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私のウェルネスを探して/吉田恵里香さんインタビュー後編

吉田恵里香さんが明かす「読書遍歴と“書く技術”の因果関係」「脚本家業と子育て両立の秘訣」

  • LEE編集部

2025.03.16

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吉田恵里香さん

引き続き、吉田恵里香さんに話を聞きます。取材は吉田さんの母校である、日本大学芸術学部の江古田キャンパスで行われました。撮影中も「吉田さんがゲストのライブラリーカフェに行ったんですよ」「春からNHKで働くことになりました!」と声をかけてくる学生がたくさん。後輩から吉田さんが慕われていることがよく分かります。4月からは母校で授業を担当することが決定しており、前期3回・後期3回の予定で行われるそうです。

後半では、絵を描くのが好き・文章を書くのが好きだった過去のエピソードから、3月末に文庫版が発売される『にじゅうよんのひとみ』(ハーバーコリンズ・ジャパン)について、今年の目標である「小説を書く」ことと読書について聞きます。また、4歳になるお子さんとの生活、サポートしてくれている母への思いも語ってくれました。(この記事は全2回の第2回目です。第1回を読む

“1年で365冊本を読む”と自分にノルマを課していた大学時代

吉田さんは、両親と兄の4人家族で育ちます。小学生の頃は描くのが好きで、将来の夢は漫画家でした。

「絵を描くのが好きではありましたが、Gペン(漫画家が絵を描く時に使うインクを着けながら使うペン)でパース(人物や建物が入った背景や景色)を引くのがとにかく苦手で。中1の私は“パースは無理”“描きたくない”と思ってしまいました。もし当時、デジタルで描ける方法があったら夢を諦めずにいたかもしれません。母が幼少期から読み聞かせをしてくれていたおかげか、本を読むのも好きでした。自分で絵本を作ったりもしていましたね。私も兄も、本がとても好きな子どもでした」

吉田恵里香さん

中高生で演劇や舞台が好きになり、高校2年の夏休みには友人と一緒にを演劇を制作。大学生になると劇場に足を運ぶようになります。その頃考えていたのは「教師をしながら、小説を書けたらいいな」という兼業の道でした。読書好きだったことに加え作家になる夢を実現する鍛錬として“1年で365冊本を読む”という目標を立てて、毎日大学の図書館と資料館に通っていたそうです。

「大学の図書館は、リクエストすると大半は入れてくれるんです。自分が欲しい本を予約すると、発売当日に自分が最初に読めるんですよね。それがすごく嬉しかったです。在学中は毎日図書館に通っていました。1年に365冊本を読むと決めましたが、土日はさぼりたいから5日で7冊のペースで読むようにしました。とはいえ、今日はしんどいから薄いのを借りようとか、この厚い本を読みたいから他のは薄くしようとか、工夫してやっていました。私は、ノルマ魔なんですよ(笑)。誰に課されたわけじゃないんですけど、締め切り、ノルマがないと頑張れない。その読書のおかげか書くことは随分鍛錬されたと思います」

8年ぶりのオリジナル小説を執筆中。小説を書くための積み重ねとしても、読書に力を入れていきたい

吉田さんが20代に書いた小説『にじゅうよんのひとみ』が3月末に文庫化されます。その本を今読み返して、はっとさせられたと言います。

「文庫版のゲラが来て読み直してみると、今の文章よりずっと上手でショックを受けちゃいました(笑)。今の私は10年前の私に負けてる! 20代の私に! と。技術というか文章が上手なんですよ。多分、私がその間に重ねてきたのは脚本家としての技術で、小説家としての書く技術は放置してきたんですよね。“今の私ならこういう表現しないな”と思っても、“20代の自分を大事にしよう”と生かした箇所もあります。24歳って、今考えると何でもできると思いますけど、当時の切実な問題を書いてるんですよね。今は名前も知っていただくようになり、小説のお仕事をいただくこともありますが、自分の文章がダサく感じられて、すごく落ち込むこともあって、書き上げるのに本当に時間が掛かります。元は小説家になりたかったし、これを機に改めてちゃんと積み上げていかなきゃと思っています」

吉田恵里香さん

最近の読書は、脚本家業の資料として読む本が多く、好きだった小説や好きな作家の作品を読むことができなかったそうです。実は、今年4月に出版予定の小説があったそうですが「私が書けなかったので年内出版を目標に切り替えました(笑)」と吉田さん。小説を書くための積み重ねとしても、読書に力を入れていきたいと言います。

「書評のお仕事をいただくことがあるのですが、それがすごくありがたいんです。自分が手に取らないような本を読めて、かつ書評を書くことが営みになって。他にも、知り合いの編集者さんが本を送ってくださったり、そこから知らない作家さんの本を読んだり。あとは自分が好きだった川上弘美さん、向田邦子さんの作品を読み直したり。大学生の時、イギリスの作家サマセット・モームの『月と六ペンス』という作品がすごく好きで何回も読んでたんです。ゴーギャンをモデルにした画家の人生を描いた物語なのですが、今改めて読んでみると熱いものを感じて。もっとたくさん読まなきゃ! 文章力、読み込み力も鍛えなきゃ! と思います。オリジナルの小説は、私にとっては8年ぶり。ゼロから書いていることもあって、なかなか書けなくて一度書いたものを消してしまったりもして。目標を“年内出版”に再設定し、改めて頑張りたいと思います」

子育てする上で大切にしているのは「相手に優しくすること」

4歳の息子さんの子育てと、脚本家の仕事を両立する吉田さん。脚本制作には、書き始める前から打ち合わせなどの準備も多く、サポート無くして子育てはできないそうで、「母親に頼りっぱなしです」と明かします。

「園へのお迎えはなるべく自分で行きますが、どうしてもできない時はお願いをして、平日の夜ご飯を作ってもらうことも。夜ご飯を母が作ってくれると、母親としてすごく寛容でいられるんですよね。例えば自分で作っていたら、ご飯を作らなきゃ、栄養バランスも考えなきゃ、寝る時間もあるし……と余裕がないんですけど、母がいてご飯を作ってくれるだけで“じゃあ朝ごはんバナナと牛乳でいいか”くらいに思えて。母がいてくれるだけで気持ちに余裕ができて、支えになっています」

吉田恵里香さん

息子さんは、ウルトラマン好きでスーパーマリオに興味津々、マインクラフトが大好き。最近は鉄道にも夢中だそうです。子育てする上で大切にしているのは「相手に優しくすること」です。

「例えば、母に作ってもらったご飯に嫌いなものがあった時に“うぇ〜”とまずそうな態度をするのですが、それに対してはきつく注意します。人に作ってもらったもの、あなたのことを考えて作ってくれた人に対して、そんな言い方は良くないし、苦手でも一口だけでいいから食べなさい、と言います。最近は“これは口に合わないかも”“ちょっと苦手”と言い方が大分良くなってきましたが(笑)。これは作ってくれた人がお店の人でも同じで、失礼だからやっちゃいけないよと伝えています。あとは約束は破らない。破った時は謝る。そこは基本だと思っています」



母の全サポートが『チェリまほ』『恋せぬふたり』『虎に翼』につながっている

吉田さんが手がけたヒット作の裏にも母親の存在が。4年前、仕事の打ち合わせ中に破水したことも今では良い思い出です。

「ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(チェリまほ)はコロナ禍でリモートが浸透し始めた頃で、私も妊娠中だったので出産ギリギリまで書けたんです。妊娠・出産前後で書いていたのがドラマ『ブラックシンデレラ』で、リモート打ち合わせ中に破水して、最初破水が分からなくて、プロデューサーに“これ破水ですかね?”と聞いたくらいでした(笑)。

吉田恵里香さん

母は私が妊娠した時に“第一線じゃなくて、セカンドライターとかサブ的な仕事に変えた方がいいよね?”と相談したら、“ここまでやったんだから全力で支えるから全力でやりなよ、今まで通りやっていいよ”て言ってくれ、おかげでそれ以降の仕事を受けることができました。その結果、『チェリまほ』ができて、それが『恋せぬふたり』につながり、そこから『虎に翼』につながっています。うちの母が“やりなよ”と言ってくれてなかったら、多分朝ドラも書いていませんから。母の全サポートがあったからできたことです」

ホットヨガや整体は「やらなくてはいけないけどやりたくないことから逃げている言い訳(笑)」

子育ても脚本家の仕事もバランス良く続けるためにやっているのが、ホットヨガや整体(記事末参照)。とはいえ、それらのことは「やらなくてはいけないけどやりたくないことから逃げている言い訳(笑)」と本音を教えてくれました。

「目下一番やらなくてはいけない仕事が小説なんですが、そこから目を逸らすのに健康がいいんです。“ホットヨガに通ってる”“整体に行く”というと、みんな絶対に否定しません。“それはいいから小説を書きなよ”とは、決して言われませんから。自分のマインドが逃げていることは重々承知で、ホットヨガしながら、まつ毛パーマをしながら、プロットを考えたりしているという言い訳なんです。言い訳として“ドラマを見る”“スイーツを食べる”は弱いでしょう(笑)。それに勝てるのは健康なので、私が健康のことに触れ出したら何か逃げていると思ってください(笑)。ホットヨガは受けていいのは1コマだけ。2コマ以上だと、疲れて使いものにならないですから要注意です」
 

吉田恵里香さん

My wellness journey

吉田恵里香さんに聞きました

心のウェルネスのためにしていること

「一日の終わりに、子どもと“楽しかった”と思える時間があるといいなと思っています。それができていなければ、“お風呂でアイス食べちゃう?”“お菓子食べて粘土やる?”なんて誘ってしまいます。そうは言いながらも自分の時間がないとモヤモヤしてしまうので、ドラマや映画を観る時間、漫画や本を読む時間を1時間でもいいから作るようにしています。そうすると調子がいいですね」

体のウェルネスのためにしていること

「会員歴としてはホットヨガ歴は6年くらい。独身の頃は週5行っていたくらい好きでした。結婚、出産を経て、忙しいと行けていない時期も結構あるのですが。『虎に翼』を担当してモヤモヤしていた時期は、1ヶ月くらい集中して行っていました。しばらく行っていなかったのですが、年明けからは週2を目標にしています。整体も4年ぶりに行きました」

吉田恵里香さん 日本大学芸術学部

インタビュー前編はこちらからお読みいただけます

Staff Credit

撮影/高村瑞穂 取材・文/武田由紀子

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LEE編集部 LEE Editors

1983年の創刊以来、「心地よいおしゃれと暮らし」を提案してきたLEE。
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