丸山隆平さんが『金子差入店』で“陽気なオーラ”を消して熱演。「スキンケアを封印し、肌のかさつきにこだわりました」
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折田千鶴子
2025.05.15
「こういう役を演じたかった」その心は?
みなさんは、“差入屋”という職業をご存知ですか? 刑務所や拘置所に収容された人たちに家族や関係者に変わって“差入れ”を代行する、実際に存在するお仕事だそう。と聞いても即座にピンと来る人も少ないでしょうが、だからこそ映画『金子差入店』の主人公の日常に、興味を禁じ得ません。
「そんなことが!」「そうだったのか……」と、驚きや目を見開かされる計り知れないドラマが繰り広げられているのでした。その差入屋さんを演じた丸山隆平さんに、どのように役に入って行ったのか、現場でどんなことを感じたのかなど、色々とお聞きしました。

丸山 隆平
1983年、京都府出身。SUPER EIGHTのメンバー。2004年、シングル「浪花いろは節」でCDデビュー。歌手、ベーシスト、俳優として活躍。『ギルバート・グレイプ』(11)で舞台初主演。『ワイルド7』(11)で映画初出演。『泥棒役者』(17)で映画単独初主演。近年の主な出演作に、ドラマ『着飾る恋には理由があって』(21)、ブロードウェイミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(22)、時代劇舞台『浪人街』(25)など。
本作で演じた金子真司について、「こういう役を演じたかった」と資料で語っていますが、どんな点に惹かれたのですか?
自分にとって身近でないどころか、“差入屋”という職業自体、全く知りませんでした。けれど、脚本がその仕事を通して、家族や身近な人間、または社会に対して色んなことを幅広く感じさせるものだったので、作品に参加することに大きな意味を感じたんです。ただ同時に、自分自身に向き合わなければいけない作品になるな、と感じました。ちゃんと携わる責任を負わなければならない、相当なエネルギーを必要とする作品になるだろうな、という覚悟を要しました。
『金子差入店』ってこんな映画

金子真司(丸山隆平)は、伯父(寺尾聰)から引き継いだ住居兼店舗で、妻の美和子(真木よう子)と伯父と10歳の息子と4人で暮らしながら、差入店を営んでいる。そんなある日、息子の幼馴染で真司も良く知る少女が殺される事件が発生。家族ぐるみで交流があった金子家は動揺し沈み込むが、逮捕された犯人の母親から差入の代行と手紙の代読を依頼される。真司は仕事として淡々とこなそうとするが、周囲から非難の目にさらされるように。一方で拘置所を訪れた真司は、なぜか毎日、そこに通ってくる女子高生と出会う。彼女は、母親を殺した犯人に会うために通っているのだった。長く助監督を務めてきた古川豪が、フと目に留まった「差入店」に着想を得て、11年かけてオリジナル脚本を完成させ、本作で長編初監督を飾った。
相当な覚悟で引き受けたわけですね。
その大きな理由の一つに、古川豪監督の人柄もあります。とても人間らしい方で、自分の中で何かを背負いながら、葛藤されているのがよく分かる。そんな監督と一緒にもの作りをしたら、どういう作品になるのだろう、という思いがありました。自分も役者としてどんな仕上がりになるんだろうと、ワクワクして引き受けたいと思いました。
エンタメ界で仕事をしていると周りからチヤホヤされることもあるため、一般社会と感覚のズレが生じやすいとも思うんです。でも、悩みや葛藤を抱えながら社会の中で普通に生きている真司のような人間を演じるのなら、絶対にズレた感覚ではやってはいけないな、と。“差入屋”という職業に対しても失礼に当たらないよう、自分がどういう精神性を持ってこの役に向き合うのか、自分のことも見直しながら丁寧に向き合い、作品を届けようと思いました。

実際に真司という役に入っていく上で、どんなことを考えましたか?
差入屋という職業は、非常に機密性の高い個人情報を扱っているので、一朝一夕で直接お話を聞くことは出来ませんでした。ただ11年にわたって構想して来た監督が、その間に色んな方々から話を聞いて取材されて来たので、それを聞くだけでも想像できないくらい繊細な内容、かつ取り扱いに注意を要することに向き合っている緊張感がありました。
そこから想像できたのは、常にそういうことと向き合っている真司は、相当なストレスを感じていて、心もガサつくだろうな、ということ。だからきっと肌荒れもしているだろうと思いました。表面的に聞こえるかもしれませんが、そういうことも役に反映させようと意識しました。いきなりお肌ツルツルで見た目に気を使っている人物が登場したらおかしい、と。だから撮影中は最低限のシャンプーのみ、敢えてスキンケアをしないようにして。差入の依頼を受け、その仕事に心を尽くそうとする人間は、どういう姿形になっていくのかも意識してアプローチするよう心がけました。



いわくつきの過去を持つ男・真司
真司は暴力沙汰を犯した過去があります。そんな彼だからこそ親身に「差入屋」を営めるのかもしれませんが、同時に彼の中で過去の罪はどれくらいの重みとなっているのだろう、と考えずにはいられませんでした。真司を演じられた体感として、どう感じましたか?
誰しも過去に何かしら悔い改めなければと思うことがあるとは思いますが、だからと言って常にそれを考えて誰かと接することはないですよね。だから真司もその時々で向き合っていることだけを考えていると思いますが、ふと風呂で1人になった時、リビングや台所などでタバコ吸ってる時などに、「あっ」と思う瞬間はあるのでは、と。実際に劇中にも、真司が言葉なく佇むシーンが置かれていると思います。そういうポツンとできた隙間に(過去の記憶が)出てくると感じました。
過去があるから常に暗いのは違うと思いつつ、どこかには(過去の罪を想う瞬間が)あることは意識していました。特に息子の幼馴染が殺されて、犯人に差し入れをしなければならず、犯人の前で手紙を代読するような時に、過去の自分や、沈んでいたヘドロのようなものがブワっと浮かび上がってくるような感覚がありました。そういうシーンで過去が滲み出ればいいな、と思いながら演じていました。犯人に差入れするたびに追い詰められていきますが、そういう(心情表現の)グラデーションは、監督や共演者の方々と一緒に、丁寧にシーンを重ねて作っていきました。

金子差入店の店内も、とても興味深かったです。
差入店を訪れる方は、色んな思いや事情を抱えている方ばかり。だから手早く手続きを進められたり、用件をすぐに聞いたりできるよう、すべてのものが手の届く範囲に置かれていました。一見、駄菓子屋みたいな雰囲気が漂っていて、それが妙な懐かしさや安心感を抱かせるのではないか、とも思いました。思ったより狭い気がしましたが、とても計算されたレイアウトで、ある程度の距離感で置かれた絶妙なラインだった気がします。だから、お芝居もしやすかったですね。
緊迫感がハンパない犯人への差入れシーンは――
真司と、あの人気俳優が演じる犯人との対面は、合計で3回あります。
3回、まとめて撮りました。犯人役の俳優さんもですが、お互いに結構、大変でしたね。

しかも犯人から挑発されるので、観ていても「うわぁ!!」となるシーンでもありました。何か強烈に記憶に残っていたりしますか?
いや、撮影って意外に地味なものです。あのシーンでも劇的なことはほぼ何も起こらず、スクリーンで全体が繋がった時に、「そんなこと起こってたんだ!」となると思います。だから演じていた時は、「すごい遣り取りをしたぞ、ヤベえ」みたいな感覚はありませんでした。ただ、お互いにお互いの心が動いてるのは感じていました。
最初の対面では、「こいつか!(息子の幼馴染を殺した犯人か)」と思うけれど、仕事として淡々と遣り取りしながらも、お互いに真司と犯人が探り合っている状態。演じていて違和感がなかったので、自分の中に意図せず何かが確かに起きたと思います。というのも、真司は目の前のこいつに腹を立てているのか、自分に腹を立てているのか、もう分からなくなってグチャグチャの状態だったんです。
真司を演じている丸山さん自身も、混乱していた状態だったのでしょうか?
いや、役者・丸山としては別に何も起きていないけれど、真司としてはどうしようも出来なかった、というのが全てかな。だから何も解決しないまま最後のくだりまで行ったし、そのことに危機感もあったし、でも自分と対話してるようでもありました。真司として「俺が出来ることって何だろう。こうして差し入れをしているけれど、これって何なんやろ。彼(犯人)が受け取ったものって何だろう」と。 3つの対面シーンの中で、その思いの間を行き来していました。自分の過去と向き合わなければならない状況になり、勝手に自分で過去をどこか「呪い」みたいにしているのかもしれないな、と感じて。そんな揺れ動いている状態で臨んでいました。
真木よう子さんの“距離感”の心地よさ
こういう繊細な物語の場合、どこからクランクインしたのか興味があります。

真木よう子さん演じる妻と、喪服で葬儀から帰る車内のシーンでした。ロケ場所など物理的な都合でそうなったらしく、セリフもなく“車内の空気を撮る”シーンだったので、監督は「最初でコレはキツイだろうな」と思っていたらしいんですよ。でもそのシーンを撮った瞬間、「大丈夫や。この映画、いける!」と思われたらしいですよ。
僕らはそんなことを知りもせず、めっちゃ久しぶりで何か話したくて仕方なかった(笑)。でもシーン的には「この空気感で、この距離感かな」と思いながらやっていたのですが、そういうものすべてを真木さんは受け止めてくれていて。少しだけ時間が空いた時に、「最近どうですか?」と声を掛けてくれて、真木さんの子どもの話とか少しして。「あそこの角を曲がったら、またずっと(無言)だね」と言いながら演じた、みたいな。やっぱり僕の好きな距離感の人だな、と思いました。
犯人と真司は母親に対する恨みや苛立ち、など共通点も多いです。犯人は決定的な罪を犯したけれど、真司は更生して普通の生活を営んでいる。そう出来た大きな理由はなんだと思いますか?
伯父さん、子ども、そして嫁。やっぱり家族って、人が1人では生きられない象徴じゃないかな。そこに母親も入って来るのは残酷だと思いつつ、それでも生きていかなければならない。家族を守らなきゃいけない、でも守れるかどうか不確定。それでも家族という守るべき存在がいることが、真司にとっては救いであり、同時に生きていかなければいけない呪縛でもあるのかな、と思いました。

これから目指していくものは?
笑顔の少ない真司という役は、丸山さんのパブリックイメージと真逆とも言えますね。
いつも太陽みたいにニコニコ笑顔のオレンジが、今回は思いきりシリアスな演技するぜ、どうだ、という意識はまったくないですね。昔は多少ありましたが、今はギャップ萌えみたいなことは考えてないです。あくまでアイドルとして作り上げたキャラは、それはそれ、これはこれ。もし本作が皆さんの心に届いて意味をなせば、僕もオーダーに応えられたのかな、と思える。発注いただいたネジが(パーツとして)上手いことハマって良かったな、ということが今は大きい。
それより古川監督のデビュー作である、ということの方が大きいです。自分のことには、あまり興味がなくて。今は一つ一つのお仕事に、どれだけちゃんとフィットした自分でいられるかが大事な気がしています。アイドルとしては、もはやキャラチェンジは出来ないですが、それ以外の仕事に幅広くどんどん挑戦して、どんな仕事でもチューニングが「ピタっ」とちゃんと合う表現者になれればいいな、と思っています。


現場で真摯に向き合う丸山さんの様子が、目に浮かぶようなお答えをたくさんいただきました! 差入屋を営む真司が遭遇する2つの事件――息子の幼馴染の殺害事件では犯人と対峙し、喉の奥から「なぜ殺したんだ!?」と手が出るほど知りたい、その闇と謎に迫って目が離せません。一方で、後半ではもう一つ、真司が拘置所で出会う女子高生の母親の殺人事件を巡るサスペンスが展開していきます。なぜ彼女は犯人に会おうとしているのか。そして真司はそれに対して、どう絡むのか。最後まで目が離せません!
GW明けのボヤけた頭を一瞬で払いのけてくれる衝撃作を、ぜひ劇場で味わってください。
『金子差入店』
2025年/125分/日本/配給:ショウゲート/©2025「金子差入店」製作委員会
監督・脚本:古川豪
出演:丸山隆平、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、北村匠海、村川絵梨、甲本雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰 ほか
2025年5月16日(金)より全国ロードショー
Staff Credit
撮影/山崎ユミ スタイリスト/壽村太一(COZEN)ヘアメイク/中嶋竜司(HAPP’S.)
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。