前回記事に引き続き、このコロナ禍において問題視されている子どもへの体罰や虐待について、公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの西崎萌さんにお話を伺いました。前編ではしつけ・体罰・虐待それぞれの違いについて。さらに4月から法定化された体罰の事例をもとにお話を伺いました。自分たちがこれまで軽く叩かれ、怒鳴られた経験があると、その方法を無意識に継承してしまいがち。しかし現代では、そう言った体罰が科学的に悪影響だということが証明されているのです。「昔は効果があると思われていた薬が、実は劇薬だと知ってもまだ子どもに与え続けますか?」この例えにハッとさせられました。
後編では、実際にコロナの影響による体罰や虐待、そして、この不幸を生まないための対処法を具体的に伺いました。
コロナによる外出自粛生活で、体罰や虐待は増えているの…?
__外出自粛期間中、虐待などの相談件数は実際に増えているのでしょうか。
西崎:厚生労働省が発表した結果によると、全国の児童相談所が1~3月に訪問や一時保護などの対応をした児童虐待件数(速報値)を取りまとめたところ、前年度と比べて1~2割増加しているそうです。しかし、相談件数は毎年増えていて、コロナの影響かどうかというのはすぐには判断できません。「相談が増えた」という所もあれば「(全く増えていなくて)家の中で何が起こっているかわからない状態」という所もあります。家の中でストレスフルな状況ですから、セーブ・ザ・チルドレンとしてはすごく危機感を持っています。
__数値にはあらわれにくいのですね。
西崎:どこの国でもそうですが、暴力を振るう側も家庭の中にいるので、被害者がSOSを発信しにくい状況ではあります。子どもに対する体罰や虐待は、ドメスティック・バイオレンス(DV)との関連性が強く、子どもの目の前でDVが行われることも面前DVと言う心理的虐待の1つに挙げられます。UN Women(国連女性機関)より『コロナのパンデミックの裏に、女性と女児に対する隠れたパンデミックが起きている』という報告書が出されました。
__DVと虐待が相関関係と言うことは、同じ傾向になると…?
西崎:そうですね。フランスで3月17日のロックダウン以降DVの報告が32%増加、アルゼンチンでは25%増加、シンガポールでもヘルプラインへの相談は35%増加しています。しかし、実態はもっと多いのではないかと言われています。実態が掴めないというのが新型コロナウイルス感染症の流行下での大変なところです。世界大恐慌を超える不況がくると言われていて、仕事を失い、収入が激減することでストレスは溜まり、イライラが暴力に向かうのは大いにあり得るので、今後も要注意です。
大人自身がストレスを溜めないこと、これが重要なポイントに
__そんな中、セーブ・ザ・チルドレンとしてはどんな支援を?
西崎:まずは、子どもが安心・安全に過ごすために大人のストレス解消が大事だと考えます。私たちは厚生労働省に要望書を出し、『たたかない、怒鳴らない、ポジティブな子育て』を推進する活動の一環として『ストレスとうまく付き合って、自分自身を大切にするための5つのヒント』をQ&A方式で展開しています。
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学校が休校になってから、子どもが1日だらだらとすごいていることが気になり、つい叱ってしまう
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新型コロナウィルス感染症に関する情報ばかりで、いろいろと考え込んでしまう
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今まで気にならなかった小さなことまで、ついイライラすることが増えた
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同居する家族以外と、話したり、相談したりする機会が減り、ストレスを感じている
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いつまで続くかわからないこの状況への不安やストレスに押しつぶされそうになる
__この5つの心配事、どれも当てはまります…。
西崎:目の前で一緒にいて、ダラダラされるとつい叱っちゃう→1日の生活リズムを決めて過ごし、それを決める時にも親が押し付けるのではなく子どもの声に耳を傾けてみては?など、それぞれ具体的な対処法をアドバイスします。あとは、子どもたちが遊び、学び、発達するための『あそびのレシピ』で家庭内でも楽しめる遊びをたくさん紹介し、また、今回の新型コロナウィルス感染症緊急支援として100名を超える著名人の参加が決まっている読み聞かせプロジェクト『Save with Stories』をSNS上で公開しています。
__この読み聞かせ動画素敵ですよね、親子で楽しませてもらっています!
とにかく一人の時間を作って、自分のリラックス方法を探すこと
__もちろん、イライラしちゃった時の対応策として、「深呼吸してリラックスしましょう」と言うのは頭の中ではわっているのですが、一人の時間を作るのが大変な中、そもそもリラックスできる空間もなく、深呼吸だけで…正直、気持ちを沈めるのは難しい状況かと…。
西崎さん:この『ストレスとの向き合い方』は子どもの対象年齢を0〜18歳としているので、小さな子をお持ちの方で「こんなの無理!」という気持ちもよくわかります。
__実際、私も休校要請からの緊急事態宣言で、家にこもるようになってから、発狂寸前…!という瞬間が何度もありました(苦笑)。もう、途方に暮れてしまって。その時、自分の中で今まで子どもに対して気にしていた細かなことを一旦諦め、気にするのをやめました。そのあとは植物に癒しを求め…土いじりをしながら自分の落ち着ける場所見つけて、ようやくリラックスできるように。それまでは西崎さんご自身の体験ではどうでした?
西崎:私も1歳から小1まで3人の息子の子育て中ですが、GW直前が我慢のピークでした(苦笑)。『たたかない、怒鳴らない、ポジティブな子育て』も知っていますし、体罰がいかにいけないかもわかっています。それでも、イライラはします。そんな時には夫に3人を預けて、公園に行ってお茶を飲む、それだけでも一人の時間が作れて、気持ちを落ち着かせられました。逆に、夫の表情を見て厳しそうだったら「散歩行ってきたら?」と声かけあい、お互いに一人になる時間を意識的に作りましたね。
__夫婦や家族で、乗り越えられた感がありますよね。それにしても、一人の時間が本当に必要なんだということが、今回身に沁みてわかりました。
西崎さん:そういう意味でもセーブ・ザ・チルドレンとしてひとりで子育てをしている方へのサポートも重要だな、と感じています。
感情を爆発させない=自分のイライラコントロール法を知る
__セーブ・ザ・チルドレンで『たたかない、怒鳴らない、子どもと向き合うヒント』というワークショップを定期的に開催されていますが、どんな方が参加されますか?
西崎:「自分がイライラした時に、怒鳴ってしまうのが嫌だからどうすれば」「体罰がダメな理由の科学的根拠を詳しく知りたい」「自分は叩かれて育ったけれどどうしたら頑張れますか」など、しつけと体罰の違いも知ってダメなこともわかっているけれど、実際に子育てに活かせられる、具体的な対処法を知りたい方が参加されています。今回はオンライン開催でした。
__オンライン開催もいいですね。実際、仲の良いママ友とこういう話ってできませんからね…。
西崎:そうなのです。少人数でお互いの子育てをシェアするので「みんな大変なんだ」「苦しいのは自分だけじゃなかった」と言うのがわかるだけでも気持ちが救われます。あとは夫婦で参加して、お互いの子育て観を擦り合わせる方もいらっしゃいます。『たたかず、怒鳴らず、子育てしたい』と思っている人たちがみんな集まっているので、みんなで背中を押し合えるような講座です。
__そもそも、感情的にならないためには、どうすれば?
西崎:「なぜストレスが起こってくるか」「なぜ感情が爆発するのか」と言うことを科学的なプロセスを知りましょう。まず、脳に感情を司る部分があり、それは理性でフタをされています。イライラしてくると感情が覆いきれなくなって、そのフタがパカッと外れてしまい、感情が爆発するのです。ですので、このイライラをコントロールできるかが大事。そのためには「自分がどういう時にイライラするのか」「イライラした時はどうすれば落ち着けるか」など、冷静な状態の時に自分で振り返ることが大切です。
__自分の感情がフツフツしやすい、爆発する事前パターンを知るのですね。
西崎:そうです。ポイントは人それぞれ違いますので「眠い時がダメなんだよね」「夕方になるとイライラしやすい」など意見交換をしつつ、自分の対処法をそれぞれ持っておくことをオススメしています。
__なるほど。知っておけば対策できますからね。
西崎:感情なのでイライラしてしまうのは仕方ないのです。じゃあどうやってコントロールするかがポイント。「冷蔵庫に自分専用チョコを常備しておく」「ちょっと一人で散歩に出る」など、火種を消す方法をいくつか持っていれば、爆発を防ぐことができ、寝顔見て反省することもなくなりますよ。
__これまで何度、寝顔見て自己嫌悪に陥ったことか…(苦笑)
教育虐待という、新たな危険も潜む日本の子育て事情…
__今回、休校となったことでもう一つ浮かび上がってくるのが教育虐待の問題です。学校での教育が受けられないこともあって、何時間もずっと机の上での勉強を強いられている…という状況も一部、取りざたされていました。
西崎:子どもの品位を傷つける言葉や接し方、苦痛を与えてまで教育をさせると、子どもの権利を侵害しているので、これも体罰等に当たると言えるでしょう。プレシャーをかけ「終わらないとご飯はありません」などの罰を与える事は、体罰等ですね。
過度な習い事やお稽古でも同様で、2018年フランスで話題になったセリーヌ・ラファエルさんの著書「父の逸脱、ピアノレッスンという拷問」が大反響で映画化が決定しています。裕福な家庭で育ち、外から見ても問題のない家庭に写っていましたが、非常に熱心な父からピアノを強制的にやらされ「お稽古地獄」というマルトリートメント(不適切な養育)を受け続けたのです。
__ピアニストの方やアスリートの方でそういう話はよく耳にします…。
西崎:「親の期待に合わせる」のではなく、「子どもは一人の人間で、それぞれの意思を持っている」というスタートラインにまずは立ちましょう。これが最も、忘れてはいけない視点だと思います。
__すべては子どもの権利に立ち返ってきますね。
西崎:体罰が法定化されましたが、禁止するだけでは何も変わりません。セーブ・ザ・チルドレンとしては政府への働きかけも続けますし、より多くの方に『たたかない、怒鳴らない、ポジティブな子育て』を伝え、新しい社会規範を全国的に啓蒙する必要があると思っています。
__とても貴重なお話、ありがとうございました!
後半はより身近で、より具体的な対策法を伺いました。体罰をしないために大切なのは「大人自身のストレスとの向き合い方」と「子どももの意思を尊重する視点に立つ」この2つに尽きると思いました。
なぜ、大人はしつけと称して厳しくするのか、なぜ過度な期待をしてしまうのか、なぜ子どもをコントロールしたくなってしまうのか…。これらの背景には、すべて「大人自身の不安の表れ」なのでしょう。自分の不安な気持ちを子どもに投影するのではなく、自分の感情や内面と向き合って不安を、ストレスを適切に解消しコントロールする。ウィズコロナを生きていくための、重要なヒントを頂けたインタビューとなりました。「体罰によらない子育てを社会全体で広げるために〜みなさんからのメッセージ」こちらも勇気をもらいます、ぜひご覧になってください。
セーブ・ザ・チルドレン 「どうなる?子どもへの体罰禁止とこれからの社会」
厚生労働省「体罰等によらない子育てのために」
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飯田りえ Rie Iida
ライター
1978年、兵庫県生まれ。女性誌&MOOK編集者を経て上京後、フリーランスに。雑誌・WEBなどで子育てや教育、食や旅などのテーマを中心に編執筆を手がける。「幼少期はとことん家族で遊ぶ!」を信条に、夫とボーイズ2人とアクティブに過ごす日々。