のキス』は、絶賛上映中。全国で順次公開される予定です。

ぜひ、3人の少年少女の強い想い、ビタースウィートな青春の煌めきを味わってください!

 

 

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

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