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LIFE

藤原千秋

観客も物語を生きる「イマーシブシアター」!京都・南座に咲く『サクラヒメ』、純矢ちとせさんに会いに行こう

  • 藤原千秋

2020.01.21

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演じる人と観るわたし

客席に人が入って、やっと舞台は完成する…そう、役者の方が言われているのを目にしたり、耳にしたりすることがあります。でも、どこか「本当にそうなのかなあ?」っていう思いが、わたしにはありました。

たとえ空間は同じくしていても、結局、観客は観客でしかないんじゃないか、って。

客席にいるわたしたちが舞台上に及ぼせる影響は微々たるもの。むしろなにかへんな存在感を与えてしまいでもしたら、せっかくの演目を台無しにしてしまいかねない! そんなの怖い! くらいの気持ち。

それでも「なま」の舞台というのが、とても特別な場だというのは確かだと思うのです。その一回性、二度と同じ空間が共有されることはない稀少性、ゆえにある祝祭的な空気感…。

それがいかにロングランの演目であっても、「それ」はある。何度も同じ内容をリピートする映像作品などとは、決定的に一線を画す、プライスレスな価値がそこにはある。だから舞台は良い…! いいんです、大好きなんです。

とはいえ。

実のところわたしがまあまあな頻度で、そんな「なま」の舞台に足を運べるようになってからの日は、まだ浅くて、ほんの3年にも満たないくらい。

末の娘が小学校に上がり、かすかに生じた心の余裕。間も無くひょんなことから「宝塚」に垂直落下したときから、観劇の日々は始まりました…(この「ひょん」の詳細を語ると長くなりすぎるので、そこはまた別の機会に!)。

わたしの、仕事育児家事の三輪を回すのに必死だった人生に、加わったこの「なま」の舞台の観劇という一輪。

すると何が起こったか…? すさまじい気分転換効果がもたらされ…ものすごくわたしの人生が安定し出したのです! 不思議!

考えてみれば三輪より、四輪駆動の方が地に足付くし馬力も出ますよね。なるほどの道理。ただそうはいってもわたし自身は、ふかふかの座席で数時間の夢を見させてもらってるだけ。邪魔にはなりたくないけど役にも立ててない。物語の前では傍観者。まあ、それが普通の、観劇ではあるわけなんです。

「イマーシブシアター」という、最新型の演劇

いっぽう。ウエストエンドやブロードウェイでは、いま「イマーシブシアター」という新しい演劇手法が話題です。ご存知でしたか? わたしは、「うわさには聞いていたけれども…」くらい。未知の世界。

この「イマーシブ」というのは、「没入型の/のめり込むような、引き込まれるような」という意味をあらわしています。そこでは、観客は一方的に舞台を鑑賞するのではなく、演者と同じ空間に立ったり(ええっ)、物語の一部として参加し(ていいの?)、毎回の結末をも左右する役割を担う(まさかのマルチエンディング!)のだそう(※いただいた資料による)。びっくり。

まさに一回性、稀少性、祝祭感のきわみ! 「なま」の舞台を好む人であれば、「なにそれ面白そう!」と目を輝かせてしまう要素に満ちています。でも、いったいどんな「舞台」になるんだろう…ちょっと想像が及ばないところがありますよね。

そんな今春、京都・南座という、歴史を遡れば出雲阿国まで辿れる、歌舞伎発祥の地・京都に立つ日本最古の歴史を持つ劇場で、このもっとも新しい演劇が開演されます。

イマーシブシアター 『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~

これを演じる役者たちは、日舞、剣舞、タップ、ストリートダンス、アクロバット、歌唱といった、各ジャンルにおいて日本の今をときめく、トップクラスのパフォーマーたち!

フルフラット化されて客席と舞台との境目のなくなった1階エリア(移動体験型座席なので椅子はないのだそうです)の観客は、「都人(みやこびと)」として、なんと羽織を纏って舞台上を行き来、このパフォーマーたちの演技を間近で体感することができます。

いっぽう2、3階エリアの観客は、「雲上人(うんじょうびと)」としてこの演者たちの織りなす物語を俯瞰できるだけでなく、「サクラヒメの運命の相手を裁決する」という役を果たすかたちで物語に参加します。

またこの2、3階エリアにも特設アクティングステージが設けられ、どこで観ても、観る度に別の新しい経験ができるしくみになっています。

そんな、きわめて先進的な試みの多いこの舞台において、「日舞」のトップパフォーマーとしてタイトルロール「サクラヒメ」を演じるのは、2019年7月21日に宝塚歌劇団を卒業されたばかりの、元宙組娘役スター、純矢ちとせさん。

東京都出身。2003年に宝塚歌劇団に入団し、宙組の娘役スタートして活躍。 日本舞踊と歌唱力に定評があり、数々の舞台でヒロイン、エトワール、大役を務める。2019年7月『オーシャンズ11』で惜しまれながら退団。 幼少期から日本舞踊を習い、2003年に西川流名取となり西川鯉せいを名乗る。2008年には西川流師範となる。

じつは「宝塚」でも、特にわたしが大好きだった「89期」…「美人の期」のタカラジェンヌ、せーこちゃん(愛称)! 日舞だけでなく、エトワール(歌姫)を何度も務められた確かな歌唱力、幅広い年代の女性だけでなく男性まで演じた高い演技力を兼ね揃えた、宙組のレジェンドです。

この制作発表会にお伺いし、さらに純矢ちとせさんへのインタビューの機会をいただきました。わたくし、恥ずかしながら途中からちょっとおかしなテンションになってしまい、「イマーシブシアター」を観る前なのに、ひとり没入状態に…。かろうじてちゃんとお話しできたところを抽出、純矢ちとせさんの素敵さを、少しでもお伝えできればと思います。

私が南座ですか? という驚きから始まりました

ーー宝塚在団中から、日本舞踊といえばせーこちゃん…純矢ちとせさん(※幼い頃から日本舞踊を習い、西川流名取、西川流師範となられているというくらい、小さい頃から踊りをされてきたお立場で、今回この南座に立たれることが決まったとき、まずどのように感じられましたか?

純矢:本当に、なんていうのでしょうね…。

歴史ある、この南座に出演するということ自体、私自身、初めてですので…あの、まず、南座と伺った時に、全身緊張感といいますか。私が南座ですか? という驚きから始まりました。

ーーそんな歴史のある場所なのですが、かなり、新しい、エキサイティングな舞台になりそうですね!

純矢:そうなんです。私のお衣裳も、着物とドレスの融合したようなもので、ちょっと新感覚なのかな? 自分自身、しっかり日本舞踊を、踊っていきたいと思います。

他の出演者の皆さま、それぞれプロフェッショナルな方達ばかりで。実はいま(制作発表時)、まだ映像でしかパフォーマンスを拝見したことがないので、いち早く私が生で拝見してみたいです(笑)

ーー今回、1階エリアは、舞台と客席の境目がないということなので、その場にいたら、じーっとかぶりつきで観てしまいそうです(笑)。どういう体験になるのか、まだ観客の方達も想像がつかないところでしょうね。

純矢:そうですよね、出る側も、いま、想像でしかないですから!

ご覧いただきたい場所から、ご覧いただきたい方を、観る……という感じになるのでしょうね。

一人の人を追って見ていても、別のところで他の人が、まったく違うことをそれぞれ演じていらっしゃるので。

ぱっと他を見た時に、あ、この人、こんなことをしていたんだ! という発見が、あると思うんです。

そういう点で、何度観ても、楽しめると思います!

ーーいわゆる、オペラ(グラス)が足りない状態ですね(笑)

純矢:あ、足りないですね(笑)! こうやって(オペラグラスを構えて)いたら、もう。他で、いろんなことをしているから。ほんとうに!

ーー雲上人(2、3階エリアのお客様)の方達でも、すべて見ることはできないですよね…。

純矢:ですから、こまかな動きは2・3階エリアで、一度全体を確認して。

この時のあれを観たい! と、ご自分のなかでイメージして、改めて(別の回で)降りられて(1階エリアで)そこへ行ってみる。というのが、オススメの観方です(笑)。何度も見たくなるのも、魅力のひとつだと思います。

ーー観客の近くで演じられたご経験って、これまでには?

純矢:(宝塚歌劇団時代)客席から降りて、お客様の目の前に行くことはありましたが、それはショーのダンスシーンのなかでのことなので。

演じているといいましても、ある意味、素の自分でいる、ということが多かったです。

ーーそれが、今回はお役のままで観客の近くにいるわけですよね。

純矢:ええ、お役のままで、お客様の近くに行くという経験が、ほとんどないので。そういう点では、ちょっと緊張ですよね。



男役ではなく、“本物の男性”と初共演(笑)。圧倒されますよね

ーー初めて、ということでいうと、これまで女性である男役さんをお相手に、娘役さんとして演じてこられましたが、男性の役者さんとの共演も初めてになられますね。

純矢:本当にそういう(男性との共演の)経験がないので、今日の製作発表も、ほんとうに緊張していましたね(笑)。

ーー実際に会ってみて、どうでしたか?

純矢:圧倒されますよね。
皆さんそれぞれ、いろいろなジャンルで長けている方ばかりなのでオーラが違うなと思いました。

今日初めて、共演させていただく皆さんとお話する時間があったのですが、本当に、いい方達ばかりでした。

これならみんなで安心して、よいお芝居ができるんじゃないかな? と勝手に、私は思っているのですが…こんなへんな人?! と思われていたら、どうしよう(笑)

ーーそんな錚々たる男性たち、5人から求愛されるお役というのも、宝塚でも、なかなかないですよね。1人、2人というのはあっても…。

純矢:ぜんぜん想像もつかないです(笑)。よく、わからない!(笑)

ーーお芝居自体が新しい試みですし、純矢さんご自身も、新たな魅力が開花する舞台になりそうですね。

純矢:そうなれるように頑張らなきゃ、と思っています!

***

大寒の頃に初日を迎え、立春に千穐楽となるこの舞台。

わたしもすばやくチケットと新幹線の予約を済ませ、生まれて初めての「イマーシブシアター」で、これまで味わったことのない「なま」の舞台世界への没入体験にわくわくしています。「わたし自身」は、ここで、どんなふうに、この物語の一部として生きられるのでしょう?

年明けてまだまだ寒さ厳しい毎日ではありますが、せーこちゃんの演じるサクラヒメが春を連れて来てくれる日が、今から楽しみでなりません。

撮影/富田恵

イマーシブシアター 『サクラヒメ』~『桜姫東文章』より~
会場:京都・南座
日程:2020年1月24日(金)~2月4日(火)
公式サイト

藤原千秋 Chiaki Fujiwara

住宅アドバイザー・コラムニスト

掃除、暮らしまわりの記事を執筆。企業のアドバイザー、広告などにも携わる。3女の母。著監修書に『この一冊ですべてがわかる! 家事のきほん新事典』(朝日新聞出版)など多数。LEEweb「暮らしのヒント」でも育児や趣味のコラムを公開。

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