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「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」が開催中!

【ヨシタケシンスケさんインタビュー・後編】「子どもには武勇伝ではなく失敗談を伝えたい」

2025.03.23

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SPECIAL INTERVIEW WITH Yoshitake Shinsuke

ヨシタケシンスケさんとちょっとひと息

「かもしれない」で毎日がちょっとラクになる…かもしれない

ヨシタケシンスケさん

3月20日から始まる「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」は、まるでヨシタケさんの頭をのぞいているかのような楽しさ!

最近なんとなくうまくいかないなあという人も、「かもしれない」の視点でちょっとひと息。前半の記事に引き続き、ヨシタケシンスケさんのインタビューをお届けします!

「これは建前だよ」って身もフタもなく説明してくれる大人がいてもいいですよね

子どもには、武勇伝でなく失敗談をたくさん伝えたい

世の中では、“前向きに”“楽しく”“自分を好きになる”ことをよしとする考え方が主流となっているのは事実。

特に学校とかでは、そういう理屈が必要なのもよくわかるんですよね。それがないと、大人数を率いるときには、どうにもならないし。
ただね、僕はその理屈にどうしてものれなくて、すごく悩んでしまう子どもだった。そこでちょっと説明してくれる大人がいたら、よかったのになあ、と思うんです。
『すまないけど、これを前提とさせてくれ。この学校にいる間だけは、それをわかったふりしてくれ。 先生も納得していないんだけどね』って、社会には建前ってものがあることをぶっちゃけさえしてくれれば…
世の中でよしとされているストーリーがあるけれど、それもまたひとつの価値観でしかないんだよ、それを採用できない人がいても別にいいんだよ、あなたの正解は別のところにあっていいよ、って、あの頃の僕に教えてほしかったですね

自分の子どもに響くことは言えないので、せめて、ほかの家のお子さんにはと

ヨシタケシンスケさん

しかしながら、親という立場になると、つい、いわゆる正論を述べてしまうのは、ヨシタケさんであろうとも、私たちと同じだとか。

自分の子どもには、親として親がいかにも言いそうなことを言ってます。
結局、子どもって、親の言うことは軽蔑するものなんですよ。じゃあどこで世の中に対する見方を学ぶのかといえば、絵本だったりマンガだったり。
あ、でも僕の言ってること、やっていることは、たぶん、うちの子どもには響いていないです。だって、親だから(笑)。
そこでせめて、ほかの家のお子さんには何か役に立てたらいいなあ、とこの仕事をしているわけなんです。
あと、子育てをしていると、つい武勇伝を語りたくなりがちなんですが、僕はなるべく失敗談をたくさん言いたい。こんだけ失敗しても生きてるし、君たちの親にもなったし、だから君たちもいっぱい失敗していいんだよって。
なんなら、失敗談は後々ネタになるぜ!って。人間は不確かな存在で、お互いが補い合い、群れで暮らしている。君もできないことがいっぱいあっていいけど、何か君ができることで人を助けてあげられれば、助けてもらえるからね、って。
人間はそういうお互いさまの生き物だよってことが伝われば、もうそれだけでいい

今、出せない答えは、もっと先にあるかもしれない

最近よく考えるのは、自分が幸せかどうかなんて、今決めなくてもいいということ。
5年、10年たたないとわからないことってけっこう多いんですよ。今やっていることが無駄かどうかなんて、すぐに判断しなくていい。とりあえず答えを保留する勇気、『まだわかんないです』『今日はこうだけど、明日は変わるかもしれません』って言えることが、たぶん、これから求められていくのではないかと。
もし、今幸せと感じないのなら、それは幸せを先延ばししているのかもしれない。言葉遊び的ではあるけれど、今のネガティブをポジティブにすら考えられるというか

3月20日から始まる「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」では、これまで生み出した絵本の制作過程をたどることができます。数ある絵本作品の中で、印象に残る1冊を挙げるなら?

今パッと思いついたのは、(視覚障害を主な例に、“自分と違う人”“当たり前とは何か”をテーマに描いた)『みえるとか みえないとか』ですかね。先ほどの、すぐに結論を求めないという話とつながりますが、完成までに一番時間がかかったので。
白杖というビジュアルのイメージがとても強いものですから、自分の伝えたいことがなかなかうまく伝えられないことで行き詰まってしまって。違いのおもしろさを表現したくても、健常者ベースの世界では何を言ったとしても空虚に響く。そこから『あ、宇宙を舞台にすればいいんだ』って気づくのに3年かかりました。
言い換えれば、どうしても絵や言葉で伝えにくいことは、設定という切り口を見つけることで解決できるということがわかった。
僕は、クリエイティブディレクターの佐藤雅彦さんの『いいアイデアはすべてを解決する』という言葉がとても好きなんですが、伝えたいことを伝える方法、かかわった全員を救うアイデアは、ちゃんと考えれば見つかるんです。
何がベストか、その答えは急がなくてもいい。今日はいいことないし、明日もいいことなさそうだけど、もしかしたら10年後にいいアイデアが思いつくかもしれない

みえるとかみえないとか ヨシタケシンスケ作
宇宙飛行士のぼくが降り立ったのは、なんと目が3つある人の星。普通にしているだけなのに、「後ろが見えないなんてかわいそう」なんて言われて変な感じ…(アリス館)

急いで結論を求め、何かとあたふたしがちな私たち。「いつか、そのうちに答えが見つかるかもね」なんていうくらいの気分で、とりあえず軽くひと息入れることが必要なのかもしれません。

ヨシタケさんのアトリエには、「なんでここに!?」と思わず手に取りたくなるような、ちょっとおもしろいものがいっぱい

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たっぷり増量タイプ

ボリュームアップして東京に帰ってくる!

ヨシタケシンスケ展かもしれない

日本全国で70万人以上を動員中の大人気博覧会。一度と言わず何度も訪れたい、楽しい仕掛けがいっぱい!

ヨシタケシンスケ展かもしれない
東京会場メインビジュアル ©Shinsuke Yoshitake

手帳に描き続けた膨大な数のスケッチ、インスピレーションの源にもなった愛蔵品など、さまざまな角度からヨシタケさんの「頭のなか」をのぞけます。

イラストの展示だけでなく、絵本の世界を体感できるアトラクションや、ヨシタケさんが手がけた立体物もあちこちに。一歩進むごとに、思わずニヤッとしちゃう展覧会です。

実は一番見てほしいものは、〝その場にいるほかのお客さん〞。
『あの人もヨシタケの本、読んでるんだ』『この人、本当は興味ないのに連れてこられてるな』なんて。話まではしなくていいけど、隣の人にちょっと思いを馳せてみてください

ヨシタケさん



貴重な原画に新規の展示も!

スケッチはヨシタケさんが東京の新規展示物のために描いたもの。ここからどんな展示が完成するか、会場で確かめてみてください

『ぼくはいったい どこにいるんだ』 原画 ©Shinsuke Yoshitake
『ぼくはいったい どこにいるんだ』 原画 ©Shinsuke Yoshitake
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ニヤッとしちゃうオリジナルグッズも

ここでしか手に入らない、ヨシタケワールドのグッズがたくさん。手にとって読み込んでいくうちに、全部お買い上げしたくなる!

ヨシタケシンスケさんのオリジナルグッズ

過去の会場の様子。今回はさらに増量!

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Information

期間:2025年3月20日(木・祝)〜6月3日(火)

開館時間:10時~18時

※毎週土・日曜および祝休日は9時から開館
※毎週金・土曜および5月4日(日・祝)・5日(月・祝)は20時まで開館
※最終入場は閉館の30分前まで

会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO

料金(当日券):一般2000円 高校・大学・専門生1500円 小・中学生 1000円

ヨシタケシンスケさん

お話しを伺ったのは?

ヨシタケシンスケさん

Yoshitake Shinsuke

1973年生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。2013年に初の絵本『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)を出版。『つまんない つまんない』(白泉社)の英語版『The Boring Book』で2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞受賞。


次回は、「LEE100人隊の子どもたちからヨシタケシンスケさんに質問!」をご紹介します。

Staff Credit

撮影/砂原 文 取材・文/福山雅美

こちらは2025年LEE4月号(3/7発売)「ヨシタケシンスケさんとちょっとひと息『かもしれない』で毎日がちょっとラクになる…かもしれない」に掲載の記事です。

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