原田泰造さん×中島颯太さん『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』インタビュー
原田泰造さんと中島颯太さんが「『好き』を貫くこと」「コンプライアンスと生きやすさ」を考える【『映画 おっパン』インタビュー】
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折田千鶴子
2025.07.04
大ヒットドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』が映画化

2024年1月に放送開始されるやいなや話題沸騰! 数々の記録を打ち立て、高評価を得た大ヒットドラマが、遂に『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』として映画化されました(ヤッタ~!!)。生きづらさが叫ばれて久しい現代において、「好きなものは好きでいいじゃないか!」と悩めるZ世代を勇気づけ、「自分の生きたいように生きればいいじゃないか!」と万人の背中を押してくれる、とっても優しい作品が今度はスクリーンで堪能できるなんて。思わずウキウキ高揚させられます。
さて、そんな主人公の誠さんを演じる原田泰造さん、誠さんのある意味“先生”的な存在でもある友達・大地君を演じる中島颯太さんに、本作の魅力をたっぷり語ってもらいました!

存在自体がエンターテイナー
原田泰造
Taizo Harada
1970年3月24日生まれ、東京都出身。1993年にネプチューンを結成し、一躍、人気を得る。俳優としても数々のドラマや映画で活躍し、代表作に主演映画『ミッドナイト・バス』(18)、主演ドラマ『サ道』シリーズ(19~)、『はぐれ刑事三世』(20)の他、大河ドラマ『篤姫』(08)、『龍馬伝』(10)、『花燃ゆ』(15)など。現在、『べらぼう』(25)にも出演中。

人生3周目くらいに大人!
中島颯太(FANTASTICS)
Sota Nakajima
1999年8月18日生まれ、大阪府出身。2017年に「EXILE Presents VOCAL BATTLE AUDITION 5~夢を持った若者達へ~」に合格し、FANTASTICSにボーカルとして加入。2023年、EXILE TRIBEのメンバーによるユニット EXILE B HAPPYとしても活動を始める。俳優としては、映画『逃走中 THE MOVIE:TOKYO MISSION』(24)、『顔だけじゃ好きになりません』(25)など。配信ドラマ『君を駆ける』(25)で初主演を務める。
まずは、ちょっとおさらいを。
昭和的な古い価値観で生きて来た沖田誠には、メイクや可愛いもの好きな高校生の息子・翔も、BL漫画を描く大学生の長女・萌も、アイドルグループの推し活に励む妻・美香も、みんな理解の範疇外。ところがゲイの大学生・大地と知り合ったことから、誠は少しずつ価値観や考え方をアップデートしていくのですが――。
最初の頃は、誠さんのガチガチに固まった昭和脳に溜息を付き、憤りを覚えたりしましたが、誠さんが得る新しい“気づき”に私たち視聴者も教えられることが多々あったのも事実。同時に、そんな誠さんがどんどんアップデートしていって、家族や同僚など周囲を優しく肯定的な眼差しで見つめられるようになっていく、その成長と変化にクスクス笑いと時にホロリとさせられる感動も生まれました。
妻・富田靖子さん、長女・大原梓さん、長男・城桧吏さんなど、沖田家のお馴染みの面々(もちろん犬のカルロスも)をはじめ、大地の母・松下由樹さん、大地の恋人・東啓介さんなど主要キャストがみな続投。さて映画版では、どんな問題が勃発するのでしょうか!?
『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
間違いだらけの認識をアップデートした誠(原田泰造)の変化に伴い、家族みなが伸び伸びと自分の「好き」を謳歌している沖田家。そんな矢先、かつて自分の部下だった佐藤(曽田陵介)が、誠の会社の取引相手として現れる。誠の姿を目撃した佐藤は、反射的に拒絶。一方、大地(中島颯太)は恋人の円(東啓介)と遠距離婚をすることになってしまい、不安を募らせ――。練馬ジム原作の同名コミックをベースにしたドラマの続きとして、オリジナルのストーリーで映画化。
ドラマ版の制作時は、視聴者にどんな風に受け止められるか、かなり心配したのではないですか?
原田 特に前半の誠さんに対しては、拒否反応を示す人がいるんじゃないか、という恐れはありましたよね。だから誠の“イヤ~な感じ”の具合をどれくらいにするか、どこまで振り切って表現するか、監督やプロデューサーは相当考えたと思います。ただ演じる僕としては、完全にそこはお任せしていたので、迷いや躊躇は全くと言っていいほどありませんでした。でもまさか映画になるとは思ってもいなかったので、ビックリしました。
中島 ドラマを観た方から、「初めて知れたことも多い」とか「お父さんに見て欲しい」、逆にお父さん方から「気づきました」とか、本当にいろんなコメントをいただいて。ただ、お父さんが今までやって来たことが全てダメなわけではなく、家族や身近な人が「好き」というものを尊重する大切さを、ゆっくりと教えてくれる作品。だから勇気づけられる。しかも心から笑えるシーンもたくさんあって、全キャラクターが魅力的で、結局みんないい人です。それが『おっパン』のいいところ。その世界観が映画でも形になっているので、安心して観に来ていただきたいです。
昭和な堅物オヤジを演じるのは、演技的にもかなり消耗するのではと思いますが、実際はどうでしたか?

原田 いや、誠さんが「おい、こら、来い!」とか怒鳴ったりするのを演じるのは、楽しかったですよ(笑)。また、いきなり柔らかな口調で「**さんですよね?」とか言い始める誠さんも、どっちも楽しかったです。
ほんの数年前までは、ああいう“昭和的なおっさん”って結構いましたよね!?
原田 いました。僕ら自身も、そういうオジサンに色々とヤラれ(怒鳴られたりイジメられたり)ましたしね。でもきっと自分も、そうとは認識しないまま昭和的な言動をして来たのかもしれないな、とも思うんです。今回も回想シーンで、元部下の佐藤君をイジメるシーンが出てきますが、あの頃の誠さんを演じたり観たりすると、改めて“アップデートして良かったな”と思いました。
中島さんは、そういう昭和なオヤジを実際に体験されたことのない年代ですか?
中島 確かに、あんな風に怒られたりしたことはないかもしれないです。僕が入ったLDHという会社は、体育会系ではありますが、昭和タイプではなかったので。入社当時“アップデート”なんて観念があったわけではないですが、先輩方はみな礼儀正しかったです。体育会系ではありますが、背中で見せてくれるタイプというか、礼儀を重んじる方の体育会系でした。




映画版の見どころは?
映画オリジナルのストーリーである脚本を読んで、感じたことを教えてください。
原田 ドラマ版でアップデートし切ったかと思ったら、家族もみなそれぞれが新しい悩みを抱えているし、大地君もまた1つ大きな壁を乗り越えなきゃならない。映画としてキチッと構成された作品だったので、読んでいてとても楽しかったです。だから改めて気持ちを作るようなこともなく、ドラマで起きたことの延長として、そのまま現場に自然に入っていけた感覚がありました。
中島 たくさんの方に届いたドラマの映画版で、しかもオリジナルストーリーということで、どんな展開になるのかすごくワクワクしながら読みました。そうしたら、やっぱり『おっパン』だなと強く感じて。至るところに「本当にいいな」と思うセリフや言葉がちりばめられていて、ストーリーも魅力的。確実にいい作品になると感じました。ドラマのクランクアップから1年以上空いてのクランクインでしたが、空白の感覚が一切なく、まるで2、3日ぶりに現場に入った感覚で、同じチームで撮れたのも良かったです。監督の「お帰り」という言葉でクランクインした、その雰囲気も『おっパン』そのもので。撮りながらも「これだよな!」と感じながら撮っていました。

現在の誠さんはアップデートしたのに、過去に犯した罪と向き合わなければならない苦しさがあります。そして大地君は、遠距離婚の寂しさや不安と闘うことになります。
原田 過去にやらかしたことって、誰でもあるとは思うんです。今回は、それが思いきり仕事関係で出てしまう。自分のせいで会社を辞めた元部下と別の仕事で会った時、どう向き合っていくのか。誠さんは自分でアップデート完了したつもりだけど、していなかった時のことも覚えているわけで。今回、相対するシーンを演じながら、誠として過去と向き合える時間を与えてくれたことに感謝しました。だって、それに対して謝ることができるわけだから。昔のことに対して謝るって、なかなか難しいんだけどね。でも、だからこそ良かった!
中島 ドラマ版での大地君は、みんなの頼れる太陽みたいな輝かしい存在でした。そんな大地君に影響され、みんなが動いたり変わったり。でも映画版の大地君は、遠距離婚で寂しさを抱えている。ある意味、彼の人間味を感じられるというか、ドラマとは違う一面が見られるので、そこを繊細に表現したいと思いました。監督と「この時は、まだ普段の笑顔ではなく、少し悩みが残る表情で」などシーン毎に調整していきました。後半で「大地君って、こういう人」という“らしさ”が出てくるので、そこに注目してください!

原田 ドラマの1話目で誠は大地君と出会い、友達になって色んなものを吸収する。いわば大地君は作品のシンボルなんです。常に「恥ずかしいことなんて何もありません」と堂々としていて。映画でもそれがちゃんと出ていて、その存在は素敵でカッコ良かったです。
いい関係性、「好き」を貫くこと
誠さんと大地君は年が離れていますが、その友情がまたステキなんですよね。
中島 いろんな世代が混じることで、いろんな常識を知れるし、互いの角度から見た別のものを共有し合える。それがすごく素敵だと思います。僕自身は、世代や年齢の違いと友だちになることはあまり関係ないと思っていて。年齢に関係なく好きなもので繋がれるし、互いの好きなものを尊敬し合えるのなら、世代に関係なくいい関係が築けると思います。

原田 本当にその通りだと思います。
中島 あれ、ちょっと(発言を)楽して……ますか(笑)?
原田 (笑)。だって颯太君って、本当に色んなことを教えてくれるし、大人だし。颯太君と同い年の誰もがそうとは言わないけれど、この年代のとき自分はこんなに大人だったかな、と改めて反省したり。逆にこっちが教えることなんて何もなくて。特に縦の関係性もみっちり身についている中島君と喋っていると、僕もEXILEになった気持ちになります。
中島 そこまでとはビックリです(笑)。嬉しいです。
原田 僕より上の世代になると、年齢に関係なく全員が同期みたいな感覚になってきちゃって、また、それもそれで楽しいんですけどね(笑)。
本作は「好き」を尊重する大切さと、「好き」を貫く厳しさも描かれます。それはお2人も色々と経験されてきたのでは?

中島 僕は元々すごくポジティブな性格だし、親が僕の「好き」を尊重してくれたので、あまり悩んだことがないんです。そこは大地君と重なります。でも大地君は、多分過去に色々と言われてきて、それを乗り越えての今の強さだと思うんです。その点、僕は落ち込んだりすることもなく、今も好きだから音楽をやり、アーティストとして届けられる立場になっている。俳優業も、それこそ『おっパン』に出演させていただいて、作品やセリフを通して素敵なことを発信できている。自分の好きなものが繋がっているので、楽しいからこそ突き進んで来られました。そこは親に感謝です。
原田 僕はバイトも部活も全然続かなかったんですよ。この職業というか、ネプチューンだけは続いている。それって、やっぱり好きだから続いていると思うんですよ。多分、僕も好きなことしか出来ないし、楽しいから続いているだけなので、「好き」を貫くことに苦しさはあんまり感じたことがなかったかな。
コンプライアンスが進み過ぎると窮屈!?
『おっパン』に出演されて、ご自身的にも価値観や考え方に変化がありましたか?
中島 自分が発した言葉で誰かを傷つけることはないか、誰か「嫌だな」と思う人がいないかを常に考えてから発信できるようになったのは、人としてもアーティストとしても大きかったと思います。例えばSNSでもライブのMCでも、「楽しかったね」と発信すると、来られなかった人は寂しい想いをするかもしれない。だから「また必ずやりましょう」とか一言添えるとか。それを意識するようになったのは、『おっパン』の影響です。本当に色んな方には色んな状況があって、それぞれ色んな思いがあることを経験したからこそです。

原田 自分自身、昔と今を比べると、断然、今の方が生きやすいと感じますね。昔の方が良かったことを探そうとしても、あまり思いつかないんですよ。若い頃にスマホがあったら、もっと楽しかったのになぁとか、なんでも今の方が便利だし、今の方が生きやすい。
とはいえ、コンプライアンス的なことが行き過ぎちゃうと、何も言えなくなって窮屈に感じる時もありませんか?
中島 これまで言われて嫌な思いをした方がたくさんいたし、そういう時期が長かったと思うんです。自分たちが気づかなかったけれど、傷ついていた人が一杯いる。そういう人が減ること、多くの人が救われるのなら、たとえ窮屈であっても、その方がずっといい世界だと思います。確かに難しい部分はありますが、僕はそう思いますね。

原田 僕も同じです。だって気が付いたら、僕自身、今の方がずっと生きやすくなっているから。だって僕たちの時代なんて、運動して喉が渇いても水も飲ませてもらえなかった時代でしょ。有無を言わさずウサギ飛びとかね(笑)。
中島 確かに学校の先生としては、やりづらい部分もあるでしょうけどね。子どもに対して怒れない、でもヤル気は出させないといけない。それは本当に難しいですよね。ただ僕は、相手を100%好きでいて、相手にリスペクトを持っていれば、その人のことを知りたくなるし、どんどん好奇心が湧く。そうなると、言葉一つとっても使い方が全然変わると思うんです。その人のことを本当に思っていたら、その質問は出ない、その答えは出ないな、とか。僕は誰に対しても、その感覚なんです。友人知人に限らず、誰に対してもそう。それこそ会った人全員。もはや街行く人に対しても。
もはや神ですか!?
中島 (笑)だから僕、街にいる人に対しても喋っちゃうんですよ。知り合いかどうかの差をつけれないんです。オンオフがないのもそうですが、一切の区別がないんです。
原田さんはどうでしょう?
原田 良かったら今の全部、僕が言ったことにしてもいいです(笑)。
中島 ダメですよ(笑)。
原田 ダメ? ただ僕も、言葉には本当に気を付けるようにしています。言葉は大事だと思っているので。
中島 確かに泰造さんって、そうしているイメージあります。スタッフさんに対しても、誰に対しても、言葉が素敵だなとずっと感じていました。いつも敬語で話されていて、穏やかなので人格者だなってイメージがあります。

ただ、ここまで誠さんがアップデートすると、段々とドラマや物語は作りにくくなりますね。
原田 そう、だから別にアップデート出来ていない人を登場させるしかないんです(笑)!
中島 6月28日に放送されたスペシャルドラマ版にも、ちゃんと別の人が出て来ますよ! 徳重聡さんが演じているのですが、どこか昔の誠さんを見ているみたいでした。しかも僕ら2人vs徳重さん演じるカタブツ男なんです。それがまた、面白い構図で。
原田 徳重さんの目がギョロギョロっとしているのが見どころです(笑)。
最後に、原作やドラマを未読・未見の方はきっとギョッとする、このタイトルについて教えてください。
原田 ドラマの銭湯シーンで誠さんが、「おっさんがどんなパンツはいたって、誰にも迷惑をかけないし、見えないんだし、人それぞれだからいいじゃないか。何が好きなのかが大切であって」みたいなことを言うんですよ。大事なのは、誰にも迷惑をかけないってこと。
中島 そうですね、人それぞれの「好き」があり、その形がなんであれ、何色でも、どんな柄でも、好きなら何だっていいじゃないか、と。確かドラマの第3話で登場するシーンですね。

最後に記憶力の素晴らしさまで見せつけてくれた中島さん。大人というか、人間デキ過ぎでは!?と思わせる発言の数々に思わず反省しきり。そんな中島さんをニコニコ見つめて「本当にスゴイ」と素直に賞賛する原田さんに対して、中島さんは「俳優としても人間としても尊敬しています」と賞賛返し。
リスペクトし合うと、こんなに楽しくて優しい世界になるんだな、ということを感じさせてくれる『おっパン』インタビューでした。とはいえ現実の人生には、色々と辛いことや悩みや壁が待ち受けます。それでも、心を尽くして一つ一つ対処していけば、きっと大丈夫だよ、と背中を押してくれる本作。是非、劇場で『おっパン』ファミリーに再会してください!
『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
2025年/114分/日本/配給:ギャガ/©練馬ジム | LINEマンガ・2025 映画「おっパン」製作委員会

2025年7月4日(金)より全国ロードショー
原作:「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」練馬ジム(「LINEマンガ」連載)
監督:二宮 崇
出演:原田泰造 中島颯太(FANTASTICS) 城桧吏 大原梓 東啓介 渡辺哲 曽田陵介
トータス松本 / 松下由樹 / 富田靖子
主題歌:「青春」ウルフルズ(Getting Better / Victor Entertainment)
Staff Credit
撮影/菅原有希子
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















