異なる世代の3人の女性たちの日常や、心の揺れを描いた小説『記念日』
【青山七恵さんインタビュー】『記念日』「体も心も揺れていい。3世代の女性たちの姿を描きました」
2025.06.15
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体も心も揺れていい。3世代の女性たちの姿を描きました
青山七恵さん

図書館で働く42歳のソメヤ、彼女のルームメイトで「早く年を取りたい」と願う23歳のミナイ。そしてソメヤが勤務先で知り合った76歳の乙部さん。異なる世代の3人の女性たちの日常や、心の揺れを描いた小説『記念日』。本書の中で印象的なのは、物語の中心的な存在で40代のソメヤが“朝起きたときに自分の体が貯金箱の中の小銭みたいになって、ガチャガチャ不愉快な音を立てている気がする”と感じるところ。青山さん自身の経験も織り交ぜている。
「『記念日』を書き始めたのは、私が30代半ばから後半に差しかかったとき。それまでの私はダンスを習うなど体を動かすのが大好きでしたが、40歳前後から少しずつ『前日の疲れが取れない』『よく寝たはずだが、起きたら体が重い』など、自分の心と体が、日によって変わるようになってきたんです。ベースは元気だし、日常生活に支障があるほどでもないんですけどね。ただ、激しく踊ってスッキリとしていた青年の時期から、どうやら次の段階へと移行したのだな……と。大人の心身の複雑な感覚を、ソメヤに託していきました」
当初は、自身と同世代のソメヤの視点だけで話を進めるつもりだったとか。しかし物語の語り手は、若いエネルギーを持て余すミナイ、高齢者の自分を俯瞰して見ている乙部さんへとバトンタッチしていくことに。
「ミナイは『若いことがしんどい』と思っていた、過去の私が少し投影されているかも。70代の乙部さんは未知の感覚なので、1章分のお話が書けるとは思っていませんでした。ただし世の中で求められがちな年上の女性のイメージや、自分の理想を押しつけないよう意識しました」
彼女が“素敵に年齢を重ねた人”ではないのも、この小説のおもしろさ。
「乙部さんは、無職で40代後半の息子・マサオと二人暮らし。高齢の母親と経済的に自立していない子どもの組み合わせって、LEE読者の方が読まれたら『こうなったらどうしよう?』と思われる部分もあるのかもしれません。でも、二人は二人なりのバランスが取れていて、幸せな部分もあり。その一方で乙部さんは、いい加減にマサオのお世話から解放されて一人になりたい。自分だけの時間に己の体を使いたい!という欲望も、ちゃんとあるんです」
登場するキャラクターたちの一筋縄ではいかない感情を、それぞれの「肉体」にスポットライトを当てながら、まとめた長編。青山さん自身は、何か体にアプローチをしている?
「週に1回、ピラティスに通っています。先生に教わることで初めて知った骨や筋肉もあって。『今まで、ずっと私の体の中にあったのに』と、不思議な気分になります」
デビューから20年がたった今も、コツコツと執筆を続ける生活。現在は週に3回大学で創作を教え、その他の日は執筆に専念。忙しい毎日の中で決めたことがあるのだとか。
「人生はまだ長い。30代~40代って誰もがバタバタしがちな時期だからこそ、自分から楽しめる時間を作ろうと意識しています。その中でも一人の時の隙間時間に無心になれるもの……で、韓国語の勉強を続けています。加えて、編み物にも挑戦中。編み物、今、流行っているんですよね! 私は帽子を作ろうと思い、毛糸を買いました。忙しくなると中断しますが、冬までにできればいいかなと、ゆっくり楽しんでいます」
PROFILE
1983年、埼玉県出身。’05年『窓の灯』で文藝賞を受賞しデビュー。’07年に『ひとり日和』で芥川賞受賞。『めぐり糸』『私の家』など著書は多数。幼少期から敬愛する作家はアガサ・クリスティー。ちなみにこの日はアガサのポートレイトにならい、頬に手を添える“文豪ポーズ”にトライしてもらいました!
『記念日』

賃貸の更新ができず住む場所をなくした40代のソメヤは、20代のミナイの家でルームシェアをさせてもらうことに。そんなある日、ソメヤが働いている図書館に、乙部さんという70代の女性が現れる。年を取ることに憧れているミナイ、中年になっている自分に戸惑うソメヤ、「お年寄り」の乙部さんの心境……と、それぞれの女性たちの交流と気持ちの動きを描き出す長編。¥2200(集英社)
Staff Credit
撮影/名和真紀子 取材・文/石井絵里
こちらは2025年LEE7月号(6/6発売)「カルチャーナビ」に掲載の記事です。
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