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石井絵里さん

ライター

再放送していたドラマを観て小説『坂の上の雲』にハマり中。寝なきゃと思いつつ夜更かし状態に。

『グッナイ・ナタリー・クローバー』
須藤アンナ　￥1760／集英社

10代の子どもたちのひと夏を綴った、生きる希望につながる青春物語

あまりにも理不尽すぎる環境に置かれたとき、人は不満の声を上げることもできなくなってしまうのかもしれない。でももし、「あなたの今の状況、おかしいよ」と言ってくれる味方が近くにいたら？　今月の一冊は、自分たちの力で、幸せをつかみ取ろうとする子どもたちの青春物語。

主人公のソフィアは13歳。彼女が住んでいるのは、非行に走る若者と飲んだくれた大人だらけの荒れた街。ソフィアの周りも例外ではない。父親はそんな街の人気者。母親はソフィアが8歳のとき、父親や街に愛想をつかして出ていき、兄のエディは引きこもり状態。優しかったエディの親友は、不良グループに入ってしまった。そんな環境の中で身動きができないソフィアの前に、ある日、同世代の子どもが現れる。隣に住む老人が、夏の休暇の間だけ引き取った親戚で、名前はナタリー・クローバー。町長に頼まれ、性別も年齢もわからないナタリーの見張り役となったソフィア。ナタリーと行動をともにし、話を重ねていく中で、ソフィアは心の中に抱えていたモヤモヤをクリアにしていく。それは、父親の振る舞いだったり、いい子を装わなくてはいけない自分の立場だったり。

実は、ナタリーも問題を抱えていた。過去の事件をきっかけに、1週間ごとに性格や性別が別人のように変わる特徴を持っていたのだ。快活かと思えば、理屈っぽくなるなど、１週ごとにキャラ変するナタリーにソフィアは驚くが、どの性格も受け入れる。痛みを抱えた者同士が、寄り添い、濃い時間を過ごすことで、ソフィアの中には、自我と勇気が芽生え始める――。

13歳の夏休みは、人生の中でも本当に短い時間だ。今、自分が振り返っても、よく思い出せない。ただその瞬間を、精一杯過ごしていたような気がする。本著は親の暴力、ネグレクトなどの社会問題を交えながら、子どもたちの生きる力が描かれる。読み終えた後、タイトルの“グッナイ”が、心に優しく響くはず！

『桜が散っても』
森沢明夫　￥1870／幻冬舎

趣味の釣りをきっかけに、桑畑村へと足しげく通うようになった忠彦。だが数年後、彼の勤める建設会社が桑畑村のリゾート開発を進めることとなり、忠彦と彼の妻、そして幼い子どもたち2人の人生は大きく変わってしまう――。家族の絆と再生をテーマに、約20年の時間を追う長編小説。4人家族それぞれの、本当の気持ちに触れたときに感動が湧き起こる。

『平等について、いま話したいこと』
著：マイケル・サンデル　トマ・ピケティ　訳：岡本麻左子　￥2200／早川書房

アメリカの政治哲学者マイケル・サンデル氏（『これからの「正義」の話をしよう』）と、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏（『21世紀の資本』）の2人の著名な学者による「平等」に関する対談。格差や不平等が顕著になることで、文化や個人の尊厳はどう変わるのか。現代社会を考えるうえで、ヒントが得られる一冊。

『小学生になったら　ともだちずかん』
監修：長谷川康男　￥1540／ポプラ社

あいさつの仕方、クラスメイトへの声のかけ方、友達ともっと仲よしになるためのコツやルール、お付き合いの線引きなど、小学校でのコミュニケーションの仕方をわかりやすく説明した一冊。他者への言葉の使い方や、お互いの意思がズレていると思ったときの確認の仕方は、大人が読んでも学びを得られる部分が。親子で一緒に読み、新しい環境に備えておこう！