【深川麻衣さん×若葉竜也さん『嗤う蟲』対談】憧れの田舎ライフの先に予想外の恐怖が…。その村の掟とは!?
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折田千鶴子
2025.01.23
『アルプススタンドのはしの方』の城定秀夫監督作
血なまぐさいホラーは苦手だけど、“身近な恐怖体験”はちょっと覗いてみたい……というLEE読者も少なくないのでは!? そんな方におススメしたいのが、スローライフを求めて移住した若い夫婦が“ある事件”に巻き込まれる顛末を描いた映画『嗤う蟲』。果たして、のどかな村に移住した2人は、どんなトラブルに巻き込まれてしまうのでしょう!?
その若い夫婦を演じるのが、『愛がなんだ』(岸井ゆきのさんインタビューはコチラ)以来の共演となる深川麻衣さんと若葉竜也さん(『愛にイナズマ』のインタビューはコチラ)。不気味な映画の現場はどんな風だったのか、お2人に聞きました。

深川麻衣(左)
1991年、静岡県出身。2016年に乃木坂46を卒業し、俳優として活動を始める。主な映画出演作に『パンとバスと 2度目のハツコイ』(18)、『愛がなんだ』(19)、『水曜日が消えた』(20)、『今はちょっと、ついてないだけ』(22)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(23)、『パレード』(24)、ドラマ「彼女たちの犯罪」(24)など。
若葉竜也(右)
1989年、東京都出身。『葛城事件』(16)での鬼気迫る芝居で注目を集める。『愛がなんだ』(19)、『街の上で』(21)、『窓辺にて』(22)など今泉力哉監督作品の多数出演。近年の主な出演作に、『前科者』『神は見返りを求める』(22)、『ちひろさん』『愛にイナズマ』『市子』(23)、『ペナルティループ』『ぼくのお日さま』、ドラマ「アンメットある脳外科医の日記」(24)など。
本作出演にあたって、どんなところに魅力を感じましたか?
深川 “村”を題材にした作品は他にも色々ありますが、本作のラストにかけて明かされる秘密や主人公たちが抱えてるものなど、着眼点がとても面白いと思いました。ありそうでなかった内容のお話だな、と新鮮に脚本を読みました。
若葉 僕は城定さんに元々興味がありました。城定さんに対して、どこかアンダーグラウンドなイメージを持っていましたが、その映画の主演が深川さんという組み合わせが、とても面白いと思いました。
深川 私も、相手役が『愛がなんだ』でも共演した若葉くんと聞いて安心しました。
『嗤う蟲』って、こんな映画

1月24日(金)より新宿バルト9ほか全国公開
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣)は、脱サラした夫の輝道(若葉竜也)と共に、遂に自然に囲まれた麻宮村に移住する。村の人々はみな親切で、少々お節介すぎるのが玉に瑕ではあるものの、2人は念願のスローライフを満喫しはじめる。しかし少しずつ、自治会長の田久保(田口トモロヲ)を中心に“圧”を感じ始める。それは、杏奈の妊娠を機に、より強烈なものになっていく。“村の子”の誕生を心待ちにする村人たちの間で、杏奈は微妙に不信感や嫌悪感を募らせるが、輝道は田久保に促されるまま、どっぷり村の付き合いに染まっていく。やがて2人は、麻宮村にはある<掟>が存在することを知りーー。
色んなところに張り巡らされている<村の掟>が怖いですね。
深川 劇中では、暗黙のルール的に描かれていますが、それがジワジワ来ますよね。杏奈と輝道も段々と“自治会長の田久保さんには逆らっちゃいけないんだ”と分かって来て……。お裾分けでいただいた(苦手な)カボチャを、杏奈が捨ててしまうシーンがあるのですが、城定さんが「2人を完全な善人としては描きたくない」とおっしゃられて。どちらかが100%悪いわけではないという描き方がされているので、観る人にとっても、どちらにも気持ちを入れる余白が残されていると思います。見る目線によって、どちらの側にも同情したり共感できるポイントがあるのが好きなところです。
若葉 僕は杏奈と輝道も怖いですけどね。だって普通、移住するにあたって村のことを調べれば、単純に出てくるようなことも知らなかったり。特に輝道は村で農業をやるのなら、方法や決まりをもっと知っておけよ、と。「村の人たちが怖い」というより、調べずに行った2人も悪いだろう、と僕は思いました。



とはいえ私たちの多くは、やっぱり“スローライフ”に憧れてしまいます。だから、誰でも陥る可能性がある落とし穴だな、というのがリアルで怖かったです。撮影に臨まれていても、かなり“圧”を感じて怖かったのでは?
若葉 いえ。全然そんなことありません。わりと和やかな現場でしたよ。
深川 そう。キャッキャはしていないけど、そんな暗い感じではなかったですね。だから、完成するまでどういう映画になるのかあまり想像がつかなかったんです。もちろんあらすじはわかっていますが、ワンカットで撮影したシーンも多く、どういう映像になるのか完成を楽しみにしていました。観たら自分が出てないシーンも含めてじわじわくる怖さがありました。特に最後に田久保役の(田口)トモロヲさんと対峙するシーンは、すごく怖くて。“画”としても、すごい迫力あるシーンになっていると思いました。普段のトモロヲさんは、とても優しい方なんですが、すごい迫力でしたね。
若葉 宣伝文句としては“ヴィレッジ・スリラー”となっていますが、僕自身は全然そんなことないと思っているんですよ。それよりも人間が集まった時の集団の怖さ、同調圧力の怖さを感じます。そういうものから逃れられない、逃れちゃいけないような気がしてくる怖さというか。誰に対しての信仰なのか分からないですが、信仰することへの怖さ、みたいなものを感じます。俳優業や芸能界でも時々感じる気味悪さですね。
杏奈の変化と輝道の鈍感っぷり
先ほど、2人のことも結構怖いと感じた、というお話がありましたが、そんな2人を演じる上で考えたこと、気を付けたのはどんなところでしたか? また、2人をどんな人たちだな、と感じましたか。

深川 言うなれば2人の日常が描かれるわけですが、ちょっと非日常的なものに巻き込まれていく。だから映画を観ている方にとって、親近感が湧くような言葉遣いや言い方であるように意識しました。「こう言った方が伝わるかな?」と監督と若葉くんと話しながら考えていました。
若葉 そう、世界観がフィクショナルなので、例えば“電子タバコ”というワードも“IQOS(アイコス)”と言い換えるなど具象化していきました。映画を観ている人たちに“対岸の火事”だと捉えられないよう、自分の生活の延長線上にあるものにしたい、という話はしましたね。
深川 2人は前半から受け身でしたが、後半から杏奈自身は変化していくんです。村で追い詰められていて、輝道に対する不信感もあって、「1人で戦っていかなきゃいけない!」という気持ちになっていく。やっぱり子どもを産んで、守るものが出来たことが杏奈を大きく変化させたのかな、と。私は実体験で子どもを産んだことはないので、子どもに関してどれくらい(他人に)介入されたら不快に感じるんだろう、どこまで(赤ちゃんに)触られたら嫌だと感じるのかなど、母のリアルな感情は想像で補うしかなくて。そこは監督に相談したり、周りで子どもがいるお母さんたちに話を聞かせてもらったりしながら、少しずつ探っていきました。
若葉 僕は、輝道があんまり好きじゃないんですよ。多分、色々なことをヘラヘラと笑って誤魔化して来ちゃったんだろうな、という印象があって。移住するにしても、色んなことを調べずに「スローライフっていいよね!」とノリで来ちゃったというか。農業の基本も知らずにやろうとしている面一つとっても、流されてヘラヘラ誤魔化してきた人なんだなって印象です。



そうして探って行って、杏奈を演じた体感として、どの辺りで村人たちの言動が“もう無理!”と感じました? 最初に嫌悪感を覚えたのは?
深川 私の感覚からしても、子どもに関しては杏奈と同じタイミングで嫌だと感じました。公民館みたいな場所に村人たち全員が集まって、次から次へと産まれたばかりの子どもを抱っこされたり(無遠慮に)触られたら、それは不安になりますよね。しかも、あんな喜び方をされたら、違和感を感じて「何かおかしいかも」と思っちゃいます。杏奈はわりと早い段階から違和感や嫌悪感を覚えていた気がします。
そういう杏奈の気持ちに対しても、輝道はやっぱり鈍いですよね。
若葉 そうですね。そこも自分を誤魔化し続けたんでしょうね。違和感はあったけど、気づかないフリをしていたりする。ズルい人だな、って感じました。

濃ゆ~い芸達者な俳優がズラリ!
杏奈も輝道も前半は受け身という話がありましたが、演技としても“受け”の演技になるのでしょうか。どれくらい怖がるか等々、その辺りの塩梅はどう意識されましたか?
若葉 基本的に僕らは余計なことしない方がいいな、とは最初から思っていました。
それは、輝道の役だから、ということ?
若葉 いや、このメンバーに対して、ということです。すごい個性的な皆さんが繰り出してくるものを、どう受け止めるか、どう新鮮に受け止められるか、ということですね。
深川 そうでした。やり過ぎないように、大袈裟にしないように心がけました。前半は、村の人たちがみな優しそうだけど、でもジワジワと不穏なものや嫌な空気がずっと漂ってる感じで進んでいって。段々と“本音”が見え隠れしてきた時も、「驚く」や「不快」を敢えてあまり表そうとしないようにと思っていました。あくまでもナチュラルに新鮮なリアクションで、皆さんのお芝居に反応していきたいなと臨みました。

もはや“顔芸”のように怖い表情の田口トモロヲさんをグッと寄って撮るからもう、怖さ百倍でしたが、多数の個性派俳優たちが攻めてくる演技と対峙された感想を教えてください。
深川 本当にトモロヲさんは、脚本で文字を追っていただけでは想像できなかったトーンや言い回をされるんです。私の引き出しにはないお芝居をされるので、今度はどういう風に来るのかとドキドキ感も含めて、毎回すごく楽しみでもありました。完成版を観たときも、2人が追い回されるシーンも自分が出ていないシーンも含めて、すごく生々しかったです。
若葉 トモロヲさんって普段はとても腰が低くて丁寧で優しいのですが、やっぱり内に秘めたものに狂気を感じる瞬間はあって。
深川 終盤、杏奈が額を指さされるシーンがあるのですが、あの詰められ方は本当に怖かった(笑)。そういう仕草もホン(脚本)に書いてあるわけではなく、現場でのトモロヲさんのアプローチ。本当に怖かったです。
若葉 村で虐げられている三橋役を演じた松浦(祐也)さんが輝道の夢に出てくるシーンがあるのですが、最初は普通に服を着ていたんですよ。でも、いきなり松浦さんが「全裸でやる!」と言い出して(笑)。僕も城定さんも、「全然、好きにしてください」みたいな感じでした。
意欲的に撮り続ける城定秀夫監督
若葉さんは「城定監督に興味があった」とおっしゃっていましたが、実際に出演されてみて、どんな監督でしたか?
深川 もちろんピンポイントでの指示はありましたが、全体的に“こうして欲しい”という演出は意外にほぼありませんでした。今回は、俳優たちに委ねた部分が大きいともおっしゃられていました。1つとても記憶に残ってるのは、杏奈が編集者とリモートで打ち合わせをしているシーン。そこで城定さんに「貧乏ゆすりをしていて欲しい」と言われたんです。どうやって撮るのかと思ったら、貧乏ゆすりをしている足元から笑顔を浮かべている顔までの動きをワンカットで撮影したんです。表情と本心の裏腹さを1つのカットで表現するのが、とても新鮮で面白かったです。
若葉 城定さんの現場は、本当に自由でしたね。それも自信の表れだと思いますが、本作はほぼワンシーンワンカットで撮っているんです。でも、そうは見えないし、ワンシーンワンカットで撮る映画のテンポ感でもない。撮影の時から、すべて見えていたのだと思います。自分が演じている上で想像していたリズムと、城定さんが見つめていたリズムが全然違ったんだな、と。それも面白かったですし、完成作を観て、いい期待の裏切られ方というか、さらに面白いなと思いました。
事前のホン読みやリハーサルは?
若葉 なかったです。もちろん現場で動きだけ確認するテストはありましたが、すぐ本番に入る感じでした。
それは俳優にとって、やりやすい?
若葉 いや、やりやすいかどうか、好きかどうかも、すべてホン次第ですね。台本によって、やりやすい、やりにくいということが出てくるので。自分のスタイルがどうこう、というのは関係ないですね。例えば、アクションシーンなら段取りをしないと動きが確認できないし、そうなると怪我が起きてしまうので念入りにやることが必要だったり。
深川 逆に、泣いたり怒ったり、感情を強く表に出さなければならないシーンは、リハーサルなどを繰り返しすぎると新鮮味が薄れていく気がします。そういうシーンは、動きや場所などを固めてすぐ本番に移れた方が集中しやすいと思います。でも確かに動きがあるようなシーン、例えば本作でも杏奈と輝道が言い争いをするシーンは、割とアクションに近いものがありました。言い争ってベッドにバンっと投げ飛ばすところです。あのシーンは慎重に動きを決めて撮った記憶があります。そこもワンカットで撮影したので、現場にも緊張感があり、なるべく1回で撮れるよう出演者・スタッフさんみんなで動きを調整してから撮影しました。

ところで、お2人もスローライフへの憧れはありますか? 本作を経て、考えに変化は?
深川 将来のことを明確に考えてはいませんが、私は自然のある場所で生まれ育ったので、やっぱり永住するなら周りに緑が多い場所がいいです。それはとても強く思っています。本作を経ても、そこにブレはありませんよ(笑)。杏奈と輝道は少し怖い目に遭いましたが、人との繋がりがあるという意味では、やっぱり田舎暮らしもステキな面がたくさんあると思っています。
若葉 僕はスローライフへの憧れもないし、第一コンビニがない生活は考えられないので、絶対に都会暮らしの方がいいです。もし移住を考えるとしたら、やっぱり南国かな。でもコンビニがない場所は嫌です。コーヒーを買う程度ではありますが、毎日、必ずコンビニには寄るので。
では最後に、ホラーやスリラーが苦手な女性も少なくないですが、LEEweb読者に向けて本作の魅力を伝えてください。
深川 スリラーというジャンルではありますが、そんなに身構えずに観られるような、ジワジワくる怖さを楽しめるエンターテインメントになっています。後半は、子どもを守ろうとする女性の強さも描かれているので、是非、気軽な気持ちで見に来て頂けたら嬉しいです。
若葉 そう思います。“ヴィレッジ・スリラー”と括られてはいますが、観る人によっては大爆笑する人もいると思うんです。もちろん、怖いと思う人もいるだろうし。決めてかからずに観れば、面白い体験が出来ると思います。その上で、「自分は何で笑っちゃったんだろう? みんなは怖がっていたのに」とか、逆もまたしかりで、人との差異を楽しめる映画なので、そこも楽しんで欲しいですね。

若葉さんは「ヴィレッジ・スリラーとは思っていない」とおっしゃっていましたが、“村もの”が好きな私にとっては、“村”独特の怖さも楽しめた映画でした。しかも、やっぱりスローライフへの憧れを持っているので、よりリアルに“ひゃ~!!”と背中が冷たくなるような体感もさせてもらいました。果たして村の掟とは? みんなが隠している秘密とは?
ホラーって、実は最もその時代の世相や社会性や問題を反映できるジャンルでもあるんだな、ということも再認識させられました。“ある閉鎖的な場所や組織に、何も知らない異物が紛れ込んだことから、それまでの平穏がぶち破られ破綻していくーー”というのは、色んなシチュエーションに当てはめることが出来ますよね。そんな“今のムード”も楽しめる本作。
是非、“怖いもの見たさ上等!”で観に行って欲しいおススメ作です。
『嗤う蟲』
2024年/日本//99分/配給:ショウゲート
Ⓒ2024映画「嗤う蟲」製作委員会
監督:城定秀夫 / 脚本:内藤瑛亮 城定秀夫 / 音楽:ゲイリー芦屋
出演:深川麻衣 若葉竜也 松浦祐也 片岡礼子 中山功太 / 杉田かおる 田口トモロヲ
Credit
撮影/山崎ユミ ヘア&メイク/AYA MURAKAMI(深川麻衣さん分)、FUJIU JIMI(若葉竜也さん分) スタイリスト/MIKU HARA(深川麻衣さん分)、タケダ トシオ(若葉竜也さん分)
深川麻衣さん衣装 ジャケット 66000円/G.V.G.V.(k3 OFFICE)、リング(中指) 23100円 リング(人差し指) 23100円/ともにNUUK(k3 OFFICE)、ワンピース 51700円/JANE SMITH (JOHN MASON SMITH JANE SMITH STORE)すべて税込み【問い合せ】k3 OFFICE https://k3coltd.jp/ OHN MASON SMITH JANE SMITH STORE 03-5738-7721
若葉竜也さん衣装 knit ¥41,800、cardigan ¥110,000、pants ¥46,200【問い合せ】AURALEE オーラリー:03-6427-7141
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折田千鶴子 Chizuko Orita
映画ライター/映画評論家
LEE本誌でCULTURE NAVIの映画コーナー、人物インタビューを担当。Webでは「カルチャーナビアネックス」としてディープな映画人へのインタビューや対談、おススメ偏愛映画を発信中。他に雑誌、週刊誌、新聞、映画パンフレット、映画サイトなどで、作品レビューやインタビュー記事も執筆。夫、能天気な双子の息子たち(’08年生まれ)、2匹の黒猫(兄妹)と暮らす。
















