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私のウェルネスを探して/石田月美さんインタビュー後編

性虐待、家出、引きこもり、うつを乗り越え、発達特性とともに生きる。石田月美さんが見つけた自分らしい生き方

  • LEE編集部

2025.09.21

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石田月美さん

引き続き、文筆家の石田月美さんに話を聞きます。長身で姿勢が良く、カラフルでダイナミックな柄やデザインの服を颯爽と着こなす石田さん。撮影時もくるくると動きながら表情を変える姿は健やかそのもの。外見からうつ病や過食、発達特性 があることは分かりませんが障害とともに生きる生活にはさまざまな工夫があり、それらを駆使した上でも「できないことが多い」と言います。

後半では、幼少期や波乱の10代20代のエピソード、小学生2人のお子さんを育てる石田さんの子育てルールについて聞きます。性虐待、家出、引きこもり、うつ。さまざまな出来事を乗り越え、発達特性とともに生きる石田さんが見つけた自分らしい生き方とは。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む

礼儀作法に厳しくアルコール依存症の父、過干渉の母

石田さんは東京都育ち 。姉と弟、翻訳業を営む父と母という5人家族で育ちます。小さい頃は団体行動や運動が苦手で、読書をしたり花に水をあげたりするのが好きな大人しい性格だったそうです。父親が礼儀作法に厳しく、箸の持ち方や言葉遣いをよく注意されたと言います。

「箸をきちんと持って食べる、それができず食事に何時間もかかったこともありました。本好きでしたが、父はなぜか明治文学を私に読ませようとしていました。旧仮名遣いだし内容もすごくつまらなく感じたのを覚えています。父に隠れて読む児童文学の方が好きで『ルドルフとイッパイアッテナ』(講談社)はなんて面白いんだ!と思っていました(笑)」

石田月美さん

父親は石田さんが小さい頃、フランスのドーバー海峡で通訳をしていました。家族でフランスに住んでいましたが、石田さんが小学校に上がるタイミングで父を残して帰国。父親は過酷な労働を続けるうちにアルコール依存症になり、帰国後は母が従事していた翻訳業に合流する形で夫婦で翻訳業を始めます。

「父はアルコール依存症で暴力がひどく、ちゃぶ台が飛びテレビが割れるような家庭でした。私の前歯のほとんどが入れ歯なのも父から殴られたからです。そんな父でしたから母1人で子ども3人を育ててくれたことは感謝していますが、なんでもやってしまう過干渉な母でした。発達特性がある人の親の共通点になんでも先にやってしまって子どもの学習期間が失われるというのがあるのですが、それの典型でしたね」

当時夢中になったのは落語の本。小学校の図書館にある落語の本を覚え、家で披露するのが好きだったそうです。

「父がお酒を飲んで暴れるかも? 危ないな、という時に落語を一席打つんです。すると場がゆるんで喜んでもらえる。自分も好きだしそれで家庭の緊張がやわらぐのがいいなと。学校では居心地の悪さ、同級生との足並みが揃わなさをずっと感じていましたが、自分では何が悪いのか分かりませんでした。小さい頃から背が高くて成長が早かったせいか、周りから注目を集めることは多かったです。勉強ができたこともあり優等生のように扱われて、女子の派閥から距離を置かれたりもしていました」

翻訳家の両親の影響を受けた「美しい日本語」で孤立するも「非行」というツールを使って仲間や友達を獲得

性虐待に遭ったのは小学生の頃。その体験を“絶対に人に言ってはいけない”と思ったことや父親の暴力のことも相成り、抱え込んでしまうことが増えていったと言います。

石田月美さん

「話せないことが多く、隠して取り繕うばかりになると、人と仲良くなりづらいですよね。まわりからは“喋り方が変”“アナウンサーみたいな話し方をする”とも言われていました。父は栃木、母は福岡出身、方言が強い場所生まれの2人がフランス語の通訳や翻訳をする。だからこそふだんの言葉が極端に丁寧で、いわゆる美しい日本語を使っていました。その影響で私も。中学に進学するとまわりの言葉遣いがより軽くラフになっていく中、私は新入生代表の言葉を読んだのですが、その言葉遣いのせいかさらに疎外感が高まって。孤立した結果、しっかりグレて学校に行かなくなりました(笑)」

中学には途中から行かなくなり、高校に進学すると外泊が増えて家出気味に。次第に不良仲間とつるむようになり、友人宅を転々としたり、ホームレスのような路上生活をしていたこともありました。

石田月美さん

「非行というツールを使って初めて仲間や友達を獲得しました。学校に無理に行ってしんどい思いをするより、私は友達ができて嬉しかったんです。不良仲間とつるむようになり、友達の家に泊まったりと家出少女になりました。でも、女友達の家に泊まるのは気を遣うし、男の子の家に泊まると消耗する。路上生活をしていたこともあり、危ない目にも遭って心も体もボロボロでした。これではいけないと思って大阪にいる姉を頼りました」

心療内科の主治医からの「結婚すれば?」というアドバイスから婚活開始し、見事ゴールイン!

大阪では大学生の姉と彼氏が住んでいる家に居候します。昼はアパレル店員、夜はお好み焼き店のダブルワークをこなしますが、東京弁での接客をからかわれたり、友達もいない中で弱音を吐けないまま働き続けたことがストレスで過食が始まり摂食障害に。大学に行くことを理由に実家に戻った後は、大学のそばで一人暮らしをスタートしますがうつ病になり引きこもり中退、実家に再び戻ることに。

心療内科に通院中、主治医からの「結婚すれば?」というアドバイスから婚活を始めたエピソードを書いた本が『ウツ婚‼︎―死にたい私が生き延びるための婚活』(晶文社)です。

石田月美さん 『ウツ婚!』『まだ、うまく眠れない』

“生き延びるための婚活”として失敗を繰り返しながら回復していく姿をユーモアたっぷりに描いています。本の後半には恋愛や婚活のテクニックをまとめたHOW TO編も収録。その中で本命として登場した人物が現在の夫です。



「親と子どもが別人格であると意識すること」「暴力がないこと」を大切に、風通しのいい家庭作り

お子さんは小学4年生と2年生、子育てしながら執筆活動を続けています。家庭や子育てで大切にしているのは、“親と子どもが別人格であると意識すること”と“暴力がないこと”。そのために風通しのいい家庭づくりを心がけています。

「私と子どもは別人格ですから人間関係も別。子どもが嫌いな友達でも私のことが好きでその子が遊びに来たいならOK。子どもには“あなたは嫌いでいいから。ママに会うためにその子が来るからね”と伝えます。暴力については、いつ自分が暴力を振るうか、いつ加害者になるか分からない不安を抱えながら子育てしています。私は子どもたちに“このいえでぼうりょくがおきています”という言葉と自宅の住所を書いたお手製カードを渡して、困ったら誰かに渡すように伝えています。

石田月美さん

なるべく緊張感のない家庭が理想で、子どもにとっての安全基地を作りたいんです。うちにはよくお客さんが来ますがそれは風通しがいい家庭を作りたいから。家庭内暴力がある家って来客が少ないんですよ、逆に人がよく来る家は発生率も少ない。人が来ることで自分の襟を正すことにもなります」

大切な子どもを守るために、文章を書き仕事をする

石田さんにとって子育てとは“自分自身を押し広げてくれたもの”。自分が世の中に存在していいと認めてくれ、自分に役割を与えてくれたものだと言います。

「『マザリング 性別を超えて〈他者〉をケアする』(集英社)の中村祐子さんが出産してから自分が社会の中にいるかどうか不安になったとおっしゃっていたんですが、私にはそれがデフォルトなんです。出産、結婚前から“この世界に自分はいるんだろうか”“このまま私どうなっちゃうんだろう、どうなってもいいか”と思っていました。例えるなら、荒涼とした寒々しい無限の中をさまよっている感じです。

石田月美さん

好きな漫画『火の鳥』(手塚治虫著)の宇宙・生命編 の中に脱出カプセルで宇宙を永遠にさまよう話があるんですが、それにすごく似てるんですよね。脱出カプセルは、すべてが無限にループし続ける惑星にたどり着き、人は死ねないことに耐えきれず植物になることを選びます。寿命がきたら赤ちゃんに戻っちゃって生を繰り返さなきゃいけないから。女性だった植物にはおっぱいが付いていて、赤ちゃんに乳を与えます。それを見て、“私も同じようになりたい”“死ねないなら せめておっぱいをあげる存在になりたい”と思いました」

自分の存在理由は子ども。そんな自身の弱さを知っているからこそ、子どもにしがみつかないよう、距離を取れるよう、仕事をしていると石田さんは言います。「自分の生きる理由を子どもだけにしちゃいけないなって。でもつい顔を見ると“今日も世界の幸福の総和を上げてくれてありがとう”とか言っちゃうんですよね。“ママのやばいところが出たよ”と子どもに呆れられています(笑)」。大切な子どもを守るために、文章を書き仕事をするという石田さん。今年から来年にかけて出版する本を何冊か準備中ですが、これからやりたいこともやはり書くことだと言います。

石田月美さん

「今は当事者であることを打ち出した本が多いですが、当事者性を特権のようにしたくないと考えています。文章の面白さで勝負したい。書くことは私の仕事で、いろいろあってようやくありついた仕事です。私はこれしかできません。書くというのは私にとって世界とつながる方法でもあったと思います。もしも書くことを奪われてしまったら、私自身にはもう何もない。だからこれからもどんどん書いていきたいです」

My wellness journey

石田月美さんに聞きました

心と体のウェルネスのためにしていること

「ルーティンを大事にしています。午前は執筆をするアウトプット、午後はインプットの時間と決めています。インプットの時間は本を読んだり、映画を観たり、人と会ったり。1人でいる時間といろいろな人に会うことの両方を大事にしています。私は誰かを信じたり世界を信じ続けていきたいと考えていて、そのためには人と会ったり話を聞く必要があると思っています。今まで自分のことが嫌いでボロボロだったから、もうこれ以上情けなくなりたくないし惨めにもなりたくない。だからこそ理念や理想を大事にしつつ、どう他人に親切でいられるか、自分の尊厳を守れるかということを考えています」

インタビュー前編はこちらから読めます

石田月美さん

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
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