LIFE

折田千鶴子

広瀬すずさん×松下洸平さん『遠い山なみの光』公開記念対談

【広瀬すずさん×松下洸平さん】『遠い山なみの光』夫婦役で初共演だけど元々知り合い。「現場では”うわ~、めっちゃ女優さんじゃん!”と変な緊張がありました(笑)」

  • 折田千鶴子

2025.09.03 更新日:2025.09.05

この記事をクリップする

広瀬すずさn 松下洸平さん

原作:カズオ・イシグロ×監督:石川慶(『蜜蜂と遠雷』『ある男』)

カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されたニュースを目にして、既にチェック済みの方も多いのでは? その注目の映画『遠い山なみの光』がいよいよ公開に。ノーベル賞作家カズオ・イシグロさんの長編小説デビュー作を、『蜜蜂と遠雷』『ある男』などで知られる気鋭の石川慶監督が映画化した本作は、期待どおりの味わい深さ、しかも後からジワジワくる系の必見作です!

そこで、夫婦を演じた今をときめく2人、広瀬すずさんと松下洸平さんにご登場いただきました。元々お知り合いだったという2人からは、カラッと明るい人柄も手伝って、とっても面白いお話が続々飛び出します。ポンポン飛び交う本音トークをお楽しみください!

広瀬すずさん

ただならぬ美しさも益々進化中!

広瀬すず

Suzu Hirose

1998年6月19日生まれ、静岡県出身。『幽かな彼女』(13)で女優デビュー。ドラマ「学校のカイダン」(15)で連続ドラマ初主演。『ちはやふる』(16)で映画初主演。主な映画出演作に『海街diary』(15)、『ちはやふる』シリーズ(16、18)『怒り』(16)、『流浪の月』(22)、『ゆきてかへらぬ』『片思い世界』(25)など。朝ドラ「なつぞら」(19)など。『宝島』が9月19日(金)より公開予定。『汝、星のごとく』が26年公開予定。

松下洸平さん

柔らかな空気感。無敵の癒やしパワー

松下洸平

Kohei Matsushita

1987年3月6日生まれ、東京都出身。08年より音楽活動を開始。ミュージカル「GLORY DAYS」(09)で俳優としても活動を始める。代表作に、舞台「母と暮せば」「スリルミー」(共に18)など。近年の主な出演作に、ドラマ「最愛」(21)、「いちばんすきな花」(23)、「放課後カルテ」大河ドラマ「光る君へ」(共に24)、映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』(共に24)など。26年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」に出演予定。

本作が初共演ということですが、まずはお互いの印象、共演された感想を教えてください。

広瀬 共演は初めてですが、実は友人らと一緒に飲んだことはあるんですよね。

松下 そう、プライベートでは面識がありました。

広瀬 だから逆に、現場で顔を合わせるのが新鮮で。“そう言えば自分たちって同じ仕事していたっけね”みたいな感覚でした。

松下 普段の広瀬さんを知っていただけに、現場で(広瀬さんが演じた)悦子の髪型で衣装を着た姿を見て、“うわ~、めっちゃ女優さんじゃん!”と変な緊張がありました(笑)。

広瀬 私も“近所のお兄ちゃん”的な印象を持っていたので、逆に照れくさかった(笑)。でも人柄を知っているだけに、現場ですり合わせながら関係を築く必要がなく、ちょっと微妙なこの夫婦の関係性にも、スッと入っていける感じがありました。それが、とても大きかった気がします。

実際に俳優として現場で対峙されて、いかがでしたか。

松下 もう特殊能力かと言えるくらい、広瀬さんのスゴさを感じました。しっかりオンとオフがあって、「カット」がかかると、すごいヘラヘラするんですよ(笑)。ヘラヘラしているのに本番に入った瞬間、本当にパッと目の色が変わる。その瞬間を、この距離で見られたことは、本当に貴重な経験になりました。本番の集中力には圧倒されましたね。

広瀬 私が(テイクを)何回やってもきっと受け止めてくれるだろうという安心感や信頼感がとても大きかったです。

松下 僕が出演していないシーンでの、僕の知らない悦子の姿を映画で観た時、すごく胸が苦しくなったんです。そこからも改めて、広瀬さんの表現力の高さを実感しました。



『遠い山なみの光』ってこんな映画

9月5日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかで公開

80年代、イギリス。作家を目指す娘ニキ(カミラ・アイコ)から昔の話が聞きたいと乞われたた悦子(吉田羊)は、戦争を体験した後にイギリスへ渡った当時の記憶を手繰り寄せる――。時はさかのぼり50年代の長崎。妊娠中の悦子(広瀬すず)は、夫の二郎(松下洸平)と団地暮らしをしている。ある日、幼い女の子を連れたミステリアスな佐知子(二階堂ふみ)と知り合い、少しずつ親しくなっていく。しかし当時を思い出そうとする悦子の記憶は、少しずつ辻褄が合わなくなっていく――。50年代の長崎と80年代のイギリス、2つの時代と2つの場所を背景に、3人の女性たちが織り成すドラマを綴る。

戦後間もない1950年代の長崎で生きる悦子と、その夫・二郎を演じるに当たって、どのようなことを考えましたか。特に悦子に関しては、とても複雑な展開がその後に待っているだけに、理解する難しさもあったと思います。

広瀬 そうなんです。脚本を読んだ時、色んな糸が絡みあっていて、どれが自分の糸なのか全然、分からない感じでした。ただ演じるとなった時は、その先の人生がどうなるのかを考えず、当時を生きる一人の女性として素直に演じてみよう、と臨みました。というのも年齢を重ねた悦子さんや佐知子という女性が、とても吸引力のあるキャラクターで。だからこそ50年代の悦子は、“自分ではそんなつもりがないままに、いつの間にか変化していった”という風に感じられる方がいいのかな、とざっくり考えました。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

監督とは、何か悦子についてお話をされましたか。

広瀬 監督自身も「僕も迷っているので」とハッキリおっしゃっていました。現場で私が演じてみた時、多分、監督は私が迷っているのを察してくださってようで、段取り(現場で軽く演じながら動きを確認する)の後で、「1回目の方が好きでした」とか「その方向のニュアンスでいい」とおっしゃってくれて。あまりお互いにハッキリと言語化せず、ニュアンスだけですり合わせていったような気がします。

二郎は昭和のモーレツ社員であり、妻の悦子に対してどこか抑圧的な部分もあります。同時に、戦争で心身ともに傷を負っている。そのあたりで意識したことや、監督と話したことを教えてください。

松下 脚本を読んだ僕個人としては、二郎に対しいわゆる“昭和の九州男児”というイメージを持ちました。でも監督が思い描いていたのは、もう少し柔らかいイメージだったようで、その辺のことを現場でお話し、調整していただきました。また監督が二郎の人物像、生い立ちなどをとても丁寧に細かく文字にしてくださって、それを読んで「なるほど」と理解できたことも多かったですね。昭和という時代性や二郎が負った心身の傷を、どの程度の強さで、どれぐらいの分量で表現していくか。それが上手く伝わる塩梅や最適解を、現場で何度もテイクを重ねながら見つけていく作業でした。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

戦争の傷、原爆の傷、そして長崎

自分の中で悦子という人間を掴めたような感覚は、どこかでありましたか?

広瀬 いろんな解釈が出来る展開やラストが待っているので、撮影前は勝手に色々と考えてずっと迷っていました。だから本読み(俳優たちが脚本を一緒に読む)にもフワフワした状態で行ったのですが、その時に佐知子を演じる二階堂(ふみ)さんが既に完全に固まってる感じがして、少し見えたものがありました。二階堂さんの喋り方に、あの時代に生きていた女性の強さ、意志、貫き方など色んなものを一気に感じられたので、そこに少し寄せて行った部分もあります。

確かに佐知子も悦子も、芯の強さが感じられますね。

広瀬 でも目の前に二郎さんがいたら“ウッ”と(息苦しく)なったりもして。いなくなったら自由だと感じられたりもしました。
 

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

戦後の長崎という時代や場所に対して、何か準備されたことはありましたか?

広瀬 もちろん時代や物語の背景を、ちゃんと勉強して知っていることはとても大事だと近年の出演作を通して実感することは多いです。でも、色々と知った上で知識に引きずられ過ぎることなく、実際に対面している相手との距離感や温度感を感じながら演じることを重視しました。というのも今の時代より当時は、距離感や温度感ももっと敏感で分かりやすかったのではないか、と感じて。だから対峙する相手とのライブ感を楽しみながら現場にいた気がします。
 
松下 確かに広瀬さんの言う通り、僕も現代とはまた少し違う距離感だなと感じました。今ほどメディアもSNSもなかったゆえに、逃げ場のない時代だったとも言えると思います。そういう息苦しさを抱えたまま生きている人たちだったことを、どこまで出せるか。それが大事だな、と。

原爆を落とされた傷跡、戦後の変化も色んな人物から感じ取れますね。

松下 これまで何度か長崎の原爆をテーマにした作品をやらせていただいた中で、長崎の方々がおっしゃられた言葉――長崎にはクリスチャンが多いこともあり「怒りの広島、祈りの長崎」と、それが強く印象に残っていて。広島の方々は今も声を上げ怒り続けている。一方で長崎の方々は、もちろん怒りはあるけれど、怒りながらも祈り続けている、と。長崎って静かで穏やかな港町ですが、僕もそこに静かな怒りが80年間ずっと続いていることを感じました。

それが二郎を演じる上でも、何かしら影響しましたか?

松下 ありますね。二郎さんも長崎の人間であり、血筋や生まれ育った環境から来る性格というものを、なんとなく頭の片隅に置きながら演じていました。例えば二郎は戦地で感じたことを、父親にぶつけたり声を荒げたりすることが出来ない。もちろん性格的なこともありますが、やっぱり長崎で生まれ育ったからこその何かがあると感じました。

『遠い山なみの光』
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

個人的な感想では、悦子に対する圧迫感や実の父に対する対応の冷たさが印象に強いのですが、確かに二郎も苦しんでいたのだと今、気づかされました。

松下 今でこそ(戦争を)忘れてはいけないとされる世の中ですが、当時は(生々しい戦争の記憶を)どう忘れるか、自分が見た景色をどう消していくか、ということに必死だったと思うんです。特に高度経済成長の真っただ中で、二郎さんには仕事しかなかったのかな、と。そうした彼なりの苦しみは、当時の人たちの多くが感じていたものの1つかもしれない。それを少しでも表現できればいいな、という思いで演じていました。

三浦友和さんを交えた親子・嫁舅・夫婦の距離感

本読みやリハーサルを入念にされたそうですが、三浦友和さん演じる二郎の父親がやってきて以降、3人で過ごす家のシーンが印象的です。あの辺りも入念にリハーサルされましたか?

広瀬 あの家にお義父さんがやって来たら、どこに座るか。悦子と二郎2人だけの時は、どう座っているかなど、監督と演者で色々と試していったのは、とても面白かったです。お義父さんが入ったら、他の2人の座る位置もこう変わる、みたいな。例えば2人だけの時は、キッチンから居間への動線はこうなるけれど、ちゃぶ台の周りに座布団がこう並ぶと……等々いろいろ試しました。
 
松下 そう、あれは面白かったですね。入念に、どこが1番しっくりくるか探っていきました。3人でセットの中にまず入り、座ってみましょうかと監督に言われて、「どうですか?」と確かめていって。「二郎は、そこに座っていそうですか?」とか(笑)。

広瀬すずさん 松下洸平さん

広瀬 寝室でも、布団はどっち向きだとか、枕はどっちだとか、やっぱり奥に男の人かな、とか色んな方向に枕を向けて、そこに1回寝てみて、監督が「どうですか?」と聞いて。
 
松下 「これも悪くないですね」とか確かめていって(笑)。こっちに窓があるから、朝陽が入ってきてちょっと寝づらいかとか。

確かに座る位置や寝る場所によっても、関係性や距離感が微妙に違って見えますよね

松下 要は庶民の話なので、暮らしが見えないとリアリティが出ない。そのリアリズムというものに、監督は本当にこだわってらっしゃっていました。父親と息子、息子の妻・悦子を交え、座る位置によってパワーバランスが微妙に変わってくる、という監督の意向があったと思います。

『遠い山なみの光』
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

悦子と二郎の生活や気持ちなどが、そういうところからも見えてきましたか?

広瀬 そうですね。例えば動線でも、いつもはキッチンから居間まで直線的に行くけど、緒方さん(悦子は義父をこう呼ぶ)が来たら、間(の部屋)が緒方さんの部屋になるから、遠回りしていくことになると、もはや「壁」がある空間になるとか。また悦子が寝室から(居間に)入って来ると、正面に緒方さんがいて、二郎さんの背中が目に入る。すると、空気感や時間の流れ方が違うように感じるんです。
 
松下 そういう細かいところに目を向けると、確かに見えてくるものがある。だから今後の現場での見方も、少し変わる気がしたほどです。特に今回、監督がこだわっていたのは、“居心地の悪さをどう作るか”だったと思うんです。緒方さんも2人が暮らしている中に入る居心地の悪さがあっただろうし、二郎さんも自分の城に父親がいることに居心地の悪さを感じていた。そして悦子も、そんな親子2人の間に入らなければいけない居心地の悪さがあった。その居心地の悪さを、みんなで探していったような気がします。
 
広瀬 2人がいると悦子は、部屋でも1歩引いて居ることが多い。例えば、緒方さんと二郎さんが将棋しているシーンとか。そういうところからも、キッチンは自分の陣地、他は全部(二郎さん側)みたいなことを実感できるセットだったので、すんなり馴染める感覚がありました。セットやモノ(小道具)に対してそう思えるのが、すごく新鮮でしたね。逆に、「いつもどうしてたんだろう?」と思ったりしたくらいです。

ヒューマン・ミステリーの空気感と映像

本作は、常にどこか不穏さが漂っている緊張感があります。演出や撮影方法、何か印象に残っていることはありますか? カメラマンは、石川慶監督と5作品もコラボレーションしてきたポーランド出身のピオトル・ニエミイスキさんです。

広瀬 想像以上にどこかライブ感の漂う撮影現場でした。だから、そのまま感情の流れを優先するのかと思いきや、立ち位置などはとても細かく意識してらして。「そこにカメラが入るの?」とか、意外なアングルから撮られていたこともありましたが、映画を見たら「なるほど」と思うシーンやカットになっていました。インする前に少しだけ聞いたことはあったんですよ。お芝居をしている間にカメラが入って来ることがあるとか、目の前のカメラを真っ直ぐ見たり、カメラのすぐ脇を見て演じることがある、とか。その通りのカメラアングルや立ち位置で、そこから力強くて莫大なエネルギーがギューッと出てくるというか、それを秘めているのが分かるカットが多かった印象がありますね。

松下 僕自身は、ここまでスリリングな展開や演出になっているとは撮影中は思っていなかったんです。二郎さんは家の中でのシーンが多いので、日常会話が主で核心を突くような会話もない。だから出来上がった映画を観て、特に二階堂(ふみ)さんのお芝居のミステリアスさに、ドキドキする感じなのかと初めて知りました。一度(二階堂さん扮する)佐知子さんが家を訪ねてきて、僕がガチャとドアを開けて言葉を交わすシーンがあるのですが、「ものすごい独特なオーラをまとった女性が家にやって来たぞ」と。佐知子さんが第一声を発した、あの空気感は忘れられないです。

『遠い山なみの光』
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

大爆笑!印象に残っているシーン

2人の共演シーンを振り返り、大変だった、あるいは面白かったシーンは?

松下 男は外で仕事をし、妻は家の中だけのことをやっていればいい、という男尊女卑が色濃い時代ですが、二郎さんは戦争で指を失ったので、自分でネクタイや靴紐を結べないんです。だから悦子に頼らざるを得ないという、その絶妙なパワーバランスの表現が本当に見事だと思いました。そんな重要なシーンで、広瀬さんがなかなかネクタイを結べなくて(笑)。何回もやろうとするんだけど(笑)……。
 
広瀬 もう、面白いくらいに難しかったですね。一度なんて、保育園児くらいに短く結ばれたネクタイ姿の二郎さんになっていて(爆笑)!

『遠い山なみの光』
©2025 A Pale View of Hills Film Partners

松下 それこそ、これくらい(首から5センチ程度)の時があって(笑)。これから大事な商談に行くっていう時に、こんな(首元5センチ)姿で誰が臨めるかって(笑)。
 
広瀬 それを見たら、もう本当におかしくて(笑)!!
 
松下 笑ってNGを出たこともありました(笑)。ただ、スクリーンに映るのは首元から上だったので、ぶっちゃけ、ちゃんと結べていなくても問題はなかったんです。でも、いかんせん短すぎて、おかしくて(笑)。
 
広瀬 (爆笑)! その時の悦子は、二郎さんの世話をするために常に動きながら、お義父さんのことなど結構シビアな会話をしながらネクタイを結ぶ、というシーンだったんです。動きながらシリアスなテンションになり過ぎないように(気を付けて)話すという、動きとテンションと言葉が整っていない場面だったので、本当に難しくて。そうしたらネクタイが短くなっていた(笑)。
 
松下 動きながら夫婦の会話を普通に続けたまま、同時に色んなことをやるというのが、非常にリアルなんですよね。

その一方で、悦子が緒方さんに、完璧なフォルムの美しいオムレツをちゃちゃっと作ってあげる、あの技術は見事でしたね。

松下 そうなんですよ、たまたま僕もモニターを見ていたのですが、広瀬さんがめちゃくちゃ綺麗に完璧なオムレツをさっと作るから、「うわ、すごいな!!」と。きっと家でたくさん練習したんだろうな、って。
 
広瀬 そうでしょう? 本当にちゃんと自分が焼いた姿を見ていただきたい! メイキングに残ってないのかな?
 
松下 そんな難しいことがササっと出来ちゃうのに、ネクタイが結べないというのが余計に可笑しかったんですよね(笑)。

カンヌ映画祭、カズオ・イシグロさんのこと

お2人ともカンヌ国際映画祭に行かれましたが、どうでしたか?

広瀬 鬼のように目まぐるしいスケジュール(取材対応など)だったので、ゆっくりカンヌを堪能する時間はありませんでしたが、それでも楽しかったです。カンヌでの上映は観客の反応が分かりやすいと聞いたことがあり、怖いなぁと思いながら上映に参加したら、上映後に監督とカズオ(イシグロ)さんがとても安心された表情をされていたので、本当に良かった~、と。とっても感動的な景色を見られた、という思いが残っています。

広瀬すずさん

松下 これだけ豪華な方々の中に、ありがたいことに僕も呼んでいただけて本当に嬉しかったです。正式上映の後、エンドロールが流れた瞬間に拍手がわっと巻き起こって、僕らが立ちあがって、本作に携わった皆さんとハグをしていたら、本当に感動して。なかなか立ち会えない瞬間に自分は居るんだ、という高揚感がありました。

それれこそ鳥肌が立つような?

広瀬 私は、その時はフワフワしていて、どこを見て、どんな態度で、何を言えばいいのか分からない状態でした。
 
松下 僕は嬉しくて感動して、すごく泣きそうになってしまったんです。そうしたら、意外に皆さんがスッとしているから(笑)、自分だけ泣くのはおかしいぞ、いけない、いけない、と必死でこらえました。

広瀬 でも、やっぱり独特なものがありますよね。
 
松下 僕は初めての経験でしたが、皆さんが「またカンヌに行きたい」とおっしゃる理由が、とてもよく分かりました。

松下洸平さん

その場には原作者カズオ・イシグロさんもいらっしゃいましたが、お話しする機会はありましたか? 

広瀬 どこかとても古風な感じがあって、でも親近感が湧いてくるような方でした。こんなにフランクで面白い方なんだって思ったのを覚えています。
 
松下 本当に気さくで優しい方でしたね。また奥様もとってもハッピーで、めちゃめちゃ可愛いらしい方でした。基本、英語でお話されていたので僕が100%理解できたかは疑問ですが、「遠い山なみの光」をお書きになられたのが25歳、小さなアパートの一室で書いていた、と。その時も奥様が隣にいらしたそうです。そんな頃からストイックに、イシグロさんの世界を貫いて来られたんだなと思って。そんな作品に映像として自分が参加できたなんて、本当に嬉しいなと思いましたね。

オマケで2人の近作を

広瀬さんは、本作とほぼ同時期に公開になる映画『宝島』でも、ヘビーな役というだけでなく、色々と共通項もあったりしますね。

広瀬 『宝島』も沖縄の方言で話したり、戦後間もなくを舞台にしているので、過去を自分たち演者がちゃんと映し出さなければいけない、という作品でした。また、役柄自体の設定も教師だったり。2作の景色は全く異なりますが、「子どもたちを救えなかった」という悔恨も重なっていて、不思議な縁を感じました。撮影は『宝島』が先でしたね。

松下さんは、来年は大河が待ち受けます。しかも徳川家康役です。

松下 他の方の撮影は既に始まっていますが、僕はまだ今(取材時)は台本を読み込んだり、馬の稽古をしています。お芝居で馬に乗るのは初めてで、なかなか難しいですよ。でも元々動物が大好きなので、癒されてもいて。今回の大河は、全体的に若い世代のキャストが集まっているので、これまでにない時代劇になるのではないかという気がしています。

広瀬すずさん 松下洸平さん

戦後の長崎を、それぞれがどんな気持ちを抱えて生きたのか。悦子がイギリスに渡った理由や経緯も、自分なりにどんどん解釈が広がっていく――。観終えてなお登場人物同士の繋がりや関係性や意味合いを、色んな記憶を手繰り寄せながら考えるのも、お楽しみの一つになっています。

女性の生き方や生きる道、選択に、いろんな思いが湧き上がって来ます。是非、劇場の暗闇の中で目を凝らして、少し悲しくて、少し怖くて、とってもスリリングな世界に浸ってください!

『遠い山なみの光』

2025年/日本・イギリス・ポーランド/123分/配給:ギャガ

『遠い山なみの光』

監督・脚本・編集:石川 慶
出演:広瀬すず 二階堂ふみ 吉田羊 カミラアイコ 柴田理恵 渡辺大知 鈴木碧桜
松下洸平 / 三浦友和
原作:カズオ・イシグロ 訳:小野寺健『遠い山なみの光』(ハヤカワ文庫)

2025年9月5日(金)より TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー


Staff Credit

撮影/山崎ユミ スタイリング/Shohei Kashima(W/広瀬すずさん分)、 丸本達彦(松下洸平さん分) ヘアメイク/小澤麻衣(mod’s hair/広瀬すずさん分)、KUBOKI(aosora/松下洸平さん分)

折田千鶴子 Chizuko Orita

映画ライター/映画評論家

LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。

LEE公式SNSをフォローする

閉じる

閉じる