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深く心に残るファンタジー他、全4冊ご紹介

2018.05.01

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昔話の力を今によみがえらせ、想いを伝えるファンタジー

『雲上雲下』朝井まかて ¥1700/徳間書店

昔話は前の世代から次の世代へと手渡されてきた、形のない贈り物のようなものと言えるかもしれない。
「昔むかし、ある所に……」という決まり文句から始まる昔話では、人と自然が当たり前のように言葉を交わし合い、現実にはありえない夢もかなう。作り話と片付けられることもなく、長い年月を語り継がれてきたのは、そこに人々の尽きせぬ想いがこめられているからだ。『雲上雲下』は、そんな昔話の力を見事に現代によみがえらせた一冊である。
この本の「物語」の語り部となるのは、深い山中のはずれにある草原に根を生やした、異形の草だ。太い樹木と見まごう姿を持ち、幾千もの鋭い刃のような常緑の葉を茂らせたこの草は、自分の名も忘れ、いつからこの地にいるのかも覚えていない。ある日、迷い込んできた小狐がこの草を「草どん」と呼び、話をせがむ。草自身も驚いたことに、「とんと昔の、さる昔」と口に出したことで、記憶の彼方から次から次へと昔話が体の内からわき出してきた。

穴に落ちていった団子を追いかけて金持ちになったおじいさんとおばあさん、水神さまに祈りを捧げ田た螺にしの子どもを授かった夫婦、乙姫の病気を治すため猿の生き肝を取りに行く亀……巻末に参考文献や民話の語り部たちの名が挙げられているが、おそらく「草どん」がこの本の中で語る物語には、著者が新たな息吹を加えているはずだ。これが抜群におもしろい。夢中になって筋を追ううち、かつての子どもたちと同じように、胸ふくらませ、時に涙し、あるいは恐れおののきながら、いつしか昔話の世界に取り込まれてしまう。

いくつもの謎が解き明かされる壮大なクライマックスからは、物語を紡ぐ著者自身の強い想いが伝わってくる。時間に追われ、ゆったりと昔話を楽しむことを忘れた今の世界は、代々受け継がれてきた贈り物を取り戻すことができるのか。その答えは、きっとこの本の中に見つけることができるだろう。読むほどに惹き込まれずにはいられない、深く心に残るファンタジーだ。

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取材・文/加藤裕子

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