Navigator

折田千鶴子さん

映画ライター

今年は年初めから花粉症用の薬を服用開始！　ベランダでビールが飲める季節に向け、備えています。

『教皇選挙』

次期教皇を巡る選挙の行方に心はやるミステリー・スリラー

なんと心奪われるおもしろさ！　カトリック教会の最高指導者＝教皇を選出するまでの物語というと、遠い別世界の話、かつお堅いイメージがつきまとうが、いやはやハラハラが止まらない。次々と明らかになる高貴な聖職者たちの思惑や野望、建前と本音、いさかいや醜聞に、“マジかぁ……”と目を見開きつつスクリーンを凝視せずにいられない。果たして、教皇にふさわしいのは誰？　

カトリック教会の最高指導者、ローマ教皇が心臓発作で急逝する。悲しみに暮れる間もなく、イギリス人の首席枢機卿ローレンス（レイフ・ファインズ）は、新教皇を決めるためのコンクラーベ（教皇選挙）を執り仕切る重大な責務を負う。14億人以上のカトリック教徒のみならず世界中が注目する中、世界各国から枢機卿たちが続々とバチカンに集まってくる。厳重なセキュリティ対策のもとシスティーナ礼拝堂の扉は固く閉ざされ、外部との接触は一切禁止、完全な隔離状態に。そんな中、リストには載っていないメキシコ人枢機卿が現れる。アフガニスタンのカブール教区で活動する彼は、亡き前教皇が秘密裏に任命していたという。一方、4人の有力候補——ローレンスも推すリベラル派のアメリカ人（スタンリー・トゥッチ）、史上初のアフリカ系として期待されるナイジェリア人、強硬な保守派のイタリア人、穏健な保守派のカナダ人を中心に、1回目の投票が行われる。

全枢機卿による無記名投票は、誰かが3分の2以上を獲得するまで繰り返される。当然すんなりとは決まらない。水面下でのアピール合戦が激化する中、票の買収疑惑、性的スキャンダルが明るみに。普段は尊敬の念を集め、人々を正しき道に導く彼らの“人間臭さ”に鼻白みつつ、納得も。いわば“謎解き探偵役”でもあるローレンスが、仲間である彼らの恨みを買い、泣き落とされかけ、なじられながらも正義と公正さに揺るがず、苦悩しながら丁寧に対処していく姿に、尊敬の念を抱かずにいられない。そんなとき、街で自爆テロが勃発。礼拝堂内にも衝撃が走るが、そこで過激な演説をぶち上げた“ある枢機卿に対するある枢機卿”の返した演説に、目が覚めるような感銘と共鳴で全身が貫かれる。それは、かの大国の大統領に対して寛容を説いた、一人の司教の姿にも重なる。

高齢男性ばかりがズラリ。“扉の向こうで繰り広げられる秘密選挙”には、今の現実世界が色濃く映り込む。だから心がはやる。現在（これを書いている２月初旬）、米アカデミー賞作品賞を含む8部門にノミネートされている本作。主演男優賞にノミネートされているレイフ・ファインズをはじめ俳優たちの繊細で熱の入った演技、不穏な音楽、映像にみなぎる緊張感と美しさ、エンタメ性と芸術性のバランス、そしてオチの意外性とわれわれへの投げかけも含め、一級品の味わいに酔いしれたい。荘厳な美術や衣装、さらに「コンクラーベ」期間中の枢機卿らの生活ものぞき見られる、極上のお楽しみ付きです！

3月20日より全国ロードショー

公式サイト

『エミリア・ペレス』

サスペンス×アクション×社会派×ミュージカルまで、全部盛り！

金と権力に固執するボスから、労力も優秀な能力も搾取されている弁護士のリタ（ゾーイ・サルダナ）は、麻薬カルテルのリーダーから予想外の依頼を受ける。曰く、「長年望んできた女性としての新たな人生を極秘に用意してほしい」。リタの奔走で、彼はエミリア・ペレスとして人生を歩み始めるが。カンヌ国際映画祭で審査員賞と女優賞を4人が受賞。米アカデミー賞も有力視されている。ところどころで心情をミュージカルで表現する演出も楽しい。フランスの名匠ジャック・オディアールが、ますます斬新かつみずみずしくその才能を進化させていることに、うれしく驚嘆！

3月28日より新宿ピカデリーほか全国順次公開

公式サイト

『悪い夏』

まじめな公務員が魔の手に落ちる怖くもイタがゆい社会派サスペンス

市役所の生活福祉課に勤める佐々木（北村匠海）は、同僚の宮田（伊藤万理華）から〝先輩（毎熊克哉）が生活保護受給者に肉体関係を強要している〞と相談される。断れずにイヤイヤ宮田と当事者の愛美（河合優実）を訪ねるが、彼女が裏社会の男（窪田正孝）とつながっていたことから、佐々木は彼らの標的に。育児放棄されている幼い娘に同情するうち、佐々木は少しずつ愛美の誘いに抵抗できなくなっていく――。佐々木を止めたくて、観ながらジタバタ。彼がドツボにハマっていく過程が、イタくもたまらない。染井為人の同名小説を『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫が映画化。

3月20日より全国ロードショー

公式サイト

『ホールドオーバーズ　置いてけぼりのホリディ』

副編ぷーすけ的「ʼ24年No.1」が配信中！

『サイドウェイ』の監督アレクサンダー・ペイン×主演ポール・ジアマッティが再タッグ。舞台は1970年、全寮制の寄宿学校。まじめさゆえ煙たがられている教師ポールが、クリスマス休暇に帰省できない生徒たちを監督することに。母親の再婚で帰省できないアンガスはふてくされ、ポールを困らせる。一方料理長のメアリーはベトナム戦争で息子を亡くしたばかり。そんな3人が休暇を過ごすことで、少しずつ心の距離を縮め、思いやりを育み、成長していく姿を描く。副編ぷーすけも大絶賛！

Prime Videoほかで配信中

ブルーレイ＋DVD発売中
（発売元：NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン）

公式サイト

※公開につきましては、各作品の公式サイトをご参照ください。