大人の女性の背中を押してくれる映画『ボンジュール、アン』 主演女優ダイアン・レインとエレノア・コッポラ監督が楽しく語る!
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折田千鶴子
2017.07.04
ハリウッドの大物女性2人が来日
ハリウッド大女優ダイアン・レインのことは、もちろんご存知ですよね⁉ とは言っても20~30代の方は、リチャード・ギアと共演し、アカデミー賞主演女優賞のほか彼女が多くの賞にノミネートされたエロティック・サスペンス『運命の女』(‘02)に始まる、再ブレイク後の記憶でしょうか。
今や“大人のイイ女”の代名詞のダイアンですが、実は彼女、かつて『アウトサイダー』(‘83)や『ストリート・オブ・ファイヤー』(‘84)などで、当時も一世を風靡した青春スター女優だったのです!! 暫しのスランプ(なぜかパッとしない時期が続いたのも事実)を経て、再ブレイクした彼女も今やオーバー50。月日の流れる速さに驚いてしまいます! でも、とっても美しく魅力的なことは変わらない!!
さて、そんな彼女が主演作『ボンジュール、アン』で来日しました!!
エレノア・コッポラ監督と共に。本作で長編劇映画初監督デビューを飾ったエレノア監督ですが、名前から察せられるとおり、かの『ゴッドファーザー』シリーズを代表作に持つ大巨匠フランシス・F・コッポラの妻であり、日本でも女性に大人気のソフィア・コッポラ監督の母でもあるのです!!
な、なんというスゴ過ぎる映画一家(息子のロマン・コッポラの監督作『CQ』(01)も、さすがキッチュでオシャレ系の、心くすぐる映画でしたよね!!)のママなのでしょう! 映画を観るまでは、ヘソ曲がりの私はつい、「財力と大物家族に物言わせ、ついにママまで撮っちゃったのか」などと思ったりしたのですか、それがどうして、この『ボンジュール、アン』、とっても軽やかで素敵な作品なんです。エレノア監督、ごめんなさい!!
監督にお話をうかがっていたら、もうすっかり大ファンになってしまいました。これまで長い間コッポラ家の面々が素晴らしい作品を生み出し続けられたのも、このママの力と支えあってのこと、とすごく納得してしまいました。現在、81歳とは思えない、こんな瑞々しい感性に満ちた作品を生み出せるのも、エレノア監督の魅力によるものかと、素直にゾッコンです。
カンヌからパリまでのロードムービー
さて、ダイアン・レインが扮するのは、タイトルにも名前が出ているヒロインのアン。有名プロデューサーの夫と共にカンヌ映画祭にやってきたアンは、そのまま夫に同行して新作のロケ地ブタペストに飛ぼうとしましたが、耳の痛みが増すばかりで、飛行機に乗ることを断念します。そこで一足先にパリに戻っていることになり、ちょうどパリまで車で戻るところだという夫の仕事仲間のフランス人男性ジャック(アルノー・ヴィアール)の車に同乗させてもらうことになります。その道中を描く、ロードムービーが、とにかく楽しい!
アン役にダイアンを選んだ理由を、エレノアが「ダイアンはフランシスの映画に数多く出演して来たので、プライベートでもずっと友達だったの。6歳から仕事をしてきた彼女は、経験豊富でプロフェッショナル。指示を出さなくても、ベストチョイスをして演技をしてくれるの。どんどん役を広げてくれる、夢のような女優さんなのよ」と語ると、「そんなハードルを上げられると困っちゃう!!」とダイアンが茶目っ気たっぷりに笑いました。
するとエレノアは、「本当よ。特にこの映画は、食べながら演技をする場面がとても多いでしょ。それって非常に難しいものなの。セリフが言えるのに、食べているという、非常に高いスキルを要する役なの。でもダイアンは準備万端で、1テイクですべてできてしまうのよ」と押し戻します。
それに対してダイアンが、「エレノアは、とてもコラボレーションを大切にして、それぞれのスタッフ・キャストに耳を傾け、すべてを分かち合おうとして、色んな面を引き出してくれるんだもの。それって結構、珍しことよ。今回、一人の人間としてエレノア監督とじっくり出会うことが出来て、とても幸せでした」と返しました。とっても楽しく穏やかな現場だったのでしょうね!
さすがフランス男!と思わず唸る人生の謳歌ぶり
さてさて、夫の仕事仲間のジャックと、いざ一路パリへ……と向かうかと思いきや、「まずは美味しいランチを食べよう!」と、ジャックおススメのレストランへ。当然ながらフランス人ですもの、ワインで乾杯! 観ている私たちも、2人の会話や思わず涎が垂れそうな美味しい食べ物にウキウキと心が満たされます。
エレノア「まずは“この瞬間を生きよう!”と、観客にももちろんだけれど、私自身にも言いたかったの。その一瞬一瞬が積み重なって人生になっていくのよ、とね。ま、私の人生は終わりに近づいているけれど、でも、だからこそもっとそれを意識しなければいけない年齢とも言えるのよ。この時のアンには、まだ人生を選択する機会があるのだ、ということよね。人生も自分の幸せも、自分が選択権や主導権を持つべきものなの。夫でもジャックでもなく、自分が責任を持って選択するべきなのよ、と言いたいの」
美味しいランチにはじまり、道中は寄り道の連続! サント・ヴィクトワール、プロヴァンスの古城、水道橋など、観ている私たちも、「あ、ここ見逃していた!」と思わず嬉しくなる美しいスポットが出て来て、楽しいったらないのです。
ハリウッド出身のエレノアが撮るからこそ、素直に私たちが「観たい!」と思っていたスポットを入れ込めるのね、とも思いました。フランス人監督が撮ると「これは観光映画じゃないんだから」と、逆に入れないだろうと思ったりするのです。だから、素直に目が喜ぶ、そんなお楽しみも満載です!
美味しい食事と気の利いた会話に、一人の美しい女性アンが、何も感じないわけはありません。でも同時に、行く先々で元カノと思しき女性たちが次々に出現するのも、さすがフランス男!と笑ってしまうのですが。
ダイアン「実は現場でアレック・ボールドウィンが来るまで、夫役が彼と知らなかったので(笑)、役作りというほどのことはできなかった。でも現場で、なるほどこの物語はエレノア監督の実体験を元にしたのか、と実感した瞬間が何度かあったのよ。きっとエレノアもここに立って、こんなことを言ったのね、とかね」
ダイアン「人生には様々な段階があるでしょう? ただ年を重ねたからといって、決して自分が聡明になれたというわけではないし。この年齢になっても、下らない小さなことをまだ怖いと思ったり。子供みたいな自分も、今でも同居しているのよね。だからすごく面白いと思うの。エレノアの年齢になって、リスクを負って情熱を感じながら映画作りに挑戦できるということを見ると、早く彼女と同じ年齢になりたいな、と思うくらい。楽しみで何だかワクワクしてこない!?」
エレノア「この物語は、確かに私の経験を枠組みにしているけれど、枠の中にはフィクションとして、自由に色んな考えを詰め込んでいったのよ。そもそもアンとジャックのように、こんなに途中で泊まっていないし(笑)」
実は、個人的には、映画を観ながら“ジャックがあまりに典型的なフランス男に描かれ過ぎるのでは?”という点が少々気になったのですが、それに対してもエレノアは余裕の風情で認めます。
エレノア「特にジャックに関しては、映画的にカラフルで芝居がかった男にしたの。フィクション映画であるから、モデルの男性ともかなりかけ離れているし、ダイアンが演じたアンを自分のことと全く考えたこともないのよ。もちろんアンのキャラクターには、私が興味を持つものや好みを反映してはいるけれど。決して自伝ではないのよ」
ついついアンと夫の関係に透かして、エレノアとフランシス(F・コッポラ)の関係を見てしまいそうになるのですが、その辺りはざっくりと、「自伝ではないの」とエレノアは否定しました。でもきっと、やっぱり、アンが多忙過ぎる夫に感じている寂しさや孤独や諦めは、エレノア自身も感じたことがあるはずですよね⁉ 次ページでは、少しツッコンでみたいと思います!
ラストシーン、意味深なアンの目配せとは⁉
さて、私がこの映画で大好きなのは、ラストシーン。ラストシーンで、アンはいきなりスクリーンから私たちに意味深に目配せをするのです。挑戦的とも思えるし、答えはあなたが握っているのよ、自由に考えてみて、というようにも感じます。さて、このシーンには、どのような思いを込めたのでしょう。
エレノア「脚本を書いていた段階では、実はアンがカメラを観る(観客に向かう)場面をいくつかちりばめていたの。例えば最初の方で“私ったら、何をしているのかしら……”と自分に向かって言うシーンとか、その他たくさん。でも編集段階で、ラストシーンで彼女がカメラを観るシーンがあまりにも完璧で、「これだ!最高だわ!」と思ったので、他のカットはすべて捨てて、ラストシーンに集約させたのです。ちなみに最後の目くばせシーンは6テイク撮ったうちの、最後のショットでした」
ダイアン「1テイク目から完璧にやろうと思えばできたんだけど、このシーンで食べるチョコレートを、もっと食べたかったからわざとテイクを重ねたの(笑)! すべてはチョコレートのせいね(笑)!」
ジョークを飛ばしながらダイアンは、私たち大人の女性に“気づき”を促してくれました。
ダイアン「重要なのは、観客とアンが同じ秘密を持つこと、だと思ったの。このシーンはあなたたち観客が観ていたことを私も知っていたのよ、という一種の告白でもあり、最後に観客に“自分には選択肢がある”ということ示したかったのよ。アンが誘いに乗るか乗らないかは別にして、そんなオプションがあるなんて、幸せでしょ?とね。これは“気づき”の映画なのです」
女性として、自由に生きるということ
女性が女性として、どう生きるか(あるいは、生きられるか)という問題は、時代によっても、世相によっても、また国によっても違いますよね。でもアンの“気づき”は、大人の女性だからこそ選ぶ力があるのだ、と私たちを勇気づけてくれます。
エレノア「ダイアンと私は生きて来た年代が全く違う。私の時代は、女性は夫をサポートし子供を育てることばかりを期待されていました。フランシスの映画に美術監督アシスタントとして参加して出会い、結婚したらすぐに子供ができてしまったので、私は映画の仕事から離れざるを得なくて。結婚するまでフランシスがあんなにも、昔気質のイタリア男とは気づかなかったの!」
エレノア「彼は奥さんに外で働いて欲しくなくて、子供の面倒を見ろというタイプ。だからアーティストとして活動したかった私は、抑圧されて自由がないフラストレーションを感じていたの。クレジットはされていないけれど、以後もフランシスの映画でスタッフとして――美術や衣装など、現場で手伝いをしていたんだけれど……。でもダイアンは全く別の世代を生きているから、好きなだけ活動して、それに対する正当な評価を得ることもできているわよね」
ダイアン「監督が、“家族のために(アーティスト活動を抑えて両立させる)ある在り方をしながら、同時にそれを覆そうとしてアーティスト活動を続けてきた”とおっしゃったことがあって、それがすごく胸に響いたの。確かに監督は、かつて現場でお会いしても(フランシス・フォード・コッポラ監督作の)、非常に控え目で、決して旦那様と俳優たちの関係に入ってくるようなことは一切、しない方だったので…」
ダイアン「本作でアンが、写真を常に撮っているのに、ジャックに促されても恥ずかしがってなかなか見せないんですよね。でも写真はある意味、彼女のアイデンティティの一つの発露でもある。これは、本当に素晴らしいパラレル的な表現だと思ったんです」
エレノア「でも夫は、アンが撮る写真に興味も示さないのよね」
ダイアンを促しながら、微笑ましそうに見つめるエレノアは、まるで本当のお母さんのよう!
ダイアン「監督は私の母の年齢とほぼ同じ世代ですが、当時アメリカで初めて出産をコントロールする薬が導入され、個人的なものが政治的なものになり得る希望や可能性、女性としての生理は自分のものである、という概念がコンセプトとして新しく出て来た世代でもありますよね。それは、女性として、自分の人生にどれくらい自由が欲しいかを知るメタファーでもあったと思うんです。自由って、時に孤独であり、怖いものでもあり、必ずしも予測できる満足のカタチを与えてくれるものではないからこそ……」
うん、うん、とほほ笑んでいらっしゃるエレノア。「自分の人生も幸せも、自分が選択権を持つべきなのよ」と先で監督が語ったことと重なりますよね!
エレノア「本当に日本の働く女性たちと、こうしてお話ができるの、とっても興味深くて楽しかったわ! 取材してくれて、本当にありがとう!!」
と、エレノア監督は、取材する私たちをも大きく包み込んでくれる、ホントに素敵な、そして目指したくなる女性でした。
さらにオマケです!!
監督業に乗り出す際、娘のソフィア(・コッポラ/『ロスト・イン・トランスレーション』(03)から早くも14年が経つのですね! 今年はカンヌで監督賞を授与された『The Beguiled』が、日本では冬に公開となります。楽しみですね!!)から教えてもらった“リラックス法”を、こっそり教えてくれました。
「ソフィアから、1日に何度も靴を履き替えろ、と言われたの。ソフィアは一日に3~4回、靴を履き替えるんだけれども、それがいいリフレッシュになるって言うのよ。監督って常に現場で立っているでしょ。確かに靴を履き替えると、姿勢も気持ちも変わってくるから、とアドバイスされたわ!」
さて、前向きにこれからの人生を歩みたくなる、そして大人の女性だからこそ幸せが待ち受けるかも、と思わせてくれる『ボンジュール、アン』は、今週末から公開されます。ぜひ、劇場でたくさんのハッピーと勇気をもらってください!
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。