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私のウェルネスを探して/小川麻美さんインタビュー前編

会社員を経て32歳で陶芸家へ転身。小川麻美さんの人生を切り拓いた「出会いと縁の不思議」

  • LEE編集部

2026.03.28

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小川麻美さん

今回のゲストは、陶芸家の小川麻美さんです。小川さんは大学卒業後一般企業に就職、働きながら続けていた器づくりで32歳の時に独立し、陶芸家として活動を始めました。 

前半では、小川さんが陶芸を始めたきっかけや作陶を仕事にするまでの紆余曲折、支えになった人や影響を受けた人について話を聞きます。仲間との別れや結婚、人との縁で今の自分があることを実感しつつ、今後やりたいことについても話してくれました。(この記事は全2回の第1回目です)

仕事への行き詰まりを感じる中、「ろくろ」との運命的な出会い

小川さんが初めて陶芸に触れたのは大学生の頃。友人から誘われ、陶芸教室に参加したのが最初でした。しかし、将来の仕事として志したのは公務員になること。就職活動中の自己PRが苦手だったことに加え町づくりに興味があったため、公務員になる資格取得を目標に大学に通いながら予備校に通い始めます。

小川麻美さん

「昔からコツコツ勉強することが好きでしたし、ゼミで研究していたのが町づくり関連だったこともあり向いているのかなと。だけど公務員試験には落ちてしまって、就職活動をし直しました。そして貿易関係の会社に就職しました」

その頃はまだたまに陶芸教室に行く程度で、働くにつれ仕事への行き詰まりを感じ働き方について悩んでいました。その後、仕事を辞めて実家に戻り派遣で働くことに。最初に訪れた陶芸教室の方とのつながりで、のちに恩師となる先生と出会う機会があり、その先生が実家から遠くない場所で陶芸教室を開いていることを思い出し、通い始めます。そこで“ろくろ”と運命的な出会いを果たします。

小川麻美さん

「初めて“ろくろ”に挑戦した時に衝撃が走ったんです。“何これ!?”“楽しい!”と思いました。それまではずっと手びねり(縄状にした土を積み上げて作っていく技法)での作陶だったのですが、手から土をより一層感じて土と一体になっていくような感覚がとても心地よく自分にぴたっときたような感じがしました。自分の何かがやっと目覚めた感じです」

恩師の言葉に背中を押され、32歳で思い切って独立

小さい頃から細かな彫り物やリリアンを編んだりが得意で、ものづくりが好きだったそうです。陶芸もコツコツと工程を積み上げるのが基本です。土を練る、整形する、削る、乾かす、素焼きをする、釉薬をかける、本焼きをする。少しずつ工程を重ね、完成していく様子が実感できるのも楽しかったそうです。32歳の時、当時勤めていた会社が廃業してしまったタイミングで思い切って独立。母親からは「趣味にとどめておいたほうがよいのでは?」と止められたそうですが、恩師である先生の言葉に背中を押され独立を決めました。

小川麻美さん

「“やりたいことがあったらやったほうがいいよ”、極めつけは“死なないから大丈夫”“なんとかなるもんだから”と(笑)。そう言ってくれたのは心強かったです。先生はとても器用で、古い家屋を修理して教室にしたり、窯も自分で作ったりしていて、ものづくりはもちろん生き方に刺激を受けました。先生の人柄や方針にも魅力を感じ、先生から応援してもらいお力添えいただいたお陰で私はこの道に進めたと感謝しかないです」

それに加え、友人から紹介してもらった別の陶芸家との出会いにも勇気づけられました。彼女の暮らしこそが小川さんが憧れていた理想の生き方でした。

小川麻美さん

「公務員の予備校時代の友人の幼馴染で陶芸家として活動している方がいると紹介されました。私と同い年、美大で陶芸を学び、葉山に工房と窯を持って活動をしていました。彼女の暮らしが、まさに私が憧れていた理想の暮らしでした。自然の中で暮らしを楽しみながら、陶芸を仕事にする。そんなライフスタイルがかっこいい、自分もそんなふうにできたらいいなと思いました。ナチュラルで飾らない人柄にも惹かれました。他にも、具体的なお店や取引先とのやり取りを教わったのも彼女のおかげ。後に一緒にイベントに出展したりするようになる大切な仲間です」

土に向き合って思うように挽いたらよい、ひとつひとつ違ってよい

小川さんが陶芸家として影響を受けた人物がいます。2020年に閉店した東京・西荻窪の器店『魯山』の店主・大嶌文彦さんです。『魯山』には、母親と訪れたのを機に1人でも通うようになりました。しかし本格的に作陶を始めてからは足が遠のいていたそうです。

小川麻美さん

「自分の作品を評価されるのが怖くて行けなかったのですが、久しぶりに訪れたら私のことを覚えていてくださって。話をしてすぐにピンと来たようで“何か作ってるの?”と言われ、誤魔化せなくなり自分の作品を見てもらうことに。作品を緊張しながら見てもらうと、まず“料理をしているのが伝わってくる器だね”と言ってもらえたのはとても嬉しかったです。“それが食器として大前提だ”と。同時に“あなたが好きなはずの焼きものと少しズレがある。もっと素の自分を出したら?”と言うような指摘をもらいました。見てもらった作品の中では、炭化焼成(薪やもみ殻などでいぶす焼成方法)したものを気に入ってもらい、取り扱いの話までしてもらった時は、想定外の展開に背筋が伸びる思いでした。その後何度かお店で展示をさせてもらいました。大嶌さんの存在や言葉のおかげで自分の内面と向き会えたような気がします」

小川麻美さん

大嶌さんはものづくりをする人の生き方にとても厳しい面もありましたが作家想いで、時に熱くなったりしながら数々の言葉を投げかけてくれたそうです。独立当時、小川さんは作品の一つひとつのサイズを揃えて同じものになるように注力していましたが「土に向き合って思うように挽いたらよい、ひとつひとつ違ってよい」と言われ、気持ちが楽になったとか。そこから土に気持ちよく向かい、ろくろを挽けるようになったそうです。他にも「思いついたものはどんどん試して」「毎回焼く時にはテストピースや思いつきで作ったものも入れなさい」など、具体的なアドバイスをくれたそうです。



陶芸仲間の死に強い喪失感。見かねた友人が現在の夫を紹介 

プライベートでは38歳で結婚。それに大きな影響を与えているのが、独立を決めたきっかけにもなった陶芸仲間との別れです。突然の仲間の死は小川さんにとって支えを失うような強い喪失感を生みました。

「春先に一緒のイベントに参加する予定でした。連絡を取り合って間もなく彼女が倒れた知らせを受けて、意識が戻ることを切に願い続けたのですが……。自分にとって数少ない陶芸仲間であり、心の支えのような存在だった彼女との突然の別れに気持ちがまったく追いつかず整理できませんでした」

心にぽっかりと穴が空き、作陶にも身が入らずぼんやりした日々を過ごしていました。そんな時、彼女との出会いをつなげてくれた友人が悲しさとさびしさを乗り越えようと独身だった小川さんに「誰かいい人を見つけよう」と言ってくれたそうです。そんなやり取りをした翌日に「いい人がいたよ」と紹介されたのが今の夫だったそうです。

「夫は、親が経営していた家具屋を兄弟と継ぎ、私と同じようにものづくりをしている人でした。お互いものづくりをしている身として理解し合えることも多く親近感が湧いたのは大きかったと思います。年齢的なこともあり、自然と結婚の流れになりました。夫の両親も木のものに限らず焼きものも好きで、私が展示をした時にも観に来てくれました。話してみると自然となじめてものづくりの話や好きなことも通じるものがあり、話し始めると止まらないくらいです」

ご縁、人のつながりのおかげで好きなことに巡り会えた

陶芸家の道や結婚、それぞれのきっかけをつくってくれたのが公務員の予備校時代の友人です。彼女は公務員の道に進み、小川さんは陶芸の道に進んでからもずっと応援し続けてくれ何かあると支えてくれたそうです。人との出会いと縁、それによって自分の人生が切り拓かれたことが不思議に思うと小川さんは言います。

小川麻美さん

「自分が結婚すると思っていなかったので驚きです。人との出会いは本当に不思議だなと思います。実はどれもつながっているんですよね。大学受験をして公務員になるための学校に行ったけれど公務員にはなれず。お金も時間もかかって遠回りしてしまいましたが、結果的にはやりたい仕事が見つけられました。ご縁、人のつながりのおかげで好きなことに巡り会えたと思っています」

小川さんは8歳の息子さんと木工房を営む夫と3人暮らし。制作は平日を中心に行い、土日は息子さんが習っているミニバスケットの練習や試合があることも多く、忙しい日々を過ごしています。今後挑戦したいことを聞いてみると、工房の展示スペースを使ってオープンアトリエを行ったり、ワークショップや陶芸教室を開いてみたいという思いもあるそうです。

小川麻美さん

「陶器市やイベントに出展すると、“教室はやっていないんですか”とよく聞かれるんです。よい環境で陶芸をやりたい人が多いんだなと感じます。本格的な陶芸でなくても、簡単なワークショップや子どもと一緒に何かを作ったりもしてみたいです。作陶以外で言えば、暮らしをもっと充実させたいです。コンポストをずっと作りたいなと思っていますが、どれくらいの大きさにするとかどのようなつくりにしたらいいかなどを考えつつ、暮らしの中でバージョンアップしていきたいことはたくさんあります。制作も生活も忙しい日々ではありますが、とても充実しています」

(後編につづく)

My wellness journey

私のウェルネスを探して

小川麻美さんの年表

1978

神奈川県秦野市生まれ

1998

早稲田大学商学部入学

2002

早稲田大学商学部卒業後、貿易系の会社に入社 

2006

陶芸教室芳乃和(よしのわ/神奈川県平塚市)に会社勤めをしながら通い始める

2010

同教室でアシスタント勤める

2011

個人で作陶を開始、各地のクラフトフェアや企画展、個展などに出展

2017

夫の家具工房がある神奈川県相模原市に引越し。住居兼陶芸工房を構える。長男を出産

小川麻美さん

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
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