私は、ママ向けの哲学教室に通っています。哲学と聞くとなんだか難しそうに聞こえますが、学ぶことはとても単純で、「日々を清々しく過ごすための方法を話し合う」という内容。実際に考え出すと、自分と向き合わなくてはいけないので、難しいことではあるのですが…お教室の後はやはり清々しい気持ちになっています。ママでなくとも、流れるように過ぎていく毎日の中で、立ち止まって考える時間は貴重ですよね。今日は授業の中で聞いた、清々しい素敵な話をみなさんに紹介させてください。
新幹線で出会った大学生の神対応に感動!?
通っているのは、東京都世田谷区の高橋由紀子先生の『こころへ教室』です。(過去にタイムマネジメントについての記事で親子哲学のクラスのことも書いています)ママ向けの『ははのちえの和』というクラスで、この日は、1~2歳前後の子どもをもつママたちと一緒に受講しました。授業の最初に、由紀子さんが新幹線で体験した出来事を話してくれました。その話の中に出てくる大学生の行動に、ママたちは目がハートになってしまったのです!
奈良へ旅行していた由紀子さんは、お土産に購入した本や雑貨などが詰まった、それはそれは重いスーツケースを持って新幹線に乗り込みました。「重いから自分で網棚まで持ち上げられるかしら?」と思ったと同時に、近くに座っていた大学生が、すくっと立ち上がり、つけていたヘッドフォンを外して「荷物、上にあげましょうか?」と聞いてくれたのです。
「重いけれど…いいの?」と言っている間にひょいと持ち上げる大学生。その上、「荷物に向きはありますか?」とまで!お礼を言って、由紀子さんは彼の隣に座りました。ヘッドフォンをして座った大学生でしたが、しばらくしてまたヘッドフォンを外して「どちらまで行かれますか?」と。「品川まで」と由紀子さんが答えると、大学生は「僕は小田原までなので、先に降ります。よろしかったら、今のうちに窓側の席と変わっておきましょうか?」と、これまた由紀子さん側に立ってどのようにすれば心地よく過ごせるのかを配慮した提案をくれたのです。
車内販売のワゴンが来たので、由紀子さんは大学生に「ジュースをごちそうさせて」と言いました。
大学生「え?なんでジュースを???」
由紀子さん「さっき荷物を手伝ってくれて、うれしかったから……」
大学生「いやいや、このくらいのことはいつもしますし、僕の周りの人もみんなしていますよ。ジュースは結構です」
由紀子さん「いいじゃない、まあ、つきあってよ(笑)」
というわけで、オレンジジュースを2つ頼むことにしました。そうしたら、ワゴンにはオレンジジュースは1本しかなく、「僕はリンゴジュースにします」とすぐに譲ってくれたのです。俗にいう〝神対応〟ですよね!
……ここまで聞いて、私たちママは、目をキラキラさせて「すごい!そこまで言ってくれる人がいるなんて!!惚れちゃいますね」とか「素晴らしい!感動します」などと心に栄養を与えてもらったような気持ちになっていました。そこで、由紀子さんがひと言。
「みなさんがそうであるように、私も感動してしまったの!ここまでしてもらったのは、初めてかもしれない。本当に清々しくて、うれしかった。でもね、『このくらいのことで?』と彼に言われてよく考えたら、困っている人がいたら助けるというのは確かに当たり前のことなのよね」と。神対応という言葉はごく最近出てきたものですし、それが話題となるという世の中は、ちょっぴりせつない気がしてきました。では、自分や子どもたちがこのような気持ちの良い対応をするためには、どうしたら良いのでしょうか?
コミュニケーション能力について考えてみよう!
先ほどの話に出てきた大学生は、とてもコミュニケーション能力が高いと感じました。そこで私たちに出された課題は「コミュニケーション能力っていったいどんなものなのか?」ということでした。よろしければぜひみなさんも一度、紙に書いてみてください。
①「コミュニケーション能力」という言葉から どんなことを思いますか?(ワードでも文章でも可)
②あなたの周りで「コミュニケーション能力」のある人を紹介してください。(どのような場でそのように感じる/感じたのかについても書き添えて)
③あなたには「コミュニケーション能力」が必要ですか それはなぜですか
私が書いたのは、次の通りです。①人と気持ちよく会話をし、信頼関係を築くための能力のこと②俳優のムロツヨシさん。舞台のカーテンコールで細かくスタッフへのお礼を言い、関わる人みんなに気を配る言葉をかけていて温かい気持ちになった ③とても必要。人間は言葉を使ってコミュニケーションをしないと楽しく暮らせないと思うからです
みなさんはいかがでしたか? ほかのママの意見は①相互理解。相手をよく知って、良い関係をつくるための力/言葉に限らずコミュニケーションの方法はある ②こころへ教室の由紀子さん。初めて会う人でもその場になじむように接して、哲学しようと思わせてくれる/会社の上司。どの部署の人でも、年齢に関わらずその人に合った話題で盛り上がり、みんながその人のことを慕う/お隣さん。子連れで友人宅へ遊びに行った帰り、そのお宅に自分の家のカギを置いてきてしまって途方に暮れているところ、子どもを預かってくれて自転車まで貸してくれて救われた……などというものでした。(③は発表しなかったので、みんなの意見がわかりませんでした)
みんなの回答が出揃ったところで、哲学者で評論家の長谷川三千子さん、教育学者の斎藤孝さん、哲学研究者で武道家でもある内田樹さんの著書から、コミュニケーション能力に関する内容を抜粋して紹介してもらいました。
由紀子さんの見解はこのようなものでした。
「コミュニケーションとは『対話』であり、それによって目的に向かって生産性のある会話や行動をする必要がある。自分とは違う、他人の相対する意見が出るからこそ、ひとりでは思いつかなかったアイデアにたどり着いたり、楽しい展開になることがある。一歩外に出たら、自分とは意見が違う人ばかりだと思っておいてちょうどいいのでは?そうすれば、気が合う人に出会ったとき、貴重だなとうれしい気持ちになれる」
その後、みんなでいろいろと考え、一致した定義は、「コミュニケーション能力とは、その場の空気がなごやかになり、安心させる場を作る力。そこにいる人を居心地良くさせる能力」というものでした。私たちが例に挙げたコミュニケーション能力がある人たちは、みごとにこの定義にあてはまっていました。
まずは親である私が、子どもにお手本となるように、いろんな場面で初めて会った人や意見が正反対の人とでも、心地よいなごやかな空気の中で話ができるよう努めます! とは言っても、簡単でないことはわかってます(笑)。でも、せっかく考える機会があったのですから、少しでも良くしようというのが私なりの哲学だと感じています。どこででも、ひとりでもできるのが魅力。みなさんも哲学してみませんか?
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上紙夏花 Natsuka Uegami
ライター/ビューティープランナー
1977年、大阪府生まれ。吉本新喜劇の女優を経て、ライターに。現在は化粧品の商品開発やPRを手掛けるほか、ベビーマッサージ講師としても活動している。夫・息子9歳、3歳