池松壮亮さん『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウMOVIE』公開記念インタビュー
【池松壮亮さん】「『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』では『名犬ラッシー』みたいなことを目指していますが、全然そうなれないやり取りがとても楽しくて大好きです」
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折田千鶴子
2025.10.01

伝説のドラマがまさかの映画化!
21年にオリジナルのテレビドラマとして登場し、大きな話題を呼んだ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』がシーズン2を経て、なんと映画に! もちろん脚本・演出・編集(出演も)は引き続きオダギリジョーさん。警察犬のオリバーが、なぜか相棒のハンドラー、一平だけには“犬の着ぐるみを着たオジサン”に見えてしまう、そして普通に会話する(しかも暴言吐きまくり!)という、噴き出し必至のシュールな設定に度肝を抜かれた視聴者も多かったでしょう。
「なんじゃ、これ!?」と驚きつつクセになる奇妙で魅惑の世界が、さらにパワーアップしてスクリーンで繰り広げられます。もちろん一平を演じるのは、池松壮亮さん。池松さんを筆頭に、普段は“演技派”で鳴らしている豪華キャストが嬉々として“おバカ”な、いえ、個性的過ぎるキャラクターを熱演して、さらなる異世界へと私たちを誘ってくれます。 さて今回の現場はどんなことになっていたのか、池松壮亮さんに色々とお聞きしました。

ますます唯一無二の存在感を放つ才人
池松壮亮
Sosuke Ikematsu
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。01年、ミュージカル舞台『ライオン・キング』で俳優デビュー。映画初出演となる『ラストサムライ』(03)でハリウッドデビューし注目を集める。その後も数多くの作品に出演し、これまで数々の映画賞を受賞。大学卒業後の14年には年間8作もの出演映画が公開、さらにテレビドラマ『MOZU』シリーズが放送され名実ともに大ブレイク。近年の代表作に『シン仮面ライダー』『白鍵と黒鍵の間に』『ぼくのお日さま』『本心』『フロントライン』など。26年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』では豊臣秀吉役を演じる。
当シリーズの監督、かつ劇中では相棒役でもあるオダギリさんと長くご一緒されてきて、遂に映画が完成した今、改めてどんなことを思いますか?
池松 オダギリさんの背中を見てこれまで様々なことを学んできました。唯一無二の道を歩む、信念の強い人です。(見ていて)とても刺激になりますし、たくさんのインスピレーションをもらっています。何より今は、5年前から始まったこのシリーズのとても重要な局面に、ここまで一緒にいられたこと、これだけ奇妙で自由で愉快な作品作りを共にすることができたことが、自分にとってかけがえのない時間と、経験になりました。ここにたどり着くまでオダギリさんが多くの困難をこえられて来たことも見ていました。この世界の住人としてずっと一緒に居られて、とても幸せです。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』ってこんな作品
狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)の相棒は、数々の難事件を解決に導いた伝説の警察犬・ルドルフの子供、オリバー。しかしどういうわけか一平には、オリバーが女好きで慢性鼻炎の着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えている。ある日、一平らの鑑識課に、隣の如月県のカリスマハンドラー・羽衣弥生(深津絵里)がやって来る。如月県でスーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になったため、一平とオリバーに捜査協力を求めてきたのだった。早速2人と一匹は、コニシさんの目撃情報を基に、リヤカーが残されていた海辺のホテルに向かう。
ドラマから今回の映画まで少し時間が空きましたが、やっぱりインする前は「あの現場に戻るぞ!」的な気持ちになりますか? それとも意外に緊張するものですか?
池松 大好きな作品なので、撮影前はやっぱり嬉しいですね。もちろん緊張感もありますが、そこも含めてこの作品で仕事をすることが好きです。何より(現場の)みんなが楽しんで、真剣に遊んでいて、夢中になって試行錯誤している現場です。他の現場ではなかなか出来ないような“一見無駄”に思えることに、一生懸命になっている。創造性を大切にして、みんなで時間や物語と戯れる中で見えてくる、真理や哲学のようなもの。それは本作ならではだなと感じます。何よりこのような独創的で他のどれとも似ていない作品に参加することを、みんな喜んでいます。シリーズものとしてこのような作品を続けられることは、とても幸せなことだと思っています。
物語があってないような、とても説明が難しい内容でもあります。脚本を読まれたときは、実際どう感じられましたか? 他の俳優の方々も、どう役に入られていくのか、とても興味があります。
池松 確かに人によっては「なぜ、たこ焼きなんでしょうか?」と現場で質問されている姿も度々見ましたが(笑)、オダギリさん自身も、捉えようのないことをやっているので明確に答えられないものだと思っています。大抵は「酔っぱらって書いてしまいました」と答えていました(笑)、どこまで真面目なのか不真面目なのか、そこまで本気なのか、僕にもわかりません。そこが、オダギリさんの特性でもあって。

しかも、“シュールさ”も格段にアップしています。
池松 そうですね。生粋の映画人であるオダギリさんの、映画というものに対する強い気持ち、こだわりの強さがそうさせていると思います。今回は映画版として、これまでのシリーズを超越した世界を作ろうとしていたと思います。
既に出来上がった世界を続けることも可能なのに、わざわざ莫大な労力を使って一度作品の世界を解体し、もう一度構築し直しています。自分がたどってきた過去や人生における様々な迷路のように入り組む“捉えようのないもの”。それは真実とは違った、現実と想像の合間にあるような、夢なのか、空想なのか、そうしたまさに幻想のようなものを映画として捉えにいこうとされたのではないか、と個人的には思っています。そしてあくまでも『オリバー』の世界の中で再構築したら、こういう作品になったのだと思うんです。
でも、現場でそれを俳優たちが一緒に形にしていったわけですよね。
池松 それは夢をたどるような旅だったと思います。非常に内的な作業が必要で、よくここまで解体されたな、と驚きました。つまり本作は、物語として捉えるよりも、芸術・総合芸術として捉え、『オリバー』としての笑いや愛嬌でコーティングしながら独自の世界を作り上げていくものだったと思うんです。ですから僕も、そこにどう加担できれば面白いシーンやムードを生み出せるのか、そうしたことを考えながら楽しんでいました。



分からずとも噴き出したり、「え、そうだったの!?」と混乱したり、それを頭で組み立てようとしてみる……の繰り返しですよね。
池松 様々なものを超越し、次元すらも超えてしまったオリバーな世界です。僕自身も「いったい何を見せられているんだろう?」と戸惑いながら、笑い転げながら、気づけば別世界から戻ってくるような感覚がありました。オダギリさんの映画に対する強い気持ちと芸術性に、とても感動しました。エンドロールを眺めながら、もの凄くカッコ良くてスゴイものを観た、と唖然し、不思議と調和しているその世界に想いを馳せ、いまでもそれを引きづりながら色々と捉え直してるところです。この独特な愛嬌と茶目っ気をもった型破りな作品が、どう観客と対話してくれるのかとても楽しみです。
初登場、深津絵里さんの絶妙なコメディエンヌぶり
*シーンの詳細に触れているので、真っ新な状態で楽しみたい方は、この“深津さん”の段は鑑賞後にお読みください。
初参戦となる深津絵里さんが、既に『オリバー』の世界にしっくり来ていて素晴らしく、大笑いしました。麻生久美子さん演じる漆原とも、また違う“ぶっ飛び”具合で、2人の違いが面白かったです。
池松 麻生さん(おなじみの漆原)が歌舞伎の真似をするシーン(笑)。麻生さんが歌舞いて、(見栄を切るように広げた)その手が深津さんに当たる場面では、深津さんが自ら、しかもかなり強めに当たりにいっていて、スゴイなと思いました。リアリティを出すためにご自分で当たりに行って。

また、あの倒れ方が最高でした! 深津さんもノリノリで演じられている空気が伝わってきました。
池松 そばで見ていても本当に面白かったです。深津さん、スゴイなぁ、って。真剣にこの作品と戯れられているような姿が印象に残っています。その姿が神々しく、清々しく、オリバーの世界と深津さんとの出会いは、この映画を象徴とするような奇跡的なものだったように思います。
今回も“無意味な繰り返し”が登場します。深津さんと池松さんが、昔の映画の“欧米風カッコつけ”みたいな、口で「トゥン!」と鳴らして2本指で挨拶する、その繰り返しに噴き出しました。あの辺はアドリブなのか、それとも脚本に書かれているのですか?
池松 全て、ちゃんと書いてあるんですよ。回数もそのまんま書かれています。オダギリさんはとてもリズム感覚のある人で、そのほとんどは脚本に既にあるものです。



よく笑わずに真面目な顔で出来るなと、それがまた面白さを助長します。
池松 それはもう、(笑いを)堪えてますよ(笑)。「何やってんだろう?」っていう笑いの時間と、目の前のことに面白くなってしまう時間とが交互にやって来るんです。楽しくやっていますが、確かにあんなこと(演技)をやるよう言われることって、ないです。この作品でしかやれないことがたくさんあると思っています(笑)。
麻生久美子さん扮する漆原も相変わらず最高!
そういうハッチャけたシーンも多々ありますが、好きなシーンを選ぶとしたら?
池松 いまパッと思いつくハイライトは、なぜ踊り出すのか分からないまま漆原さんが踊り始め、それを結構な尺の長さで踊りきるシーンですね。麻生さんたちの踊りの練習が大変だと噂で聞こえてきてましたが、まさかあんなに踊ってるとは。しかも、まったく物語に関与してこないのが、『オリバー』の世界らしいな、と。脱線して、迂回して、行きつ戻りつの中で、物語を包んでいる世界の全容と現実とを捉え直していけるような、そんな不思議な刺激を受ける、あの変なシーンがとてもお気に入りです。

池松さん自身のシーンを挙げるなら?
池松 基本的にオリバーと一緒のシーンは、どれも非常に好きですね。オリバーと一平が合うのか合わないのか、よく分からない、ずっと相変わらずな関係のままですが。個人的には『名犬ラッシー』みたいなことを目指していますが、全然そうなれない2人のやり取りが、とても楽しくて大好きです。
ちなみに、オリバー役の本物のシェパード犬とも長い付き合いになりますが、1匹で通しているのですか?
池松 フィリップという現場のアイドルで、これまでずっとその1匹です。本当に穏やかで賢くて、可愛くて仕方ないんです。フィリップとも、オダギリさんと同じくらい仲良しです(笑)。実際には喋ってくれないので、どれくらい信頼してくれているかは分からないですが、飼い主さんによると、ちゃんと僕を認識して覚えてくれているようです。
作品にちりばめられた“扉”をどう読む?
本作には「扉」が至る場面に登場します。いろんな解釈ができますが、目の前に知らない扉が現れたら入るかも含め、池松さんが考える「扉」の意味するものを教えてください。
池松 作品の中で「扉」は、分かりやすく「次元が変わる」ものになっています。ただ「扉」って非常にメタファー的で、人生で日々現れるものとも言えますよね。例えば今日1日においても、自分がこれから選ぶ言葉1つ1つにおいても、「扉を開けている」とも言える。朝起きて、「扉」を開けて外に出ていくこと、新しい作品に挑戦することなど、人生において訪れる多くのものだと思います。これからのこの世界では、新たなテクノロジーによってなのか、おそらく現実世界の次元が変わってくるようなことがあるのかなとも思います。
無限の選択肢の中から、オダギリさんが今回「次元」をチョイスしたことも、非常に面白く感じました。“映画としてやるなら”と問い続けた結果が、「次元を行き来する」というのがひとつの答えだったのだと思います。

役を掘り下げて深く内面に入っていく役も多く演じて来られたと思いますが、一平という役は、内的に掘り下げる役とは違いますよね。向き合い方は、全く違うものですか?
池松 全然、違いますね。ですが「こっちはこうで、あっちはこう」という単純な分け方はできません。一平という役においても至って真面目に何ができるか向かい合っています。映画って本当に多様な可能性があり、懐が深く、生み出すためのあらゆる手段があります。それらは分類できるものではなく、方程式があるものではなく、無限なチューニングがあるということだと思います。その全てが自分の仕事であり、あらゆるアプローチでそれぞれの役に向き合う作業が好きです。
来年はある意味、貴重なリセット年
ところで、来年は大河ドラマ『豊臣兄弟!』に出演されます。主人公・秀長の兄、豊臣秀吉を演じられますが、そろそろ準備は始まっていますか?
池松 既に撮影が始まり、日々撮っています。放送は来年の1月からですが、6月頭から撮影が始まりました。ロケ撮影が一旦終わり、セットでの撮影が続いています。来年末まで撮影するので、これから約1年半、大河の撮影と向き合うことになります。
つまり、1年半も映画の現場から離れることに?
池松 そうなりたくないなと思っていますが、もしかしたらそうなってしまうかもしれません。

これまでずっと過ごしていた映画の現場から1年半も離れると、飢餓感に見舞われそうですね。
池松 既に飢えてます! これまでもドラマに極力出ないと考えているわけではありませんでした。ただ、自分にとって映画というものの優先順位が上に来ることは間違いないので、「大河ドラマやります」と言った瞬間から既に約1年、もう飢えていますし、映画のことを考えると、寂しくて仕方ないです。とはいえ、恵まれたことにこれまで1年半映画の現場から離れる経験はなかったですし、ここで一旦強制的に距離をとって、客観的に自分がいる場所を見つめることが、いい機会になるはずだと思っています。
もちろんそんな中でも何かしらの出会いを期待していますが、たとえこの時間が自分にとってストレスフルなことでも、重要な機会になるのではないかなと。そうすることで、映画に対して何が見えてくるかを試してみたいと感じています。1年半後、映画に対してどういう感覚を抱いているか、大河ドラマという大きな仕事の経験を、どういう風に持ち帰ることができるのか、自分に対する実験のような感覚です。大河ドラマの撮影は日々大変ですが、新鮮で楽しいですし、1年半どれくらい楽しめるか、そのことも大いに試してみたいんです。
秀吉の弟・秀長役の太賀さんとは、何度も共演されています。もしや兄弟役も何度めかですか?
池松 いや、兄弟役は初めてです。古くからの知りあいで、おそらくこの世界の同業者として自分のことを一番知ってるのは、太賀だと思います。色んな時間と経験を共有してきましたし、これまでもいろんな作品で向き合ってきましたが、やっぱり相性が――兄弟役という、より親密な関係で日々お芝居を交わしてると、やっぱり合うんだなと思います。
これから1年半、環境や向き合う「ものづくり」としても、これまでとは違うことを日々勉強しながら、どれぐらい順応していけるのか。環境に早く慣れて、これまで自分が培ってきたことを大河の現場でちゃんと出せるか。それを今、模索しているところです。

早くも来年が一年、楽しみになるような大河ドラマのお話しまで伺えました。さらにその先で、池松さんが映画に持ち帰ってくるものが楽しみになるような、力強い言葉にホクホクです!
とはいえ、まずは『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』。池松さんが「この独特な愛嬌と茶目っ気が、どう観客に届くのかが楽しみ」とおっしゃっているように、観客も「なんじゃこれ!?」と驚きつつ、段々とクセになっていく……よく分からない世界に翻弄される興奮も覚えるハズです。オダギリジョーさんの頭の中を覗き見られるような感覚になれるのも、本作のお楽しみの一つです。是非、劇場で笑って残暑の疲れを吹き飛ばしてください。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウMOVIE』
2025年製作/98分/日本/配給:エイベックス・フィルムレーベルズ

全国公開中
脚本・監督・編集:オダギリジョー
出演:オダギリジョー、池松壮亮、麻生久美子、本田翼、岡山天音、黒木華、鈴木慶一、嶋田久作、宇野祥平、香椎由宇、永瀬正敏、佐藤浩市、吉岡里帆、鹿賀丈史、森川葵、髙嶋政宏、菊地姫奈、平井まさあき(男性ブランコ)、深津絵里
© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会
Staff Credit
撮影/菅原有希子
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















