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私のウェルネスを探して/石田月美さんインタビュー前編

【石田月美さん】発達障害当事者で2児の母が伝授!夫や子どもと健やかに過ごすための5つのルール

  • LEE編集部

2025.09.20

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石田月美さん

今回のゲストは文筆家の石田月美さんです。石田さんは家出や引きこもり、心療内科通いを経て婚活し結婚。現在2児を育てながら、うつや摂食障害、依存症や発達特性を持ちながら生きる苦労や生きづらさを文章にしています。これまでに2冊の本『ウツ婚‼︎―死にたい私が生き延びるための婚活』(晶文社)、『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)を出版しました。

前半では、最新著書『好きで一緒になったから──死にたい私でも恋愛・結婚で生き延びる方法』(晶文社、鈴木大介さんとの共著)について話を聞きます。この本はルポライターの鈴木大介さんと石田さんの共著で、発達特性のある当事者(石田さん)とそのパートナー(鈴木さんは妻が発達特性があります)の視線から、障害とパートナーシップを掘り下げる本です。

程度に差はありますが、最近では誰もが何かしらの発達特性があると言われています。パートナーとの関係をより良くするためには、相手をよく知ること、理解することという基本に立ち返る2人の対話は、発達特性があるなしに関わらず覚えておきたいことだと気付かされます。(この記事は全2回の第1回目です)

女性にとって「恋愛」や「結婚」は衣食住を確保し、安全基地を作るきっかけに

石田さんがこの本を作ったのは友人だった鈴木さんと行った障害とパートナーシップにまつわるオンラインイベントがきっかけでした。

「イベントに参加する方は自身に発達特性があったりパートナーがそうだったりする方が多かったんです。イベント中のチャット欄には“うちもそう”“同じです”という声があふれていました。そして、『私にも発達特性があって』とおっしゃる当事者の方は圧倒的に女性が多かった。パートナーシップを考えるイベントでこの偏りがあるのは、女性にとって結婚・出産が社会制度に強制的に再接続するライフイベントであり、恋愛や結婚が衣食住を確保し安全基地を作るきっかけになっているからでしょう。そうであるなら、安全基地を保ち続けるために何ができるかを鈴木さんと模索しながら書きました」

『好きで一緒になったから』

発達特性を紹介する本、発達特性を理解するために支援者や援助職の人が読む本はあったけれど、当事者の人間関係に焦点を当てた本はありません。そこで生まれたのがこの本です。
 
「当事者の自己理解も大事ですが、人は1人で生きられません。当事者が“誰かと生きていくための本”とも言えます。誰かと一緒に生きる時に“自分はこうだからこうしてよ”“理解してほしい”だけではなく、“私たちができることはなんだろう”“できることを見つけたい”と考える手段として使って欲しいです」

障害がある人に役立つライフハックは、健常の人にも役に立つ

パートナーが私たち(当事者)を肯定しながらそばにいてくれる。その事実が私たちにとっての特効薬

私たち(当事者)は誰よりも自分のことを大切にしてくれているパートナーより、たまに外に出て会う人のほうに気を遣ってしまったりもする。それで疲れて一番大事な人に加害的なことをしてしまう

パートナーに相談できるくらいの安全な雰囲気が家庭にはあってほしい

『好きで一緒になったから──死にたい私でも恋愛・結婚で生き延びる方法』文中より抜粋

「障害がある人に役立つことは、当然ながらいわゆる健常の人にも役に立つんです」と石田さん。発達特性について理解を深めつつ、パートナーとのやり取りや関係性を考える良い機会にもなると言えます。

石田月美さん

「発達特性は病気ではありませんし、完治することがないので、うまく付き合っていくしかないんです。だから当事者たちには、困った状況をなんとか乗り越えようとするテクニック、ライフハックが貯まっていきます。ひょっとしたら、自分に発達特性がないと思っている人でも“こういう時に疲れやすい”“似たような場面で困ったことがいつも起きる”という人がいるかもしれません。そういった人たちの気づきになったり、どう対処するかのアイデアのひとつになればいいなと思います」

虐待や貧困、暴力や性被害に遭った女性の多くは、発達特性と非常に似通った複雑性PTSDがあらわれる

虐待や貧困、暴力や性被害に遭った女性の多くは、それらをトラウマ体験として抱え、複雑性PTSDと呼ばれる症状があらわれます。その症状は発達特性と非常に似通っていると石田さんは言います。さらに、パートナーとなる男性が支配的な言動やDVを行うケースもあり、常に安心できない危険な日々を過ごしてきた方も多くいます。良好なパートナーシップを形成することは発達特性や似た症状がある女性たちのセーフティネットになるという考えはここから来ています。

『好きで一緒になったから』

鈴木さんは妻に発達特性があり、自身も10年前に発症した脳梗塞で高次脳機能障害があります。鈴木さんはルポライターとして過去に家出や売春をする未成年を多く取材し、彼ら彼女らの多くに精神疾患や発達特性があるケースが多いことを知っていました。界隈のスペシャリストとも言える鈴木さんにさえも伝わっていないこと、分かっていなかったことがあったことに驚いたと石田さんは言います。
 
「私はずっと鈴木さんのファンでこれまでの著作も拝読し、当事者のことをこれほど理解している人はいないと思っていました。だけど鈴木さんにさえも伝わっていないことがあると気づいた時、じゃあ夫は一緒に住んでいるけれど当然ながら私のことが分からないよね、と思いました。これほどさまざまなケースを詳しく取材してきた人でも当事者を理解するのは容易ではない。だからこそきちんと段階を踏んで説明していかないといけない、伝えなければいけないと思いました」



家族には“たまに具合が悪くなるよ”“疲れやすいからね”と宣言。自宅の間取りにも「のびのびと具合が悪くなるための工夫」が

石田さんは情報処理障害という発達特性があるため、目や耳から入る情報を常に少なくするようにしています。家の中の目に見える場所には物がほとんどなく、壁には何も貼らず整然としています。仕事場のデスクは壁に沿わせず、部屋の真ん中にドアに向かって配置されています。本や漫画は背面に、目に入るものは極力減らし仕事に集中できる環境を作っています。

「発達特性がある人はできることが少ないんです。できたとしても疲れやすい。“できることとできないことの間に、できるけれど疲れることがたくさんある”とよく言われています。発達特性がなければ生産性でカバーできることもありますが、私にはそれが難しい。だから最初から家族に“たまに具合が悪くなるよ”“疲れやすいからね”と宣言しています」

石田さんは現在も過食やうつになる時期があります。そんな時に家族が困らず生活しやすいよう間取りにもこだわりがあります。一軒家の1階に夫の寝室や子ども部屋、2階にリビングとダイニングキッチン、3階が石田さんの部屋です。石田さんの調子が悪くなった時も石田さんがいる3階抜きで生活が完結できる間取りになっています。

「のびのびと具合が悪くなるための工夫ですね。私がうつになる時期を家族は“モグラ期”と呼んでいて、“今ママはモグラ期だから3階は放っておこう”という感じです。夜中に過食になってしまった時は冷蔵庫の中身や買い置きのお菓子がすっからかんになるのですが、そんな時は“クマが出た!”と言っています(笑)。夕ごはんを残しそうになった時も、“どうせクマが出るからラップして置いときなよ”みたいな。わが家のカレンダーには私の生理周期も書いています。その時期は“ママは休むのがお仕事だから”と伝えています」

予定できないからこそ調子がいい時に家族に宣言しておく。お子さんが3、4歳の頃からそういう時期があることを伝えつつ、具合が悪いことが“子どものせいではない”“家族のせいではない”ことを必ず伝えるようにしています。

石田月美さん

「私が通っていた心療内科や自助グループで会った仲間たちを見ていると“偉大な父“か”病弱な母”のもとで育った子が病みやすいのではないかと思って。私が急に具合が悪くなってしまうこと自体は治せないので、原因が“あなた(子ども)ではない”とはっきり言います。また夫には“夫婦間の問題が原因ではない”とも伝えるようにしています」
 
石田さんが家族と過ごす時に気をつけていること、大切にしていることを教えてくれました。

発達特性がある人もない人も知っておきたい!

家族と健やかに過ごすための5つのルール

1.自分を主語にして話す

心理学でいう“アイメッセージ”のこと。「あなたはこうだよね」ではなく「私はこう思う」という言い方で相手に伝える。

2.子どもの前ではケンカをしない・お金の話をしない

夫婦の深刻な話、お金の問題は子どもの前では話さない。安全基地であるはずの場所に「夫婦仲が良くない」「お金がない」という不安要素を与えてしまうから。子どもがいない時に夫婦だけで話し合う。

3.家庭内のグチは外で発散する

家庭内でグチを言うと密室だから問題が発酵してしまいがち。グチが言えなくなったら危険なので、早めに外にグチを出すこと。つらいと引きこもってしまいやすいので、グチを言うためにも外に出る。夫からのアドバイスは聞けなくても友人からのアドバイスは聞けることがある。

4.自分が悪いと思ったら早めに謝る

失敗は仕方がないので悪いと思ったらすぐに謝る。それで許してもらえない時は向こうの問題。とにかく早く謝る。そして次から気を付ける。

5.恥ずかしがらずに夫を褒める

夫を本人や子ども、他人の前でしっかり褒める。直接的に褒めるとお世辞っぽくなるため、噂話を本人の前で堂々とするイメージで褒める。

石田月美さん

とりわけおすすめなのが“グチ”の活用。発達特性のある石田さんは「相談というと相手が解決方法を出してくれたり説教をされたりする場合が多く、相手の言うことを聞かなければならないような気がしてしまいます。支配される感じがあり不安になることも。だから相談になる前にグチの段階で小出しにしておくのがおすすめ。グチに解決は要りませんから」とのこと。お酒も飲まずにグチが言えるのは女性ならではだそう、ぜひ活用してみて。

(後編につづく)

My wellness journey

私のウェルネスを探して

石田月美さんの年表

1983

フランス生まれ、5歳のときに帰国。高校を中退し家出少女となり、高卒認定資格を取得し大学に入学するが中退

2014

婚活セミナー「婚活道場」を立ち上げ、精神科のデイケア施設で講師を務める

2020

『ウツ婚‼︎―死にたい私が生き延びるための婚活』(晶文社)を出版(2023年に講談社より漫画化)

2024

『まだ、うまく眠れない』(文藝春秋)を出版

2025

『好きで一緒になったから──死にたい私でも恋愛・結婚で生き延びる方法 』(晶文社、鈴木大介さんとの共著)を出版

石田月美さん出演イベントのお知らせ

鈴木大介×石田月美×大嶋栄子「当事者とパートナーにとってのより良い支援のために」『好きで一緒になったから』(晶文社)刊行記念

期間

2025年10月3日(水)19:30〜21:31 ※1カ月の見逃し配信あり

店舗

本屋B&B(世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F) ※オンライン配信あり

詳細

Peatixの本イベント告知ページをご確認ください https://peatix.com/event/4565876

石田月美さん

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

おしゃれも暮らしも自分らしく!

LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
仕事や子育て、家事に慌ただしい日々でも、LEEを手に取れば“好き”と“共感”が詰まっていて、一日の終わりにホッとできる。
そんな存在でありたいと思っています。
ファッション、ビューティ、インテリア、料理、そして読者の本音や時代を切り取る読み物……。
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